2-14 残念会の帰り道

 残念会はお開きとなった。

 ジルはあれだけ飲んだにも関わらずケロっとした顔で自宅に帰っていった。

 マリシアはというと――

「ぬーん。ぬーん。あがががががが。ちくしょういたいよー……アタマ……」

「大丈夫ですか?」

 赤ちゃんのごとくラルフにおぶられて家路についていた。

 月灯りだけが林道を照らしている。

「ごめんなさいね。私はいったい何度あなたに醜態を見せれば気が済むんだろう」

「いえ。人間誰しも失敗はありますし、そういうときはああして発散するのが一番です」

「ああん! もうそんなオトナな発言しないでよ! 恥ずかしくなるじゃない! 年上なのに!」

 ラルフに捕まっている腕に力を籠める。それから。

「ごめんね。せっかく作ってもらった装備ダメにしちゃって」

「いえ。大丈夫です。マグマの熱くらいでダメになるようではボルケオドラグーンの猛攻には耐えられなかったでしょうし、いずれにせよ作り直す運命だったのかも。ですが――」

 なあに? というつぶやきがラルフの耳をくすぐった。

「その……本当にもう一度挑まれますか?」

「えっ?」

「相手は思ったよりも強大なようです。確かに家宝を奪還するのは大事だとは思いますが、命をかけてまでというのは……僕なんかあなたがダイワクボルケオにいる間中ずっと心配で仕方がなくて……」

 マリシアはしばらくの沈黙の後、

「ダメなの! それでも行かないと!」

 おぶさる腕に思い切り力を込めた。ラルフの首がギュッと締まる。

「ゲホっ! なにか理由があるのですか?」

「酔っぱらった勢いで言っちゃおうかな! 聖なる夜の秘宝っていうのはそんじょそこらの家宝じゃないの!」

「はあ……」

「アレはね! 私の死んだお爺様が己の魂をかけて作り出して! 父に託したお宝なの! お爺様の名前はリニア・ファイブスター!」

 ラルフは驚愕の声を上げた。

「リニア・ファイブスター!? あの伝説の防具職人でファイブスター帝国の開祖としても知られる……ってああああ!?」

 マリシアはいたずらっぽく笑った。

「そうなのー。私はファイブスター帝国のお姫様。マリシア・ファイブスター!」

 ラルフはしばらくの間絶句。

「どうりて……気品のある方だと思いました……」

「へへへ。酔っ払って暴れたりもするけどね!」

「でもどうしてそんなお姫様がたった一人で旅など……?」

「家出!」

 などとイキイキとした声で言いながらラルフの肩にアゴを乗せた。

「家宝を奪還するために――ですか?」

「そうねぇ。あのドラゴン野郎にお爺様が作られた家宝を取られてムカついたし、ビビって取返しに行かない国の連中にもシビれきらしたってのも確かにあるけどね。本当の目的は違うの」

「それは?」

「外の世界を見たかった。退屈なお城での生活なんて大嫌いだったの。武術の訓練は別だけどね。それから。単純に聖なる夜の秘宝がどんなものなのか見てみたいっていうのもある。お父様はどうしても見せてくれなかったから」

 ラルフはなるほど……と呟く。

「わかりますよ。好奇心は重要です」

「ラルフさんならそう言ってくれると思った! でもね! 最大の目的はまた別!」

「そ、それは!?」

「聖なる夜の秘宝をね! 交渉材料にするの!」

「なんです? それ」

「奪い返した秘宝を父に見せてね、こういってやるんだ! 『これを返して欲しければ! 好きな相手と結婚させろ!』って」

「えええええ!?」

 思わず後ろを振り返ってマリシアを見る。いたずら小僧のような表情を浮かべていた。

「だってさ! 産まれたときから結婚相手がどっかの国のわけわかんない王子様に決まってるんだよ! そんなのイヤじゃない!?」

「王子様と結婚できるならよいのでは……?」

「違うのー! どうせ王子様なんてメカケいっぱい囲って浮気ばっかりするもん! ウチのお爺様もお父様もそうだったから間違いない!」

 などとラルフのアタマを八つ当たりのように叩く。

「だからね! 私はまたボルケオドラグーンに挑むよ! これはね私が私の人生を手に入れるための闘いなの!」

 ラルフはハハハハハ! と豪快に笑った。

「マリシアさん。僕のあなたを見る目がガラリと変わりました」

「そう! どういう風に変わったの?」

「ますます好きになりました」

「ハア!? 好き!? なに言ってんの!?」

「あなたの生きざまはかっこいいと思います」

「あ、そういうこと……なんだ……」

「そして!」

 ラルフは月に向かって吠えた。

「リニア・ファイブスターの秘宝と聞いては! 僕も黙ってはいられません! 是非ともどんなものであるか見てみたい! 協力させてください! 僕も一緒に行きます!」

「へへへ。やった。実はそう頼もうかなーとも思ってたんです」

「そうすれば家でずーーーっと心配していなくても済みますしね! よし! そうと決まれば! この間のよりさらに強力なドスケベミズギを生み出して見せますよ!」

「あ、ああ。それは大変ありがたいのですが……」

 マリシアは左手で頭をポリポリと掻いた。

「布は多目でお願いします……ね」

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