2-20 敗北そして……
「うおりゃあああ! ドスコーイ!」
「このこの! 殴らせろー!」
「わー! わー! どっか行けおまえ! こりゃ!」
「あっ! イヤアアア! 入って来ないで! アアアアアアアアアアアアアアアーーーー!」
「なにごと!」
ラルフは甲高い悲鳴で目を覚ました。
まっくらな中にわずかなたいまつの灯り。そして見慣れた女性の姿。
「あっ! やっと目ぇ覚めたの!? ねえお願い! 背中にヘビ入っちゃったから取ってー!」
「お、落ち着いて下さい! そんなハダカみたいな格好で抱きつかれたら!」
「イヤー! 動いた動いた! かゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆいかゆい!」
ようやっと人心地につくのにおよそ三十分を要した。
「なるほど。ここにワープしてきた――と。ダイワクビレッジまで飛ぶつもりだったのですが……やはりそう簡単なものではありませんね」
二人がいるのはあのギャザリングサーペントがいた洞窟だった。
「そう。あなた気絶しちゃってるしどうしようかと」
マリシアは薬草を取り出しラルフの手首の傷口にあてがった。
「ありがとうございます。ずっとヘビを追い払ってくれていたのですか?」
「うん。感謝してよ。すっごいじんましんが出て大変だったんだから」
「本当にありがとうございます。この恩は一生忘れません」
と深々と頭を下げ地面につけた。
「そこまでやられると恐縮しちゃうな……私だって何度も命を助けてもらってるのに」
「しかし意識があったとは意外でした。完全に気絶したものだと」
「ま、うっすらとですけどね。ここにワープしてきたときにアタマ打って、そこでちゃんと目覚めたってカンジです」
「それは申し訳――」「でもね」
マリシアはラルフの言葉をさえぎり、
「最後のあなたとアイツの会話ははっきり聞こえてたよ」
とラルフの目をまっすぐに覗き込んだ。
「どうするつもりなの?」
「……ヤツの要求を。受けようと思っています」
マリシアは瞳に怒りを浮かべながらも冷静に問い返した。
「なぜ?」
「簡単な理由です。そうすれば。僕もあなたも命が助かるからです。そうでなければ……」
ラルフはラヴァが最後に見せたあの邪悪なドラゴンの片鱗を思い出していた。
勝てない。生き物としてそう直観した。
「それに。悪くはない気もしています。彼は僕に望むものをなんでも与えるといいました。そして彼には時空召喚の魔法が使えます。ということはシャール様の秘宝を蘇らせてもらうことも」
「……ふーん」
しばらくの沈黙の後、マリシアは子供のような口調で言った。
「でもそれってさ。ちっともおもしろくないね」
「えっ?」
「そんなさ。他人が与えてくれたもので好奇心を満足させるなんて」
ラルフの心臓がチクりと痛む。
「わたしもお城にいたときはさ。おいしい食べ物や服、アクセサリー。それに結婚相手。なんでも与えてもらえたよ。でもそんなものじゃあ全然満足できなかった」
ラルフは消え入るような声でそれに反論した。
「でも。それであなたの命が助かるなら」
「あのね。私は私の野望には命をかける価値があると思ってるんだよ。あんな人に与えてもらって満足している生活なんて生きていないのと一緒なんだもん! いままでだってなんども命の危険があった。とっくに覚悟はできてる!」
「ですが……」
「ねえ。本当は自分が怖いだけなんじゃないの?」
「それは違います!」
ラルフは立ち上がって叫んだ。
「あの偉大な師匠の名にかけて! 己の道のためなら命を張ることができる! 一人の防具職人として! 命を賭けてでも聖なる夜の秘宝を取り返したい! この目で見てみたい! ですが……」
目にうっすらと涙が浮かんだ。
「――ごめんね」
マリシアも立ちあがりラルフの手を握る。
「あなたは。私を大切に思ってくれているんだね」
ラルフは黙って首をタテに振った。
「それに私が巻き込んだのに。あなたにまで命を賭けろだなんて。ハハハ。私ってホント……最低……」
頬が温い水に濡れる。
マリシアはそれを小指で拭うとラルフの目を潤んだ瞳で見つめた。
「あなたが決めて。私、あなたの選択を信じることにした」
ラルフは背を向けてしばしの沈黙。そして。
「オレは!」
マリシアを振り返り叫んだ。
「今度こそ! 絶対に負けない! 鉄壁不敗の! ドスケベミズギを作って見せる!」
「――! よく言った!」
マリシアはラルフに駆け寄り抱きしめた。そしてもの凄い力で搾り上げる。
「いてててて! やめてくださいそんなかっこうでアナタ! 色んなイミでつらいです!」
「へへへへ。いいじゃん。暖かいし。これ着てると寒いんだもん」
「マリシアさんはエロに敏感なのか鈍感なのかどっちなんですか!」
「???」
二人はひとしきりイチャイチャしたのち、足を引きずりながらダイワクボルケオを後にした。
この山の主に復讐を誓って。
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