2-16 第二次ダイワクボルケオ攻防戦①

 マリシアが作成したマップにより、実にスムーズに二人の行軍は進んでいく。

「意外とそんなに歩きづらい道ではないんですね。風景にも独特の美しさがあるし、ボルケオドラグーンさえいなければハイキングコースとしてもイケそうだ」

「でも。こんな変態ちっくな格好じゃないと登れないじゃないですか」

 ラルフは先ほどから一生懸命に話しかけているが、マリシアの反応は少々冷たい。

「あの……まだ怒ってますか?」

「うん」

「どれくらいで許して頂けますか?」

「そうね。五年ぐらいかな」

「僕たちそんなに長い付き合いになりますかね?」

「……今のでもっとムカつきました」

「す、すいません今のは――って。それどころじゃない!」

 前方から、もはやおなじみのリザードマンががなりたてながら向かってくる。

「来ますよ! マリシアさん!」

「はい! うおおおおお!」

 マリシアが大声を上げながら敵に突進し注意を引き、

「ハッ――!」

 その背中をブラインドにしてラルフがブーメランを足にヒットさせる。

「痛って! なんだこの――ギイヤアアアァァァァ!」

 動きが止まったところをマリシアが渾身の突きで一気に仕留めた。

「完璧でしたね! 我々いいコンビだと思いませんか?」

「ふんだ」

 ――そうして山道をゆくこと一時間。

 二人は問題の洞窟に辿り着いた。

「あ、あ、ここです。例のヘビオバケが出てきたのは」

「よし。僕に任せてください。マリシアさんはここで待機を」

「えっヤダよ! 一人にしないでください」

「わかりました。それでは僕の後ろからついて来てください」

「う、うん」

 マリシアはぎゅっと目をつむりながらラルフの左手を両手で握る。柔らかい感触と体温が伝わった。

「……も、もう怒られてはいないんですか?」

「いえ。怒ってます」

 たいまつに火をつけて洞窟の中に潜入する。

 歩くこと数分。

(発見しました。ニョロニョロしたヘビがたくさん空中に浮いてます)

(言わなくていいですよ! 早く倒してください!)

 ラルフはマリシアの手を離すとポーチから大型のブーメランを取り出し右手に構える。

「行くぞ……!」

 ギャザリングサーペントに向かって一直線に突進した。大量のヘビがラルフに襲い掛かる。

「うおおおおお!!」

 しかし一斉意に介さずそのまま突進! そしてラルフの目はヘビに囲まれた黒い球状の『コア』の存在を捉えた。

「喰らえ……!」

 右手に持ったブーメランをサイドスローで至近距離投擲!

 コアは真っ二つになり破裂した。

「やった!」

 コアが破裂するやヘビたちはパニック状態となり、四方八方に逃げ出していった。

「もう目を開けても大丈夫ですよ」

 マリシアはゆーっくりと目を開きヘビがいないことを確認。大きな溜息をついた。

「ギャザリングサーペントを構成するヘビはね、見た目はエグいですが実は毒はないんです。だから闘うときにはヘビは気にせずにコアだけを狙えばよい」

「へー。博識なんですね。私には絶対に実践できないですけど」

「かっこいい所を見せたところで、許して頂けませんか」

「ダメ。だって見てないもん」

「うーむ……」

 と腕を組むラルフをマリシアがじっと見つめる。

「腕……血がいっぱい出てる……」

「本当だ。毒がないとはいえ噛んではきますからね」

「傷見せて。薬草セット持ってきてるから」

「ありがとうございます。助かります」

「言っておくけど。まだ怒ってるからね」

 マリシアはそう言って優しく微笑んだ。

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