2-11 第一次ダイワクボルケオ攻防戦②
その後は大した危険もなくマリシアの一人行軍は進んだ。
標高およそ一七三八メートルというデータと、ここまでに歩んだ道のりを照らし合わせると、もう八合目ぐらいまでは来ているはずだ。
(えーっと。この洞窟を通るしかないのかな?)
今マリシアの目の前には、人間がゆうに歩いて通過することができるくらいの、巨大な洞窟の入口がぽっかりと口を開けていた。
もしかすると人工的に作られたものかもしれない。そうなるとここには相当に厄介な敵が、あるいはボルケオドラグーン本人がいるかもしれない。
たいまつに火をともして慎重に入口を通過する。
中は予想よりもさらに広い。天井はジャンプしても手が届かないぐらいに高く、道幅もスモー取りが五人は並んで歩くことができるくらい広かった。
(慎重に……)
ゆっくりと確実に足を前に出していく。今のところ生物の姿は――
「んんんんん!?」
叫び声を出しそうなところなんとか口を抑えた。サンダル履きゆえ殆ど露わになったマリシアの足の甲に、なにかが這っていくぬめっとした感覚があったからだ。
(げー! 今のってもしかしてヘビ!?)
背筋に強烈な悪寒が走る。後ろを振り返り地面近くにたいまつの灯を翳すがなにもいない。
マリシアはブンブンと首を振って気持ちを切り替えた。
さらに五分ほど歩いたところで。
――ゾクリ。
マリシアの冒険者としての勘が敵の存在を感知した。それも相当な強敵だ。
たいまつを煙草のごとく口に咥え、両手に槍を構えジリジリと前進していく。
(あそこだ……)
薄暗い灯りの中、うぞうぞと蠢く物体がうっすらと姿を見せた。
「正体を見せろ!」
マリシアはたいまつを勢いよく口から吹き出す。
するとそいつは物体の真下に落下。モンスターの姿をはっきりと浮かび上がらせた。
「ううううう!? ギイイイイイイイイイイイイヤアアアアアアアアアアアアアーーー!」
マリシアのけたたましい叫び声が洞窟内に反響する。
モンスターの名は『ギャザリングサーペント』。危険度が高いとされるモンスターのひとつで、その見た目は簡単に言ってしまうと『大量の紫色のヘビがごっちゃごっちゃに絡まり合って球体状になったのが宙に浮かんでいるヤツ』である。
マリシアは驚くべきスピードで踵を返しダッシュ!
しかしギャザリングサーペントは地面をゴロンゴロンと転がって追いかけてくる。
「ギ、ギエエエエエ! ラルフさん! ジルちゃん!」
目からボロボロと涙がこぼれる。
決死の走りはすこしずつヘビの塊を突き放していった――が。
「うっ……行き止まり……!」
彼女のゆくてには道はなく、その代わり崖。その高さはゆうに十メートル。そして崖の下には真っ赤な溶岩の海が波を立てていた。
慌てて引き返そうとUターン。すると彼女の視界に入ったのはヘビの塊! 彼らは心なしか二ヤリと表情を崩した。
マリシアは顔を真っ青にしてあとずさる。
ヘビ塊がじわりじわりと彼女に迫った。
沸き上がる吐き気。カカトが崖のフチにかかる。崖の先端が欠け溶岩に落ち「ジュッ!」という蒸発するような音を立てた。マリシアは大量に溢れた顔汗を拳で拭いながら、
「むぅ! こうなったらいちかばちか! うおー!」
あまり迫力のないどっちかといえば可愛らしい決意の声を上げると、ヘビたちに突進――ではなく。
「こっちだ!」
ヘビがどれほど怖いのか。彼女は崖から飛び降りた。ヒュウと風を切りながら溶岩の海に落下。しぶきをたてて彼女の姿は消えた。
ヘビたちはシャーシャーと鳴き声を立てながらお互いの顔を見合う。
「ぶはっ!」
マリシアはマグマの海から顔を出すと、綺麗なフォームのクロールで泳ぎ始めた。
(よかった。思った通り全然熱くない。でも粘っこくて泳ぎにくいったら――)
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