第7話:対決!デジポリス!

「はあ……」

空が青い8月の昼下がり、エアコンの聞いた自室で、中学2年の少年、那須なすがぼやく。

「なんや?夏休みやっちゅーのにため息なんかついて。……ははあ、さてはまた宿題やな?」


返事をしたのは、画面内に浮かんでいるふわふわしたマスコットみたいな、アンドロマリウスだ。アンドロマリウスだ。アンドロマリウス?そう、かの有名なソロモン72柱の悪魔72位の、アンドロマリウスなのだ。


数年前のこと、天才的なハッカーが現れ、コンピュータ技術に革新をもたらした。まるで魔術師のような手腕から、ソロモンの異名で呼ばれていたほどだ。そのソロモンが、姿を消したという噂がある。


ソロモンの技術は、なんと本物の魔法で、72柱の悪魔をそれぞれ72本のUSBメモリに封印していたのだ。そして、その72本のUSBメモリは、ソロモン失踪と同時に世界中に散らばり、放っておけば悪用されることになる。


72柱最後のアンドロマリウスは、他のUSBメモリを回収するセーフティアプリとして作られた。誰かが手にとって起動した時、サイバースペースにダイブして他のUSBメモリを回収するというのが主な機能だ。そして、偶然にもそれを手に入れてしまったのが、那須というわけだ。


それ以降、那須はデジナースとしてサイバー空間を飛び回り、アンドロマリウスと共に悪魔のUSBメモリを集めていた。だが……。


「いや、宿題なくって、その、デジポリスのことだよ」


那須とアンドロマリウスは、これまでに4本のUSBメモリを回収した。だが、悪魔のUSBメモリを狙うのは那須だけではない。もうひとり、同じようなライバルが存在するのだ。その名も、デジポリス。悪魔のUSBメモリのひとつ、バルバトスとコンビを組んでいる。


那須は、ずっとデジポリスの正体が気になっていた。そんな那須が夏休み前に手に入れた悪魔のUSBメモリのグシオンは、『アカウントの個人特定プログラム』という権能を持っていた。早速那須はそれを使ってデジポリスの正体を調べた。その結果、そのデジポリスの正体は、なんと那須の親友、堀巣だったのだ。


「あー、なんや、えらいことになってしもたな」

「他人事みたいに言うなよ。どうすりゃいいんだか……」

夏休みになってから、那須は堀巣と全く出会っていない。去年までなら、夏休みでも毎日のように一緒に遊んでいたというのにだ。


「もしかしたらグシオンの力が間違うてるだけかもしれへん」

「そんなことあるのか?悪魔のUSBメモリの力なんだろ?」

「悪魔のUSBメモリの魔法は、基本的には普通のプログラムとかコンピュータに対して作られとる。つまり、魔法以外に対して使うことが前提なんや。せやから、デジポリスの正体かて、間違うてるかもしれへんのやで」


「うーん……」

「そんなに気になるんやったら、思い切って聞いてみたらどうや?」

「そんなことできるわけないだろ!俺の正体も打ち明けることになっちまうじゃねーか!」


そもそも那須は、堀巣と話すのが気まずくて、会うどことか全く連絡すらとていなかった。だが、もし、堀巣も同じだったとしたら……。


「まあ、ココ最近は悪魔のUSBメモリの反応も薄いし、夏休みくらいゆっくりしたらどないや?」

アンドロマリウスはデスクトップの壁紙を3Dの南国ビーチに切り替えて、サングラスとアロハシャツに着替えた。思いっきりリゾート気分だ。


「でも、薄いってことは、反応がないわけじゃないんだろ?」

「んー、なんか妙なんや。反応があったかと思うとすぐに消えたりして追うことができへんのや。せやかて、大きな事件は起こっとらんわけやし、まだ慌てる必要はないっちゅーことやな」

那須の問いに、アンドロマリウスはトロピカルドリンクを飲みながら答える。


「そういうもんか?」

「そういうもんや。それより、那須は夏休みの宿題やらなアカンとちゃうんか?」

那須は時計を見る。そろそろ午後の宿題の時間だ。


那須は、アンドロマリウスのアドバイスを受けて、夏休みの宿題の計画を立てていた。今の所、そのペースを保っている。このまま行けば、今年は夏休み終わりに焦ることはなさそうだ。


悪魔のUSBメモリのこと、堀巣のこと、気になることはあったが、とりあえず今日の分の宿題を済ませてしまうことにした。


――――――――――


一方その頃、どこかの物陰でスマホの画面を見る少年がいた。その画面の中には、バルバトスと、ボロボロになった悪魔の姿が写っている。

「そろそろ降参したらどないです?いくらワイらが悪魔かて、何度も死んだらホンマに消えてしまいまっせ」


ボロボロになった悪魔はついにうなずくと、USBメモリとなって休眠した。これでデジポリスが手に入れた悪魔は何体目だろうか。夏休みに入って那須とアンドロマリウスがまったく活動していなかった間に、いくつもの悪魔のUSBメモリを迅速に回収していたのだ。


「さ、これでコイツはワテらの言うこと聞くようになりました。ほんなら、次の悪魔のUSBメモリを探しに来ましょか」

淡々と話すバルバトスだが、それを見る少年には疲労の色が見える。


「どうないしはりました?」

「大丈夫……ちょっと疲れただけだから……」

少年はそう言うが、明らかに無理をしている顔だ。


「大丈夫やったら、早速行きましょか。アンドロマリウスのやつがもたもたしとる今がチャンスや。一気に悪魔のUSBメモリを回収して、ワテらの軍団にしてしまいます。そうすれば、もう誰も堀巣はんをいじめたりできへんようになりますさかい」


いじめたりできない。その言葉に、少年、堀巣は目を閉じ、深く深呼吸をして、うなづいた。

「わかった。やろう」

「その意気です。堀巣はんは悪を罰する力を、ワイはワイの軍団を、二人とも望むモノを手に入れることになります。これからもよろしゅう頼んます」


堀巣はバルバトスの言葉を受け、次の悪魔のUSBメモリを回収するために、サイバー空間へと飛び込んだ。

(それに、あのアンドロマリウスとデジナースのやつも、そろそろどないかせんとあきまへん。せやけど、堀巣はんはデジナースを倒すことは到底できへんやろ。せやったら……)


――――――――――


……翌日、那須の元に、1件の驚くべきメールが届いた。


『本日14時、決着をつけよう。このメールのアドレスで待っている。来なければ、キミの正体をバラす。デジポリス』


「おい、こりゃどういうことだよ、アンドロ!」

那須は画面内のアンドロマリウスに問い詰める。

「どういうこともなんもないわ。相手の方から果たし状叩きつけて来おったんや」


那須がデジナースであることは、もちろん誰にも言っていない。仮に、サイバースペースで顔がバレたとしても、それを認識できる人間はいない。……同じ悪魔のUSBメモリの持ち主以外は。


「俺のアドレスを知ってるってことは、やっぱり堀巣が……ん?」

那須は、メールの送り主のアドレスを確認する。

「これ、堀巣のアドレスじゃないぞ」

画面に表示されているアドレスは、一見すると堀巣のものだが、よく見ると、@(アットマーク)以降のアドレスが微妙に異なっている。


「ほうほう、どれ、見せてみい」

アンドロマリウスがブラウザを立ち上げ、メールアドレスの出処を探る。だが、それらしきものは出てこない。

「ふーむ……せやったら、これやな」

アンドロマリウスはコマンドプロンプトを立ち上げ、何やらコマンドを打ち込む。しばらくすると、1つのIPアドレスが表示された。


「なんやこのアドレスは。個人サーバか?」

「個人サーバ?」

「えーっとな、メールっちゅーのは、送信したり受信したりするために色々なプログラムをサーバ上で使うんやけど、今はメールアドレスなんてなんぼでも作れるし、メールを扱うサービスなんちゅーのもぎょーさんあるんや。せやけど、このサーバは、”このメールアドレスしか使うてない”んや」


「つまり?」

「罠の可能性が高いっちゅーこっちゃ」

使われているメールアドレスが一つだけ。つまり、独自サーバの可能性が高い。となれば、いくらでもデジナースのために罠を用意することができる。


「じゃあ、行かなけりゃいいだけのことじゃねえか。別に、正体をバラされたところで、誰も信じねえだろうしな」

「いや、そうはいかへんで」

楽観的な那須に対して、アンドロマリウスはシリアスそのものだ。


「ええか?確かに、デジナースの正体がバレたところでお前の生活は何も変わらへんやろ。そりゃ、ちぃとばかりバカにされるかもしれへんけどな」

「ま、まあ、バカにされるのは嫌だけどよ、画像なんていくらでも合成で作れるし、俺は別に気にしねえよ」


「せやろな。問題は、デジナースの行動が、他の悪魔のUSBメモリにバレるっちゅーことや。完全に対策されてもしたら、ワイらの活動どころか、存在すらも危ういんやで」

「存在が危ういって?」

「……ワイらの命が危ないってことや」


「え……?」

命が危ない。まさか。那須は唖然とするが、アンドロマリウスの言葉は真剣そのものだ。

「悪魔のUSBメモリは、魔法の力や。正しく使えば人の役に立つけど、使い方を間違えれば、人を傷つける。よく切れる包丁と同じや。それを持ってるやつに、お前の正体がバレたら、相手の方から積極的に攻撃してくるやろ。それこそ、命を狙うくらいにな」


「それじゃあ、罠だと分かってても」

「ああ、行くしかない」


――――――――――


そして、14時。

「時間や。行くで」

「ああ」


那須はパソコンに向うと、”Andromalius.goe”のアイコンにマウスカーソルを合わせ、起動した!



<CYBER DIVE!!>



「……よっと!」

一瞬の光に目を閉じた那須が、ゆっくりと目を開くと、そこは、いつものサイバー空間だった。どこまでも続くようなダークブルーの床に、グリッド線。ふわふわしたマスコットのアンドロマリウスが、那須を迎え入れる。


那須は慣れた手付きで変身呪文コードを実行する。

封印解除アンジップ権能開放ジー・オー・イー!アンドロマリウス!」


『パパラ~♪パパラパッパラ~♪』

謎のBGMが鳴り響く!那須の身体が謎の光に包まれ、変身バンクだ!


全身が光のシルエットになり、服が弾け飛ぶ!代わりに装着されるのは、ゲームのキャラクターそのままのような、デフォルメされたミニスカートのナース服!


ボサボサだった髪の毛はナースキャップで纏められる!足元には純白のオーバーニーソックスと、ちょびっとだけかかとが高い靴が装着される!


そして小さなポシェットが襷掛され、最後に巨大な万能検診ステッキが、その手に握られた!


『パパラパ~♪パパン♪』

BGM終了!変身完了コードサクセス!那須は魔法少女装少年デジナースとなった!


デジナースのアバターによって那須の身体能力は飛躍的に上昇する。だが、これ以上の布面積はデータ量が大きすぎて、本体の那須がフリーズしてしまうのだ。だいぶミニスカードではあるが、これでも限界まで詰め込んでるのである。


「よし、行くぞ」

「なんや今日はやけに気合入っとるな」

「命の危機だ。恥ずかしがってる場合じゃないだろ」

「せやな」


「それに……」

何かを言いかけるデジナース。だが、その言葉が発せられることはなかった。


「ん?」

「いや、なんでもない。行くぞ!」

「よっしゃ!」

デジナースとアンドロマリウスは光となって、サイバーグリッド空間上空に飛び上がり、怪しいアカウントのアドレスに向かって飛び出した!


――――――――――


「これは……西部劇?」

デジナースは周りを見渡す。そこには、西部開拓時代のような町が広がっていた。風が吹き、砂埃が舞い、酒場の扉が軋む音が聞こえる。だが、人の声は全く聞こえない。恐ろしく、静かだ。


「ここで決闘っちゅーわけやな……」

左右には長く伸びる壁のように店と民家が立ち並び、所々には馬が停められている。


ザリッ。


デジナースの背後、小さな足音がひとつ。だが、その音は、不気味なほど大きく、そしてはっきりとデジナースの耳に届く。振り返るとそこには、アイツがいた。


「よく来てくれたね。デジナース」

「デジポリス……」


デジポリスと呼ばれたその魔法少女装少年は、コスプレ衣装のような光沢のあるミニスカート婦警魔法少女服を着ている。頬には星マークのペイントがあり、腰には取っ手付き警棒トンファーと拳銃、そして手錠が装備されている。


「ようこそ、ワテが用意した決闘場へ」

デジポリスの背後から、弓矢を持つ小さな狩人みたいなマスコットのバルバトスが顔を出す。その表情は冷静、いや、冷酷と言っても差し支えなく、冷たい。


ソロモン72柱のUSBメモリ第8位、バルバトス!その力は、有能な軍隊と探索力!ソロモンはこの力を持って、『攻撃プログラムへのカウンターハック』を作り出したのだ!


「ヘンッ!なーにが『ワテの用意した決闘場』や!どーせろくでもない罠でも仕込んどるんやろ!」

アンドロマリウスが食って掛かるが、バルバトスの表情は崩れない。


「罠なんて、なんもありまへん。それに、まっ平らでなーんもない空間やったら、ハジキ持っとるこっちの方が有利なんやと違いますか。これでもなるべく平等な空間を用意したつもりです」

バルバトスの言う通り、デジナースに遠距離攻撃用の武器はない。障害物が何もない空間ならば、銃を持つデジポリスのほうが圧倒的に有利だ。


「ぐぅ……、ま、まあええやろ。デジナースもええか?」

「……」

「おい!ええかて聞いとるやろ!」

「……!あ、ああ!」


デジナースはデジポリスを見る。まだ武器は構えていないが、その目は本気だ。抜き打ちで引き金エンターキー引け押せば、いつでも弾丸コマンド発射実行できる気配を感じる。


一方、デジナースの方はどうかといえば、まだその目に迷いが見える、

「なあ、デジポリス」

「ん?なあに?」

デジポリスはフーセンガムを膨らませる。デジナースの話を聞く気はあるようだ。


「本当に、俺たち、戦わなきゃいけないのか?この前だって、協力しただろ。俺たち2人で力を合わせれば……」

「それは無理だね」

デジナースの言葉を切り捨てるデジポリス。


「な、なんでだよ!」

「だって、キミとアンドロマリウスは悪魔のUSBメモリが欲しい。ボクとバルバトスも悪魔のUSBメモリが欲しい。もしボクが協力するつもりになっても、そっちのアンドロマリウスはどうかな?もし、集めた悪魔のUSBメモリを全部渡してくれるっていうなら、バルバトスも考えるんじゃないかな?」


「何いうてるんや!んなことするかいな!これはワイの仕事や。もちろん、バルバトスを捕まえるんも、ワイの仕事に入っとるんや」

「アンドロ……」


デジナースはアンドロマリウスに目で訴えるが、アンドロマリウスの意見は変わらない。

「ええか、デジナース。こればっかりはしゃーないんや。ソロモンに従ってたとはいえ、しょせんはワイら悪魔やねん。悪魔には悪魔のやり方っちゅーのがあるわけや」


「そういうわけですわ。悪魔は悪魔らしく、戦って我を通すもんです。こっちのデジポリスはんは、そこらへんよー分かってくれてはりますが……」

アンドロマリウス、バルバトス、そしてデジポリス。もはやこの場にいるものはデジナース以外、戦う覚悟を決めていた。


「フゥー……。わかったよ。勝負だ」

デジナースも覚悟を決めて、万能診断ステッキを構える。

「ようやくやる気になってくれたね」

デジポリスも抜き打ちの構えを取る。


再び、静寂が世界を支配する。全員が、相手の出方を伺う。


風が吹き、酒場の扉が軋み、タンブルウィードが転がる。


突如、砂嵐が舞い上がり両者の姿が曖昧になる。舞い上げられた砂に馬が驚き嘶く。それが、合図だった。


ヒヒーン!


走り出すデジナース!デジポリスは闇雲に拳銃を発射!だが、デジナースはむやみに突っ込んだわけではない。銃撃を巧みに躱し、デジポリスの方向に樽を蹴る!


デジポリスは構わず樽を撃ち抜く。空の樽はバラバラになりあたりに飛び散った。破片を避けるため、目元を腕でガードするデジポリス。だが、その背後にはすでにデジナースが回り込んでいた。


「せぇい!」

デジナースがステッキを両手で握ってバットのように振り抜く。デジポリスはこれをしゃがんで回避。ガラ空きになったデジナースの脇腹に銃口を突きつける。


「させるか!」

デジポリスの弾丸コマンド発射実行される直前、デジナースはデジポリスの腕を蹴り上げる。デジポリスの手から拳銃が解き放たれ、宙を舞った。


「……!!」

手放されたデジポリスの拳銃から飛び出した弾丸コマンドは、狙いを大きく逸れ、デジナース後方の建物の看板を射抜く。射抜かれた看板は0と1の情報断片となって消えていく。


「やっぱりキミは強いね」

デジポリスは取っ手付き警棒トンファーを装備し、接近戦に備える。

「お前だって、相変わらず強いじゃねえか」

デジナースはポシェットを探る。何か、この状況を打開する悪魔のUSBメモリは無いか。


「よそ見してる暇はあるのかな……?」

デジポリスは2本の取っ手付き警棒トンファーでデジナースに連撃を仕掛ける。

「くそ!」

デジナースはデジポリスの連撃に必死に応戦する。デジポリスの武器は身軽な2本、デジナースの武器は大振りな1本。手数では明らかにデジナースが不利だ。徐々に押されるデジナース。


「ほらほら、どうしたの」

「……調子に乗ってんじゃねーぞ!えいやあ!」

デジナースは取っ手付き警棒トンファーの攻撃をあえて受ける!手数は多いが一撃の重さは耐えられないものではない。そしてそのまま、ステッキを持つ手に力を込め、目一杯大きく振り抜いた!


「うわあ!」

吹っ飛んだのはデジポリス!積みかねられた樽の山に突っ込み、激しい音と土埃を巻き上げた。

「ハァ……ハァ……」

だが、デジナースも無事ではない。魔法少女服の所々は破れ、データの破損を示している。


「デジナース、なんか今日のデジポリスはヘンやで」

二人の攻防を見ていたアンドロマリウスが話しかけてきた。

「ヘンって?」


「アイツの銃弾は、いつもあんなに協力じゃないハズや。さっき打たれた看板がバラバラどころか、完全にデータとして消滅しとる。あんなん、呪文〈コード〉無しで出せる威力とちゃう」

「それも悪魔のUSBメモリの力かもしれないってことか?」


「いや、わからへん。けど、もしかしたら……」

アンドロマリウスが何かを言いかけたそのときだ。崩れた樽の山から、土埃が晴れる。そこに立っていたのは、拳銃を構えるデジポリス。頭部のポリスキャップはすでに外れ、素顔が見えていた。


(やっぱり堀巣だ!!)


BAN!!


1発の弾丸が、デジナースのナースキャップを撃ち抜いた。

「アカン!とにかく隠れるんや!」

アンドロマリウスが言うか早いか、2人は一番近い建物の中に入った。


……デジポリスは建物の中に逃げる2人を追いかけようとしなかった。いや、できなかった。

「どないしはりました。はよ追い詰めんと」

バルバトスは急かすが、デジポリスの足は震え、立っているのがやっとだ。


「やっぱり、この”弾丸”は、ボクにはまだ使いこなせないかもしれない」

「何言うとりますんや。ここで負けたらどうなるか、分かっとりますやろ。それに、デジナースは敵ながらなかなかのモンや。こうでもしなきゃ勝ち目はあらへんとちゃいますか?」


バルバトスの言葉に、デジポリスは怯えるようにうなずいた。

「分かってくれはったらええんですわ。ほな、そろそろ落ちつてきた頃やし、続きと行きましょか」

バルバトスは弓を構え、デジナース達を探し出した。


……一方その子路、デジナースとアンドロマリウスは、バーカウンターの裏に隠れていた。偶然逃げ込んだその場所は、酒場だったのだ。ここならば、弾丸を遮る障害物は山のようにある。これは幸運だった。


「それで、何がヘンなんだ、アンドロ?」

「ああ、ヤツの弾丸に撃ち抜かれた悪魔のUSBメモリがなんで一発でオダブツしてしまうかっちゅーとやな、お前が悪魔のUSBメモリを封じ込めるときと同じように、特別な呪文コードを詠唱して実行しとるからなんや。呪文コード無しのデータ破壊弾やったら、なんぼ普通のデータかて一発で壊れることはないはずや」


「言われてみれば、確かにそうだな」

過去の戦いを思い返しても、デジポリスの弾丸はそれほど強力なものではなかった。せいぜい、大きくのけぞったりふっとばされたりするだけで、魔法少女服が壊れされることはなかった。


「でも、今までは手加減してて、今は本気になってるだけなんじゃないのか?」

「いや、まあ、それもあるかもしれへんけど、そもそも強力な呪文コードは連発できへんもんなんや。強力な一発ほど、演算能力も大きく使う。つまり、実行まで準備が必要っちゅーことや」


「でも、それならなんで今日のデジポリスは連発できるんだ」

「せや、それがヘンやっちゅーてんねん。もしかしたらやけど……」

アンドロマリウスの話を聞きながらも、デジナースの聴覚は、酒場の入口が開いた音を捉えた。

「シ……!来たぞ」


「ここにいるのは分かってるんだ。さあ、早く出てきなよ」

堀巣の顔が顕になったデジポリスが拳銃を構え、店内をゆっくりと見渡す。



ガチャン。テーブルが揺れ、上に横たわっていた不安定な酒瓶が1つ、落ちる。


「そこか!」

BAN!BAN!BAN!デジポリスの弾丸がテーブルと椅子に命中。ヒットしたオブジェクトはすべて消滅した。だが、デジナースの姿はない。

「ぐっ……」

デジポリスが膝をつく。もはやその顔の疲労は隠せない。


その声を聞き、アンドロマリウスが顔を出す。

「やっぱり、相当無理しとるみたいやな。事前詠唱弾シェル・スクリプトの連射は」

「ほう、見抜いてはったんですか?」


「デジポリスの無利しとんの見たら、ひょっとしたらと思てな、カマかけてみたところや」

「いやいや、これは迂闊でしたわ」

言葉とは裏腹に、バルバトスは冷静だ。


「なあ、その事前詠唱弾シェル・スクリプトってなんだ?」

デジナースはカウンターの裏からアンドロマリウスに問う。

事前詠唱弾シェル・スクリプトっちゅーのはな、ようは呪文コードを詰め込んだ弾丸や。これを使えば呪文コードの詠唱を省略することができるわけや。だけど、実行時の負担が減るわけやない。見てみい」


デジナースもカウンターから顔を出す。アンドロマリウスの言葉の通り、デジポリスは満身創痍といったところだ。明らかに体に負荷がかかりすぎている。

「なあ、もう無理しないでくれ。こんなこと、やめよう」


「う、うるさい……」

デジポリスは拳銃を構え、デジナースに狙いを定める。だが、その照準は定まらず、もはや、構えるのがやっとだ。


「ボクは悪を倒すデジポリスだ。ボクはもう、負けられないんだ……」

その言葉に、デジナースは首を横に振る。

「いや、違うね。お前は、デジポリスじゃない」


「なんだって?」

驚くデジポリス。デジナースはふらつくデジポリスめがけて一気に接近し、そのまま押し倒して馬乗りになった。

「ええい!やめろ!なんでボクが!」

「なんでかだって?なんとなくだよ!」


デジナースはステッキをデジポリスの体に押し付ける。

「お前がどんな悪魔のUSBメモリだか知らないけど、これで分かるだろ!」

左腕ディスプレイ搭載メーターが上昇し、一気に満タンになる。


デジナースは敵の攻撃を受けたり、あるいはステッキで攻撃を与えることにより、敵のデータを集めることができる。メーターが満タンになったとき、アンドロマリウスの力によって、敵の正体が判明し、同時に特効薬も作られるのだ!


「よっしゃ!正体あばいたる!」

光りだすアンドロマリウス!そのフラッシュがデジポリスを照らす!

「ローッ!」

……そして、その光が晴れた時、デジポリスの姿は、杖を持った鬼になった!


「あいつ、ロノウェやったんか」

ソロモン72柱のUSBメモリ第27位、ロノウェ!その力は、優れた語学と人心掌握術!ソロモンはこの力を持って、『あらゆる言語の完全翻訳機能』を作り出したのだ!


「ははあ、バレてしもたな。これでワイもバルバトスの兄さんにまたシバかれてしまうわ」

満身創痍のロノウェはやっとのことで声を出す。

「心配せんでもええ。バルバトスなら、とうにどっか行ってしもたわ」

あたりを見渡していたアンドロマリウスが戻ってきた。


「さよでっか。ほんなら、デジナースさんにお願いがあります。どうか、ワイを仲間に入れてください」

「え?」

「なんやて?」

思いもよらぬ提案に、デジナースとアンドロマリウスは驚く。


「ワイの力、『あらゆる言語の完全翻訳機能』には、個人ごとの言葉の癖なんか含まれます。つまり、誰のフリでもできるんや。せやから、ワイはこの力を使って、デジポリスになりきれとバルバトスの兄さんに命令されて、逆らえなくてな」


「それってどういう……」

デジナースが問いただそうとしたそのとき、サイバースペース全体が大きく揺れ始めた!


「アカン!このサーバがシャットダウンされてしまうかもしれへん!チャチャっと契約して戻るで、デジナース!」

「ああ!ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してくれよな」

急かすアンドロマリウスの声に答え、デジナースのステッキが光を放ち、巨大な注射器へと変化する。デジナースは注射器を構えてロノウェに刺す。


「キュア・アンド・コンパーション!」

巨大な注射がロノウェに突き刺さり、プログラムが書き換えられていく!そして!

「ローーーーーッ!」

ロノウェは爆発!


爆発したロノウェからUSBメモリが飛び出し、デジナースの手元に転がってきた。現実世界のUSBメモリは、ただの抜け殻になり、あとは所有者をデジナースにするだけだ。


デジナースは左手にロノウェのUSBメモリを握り、所有者変更呪文コードを実行!

「偉大なる魔術師ソロモンよ!正義の悪魔アンドロマリウスの名において、今ひととき、その力を我に授け給え!封印されし悪魔を我が配下に!一時的超越権限スー・ドゥ所有者変更チェンジオーナー!デジナース!」


デジナースが呪文を唱えると、ロノウェのUSBメモリに『デジナース』の名前が刻まれた。

「さ、詳しい話はここを逃げてからや!行くで!」

「うん!」

デジナースとバルバトスは光となって、サイバー空間から消えていった。



</CYBER DIVE!!>



「……はっ!」

那須が目を開くと、そこは自分の部屋だ。サイバー空間から元の世界に戻ってきたのだ。画面内には、アンドロマリウスとロノウェが浮かんでいる。


「それじゃあ、さっきの続きだ。話してくれるか、ロノウェ」

「もちろんや。ワイも助けてもろたしな」

ロノウェは、今回の計画のこと、そしてバルバトスとデジポリスのことを話し始めた……。


――――――――――


……その頃、バルバトスは考えていた。

(ロノウェを使こたんは失敗やったか。思っとったよりデジナースは賢いいうことか、あるいはただの偶然か。……いや、偶然ではないなあの強さは。今度こそ、ワテが直接手を下さんとアカンか)


バルバトスの体が大きく膨れ上がり、真の姿を開放する。はたしてデジナースとアンドロマリウスは、バルバトスに勝てるのか?



「第8話:決戦!バルバトス!」に続く



◆アンドロマリウスの『教えて!サイバーセキュリティ!』のコーナー◆


どーも、アンドロマリウスや!なんや本編は重い雰囲気になってきよったけど、こっちのコーナーは相変わらず元気いっぱいで続けていくで!今回のテーマはこれや!


『そのアカウント、本物?』


メールアドレスもSNSのアカウントも、偽物には注意せんとアカンで。似たような文字列でも、よく見たらローマ字の綴りがちゃうとか、意外と引っかかる人は多いんや。


偽アカウントの厄介なところは、本物のアカウントが乗っ取られた時と違うて、本物は偽物が現れたことに気が付きにくいっちゅーことがあるんや。


もし、友達のアカウントが妙なこと言うとったりしたら、よーくアカウントを見て、もし偽物だったら、友達に確認するのも大事なことやで。ほなな!


『サイバーセキュリティ魔法少女装少年デジナース』

第7話:対決!デジポリス!!

おわり


◆次回予告◆

アンドロマリウスや!ついにバルバドスが本性表しおったで!まったく、こんな悪いやつやとは思ってなかったわ。このままじゃ堀巣が危ないし、こうなったらこっちから直接乗り込むしかないな!行くで、デジナース!バルバドスのやつをとっちめたろやないかい!


次回!

『サイバーセキュリティ魔法少女装少年デジナース』

第8話:決戦!バルバトス!

次もガッツリ捕まえたるで!

◆また見てね!◆

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