4-4 ドスケベVSドラゴン最終決戦④

 マリシアはそれには答えず、背中に背負っていた武器収納用の革袋を地面に降ろした。

 袋に入っていたのはジルに託されたクイーンズ・スパンカーと――

「ん? それは?」ラルフが問う。

「これはクイーンズ・マスカレード。古代文明において鞭使いの達人とされた『ジョオウサマ』という方々はこのような仮面をして仕事を行っていたそうです。どういった仕事なのかは現在では不明だそうですが」

 マリシアは黒い蝶の形をした仮面を装着。さらに履いていた靴を脱ぎ捨て、やたらにヒールの尖った黒いピンヒールに履き替えた。

 頭にはねじり鉢巻き、顔には黒い蝶、胸にはさらし、腰にはフンドシ、足にはピンヒールというこのスタイル。ラヴァは腹を抱えて笑い転げた。

「ははは! 面妖だ! 面妖すぎる! あなたの美的感覚はどうなってるんですか!? いや美的感覚じゃなくてギャグセンスですかね!? ハハハハハハ!」

 するとマリシアがラルフの方を振り返った。

「ラルフさん。あなたはどう思う?」

「僕は美しいと思います」

「だよね」

 その間にラヴァは邪宝メタスタティスを取り出して自分の指を擦り付けていた。

「いやー笑った笑った。人間の女醜しと言えどもここまで醜い人は初めてだ」

 メタスタティスは妖しい虹色の光を放つ。

 ――その光が収まったとき。ラヴァの両手には一本ずつ、赤く輝く長剣が握られた。

「これはレーヴァンテイン・サイリウムという古代兵器です。炎が燃えているように見えますが実は『電気』というものの力で――」

「そおい!」

 ラヴァが話終わるより先に、マリシア渾身のスモー流張り手が顔面にヒットした。

「ゴチャゴチャうるせえんだよブス!」

 怯んだところにぶちかまし、かち上げ、さらには頭突きを叩きこむ。

「ボゲアアアアアア! またふいうちかよ! 大好きだなおまえソレ! つーか顔ばかり狙うんじゃないんですよ! 卑怯者!」

 ラヴァは前蹴りで一旦距離を取るとサイリウムとやらを肩口に振り下ろした。が。

「全然熱くない。むしろ冷たい」

 マリシアは余裕の表情で肩についたホコリを払うとミゾオチに強烈なヒザ。

 たまらずうつ伏せにダウンしたところにさらに追撃。尖ったヒールを背中に突き立てた。

「これはクイーンズピンヒール。同じくジョオウサマと言われた方々が装備されていたものだそうです。なぜかこれで踏まれると喜んでしまう人もいたとか。謎ですね」

 さらにヒールを尻の穴に突き刺してグリグリと捻る。ラヴァの悲鳴。

 マリシアはラルフの方を見てにっこりと微笑んだ。

「うむ。やはり防御が鉄壁となると攻撃に大胆さが生まれますね。防御が最大の攻撃とはよく言ったものです」

「ぬがあああぁぁ!」

 ラヴァは寝た体勢のままマリシアの足を払い、そのスキになんとか立ち上がって呼吸を整えた。

「だから嫌いなんだよおおおぉぉぉ! てめえみたいなクソバイタの手コキ嬢はよおおお! 〇〇〇臭せえなあ! 腐ったチーズ煮つめたような匂いさせやがって!」

 激高するラヴァに対し、マリシアは『えんがちょ』とばかりに口に手を当てた。

「せっかくラルフさんに気に入られるために可愛くなったのに。台無しじゃない」

「黙れ……!」

 ラヴァはボコボコにされた顔面を再生させると、サイリウムを構え突進した。

 ほとんどデタラメな振り回しかただが、剣先のスピードは凄まじく速い!

 マリシアは辛うじてステップバックして空を切らせる。

 だが。その剣は風圧だけでマリシアを後方に吹き飛ばし、湖に叩き落とした。

 ラヴァの美しい顔に悪魔のような笑みが浮かぶ。

「殺して差し上げますよ……!」

 湖に飛び込み、追撃を試みる。しかし。

「なっ……!?」

 湖の水面から真っ赤な大蛇が出現した。それは体を捻りながらラヴァに突進、湖への侵入を拒んだ。

「ジル流鞭術『アナコンダバイス』! ある意味で私にふさわしい技でしょう?」

 マリシアが爽やかな笑顔で水面に顔を出した。

「マリシアさん! そうか! ジルの鞭か!」

 ラルフも喜びの声を上げた。

「あ、ちょっと濡れて透けちゃってるからあんまり見ないで……」

 胸を隠し気味にしながら湖から上がり、ラヴァに追撃を行う。

「ジル流鞭術『キッコーバインド』!」

 マリシアの叫びとともに鞭は意思を持つかのごとく伸び、ラヴァの全身を縛りつけた。

「古代文明のジョオウサマはこんな風に他人の体を縛りつけることを最大の必殺技としたそうです。これも理由や目的はわからないですけどね」

 などと解説を加えながらラヴァの体をブン回し地面に叩きつける。

「――お? そうだあれも使ってみようかな」

 さらに。マリシアは鞭などが入っていた革袋を拾い上げると、中から青く透き通ったロウソクのようなものを取り出した。

「ブリザードキャンドル! これはジルちゃんのお父様の作品だそうです」

 ロウソクの先端を赤く燃える岩石に近づけて着火。すると青いロウのしずくがラヴァの背中にしたたり落ちた。

「つめたあああ! あああぁぁぁぁ!」

「なに? 冷たい? どこが冷たいの? 言ってごらんなさい」

 などと再びラヴァの背中にヒールをめり込ませる。

 ラルフはラヴァのこの世の終わりのような悲鳴を聞きながら以下のようなことを考えた。

(なぁにぃアレ。もの凄く痛そうなのだが。不思議と自分もやられてみたい! いや! 絶対にやってもらおう! 土下座してでも! むしろ土下座をしたい!)

 やがてラヴァの悲鳴が止んだ。

「アレ? もしかして殺――」

 それと同時にラヴァの体が赤く発光し始める。

 炎とは違う、マグマの色とも違う、限りなく黒に近い禍々しい赤だった。

「やれやれ。この姿はお見せしたくなかったのですがね。ともかく本番開始です」

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