2-21 無人島の少女

 エンシェント島はアシノ湾の中央に位置する面積十㎢程度の小さな島だ。

 周囲をものすごい乱海流に囲まれており、船で上陸することは不可能。もちろん魚なんかもいっさい取れない。島を覆っているのはただただジャングルのみでこれといった資源もない。

 従ってほとんど人が寄り付くことはなく、ほぼ無人島状態であった。

 しかし。そんな島にどういうわけか一人の女の子が住んでいた。

 身長は一四〇センチあるかないかといったところだろうか。華奢な体に白い肌、整った顔立ち。そしてなにより特徴的なのは二つ結びにした桃色の美しい髪の毛。なぜかこんなジャングルにはそぐわない東洋の民族衣装風の煌びやかな服装をしていた。

 彼女は今、薄暗いジャングルの中をゆっくりとした足取りで歩いている。なにか風格すら感じるような堂々たる足取りだ。

 ――と思ったら。

 彼女は突然恐るべき軽快な動きで、そばにあったバナナの木に両手両足を抱きつけ、スルスルと登り始めた。そしてサルにも劣らぬスピードで頂上まで到達すると、バナナの大きな束をもぎって食べ始める。太い枝に足で逆さ吊りにぶら下がりながら、左腕に束を抱えて右手で一本ずつ器用に皮をむいてはパクつくという豪快な食事風景である。

 しかし。どうやらバナナを食べることが主目的ではないらしい。彼女はバナナを咀嚼しながらもジッと下界に目を凝らしている。

 そこへ一体の大きな生き物が現れた。長い二本足、キリンのような首、可愛らしい嘴、それにプリっとしたおけつ。これは南国ダチョウだ。この辺りの島のみに分布する大変珍しい種類である。

 木の上の彼女はそれを発見するやバナナを抱えたまま木から飛び降りた。

 ――見事にダチョウの背中に着地。

「クワッ!」

 ダチョウはわずかに驚きの泣き声をあげると、もの凄い勢いで駆けだした。

 少女は右手一本で首にしっかりと捕まり見事にそれを乗りこなす。


 やがて一人と一匹はダチョウの巣に辿りついた。

 巣には藁が敷かれており、そこに巨大な球体が五つ大事そうに置かれていた。

 これは南国ダチョウのタマゴ。一般には流通しておらず、殆ど食べたことのあるものはいないが、大変美味であるとも言われている。

 どうやら少女の目的はコレであるらしい。彼女は手に抱えたバナナを地面に置くと、タマゴを指さしながらダチョウの目を見つめた。

「クワ」

 ダチョウはキモチ首を頷かせると、バナナを皮ごと食べ始めた。

 どうやら交渉成立のようだ。どちらにしろ産まれてくる子供の内一体しか育てない生態なのだから、バナナと交換したほうがお得だと判断したのであろう。

 少女は巨大なタマゴを軽々と持ち上げるとダチョウの巣を後にした。

 なんとも見た目に反してたくましい女の子である。

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