3-6 覚醒
――数十分後。
「ふーむ。出来栄えはわからないけど、とりあえずおっ立ちはしていないみたいだね」
ジルがポツリと感想を漏らした。
今のところラルフの嫡男が断末魔の悲鳴をあげるような状態にはなっていない。
「いや家で一人ならともかく、この状況でそれはないでしょうに……」
「甘い甘いダメだあんなんじゃ。三流にもほどがある。――おいそこの二人」
とレッセパッセがジルとマリシアを指さす。
「ジルたんはヤツの耳をペロペロしろ。トイレ泥棒の方は乳首をつまめ」
えええっ! という三人の声が重なる。
「それぐらいの試練を乗り越えられないようじゃ話にもならん」
「……わかりました。お願いします」とラルフ。
「はーい」ジルも同意した。
「ムリですよそんな!」
マリシアは両手で顔を覆い隠す。
「おいトイレ泥棒。ラルフは誰のためにやっていると思っている」
「うっ……!」
レッセパッセの鋭い視線がマリシアを刺す。
「わかりました! やればいいのでしょう!」
「おっけーじゃあ始めようか」
ジルはハタオリキの前であぐらをかくラルフにしなだれかかると、
「じゃあやるね」
などと悩まし気な声でつぶやきながら耳に舌を這わせ始める。
「うわあ……ジルちゃん大胆すぎ」
マリシアの顔面が紅潮してゆく。
「くっ! うひゃひゃひゃひゃ! めっちゃくちゃくすぐったい! ジルおまえなんでこんな舌ザラザラなんだよ! ネコか!」
ラルフは興奮するよりは笑っていた。
「よし。おまえも行け!」
「ぐぬぬぬぬ……もうヤケクソになるしかない……!」
マリシアは恐るべきスピードでラルフに接近、上着をまくり上げると。
「し、死ねえ!」
両の乳首を万力のような力で捻りこんだ。
「痛たたたたたた! 取れますって!! あっ! でもちょっとなんか気持ちいい……」
ラルフのこの表情である。
「よし。いいぞ。ジルたんは指しゃぶりに移行。トイレはおっぱいを顔面に押し付けろ」
「できません!」
「やりまーす」
ジルはラルフの指を咥えた状態で首を上下に動かす。ものすごい高速のピストン運動である。
「うわあぁぁ……ジルちゃん……」
「熱っ! 熱いわ指! 舌ザラザラだし首すげえ速いし!」
「トイレ女! おまえも早くやれ!」
「ち、ちくしょおおおー!」
マリシアのえぐりこむようなおっぱいパンチが炸裂した。
ラルフの鼻に信じられないくらいに柔らかく、それでいてよい弾力がある。そんな素晴らしい感覚が染みわたった。が。
「だあああ! 前も見えないし指も使えん! 物理的になにもできやしませんわなあコレ!」
ラルフは二人を振り払って咆哮。
「やれやれ。修行がたりないにもほどがある」
レッセパッセは深い溜息をついた。
「師匠……」
「なんだ……?」
「エラいもんでマブタがどうあがいてもイチミリも上がらない状態になってきやがりました」
「むにゃむにゃ……修行が……その……足りん」
それから一週間。ラルフとレッセパッセは一睡もしていなかった。
「ラルフさん! 寝たほうがいいですよ! 目の下のクマがアゴまで届きそうな勢いです」
マリシアとジルは食事の用意とトレーニングくらいしかやることもないので、さすがに夜は寝ていた。もっともマリシアの方はラルフのことが気になりすぎてロクに眠れていないようだが。
「とはいえ。まだなんの成果も上がっていないのに寝るわけには……」
部屋の隅には数々のボツ作品が山と積まれていた。
「むにゃむにゃ……そうだー寝たら殺すぞー……スヤスヤ……」
「師匠さんも寝ましたし。ね?」
「そうですね……いい加減寝たほうが良さそうです」
ラルフは顔面がすべて口になるくらいの大あくびをかました。
「よっしゃ! じゃあ今夜は寝間着パーティーだね!」
「ジルちゃん……寝るのジャマしちゃダメだよ?」
と言いつつみんなの分の寝間着を用意する。が。
「あれ? ごめんジルちゃん。ジルちゃんの寝間着、まだ乾いてないみたい」
愛用の黄色い寝間着はまだじっとりと水分を含んでいた。
ジルは全く気にする様子なくカラっと笑った。
「ここ湿気すごいからねえ。しょうがないよ。じゃあ私亀さんで寝るー」
そう言ってボツ作品の山から、以前ラルフが作成した亀型の鎧を取り出し、いそいそと着込んだ。
「おまえそれ似合うよなあ」
四本足でのそのそと部屋を歩く様子を見て思わず笑顔がこぼれるラルフ。
「ほんとほんと! めちゃくちゃかわいい!」
マリシアも同意して甲羅を愛おし気に撫でる。
「なんかね。いつも元気でキビキビしてるジルちゃんがこれ着ると、途端にちまちました動きになるのがすっごくかわいいの! ギャップってやつかな?」
ジルは少々照れくさそうに笑うと、マリシアの頬に口をつけてみせた。
「ギャップ……ギャップか……!」
ラルフは突如、トンボをきるようにして無駄にアクロバティックに立ち上がった。
「ラルフさん! ダメですよ! そんなムリに動いちゃ!」
マリシアが駆け寄ってくる。ラルフはその肩に手を置いて野獣のような瞳で彼女を睨み付けた。
「そうか……オレはいままでマリシアさんのエロさを『引き出す』ことばかり考えていた……。だが本当のエロさのためにはむしろエロさを『消して』やればいいのでは……?」
ラルフの目付きは完全に犯罪者のそれと化していた。
「あ、あの。もしかして私、今から犯されるのですか……?」
「しかし。どうやったらこのエロの塊の猥褻みを消すことができる? このどんな格好をしてもエロい性欲のバケモノを」
「あの……できれば最初はムリヤリとかじゃなくて愛情にあふれる感じが……」
「だが待てよ。エロさとはすなわち女性的な魅力……つまりこやつのバカエロを潰しこむには――」
ラルフは右手の甲を左頬に当てる謎のポーズを取ると、
「そうだ! ホモだ! ホモの気持ちになればいいんだ!」
エラいセリフを喉が潰れんばかりに叫んだ。
そしてグルンと踵を返し、再びハタオリキの前に座りこむ。
「うおおおおお! ホモホモホモホモホモホモホモホモおおおおおお!」
ラルフはふたたびドスケベミズギ作りに没入してゆく。
「……寝なくていいんですか?」
「ラル兄ってやっぱりホモなのかな……」
「え!?」
「いや以前男性客にズボンを――」
さらに丸三日間。ラルフに夜明けは来なかった。
「頑張ってラルフさん。その……素直に応援したくない部分もあるけど。とにかくその頑張りは報われて欲しい。そう思います」
マリシアも一睡もせずにラルフを励まし続けた。
ジルはきっちり毎日十時間ジャスト睡眠を取っていた。
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