2-6 ラヴァという男
「ふぅ……汗を掻いてしまった」
ラヴァはやや荒い息を発しながら自室へ帰りついた。
部屋の様子は少々……大分……いや。凄まじく変わっている。
まず異常なのは床が全面ガラス張りであること。虹色にギラギラ光って目にけたたましい。
それから壁。ボッコンボッコンとクリスタルが生えている。透明なものであればまだ許せるのだがこれがドギツイ原色の悪い意味でカラフルな眼球に悪い代物なのだ。これを美しいと思うヤツがいるとしたらおびただしくマトモな感覚から遠い人物といえる。
あとは天井。というか照明。銀色をした球体が回転しながらチカチカした灯りで部屋全体を親の敵のようにものごっつ照らしている。こんな状態で落ち着いて過ごすことのできる人間がいるとしたら、マエストロをも唸らせる五つ星レベルの狂人であるといえる。
床と壁、天井、照明以外のものがなにもないという所がその狂気性をさらに強める。
一応出入口のドアと、クローゼットと思われる大きな観音開きの扉はあるが。
「やはり自分の部屋が一番落ち着く。ゆっくり休むとしよう」
ラヴァはそのようにのたまうと、柔らかいベッドに飛び込むかごとき気安さで、ガラス張りの床にうつぶせにダイブした。ガチーン! という痛ましい音ともに彼の鼻から血しぶきが上がった。しかし当人はそんなことを気にする様子は全くない。
「ああ。やはり美しい。どこまで美しいんだこの鏡に映る物体は。本当に手に入れてよかった。アーッ! イオオオオ! ヌハー!」
そう喚きながら彼は両手両足を同時にジタバタさせたり、腰を上下に動かしたり、挙句に鏡に映る自分を舐めまわしたりとなんかすごい。とりあえず忙しそうだ。
「ん? おやあ?」
彼は突然ぬめっとした動きで立ち上がった。
「なんだい。ヤキモチを焼いているのかい?」
両手を広げてなにもない空間に話かける。もちろんなんの反応もない。
で、彼は突如、前触れもなく服を脱ぎ捨て全裸状態とあいなった。
「今行くよ」
いかにも速そうなダイナミックなフォームで部屋の端っこまで駆け、前述した観音開きの扉をズバババーンと開く。
――そこには元の部屋よりもはるかに広大な空間が存在していた。
置かれているのは大量のつづら。宝箱と言い換えてもよい。とにかく過剰なまでに装飾されたボックスだ。
「いつだってキミが一番だよ」
彼はその中でもひときわ大きくド派手なピンク色のつづらの中に顔を突っ込んだ。そしてクンカクンカスーハーという快音を立てる。立て続けること三十分ばかり。
「ん? 待てよ?」
突然。つづらから顔を引っこ抜く。今度はなんだというのだろうか。
「なぜ今まで考えもしなかったんだ。もし私がキミを身につけたとしたら。それはこの世で一番美しい物体が産まれるのではないか……!?」
彼はそれを実行し、自らの姿を鏡に映した。
「ああ。神だ。僕は美の神」
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