4-5 ドスケベVSドラゴン最終決戦⑤

「危ないっ!」

 ラルフはマリシアをムリヤリお姫様抱っこの形で抱え、ラヴァに背を向けて走る。

「ほう。勘がよろしい。やはり真の強敵はあなたですね」

 ラヴァの体が風船のごとく膨れ上がっていく。

 その球体の半径が五メートルにも達したとき。

「はい。できました」

 ――爆発。轟音とともに凄まじい熱風と砂嵐が発生する。

 ラルフとマリシアは吹き飛ばされ、周りを囲む岩山に頭をしたたかに打ちつけた。

 なんとか意識はある。立ち上がって辺りを見回すが砂煙でなにも見えない。

「ん……」

 マリシアの小さな呻き声がかろうじて聞こえた。

「無事でしたか」

「うん。でもマスクが取れちゃった」

「あれはない方が可愛いですよ。ともかく砂煙が晴れるのを待ちましょう」

 砂煙は強烈な熱風のおかげかすぐに晴れた。

 煙の晴れたカルデラにいたのは――

「……なにもいませんね」

「一っ子一人いない」

 静かに風がそよぎ、湖の水面を揺らし白い砂を舞い上げているのみ。

「あ、よかったつづらはちゃんとありますね」

 聖なる夜の秘宝が入っているはずのつづらは半分以上砂に埋まっていた。

「もしかして。自爆しちゃった?」

「なにか意味深なことを言っていたのが気になりますが」

「まあいいじゃない。いないのは事実なんだから。それじゃあ聖なる夜の秘宝を持って帰ろう! まずはどんなモノか拝んで――」

 そのとき。ラルフはなにか『気配』のようなものを感じて湖の方を振り返った。

「あ」

「どうしま……あ……」

 二人の目の前に現れたのはとてつもなくデカイ顔だった。そいつは鰐のように裂けた口を最大まで開くと地獄から湧き上がるような重低音の泣き声を発した。

「ボルケオ……」

 徐々に湖から姿を現してくる。

 鰐のような巨大に裂けた口。溶岩のごとく赤黒く発光するゴツゴツした鱗。

 四本の足に長い尻尾が生えたトカゲのような体格。少々足が長めで普通のトカゲよりはコモドオオトカゲに近いだろうか。

 高さはおよそ三メートル。アタマから尻尾の先までの長さは十メートル以上ある。

 湖の水はそいつが放つ熱により、恐るべき勢いで気体に変わっていく。そして底からは溶岩が湧き出ててくる。青い湖はあっという間に真っ赤なマグマの池に変化してしまった。

「おまたせ致しまして申し訳御座いません」

 ラヴァ、いや、ボルケオドラグーンは先ほどまでと変わらぬ可愛らしい声で謝罪の言葉を発した。

「そうか。考えてみれば当たり前ですよねこうなるのは。しかしその見た目でその声は違和感が凄まじいですよ」

「醜い見た目に対して声が可愛いというイミですよね。ありがとうございます」

 などと言いつつも、長い尻尾を振り回して二人の足を払おうとする。

「クっ……!」

 ラルフはジャンプしてそれを躱しながらブーメランを投げつけた。

 ボルケオドラグーンの目にヒット。しかしダメージはない。

「いきなり目をピンポイント狙いですか。あなたのそういう所嫌いじゃないですよ」

 ゆっくりとラルフとマリシアの方に向かってくる。

 一歩足を進めるごとに地面が震動し波打つ。

「うまく手加減が出来なかったらごめんなさいね」

 そのように呟くと、突如、全身を激しく震わせて体に付着したマグマを噴射した。

 二人は間一髪これを躱す。

「僕はねえ。不器用ですから。他のドラゴンさんみたいにブレス攻撃とか自力で魔法が使えるわけではないんです」

 ボルケオドラグーンは前足を持ち上げて後ろ足だけで立ち上がると、

「ただただ呆れるほど熱に強いだけで」

 地面に前足を叩きつけ地震を発生させた。

 ラルフたちは足を取られすっ転ぶ。さらにマグマの池から噴水のごとく赤い水があふれ二人を襲う。今度は回避できない! 二人は全身にマグマのしぶきをモロに浴びてしまった!

 ――が。

「なるほど。それでここに住んでるってわけ? こういう風に火山の力を借りないとなんにもできないから?」

 マリシアもラルフもダメージはない。

「まあそれもありますね。それだけではないですが」

「でも呆れるほど熱さに強いのは僕たちも一緒ですよ」

 ラルフとマリシアは立ち上がり二手に分かれて攻撃を仕掛ける。

「向こうの攻撃なんか効かないんだから! 着実にダメージを食らわせれば勝てる!」

 マリシアはクイーンズ・スパンカーでボルケオドラグーンの足を縛り横転させた。

「古代兵器を使ってくるかもしれません! そいつには注意して下さい!」

 今度はラルフが顔面に雨霰のごとくブーメランを投げつける。殆どは岩のような皮膚に弾き返されただけだったが、目や口の中に入ったものはダメージを与えたようだ。ボルケオドラグーンは苦悶の泣き声を上げる。

「まだ致命傷にはほど遠いですね……」

 さらに近づいて目に直接ブーメランを突き刺しにいくが。

「なるほど。確かに人間は厄介だ」

 尻尾を回転させラルフのドテっぱらにブチ当てた。

「ぐぅ!」

 真後ろに吹き飛ばされるがすぐに立ち上がる。

「ほう。さすがラルフさん。熱だけじゃなく打撃にもなかなか強いですね。秘密はそのセクシーな格好ですか?」

「そうよ!」

 マリシアが大蛇のように伸びる鞭で顔面を執拗に狙う。

「地味に痛てえなあ! イチイチ勘に障るマンクサドブスがあ! てめえはちっともセクシーじゃあねえんだよ!」

 ボルケオドラグーンは巨体に似合わぬ跳躍力で飛び上がるとマグマの湖にダイブ。そのまま潜水してゆく。

「逃げた!?」

「いやそんなタマじゃ――うお!」

 再びカルデラ全体が地震のように揺れる。さらにマグマの池から天をつくような火柱が上がった。マグマだけでなくゴツゴツした岩塊もいっしょに上昇しているようだ。

「中で暴れているのでしょうか。おそろしいエネルギーです」

「ははは。こんなものこのドスケベミズギがなければ即死も即死ですね。私ってなんて無計画だったんだろう」

「最高でしょう? ドスケベミズギは」

「デザイン以外はね」

 やがてボルケオドラグーンがマグマの池から姿を現した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る