2-2 武器屋のジルちゃん②

 中に入ってみると、ラルフの家と同様の素朴な雰囲気であった。違うのは至るところに剣や槍、弓矢、ブーメランなどの武器類が並べられていること。

 ジルはマリシアを居間の食卓に座るように促した。

「自己紹介! このオンボロ武器屋『エンチャンティドウエポンのスチュアード』の不美人看板娘! ジル・スチュアードちゃんです!」

 ジルはそういって右手を差し出してくる。

「えーっと……冒険者のマリシア……ちゃんです」

 マリシアはそれを軽く握った。ひんやりとした手だった。

「いやーラルフの兄やんがさ、めっちゃくちゃ強いっていうからどんくらい強いのか腕試ししたくなっちゃってさ。なんつーか武器屋の血ってヤツ? 悪い子じゃないんだけどそういうところがあンだよね私って」

「あのねえ……」

 後頭部に手を当ててガハハと笑うジルを呆れた目で見つめる。

「でもホントにゲロ強いんだね! あの奇襲を簡単にいなし潰すとは相当なセメントファイターだわァ! あ、言葉が汚いのはオヤジの影響だから気にしないでね! ホントは思ったより粗暴じゃないの。淑女っちゃ淑女っていうかさ」

(この子が天使みたいって……からかわれたかなァ)

「ホントに危害を加えるつもりはなかったの! ちょっと軽くどつき合いがしたかったって言うかさ、まあそれも危害っちゃ危害なんだけど要するに殺す気はなかったことだけはこれ確かで。あっそうだ甘いものでも食べる! うまい芋菓子があんの!! 機嫌悪い女には甘いもん食わせときゃいいってよく言うじゃない」

「よく舌が周るねえ。そんなに」

 前述したような男の子みたいなファッションのせいもあり、ちょっと見は美少女という雰囲気ではない。

「はは。しゃべんの好きだからね。村の人にも人気でさ。よく『黙れお前』って言われるよ」

 しかしながら少年のように無邪気に笑う表情は魅力的だし、顔のつくり自体は目がぱっちりと大きくて大変可愛らしいものに感じられる。

「ウチの親父もさ、ママが怒ったときは絶対これ食わせんの! ウけるよね!」

 そしてその雪崩のようなしゃべりっぷりには怒っているのがバカバカしくなってくる脱力成分が存分に含まれていた。

「どうするー食べるー?」

 マリシアはちょっと考えてから「うん。食べる」と答えた。

「やった! 許してくれた!」

(……なんだか憎めない子)

 軽い溜息をつくマリシアの口角は自然と上がってしまっていた。


「へー! それじゃあしばらくはラル兄の家に居候するってわけだ!」

 ジルは六つ目の芋菓子を口に入れながらマリシアの話に聞き耳を立てる。

 母親の分を取っておかなくてよいのだろうか、と思ったがよく考えればマリシア自身も四つほどたいらげておりほぼ同罪ではある。

「はい。その装備を作るのには数週間はかかるそうなのでそれまでは」

「いいないいなー! 聖なる夜の秘宝にボルケオドラグーンとの闘い、それにラル兄が作る究極の装備かあ! いやーワクワクするねえ! 聞いているだけで!」

 マリシアはジルの笑顔につられて柔らかく微笑む。

 一度受け入れてしまうと彼女の太陽のような笑顔はたいへん心を癒してくれるものであった。なるほど。天使のようという評価もあながち間違いではないのかもしれない。

「あたしに出来ることあったらなんでも――あーそうだー!」

 そういうとジルはバタバタと家の奥に入っていき――

「うんしょっと! どりゃああああ!」

 なにかを両手に抱えて持ってきて、そいつを机の上にブチまけた。

「武器も壊れちゃったんでしょ? じゃあウチの使いなよ! 大丈夫! ウチは出世払いなんてケチくせーこと言わないから! マジのパトロンになるから!」

 彼女が持ってきてくれたのはどうやら武器らしい。様々な種類のものが雑多に混ぜ込まれており、中にはなんの武器だかさっぱりわからないようなものもあった。

「マリシアさんの得意な武器はなに?」

「えーっと。ランスと鞭かなぁ」

「鞭!? マジで!? まさかマリシアさんも鞭の民だったとは! 好き! マジで好き!」

 とイスから立ち上がり後ろから抱きついてきた。

 なんという人懐っこさ。少々面食らうマリシアだったが、ジルはすぐに彼女を解放し、

「でもなー今ウチ、ちょうど鞭はキラしてるんだよねー! なんたるちや! サンタルチヤ! 私が個人的に持ってるヤツはボロボロなヤツばっかりだし、とてもドラゴンには――。うーんうーん。いや。待てよ」

 などと喚きつつ部屋をウロウロと動きまわった。そして突然両手を口の前でパチンと合わせる。

「よし! 決めた! わかった! 私作る! 一世一代の名品を作ってこます!」

「ええっ!? いいの!?」

「親父にはナイショだよ! あのチンピラキンタマおじさん、私はまだ未熟だから作っちゃだめとかおホザキになられるからさー」

「そ、そーなんだ」

「あとジル流鞭術も教えてあげるからね! いやー楽しみだなー! 明日からはこれゴリ忙しこんでくるぞー!」

 なんだかよくわからないが。彼女がイキイキとしているということは確からしい。

「あーでもそうなるとマリシアさんと遊ぶ時間が少なくなっちまう! ジレンマ―!」

 マリシアはジルのアタマにポンと手を置いて微笑んだ。

「大丈夫だよ。そんなに慌てなくても。防具の方も結構時間かかるみたいだし、ジルちゃんの気が済むまで遊んであげるよ!」

「いいの? 嬉しい。でも迷惑じゃない? あたし実は同い年くらいの女の子の友達っていたことがなくて。それでついはしゃいじゃって……」

「かわいいなあジルちゃんは」

 と彼女のアタマを少々乱暴に撫でまわす。

「へへへ。そうかな。じゃあいろいろして遊ぼうぜ! まずは一緒にスモー祭りに出るでしょー。それから温泉酒場も行きたいな。あとはフライングダッチマン乗って――」

「えーなにそれ! どれも聞いたことない!」

 二人はウキウキと今後の計画について語りあった。

「あっでもさ!」

 とジルがマリシアに対して人さし指を突き立てる。

「ラル兄は取らないでね! なんぼ一緒に住んでると言っても!」

「えっ!? 二人はそういう関係だったの!?」

「まさかー。でも私最悪ガチにイザとなったらアノ人で妥協しようと思ってるからさあ」

「あー……そういう……」

 ラルフに哀れみの情を覚えるマリシアであった。

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