壱 音の魔女と門の鍵

0 お前は悪魔の子だ。

 産まなければ良かった。

 それは、母に私が毎日言われたこと。

 父は近付こうとすらせず、村の皆は遠巻きに口にするのだ。

 近づくな、姿を見せるな、喋るな、何処か行け、野垂れ死ね、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね――ああ、でも、口うるさい人程私を打ったりはしなかった。

 呪いが、悪魔が移るのが怖いから。

 私には居場所が無かった。

 村の皆私の発する音には敏感で。

 物音一つ、一つの呻き声さえ気味悪がって。

  

 だから、必死で声を殺した。

 物陰で、木の上で、馬小屋の中で。

 勝手に出る声を噛み殺し、震える腕を必死に止めて。

 煩い、喋るな、音を出すな。

 私の声が誰かの耳に入る度に怒鳴られ、物音を立てる度に殴られた。

 何度も何度も何度も何度も何度も――どうしようも無くて、どうにも出来なくて。

 でも、あるとき、気づけば私は音を消す術を身に着けていた。

 それは私の生きるのに大変役にたった。

 その頃はとうに食事も与えられる事もなくなっていて。

 私はこっそり誰かの食事を拝借していた。

 それは家族のだったり、隣のおじさんだったり、村長さんの家だったり。


 ある時――村に来た旅の魔術師様の部屋に侵入したのも、きっと食べ物があると思ったからで。

 まさか、それが私の人生を変える出会いになるなんて、その時は思いもしなかったのだけれども。

 

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