3-5 苦悩するドスケベ男

 レッセパッセはエラそうに腕を組みアグラを掻いて座っていた。服も東洋の民族衣装風の衣に着替えている。さきほど全裸でちちくりあっていた様子とはエラい違いだ。

「訪ねてくるのであれば事前に連絡をすればよいであろうが」

 なにか威厳がある風の喋り方だが、いかんせん小鳥が鳴くような可愛らしい声である。

 ちなみに実年齢は四十五歳だそう。こういうのを古代語では合法ロリというらしい。

「どうやってですか。こんなところに手紙は届きませんよ」

「それにしたって知らない人をいきなり連れてくるな! 怖いであろうが!」

 ラルフたちが尋ねてきたときはたまたまトイレにいた。すぐに出ようと思ったのだが知らない人の声がするので怖くて出てくることができず、あのように籠城する運びとなった。らしい。

「少しは人見知りを直してくださいよ。ジルを見習って」

「ジルたん好き。こっちおいで」

 ジルは素晴らしい笑顔で立ち上がると、レッセパッセの後ろに回り込み抱き絞めた。

「で、要件はなんだ」

 頬擦りをされながらエラそうなトーンの声を発する。

「まさかこの女と結婚するとか言うんじゃないだろうな」

「「なっ! 違いますよ!」」

 まったく同じセリフが二つ重なった。

「なんだ違うのか? もしそうだったらお姑として壮絶な嫌がらせをしてやろうと思っていたのに」

「結婚自体は認めて頂けるんですね……ってそうじゃなくて」

 ラルフは事情をかいつまんで説明した。

「なるほど……」

 レッセパッセはほっぺにチュー攻撃を受けながらなにか含みがありそうに呟いた。

「それで師匠にアドバイスを頂きたくて」

「ふん。そんなものが必要なくらいだったら出て行ったりするな」

「おっしゃる通りですがまあそれはそれとして……」

 ふくれるレッセパッセをうまく受け流す。

「いままでに作ったモノを持って参りました。どこがいけないでしょうか?」

 大きな風呂敷包みを手渡す。レッセパッセはそれをブスっとした顔で開き、中のものを検分する。

「これはシャールズマスターピースのドスケベ水着か?」

「その通りです」

「これをこの女に?」

 マリシアをジロジロと睨みつける。

「どうでしょうか? やはり再現度がたりなくて――」

「いやよくできているとは思うぞ」と子供みたいに小指で鼻をほじくりながら呟く。

「本当ですか?」

「ああ。でもな。これはとてもドスケベミズギとは言えない。せいぜい行ってもただのスケベミズギだ。こんなものでボルケオドラグーンに勝てるわけがないだろう。うんこ以下。げろしゃぶ。おとといきやがればーか」

 幼児レベルの悪口だがラルフはショックを受けているようだ。

「ただのスケベミズギ……バカな……! なにがいけないっていうんだ……」

 レッセパッセはジルにアタマをなでなでされながらエラそうにふんぞり返った。

「いいか。シャール様のドスケベ水着はただの魔導防具とは違う。女性が持つ魅力を最大限に引き出すことにより、脅威の耐性や防御力を産み出すシロモノだ。シャールズマスターピースをちゃんと読み込めば書いてあるはずだがな。防具作りの技術にばかり心を砕いて古代語の勉強を疎かにしていたおまえには難しかったか?」

 ラルフの顔が青ざめる。

「おまえが作ったものは形だけはよくできていても、この女の魅力、主にエロさを最大限に引き出すものではない。そもそもそのことを意識していないんだから当たり前だがな!」

 レッセパッセは立ち上がり、ラルフの顔面に人さし指をビシっと突き立てた。

「いいか! 真のドスケベミズギとは。その女の持ついかがわしさを最大限に引き出す、この世にただひとつのエロ! ユニークでオリジナルなオンリーワン淫靡テーションなのだ! それはシャールズマスターピースをただ丸写しにしていては実現できない!」

 ラルフは歯を食いばり両手の拳を床についた。

「僕はなんて浅はかだったんだ……」

「うん。ほんとにそう。糞尿にも劣るマザーファッカーだよ」

「わかりました師匠! マリシアさんのエロさをもっとも引き出すドスケベミズギ! 必ずや作り出して見せます! うおおおおお!」

 床を叩きながら気合の声を上げるラルフ。

「は、はあ……」

 しかし。残念ながらマリシアはあまり乗り気でなさそうだ。

「では今すぐ始めます!」

「待て。その前に」

 レッセパッセはオナカをさすりながら、

「ごはんにしよう」

 と提案した。

「えっ!? どうしてですか?」

「だってオナカ空いたし久しぶりに会ったからお話とかしたい」

「さんせー! じゃあ準備するね! 食材はあるから!」

「あっ私も手伝います!」

 やれやれ。こんな変な人に育てられたのによく自分はまともに育ったものだ。などとラルフは思った。


 食事終了後。三十分ほど食休みにゴロゴロしたところで、ようやくレッセパッセがラルフに対して仕事を開始するように促した。

「これをつけてやってみろ」

 彼女はひょっこりと庭に出るとなにやら妖しい植物型のモンスターを持って帰ってきた。フタのついた緑色の筒状ボディに手足のごとく葉っぱが生えている。

「へーなんかカワイイ! ……いやそうでもない。おげげげげ」

 ジルがフタを開けて筒の中を覗いてみると、中にはおぞましい形状のキバがびっしりと生えていた。

「これはウツボテンガと言ってこの島にしか生息していない希少モンスターだ。こいつを股間に当てながらやれ」

「な、なんのイミが?」

 といいつつラルフは素直に従う。

「いいか。エロいものを創造するときにはな。逆に自分自身がエッチな気分になってはならんのだ。絶対に」

「そ、そうなのですか!?」

 だとしたらラルフの今までのやりかたは完全に間違っていたことになる。

「だから己を絶対に興奮できない状態に追い込むこと。これが大事」

「なるほど。興奮してしまったら『アトツギ』が噛み千切られる状態に追い込むというわけですね? おっしゃる通りにしてみます」

 植物モンスターを股間に当てながら真剣な顔でハタオリキのセッティングをするラルフ。

「では始めます」

 マリシアは呆れ顔、ジルは爆笑をしていた。

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