1-3 マリシアとラルフ

 目を覚ますと見知らぬ天井。

 マリシアはゆっくりと上体を起こした。

「あれ……私……えーっと……」

 ぼうっとしたアタマで記憶をたぐる。

(確かゴブリンを一掃して調子に乗ったはいいけど、油断したところに岩石をくらって……)

 恥ずかしさと悔しさに拳を握りしめる。顔がカアっと熱くなっていくことを感じた。

(いや後悔していても仕方がない! とりあえず今の状況を――)

 マリシアはブンブンと首を振って感情を振り払うと部屋を見渡した。無論見知らないのは天井だけではない。ギシギシと軋む木製のベッド、ガラスのはめ込まれていない窓。部屋の作り自体は非常にありふれたものであった。しかし。少々不思議な点がひとつ。

(防具がたくさん……それに女性用の服も)

 マリシアが寝ているベッドと対角の隅には大量の鎧や兜、それに女性用の煌びやかな洋服が乱雑に置かれていた。

 ここは一体どこなのだろうか。マリシアは部屋を出てみることにした。

「よいしょ……と」

 ベッドから立ち上がる。

 壁に飾られた銀色の盾に自分の姿が映った。

 さきほどまでの鎧姿ではない。白い麻のシャツに紫色のロングスカートという格好。

(うわ。胸が丸出しになってる。この服ちょっと小さいな……着せてもらっておいて文句は言えないけど)

 マリシアはシャツのボタンをなんとかもうひとつ留め、あふれ出た大きなモノを隠した。

 このパツンパツン具合。これはこれでやらしいという感じがしなくもない。

 もう外は明るくなりかけていた。


 部屋を出て下階への階段に足をかけるとカーン! カーン! という音が聞こえてきた。

(この音は一体……)

 少し早足で一階に降りると一人の男のたくましい背中が見えた。

 黒のタンクトップに緑色のバギーパンツ姿。レンガでできた火炉の前に座り、作業台の上の鉄塊をハンマーで叩いている。

(彼はさっきの――それにしてもすごい熱――)

 火炉と鉄の塊は真っ赤に発光して凄まじい熱を放っていた。

 マリシアはなんとなく話しかけることができずその場で立ち尽くしていた。すると。

「あ、良かった。目を覚まされたんですね?」

 彼は少しだけこちらを振り返った。

「少々お待ちください。もうすぐ終わりますので」

 そう言ってハンマーを思い切り叩きつけた。よく見れば作っているのは円形の盾のようだ。

「よしとりあえずこんな所かな。間に合わせとしてはこんなもんでいいや」

 すると男は真っ赤に燃える鉄の塊に両手の掌を叩きつけた!

「えっ!?」

「あちいいいいいいなんだこりゃふざけんな殺すぞあああああああああ!!!!」

 悪鬼羅刹のような表情で呪いの言葉を放つ!

「えっ!? えっ!?」

「舐めんなよ! ホントクソが! 生きるなあああ! 死ねえええ!」

「ご、ごめんなさい!」

 なぜか謝るマリシア。

「よっしゃこんなもんじゃ!」

 男が手を離すと盾はカチカチという快音と共に青いガラスのような質感に変化した。

「驚かせてすいません。こうやらないとできないんです。不思議なもので」

「あの……あなたは魔法使いさんでいらっしゃるのですか」

「いいえ。ただの防具屋です。強いて言うなら『魔導防具屋』ですかね」

 と穏やかに笑った。その顔は先ほどまでの悪鬼羅刹と同一人物とはとても思えない。

(そういえばお爺様も仕事しているときはこんな感じだったような……)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る