2-10 第一次ダイワクボルケオ攻防戦①
ダイワクボルケオの山中を半裸、イヤ、九割裸の女性が歩いている。
手にはマッピング用の羊皮紙と鉛筆。首には望遠鏡をかけている。背中にはジルにもらった槍を背負っていた。
マリシアは改めて自分の格好を顧みる。
「慣れちゃったなァ。遺憾ながら」
初めてこれを着せられた日、ラルフに小一時間にも渡って見つめられ続けたこと、その後ジルやラルフに連れられてこの格好で街を徘徊したことに比べれば、こんな無人の道をゆくことぐらいどうということはない。
「修行の効果あったな……死にたい……」
ボヤきつつも再び歩を進める。望遠鏡を覗いて辺りを警戒し、随時マッピングもおこないながら慎重に。
空は火山灰で真っ黒。険しい山道には草一本生えておらず、穴だらけの岩ばかりがゴロゴロ転がっていた。至るところでマグマの赤い池が湧き立って視界を赤く染め、さらに硫黄が放つ強烈な腐卵臭が鼻を刺す。
そんな過酷な環境ではあるのだが。
「ふわ~。すごいなぁ。全然暑くない」
改めてドスケベミズギの効果の強力さを実感する。マグマの池におもいきり近づいてみてもなんらの熱さも感じない。試しに指先を突っ込んでみたが火傷ひとつしなかった。
「これでデザインさえ良ければなァ」
ぼやきつつさらに歩を進める。
ボルケオドラグーンの根城というからもっと凶悪なモンスターの巣窟のような所を想像していた。しかしモンスターの数や種類はそれほど多くはない。いたとしても火山コウモリや火焔ネズミ、地熱ワームや四足岩石など。普通の野生動物と大差のない危険度のものばかりだ。
ただ困るのは。
「キャッ!」
ところどころにヘビがいることだ。
(ひいいいい! 気持ち悪い! さっさとアッチ行って!)
ヘビはチロチロと舌を出しながらマリシアに一瞬だけ目をくれ、岩陰に消えていった。
マリシアは深い息をつく。
(あんなに小さい、モンスターでもない生き物がこんなに怖いなんて……前世でなにかあったのかなあ)
自らの霊魂について考えを巡らせつつさらに山道をゆく。
――すると。
(おっと……! やっぱり強敵もいるんですね。彼らとはどうも最近ご縁があるなァ)
望遠鏡がフラフラ一人で散歩をしているリザードマンの姿を捉えた。慌てて岩陰に身を隠す。ここから彼までの距離はおよそ十メートル。むこうはこちらには気づいていないようだ。
(よし! この間のお返しだ! 奇襲をかけてやる)
マリシアは立ちあがりリザードマンめがけて突進した! だが。
「あ、痛アアアァァ――――――!!!」
慣れないサンダルで岩山の道なんかを駆けたため、マリシアは火山岩とキスするハメとなった。リザードマンがこちらを振り返る。
「な、なんだあ!? このハダカの女! 変態か!?」
「は、ハダカじゃありません! ドスケベミズギです!」
「ははあ。おまえさてはすんげーバカだな? でも顔はカワイイし体もいいな。オレそういう女、好き」
ゲヘゲヘと下衆声を上げながら近寄ってくる。
「全く……人間にしてもモンスターにしても。なんで男の人って全員エッチなんですか?」
マリシアは背中に背負った槍を下ろし、上段に構えた。
ただの槍ではない。ジル特製の熱に強いゴム製ランスだ。持ち手から先端までオールブラックの勇ましい色合いと、先端が尖っておらず、むしろ丸くなっている点が特徴である。
「そんな槍で俺が倒せるかー!」
「『バイブレーションブラック』を舐めない方がいいですよ。これでも魔力が付与されたエンチャンティドウエポンですから」
「舐めるわそんなもん! ってゆうかおっぱい舐めさせろ!」
「ワニの雌とでもエッチなことしててください!」
「うおおお! 性欲性欲ゥ!」
股をおっぴろげて跳びかかって来るリザードマン。
マリシアはそれを対空迎撃。目にも止まらぬスピードの上段突きを放った。
「ギエエエエエエエ!」
槍がリザードマンのケツの穴に突き刺さる。
そしてそれだけでは終わらない。
「えーっと……サンダーバイブレーション!」
マリシアは握り手に力を込めて意識を集中させた。すると槍はリザードマンのケツの中で上下左右に震動し暴れまわった!
「アアアアイヤアアッァァァァァ!」
リザードマンは瞬く間に意識を失った。
マリシアは槍を引っこ抜き、岩に擦り付けて綺麗にする。
「リベンジ成功。すごい破壊力。でも。なんだかなァ……」
リザードマンは心なしか恍惚とした表情をしている。
「これまでは。エッチなこととは無縁に生きてきたのに」
これも全部ラルフが悪い。マリシアは憎たらしい男に心の中で舌を出した。
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