2-4 シャールズマスターピース①
「おかえりなさい!」
「ええっ!?」
ラルフが帰宅するとマリシアがエプロン姿で出迎えてくれた。
「そ、そんなに驚かなくても。なんか傷つくってゆうか……」
「あっ! すいません!」
胸のあたりがパンパンに張ったエプロン姿からそっと目を逸らしつつ謝罪の言葉を述べる。
「これからしばらくはいるんですから。早く慣れて下さいね。私がいることに」
「いえ僕が驚いたのは――」
ラルフが驚いたのは、マリシアが部屋をピカピカに掃除しておいてくれたこと、誰に借りたのか可愛らしいエプロンなんかして料理をしてくれていたこと、そしてこの状況がまるで――
「おどろいたのは?」
「い、いえ! なんでもありません!」
ラルフは耳まで真っ赤になっている。その表情を見てマリシアもラルフが考えていることを察したらしく、同じように頬を赤らめた。
「ゆ、ゆ、ゆ、夕ご飯もうすぐできますから」
「あ! ありがとうございます……。食材はどうされたんですか?」
「えーっと。その。近所の方たちがおすそ分け――」
二人の間に気まずい空気が流れる。
――やがてしびれを切らしたマリシアが。
「あーもう! キモチ悪いなァ! はっきり言ってください! このカンジが夫婦みたいだなって思ってるんでしょ!?」
ラルフに詰め寄り、胸辺りを人さし指で思い切り突いた。
ふわっとよい匂いがしてラルフの心臓が余計にテンポをあげる。
「お、思ってます!」
「思わないで下さい!」
「申し訳!」
「奥さんじゃなくても料理ぐらいしますよ! 冒険者ですから! 自炊は必須スキル!」
「冒険者ナめてました!」
「それにあなたのためじゃないんですから! ヒマだったからやっただけですよ! 分かっているんですか!」
「分り屋!」
「ウソ! 分かってないでしょ! 顔真っ赤だもん!」
「だってあなたそんなに近づいて来られたら!」
照れすぎて我を忘れてキレまくる。この技は後にラルフとジルによって『テレギレ』と名付けられた。
「ごちそうさまです」
「はい。おそまつさまです。お味はいかがでした?」
「本当に美味しすぎて半ばショッキングでした」
「そう? 褒めすぎじゃない? でもありがとう。明日も作りますね」
「よろしいのでしょうか? わざわざこんな」
「いいに決まってるじゃないですか。タダで泊めてもらって防具まで作って頂くのですから」
夕飯を食べ終わるころにはテレギレも収まり、二人は穏やかに会話を交していた。
「そういえば。防具の材料は手に入りましたか?」
「ええ無事に」
ラルフは持ち帰って来た大きな木箱のフタをちょっと勿体ぶりながら開けて見せた。中に入っていたのは――表現が悪いが――人の頭蓋骨くらいの大きさの水色の玉だった。よく見ればそれはただの玉ではなく、細い糸がぐるぐる巻きになって球体を形作っているようだった。
「糸の玉……もしかして布製防具ですか!?」
「ええ。これは極寒の地にのみ生息すると言われる『ストーンコールドシルクワーム』という種類の蚕から取った特別製のものですね。こいつに少しずつ氷結の魔力をこめながら紡いでいくと素晴らしい耐熱性を持った防具が産まれるわけです」
ラルフは糸を人さし指に巻きつけながら誇らしげに語った。
「じゃあ部屋に置いてあった服も?」
「ええ。ただの服ではなく強力な防御力を持つ布製の魔導防具です」
「へええええ……しかし糸から作るんじゃあ大変な手間ですね……」
マリシアは申し訳なさそうに口の前で手を合わせる。
「いえいえ。これが楽しみでもあるわけですから。さっそく今晩から始めますよ!」
「あ、その……ジャマはしないので見学させてもらってもいいですか?」
ラルフはもちろん! と笑顔で回答した。
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