第6話:SNS探偵の正体を暴け!
「今回はボクの勝ちだね、デジナース」
サイバー空間の中、ミニスカート婦警魔法少女服のデジポリスは勝ち誇り、フーセンガムを膨らます。その手には、悪魔のUSBが握られていた。
</CYBER DIVE!!>
「あーあ、後ちょっとだったのになあ」
中学2年の少年、
「まあ、取られてしもたんはしゃーない。次は頑張ろや」
返事をしたのは、画面内に浮かんでいるふわふわしたマスコットみたいな、アンドロマリウスだ。アンドロマリウスだ。アンドロマリウス?そう、かの有名なソロモン72柱の悪魔72位の、アンドロマリウスなのだ。
数年前のこと、天才的なハッカーが現れ、コンピュータ技術に革新をもたらした。まるで魔術師のような手腕から、ソロモンの異名で呼ばれていたほどだ。そのソロモンが、姿を消したという噂がある。
ソロモンの技術は、なんと本物の魔法で、72柱の悪魔をそれぞれ72本のUSBメモリに封印していたのだ。そして、その72本のUSBメモリは、ソロモン失踪と同時に世界中に散らばり、放っておけば悪用されることになる。
72柱最後のアンドロマリウスは、他のUSBメモリを回収するセーフティアプリとして作られた。誰かが手にとって起動した時、サイバースペースにダイブして他のUSBメモリを回収するというのが主な機能だ。そして、偶然にもそれを手に入れてしまったのが、那須というわけだ。
那須とアンドロマリウスは、これまでに3本のUSBメモリを回収した。だが、悪魔のUSBメモリを狙うのは那須だけではない。もうひとり、同じようなライバルが存在するのだ。その名も、デジポリス。悪魔のUSBメモリのひとつ、バルバトスとコンビを組んでいる。
「しっかし、デジポリスっていったい何者なんだ?」
「やっぱり気になるんか?」
「そりゃそう……いや、正体を知ったところで俺たちが勝てるようになるわけじゃないけどさ、なんていうか、気になるだろ?」
那須の問に、アンドロマリウスは腕を組み画面内を飛び回る。
「まあ、せやな。バルバトスがどないなヤツに手を貸しとるかは気になるところや。もしかしたら、バルバトスに利用されとるだけかもしれへんしな。せやったら、ワイらが助けてやらなあなんし」
助けるという言葉に、那須は顔をしかめる。
「えー!アイツを助けるのかよ!?」
これまで何度も那須はデジポリスにやられてきた。ついさっきもだ。それを助けろなどとは。
「まあ、あくまで、バルバトスに利用されとったらの話しや。逆に、バルバトスを利用しとるようなら、懲らしめてやらなアカンしな」
懲らしめるという言葉に、那須はフフッと笑う。
「そうだよな!よーし、次に会ったら覚悟しやがれ!」
――――――――――
翌日、学校にて。
「もうすぐ夏休みかあ」
「うん、那須くんは今年はどこか行くの?」
「うーん、まだなんにも決まってないんだよなあ」
放課後、那須と
「しつれいしまーす!」
「お、来たね。こっちこっち」
担任の先生は、2人を自分の席の近くに呼び寄せた。
インターネットが世界を覆い尽くし、大人から子供までがいつでもネットワークに気軽にアクセスできるようになったこの時代、那須の通う中学校では、”サイバー係”として、校内ネットワーク管理のサポートを行う係が存在した。名前はかっこよさそうだが、その実態は、先生のお手伝いとなる雑用がほとんどだ。
「夏休みのしおりの原稿なんだけど、書けそう?」
「あー、いや、それが……」
先生の言葉に、那須は目をそらしてごまかす。
夏休みのしおりには、サイバー係がSNSの利用法の注意事項に関する作文を乗せることになっていた。今年の担当は那須なのだが、那須は作文が苦手だったのだ。
「まあ、そんなことだろうと思って、先生からお題を出します」
「お題?」
「そう、何もヒント無しで書くのは難しそうだからね」
先生はそう言うと、プリントをそれぞれ2人に渡した。それは、新聞記事の切り抜きだ。
「なんですかこれ?」
「SNSを使うときの注意事項は、この前授業でもやったでしょ。その時のこと、覚えてる?」
「あー、えっと……」
那須がちらりと堀巣の方を見る。
「写真をアップロードするときは、場所が特定されるような物が写っていないか確認するですよね」
堀巣はさらりと答え、那須の方を見てフフッと笑った。
「そう、堀巣くんはよく覚えているわね。那須くんは、忘れないように覚えてね」
「はーい」
「場所が特定されるような写真をアップロードすると、自分の住所がバレてしまうこともあるの。そうなると、悪い人に見つかって利用されるかもしれない。でも、気をつけなきゃいけないのは、写真だけじゃないの。このプリントの記事を見て」
「えーっと……」
那須と堀巣はプリントの記事を見る。見出しには『SNSの書き込みで犯人特定』とある。内容を読んでみると、ある事件の犯人逮捕のきっかけが、SNSの書き込み内容だったというものだ。
「写真がなくても、書き込みの内容によっては個人を特定できてしまうこともあるの。それに、これは警察だから特定できたっていうわけじゃないのよ?」
「聞いたことがあります。アイドルのファンが住所を特定したとか」
堀巣が答える。
「そう。だから、悪いことをしてなくても、SNSの書き込みには気をつけなきゃいけないんだけど、どんなことに気をつければいいのか、この記事を読んで考えてまとめてみて。堀巣くんは、同じサイバー係として助けてあげてね」
「「はーい」」
二人は返事をすると、職員室を出ていった。
「とは言ってもなあ、俺、字を読むのも苦手だしなあ……」
「そこは頑張ろうよ。ちょっとでも書けたら、僕が手伝ってあげるからさ」
「ええー……」
「だって、全部僕が書いたら、すぐにバレちゃうでしょ」
「いや、まあ、そうなんだけどよぉ」
那須は渋々と覚悟を決めた。
「うーん……あ!そうだ!俺、今日はもう帰るよ!」
那須は何かを思いついた様子で、走り出した。
「がんばってねー!」
堀巣は手を振って那須を見送った。
――――――――――
「つーわけでアンドロ、この事件の事を教えてくれよ」
「どうしたんや急に?」
アンドロマリウスはやれやれといった感じで、那須のプリントを見る。
「ふむふむ……。この事件なら、ちょいと調べればいろいろ出てくるで」
アンドロマリウスはブラウザを立ち上げ、事件の記事や反応の書き込みを並べていく。
「まあ、ざっくりまとめると、隠れて生活しとった犯人の住所が、SNSの書き込みでバレたっちゅーやっちゃな。ニュースじゃ『きっかけは1つの書き込みだった』とか書いてあるけど、実際はもっと複雑な方法やで」
「複雑な方法って?」
「例えば、よく場所がバレる写真とか書き込みって言われとるんは、学校名とか会社名とか、あとは地域限定の店の料理写真とか、そういうのや。ま、これは言うまでもなく一発でバレるから、説明はいらんやろ。この犯人かて、そこらへんはよう気ぃつけていたはずや。せやけど、ちょっとずつ情報が漏れてたわけやね」
アンドロマリウスは、ランダムに選んだSNSアカウントと、日本地図を映し出す。
「例えば、このSNSアカウントやけど、自己紹介欄に千葉市の大学生って書いてあるやろ。これを書き込みから絞り込んでみよか」
アンドロマリウスが選んだSNSアカウントの書き込みが選別されて羅列される。
「まず、『今日は雨が降って出かけられない』っちゅー書き込みがあるな。その日の天気で雨が降った場所に絞ると、こうなるわけや」
アンドロマリウスが指差すと、日本地図から半分ほどの都道府県が黒く塗り潰された。
「ほんで、何日か繰り返す。晴れとか雪とか、とにかく天気に関する書き込みと日付を組み合わせていくと……ほれ、あっというまにこれだけに絞れたで」
日本地図は更に黒く塗りつぶされ、残ったのは千葉県だけになった。残った千葉県が拡大される。
「ま、あとは地震や台風なんかの災害ん時の書き込みもわかりやすいヒントやな。特に『今揺れた』みたいな書き込みはわかりやすいで」
拡大された千葉県がさらに黒く塗りつぶされ、4分の1ほどの面積を残すだけになった。
「ここまでくれば、現地の人なら一発で分かるような店とか特徴とかが書き込みがあればすぐに特定できるんやけど、警察なら聞き込みとかでそこらへんもカバーできるさかいな」
「なるほどなー。一発で場所がわからなくても、細かい情報をかき集めればってことか……あ!そういうことか!」
那須は関心し、同時に何かを閃いた。
「先生が言ってたのは、こういうことだったんだ!」
那須は文書制作ソフトを立ち上げ、早速原稿を書き出した。
「なんや。珍しく新聞記事出してきたおもたら、そういうことやったんかいな」
アンドロマリウスは納得したような呆れたような顔をした。
「なんやとはなんだよ。俺だって真剣にサイバー係の仕事をやろうとしてるんだぜ。そりゃあ、まあ、いろいろと助けてもらってはいるけどさあ……」
「まあ、何でも頼りすぎるのはあんまり良くないけど、逆に、なんでも一人でやろうとするのも、おんなじくらい良くないことやしな」
「へへへ……」
「次からはもうちょっと自分で調べてみるんやで。今の世の中、なんでも調べれば分かるなんて言われとるけど、調べ方がわからんとなんにもわからんと同じやさかいな。今のうちから調べ方の練習しとくんも重要やで」
「ああ、わかったよ」
那須は笑って返事をすると、一気に原稿を書き上げた。
――――――――――
翌日。
「どうだ堀巣!」
那須は、書き上げた原稿を堀巣に読ませていた。
「……うん、いいと思うよ。ちょっと感じとか間違ってる所あるけど、それは僕が直しておくよ」
「へへ、サンキュな」
「それにしても……」
「ん?なんだ?」
「よく1人でここまで書けたね。しかも1日で」
「ああ、そりゃアン……」
那須はアンドロマリウスの事を言いかけてドキッとした。
「アン……?」
「ああ、いや!ほら!案はもうプリントにあったしさ!しっかり読んだんだよ!」
「そうか、フフ。那須くんも、読もうと思えば読めるんだね」
「ま、まあな!」
(うへー!アンドロのことなんか口が裂けても言えねえぜ。これからはもっと気をつけねぇとな)
那須が一安心したところで、友達の噂話が聞こえてきた。
「なー、SNS探偵って知ってるか?」
「SNS探偵?なんだそれ?」
「昨日の話なんだけどさ、炎上したアカウントが住所特定されて結局削除されたんだけど、その特定したってやつが、SNS探偵って言われるくらいの早技だったんだよ」
(SNS探偵……もしかして悪魔のUSBメモリか?)
那須は気になり、噂話に加わる。
「その話、俺にも聞かせてくれよ」
「ああ、いいよ。えっとだな……」
話によると、昨夜、あるSNSアカウントが炎上して注目されたときに、恐るべき速さでそのアカウントの住所を特定した者がいたというのだ。その後、特定されたアカウントも、特定したアカウントも、両方共アカウントを削除したとのことだ。
「ふーん。ってことはさ、そのSNS探偵ってのもいなくなったってことか?」
「いや、SNSのアカウントなんていくらでも作り直せるし、また現れるんじゃないかな」
「まあ、確かにな」
SNSによっては、そもそも複数のアカウントを同時に使用できるものもある。目的に合わせてアカウントを使い分けることができるという点があるが、嫌がらせなどのために1人が複数のアカウントを何度でも作り治せるという点も合わせて持っている。
「那須くん、その噂、気になるの?」
話を聞くのに熱中していた那須に、堀巣が話しかける。
「ああ、いや、ほら、ちょうどサイバー係の原稿を書いてたからさ」
「へえ」
堀巣は、那須をじっと見つめる。
「な、なんだよ……」
「いや、またなにかお金儲けの悪巧みでもしてるのかなって思っただけだよ」
「そ、そんなことするわけねーだろ。だいたい、どう使って金儲けしようっていうんだよ」
「フフ、それもそうだよね」
堀巣が笑ったとき、始業のチャイムが鳴った。
――――――――――
その夜、那須の部屋にて。
「那須!悪魔のUSBメモリの反応や!」
「ええ、こんな時間にかよ……」
そろそろ寝ようとベッドに入った那須を、アンドロマリウスが叩き起こす。
「昨日も妙な反応があったんやが、すぐに消えてもうてな。今日はまだ反応が残っとるけど、いつ消えるかわからへん。追うなら今や!」
「ええい、わかったよ。さっさと捕まえてやる!」
那須は自分の頬を両手でピシャリと叩き、パソコンに向かうと、”Andromalius.goe”のアイコンにマウスカーソルを合わせ、起動した!
<CYBER DIVE!!>
「……よっと!」
一瞬の光に目を閉じた那須が、ゆっくりと目を開くと、そこは、いつものサイバー空間だった。どこまでも続くようなダークブルーの床に、グリッド線。ふわふわしたマスコットのアンドロマリウスが、那須を迎え入れる。
「ちゃちゃっと変身して、さっさと行くで!」
「ああ!」
那須は変身
「
『パパラ~♪パパラパッパラ~♪』
謎のBGMが鳴り響く!那須の身体が謎の光に包まれ、変身バンクだ!
全身が光のシルエットになり、服が弾け飛ぶ!代わりに装着されるのは、ゲームのキャラクターそのままのような、デフォルメされたミニスカートのナース服!
ボサボサだった髪の毛はナースキャップで纏められる!足元には純白のオーバーニーソックスと、ちょびっとだけかかとが高い靴が装着される!
そして小さなポシェットが襷掛され、最後に巨大な万能検診ステッキが、その手に握られた!
『パパラパ~♪パパン♪』
BGM終了!
デジナースのアバターによって那須の身体能力は飛躍的に上昇する。だが、これ以上の布面積はデータ量が大きすぎて、本体の那須がフリーズしてしまうのだ。だいぶミニスカードではあるが、これでも限界まで詰め込んでるのである。
「いよっし!変身完了!」
「そろそろ慣れてきたんとちゃうか?」
「い、いや、まだ恥ずかしいっちゃ恥ずかしいけど……」
デジナースは少し顔を赤くするが、首を振って気合を入れる。
「ええい、さっさと行くぞ!」
「よっしゃ!」
デジナースとアンドロマリウスは光となって、サイバーグリッド空間上空に飛び上がり、怪しいアカウントのアドレスに向かって飛び出した!
――――――――――
「よっしゃ到着って……なんだここは?」
那須は周りを見渡す。そこには、霧が立ち込める西洋の町並みが広がっていた。
「これは、ロンドンやな」
「ロンドン?」
「せや。霧の街ロンドンと言えば、シャーロック・ホームズで有名や」
探偵という言葉に、那須は反応した。
「探偵……もしかして、SNS探偵のことか?」
「SNS探偵?」
「うん。昨日、ものすごい速さで炎上したアカウントを特定したSNS探偵がいたんだってさ。その後すぐにアカウントは消されたみたいなんだけど、もしかして」
「その可能性は高いな、いや、ドンピシャかもしれへん」
悪魔のUSBメモリが自分の領域を作るとき、悪魔のUSBメモリが持つ能力が強く反映される。SNS探偵と呼ばれるほど、探偵としてのイメージが強ければ、この空間を作ることは容易だ。
「でもよ、この広い街から探すのか?」
「うーん、それなんやけどな、1個アイディアがあるんや」
「アイディア?」
那須は首をかしげるが、アンドロマリウスはニヤリと笑った。
――――――――――
「警部!予告状です!」
「なんだと!?なになに……『今夜12時、”赤き瞳”を頂戴いたします。シャドウナースより』だと!?ええい!今すぐ緊急警備の準備だ!」
サイバー空間のロンドン警察が慌ただしく動く。
そして、サイバー空間で数時間後。現実世界では数秒後のことだ。
「なんなんだよこのカッコはよ!!」
いつもより露出が多めの黒いナース魔法少女服姿のデジナースが、ビルの上でアンドロマリウスに文句を言う。
「しゃあないやろ。そのまんまデジナースの姿で出ていくわけにはいかん。万が一失敗したときに、こっちの正体がバレてしまうさかいな」
「だからってこんなカッコは……それにモノクルってなんか見にくいんだよ」
デジナースは使い慣れないモノクルを掛け直す。
ソロモン72柱のUSBメモリ第42位、ウェパル!その力は、海域の支配と船の幻!ソロモンはこの力を持って、『看破されないコピーサイト』を作り出したのだ!デジナースはすでに捕まえている悪魔のUSBメモリ、ウェパルの力を使い、自分の姿を変えたのだ。
「そもそも、それに、こんな作戦、うまくいくのか?」
「うまくいくに決まっとるやないか。探偵とロンドンと来たら、怪盗がつきものや。敵は名探偵なんやから、この法則からは逃げられへん」
「そういうもんなのかなあ……」
「そういうもんや!」
デジナースは疑い深いが、アンドロマリウスは自信満々だ。
「さ、そろそろ予告状の時間や。行くで!」
「ええい、もうこうなったら行くしかねえ!」
デジナースはビルの上から宝石店に向かって飛び出した!
――――――――――
所変わって宝石店。予告状に書かれていた”赤い瞳”と呼ばれるルビーが展示されており、周囲には警備の警察たちが大勢いる。そこに、1人のトレンチコートを着た1人の男が現れた。
「どうやら、事件のようですな」
男はパイプをふかし、警部に話しかける。
「これはこれは、いや、しかし、一体どこから情報を。このことはまだ公にはしていないはず」
「なあに、簡単なことですよ。真夜中とはいえ、これだけ多くの警察官が一同に介するとなれば、事件以外ないでしょう。しかも、まだその事件は起こっていない。もう事件が起こっているとしたらもっと大騒ぎになっていますし、あるいは、事後調査のためならこんなに人員を総動員する必要もない。つまり、犯行予告、ですな?」
「む、むう……」
警部が唸る。
「予告時間は?」
「あと5分。来るならそろそろ……」
警部の言葉を待っていたかのように、宝石店内の照明が全て落ちた。
「なんだ!?」
「停電か!?」
「ええい、騒ぐな!周囲を警戒しろ!目が慣れるまで発泡はするなよ!」
警官たちがざわつく中、ガラスが割れる音とともに、”赤い瞳”を盗み取る影が!
「アーハッハ!”赤い瞳”は確かに頂いた!」
天窓からの声に、その場の全員が上を見上げる。そこには、月光を背負った黒いナース魔法少女服のデジナースが高笑い!
「いたぞ!逃がすな!撃て!撃てーっ!」
警部の合図とともに、一斉に警官が発泡を開始!
「や、やべえ!」
デジナースはそのまま天窓から逃走!
「これでいいんだよな!アンドロ!」
「ああ、これで探偵はワイらを追わざるを得なくなる。この世界がそう言う風に作られてるさかいな!」
「で、でも、警察が追ってくるぞ!」
探偵が追ってくるのはともかく、大勢の警察を相手にするのは厳しい。いかにデジナースの身体能力とはいえ、多勢に無勢だ。しかし、こんな事は想定済みだ。
「さっきも言うたやろ。フォカロルを使うんや!」
「あ、ああ!そうだった!」
デジナースはポシェットからフラウロスのUSBメモリを取り出し、左手に握りしめ、権限変更
「ソロモンの封印を受けた大いなる悪魔よ!我が命令に従い、その権能を振るえ!
呪文に答えるように、左手に持つUSBメモリが輝き出す!そのまま、右手に持つステッキのUSB差込口にセット!起動
「
左腕ディスプレイに"Forcalor.goe"の文字が表示され、ステッキからフォカロルが現れた!
「ワイの力が必要なようでんな」
大きな翼を持つ小人のようなマスコット、フォカロルが答える。
「頼む、警官たちを撒いてくれ!」
「お安い御用やで」
フォカロルが答えると、街道を不気味な風が吹き、警官たちを濃霧が飲み込んだ!
「ええい!なんだこの霧は!?」
「前が見えない!」
ソロモン72柱のUSBメモリ第41位、フォカロル!その力は、風と水の支配!ソロモンはこの力を持って、『高負荷ネットワークの負荷分散システム』を作り出したのだ!
この力により、警官たちはデジナースたちにたどり着けないネットワークのループを走らされることになる。これで、本命の探偵だけが追ってくるというわけだ。
――――――――――
「……よし、後は待つだけだな」
デジナースは探偵、つまり今回のターゲットを待ち構える。だが、やってきたのは予想外の人物だった。
「やあ、デジナース。珍しいカッコだね」
「その声は、デジポリス!」
デジポリスと呼ばれたその魔法少女装少年は、コスプレ衣装のような光沢のあるミニスカート婦警魔法少女服を着ている。頬には星マークのペイントがあり、腰には
「まいどおおきに」
デジポリスの背後から、弓矢を持つ小さな狩人みたいなマスコットのバルバトスが顔を出し、挨拶をした。
ソロモン72柱のUSBメモリ第8位、バルバトス!その力は、有能な軍隊と探索力!ソロモンはこの力を持って、『攻撃プログラムへのカウンターハック』を作り出したのだ!
デジポリスとバルバトス、この2人こそ、デジナースたちの他に悪魔のUSBメモリを集めている、いわばライバルなのだ。
「よくここがわかったな」
「せや。お前はここでは警察や。フォカロルの力で霧に飲まれたはずやで」
「それはどうでっかな?ワイらは正式にここの警察になっとるわけやおまへん。見た目は警察でも、
バルバトスが言う通り、フォカロルの力は、”この世界の警察”というグループを指定して発動した。グループが異なるデジポリスは、対象外だったわけだ。
「そういうこと。それはそうと、名探偵はどこ?」
デジポリスはフーセンガムを膨らませながらあたりを見渡す。
「まだ来てないぜ。今のうちに、俺たちで決着をつけるか?」
デジナースは万能診断ステッキを構える。
「……いや、僕はあくまでも、悪魔のUSBメモリが狙いだし、キミと無駄に戦ってる暇はないんだよ」
その言葉に、デジナースは動きを止め、アンドロマリウスとバルバトスもお互いに距離を取る。
ちょうどそのとき、トレンチコートを着た探偵が現れた。
「ずいぶんと追手を巻くのが上手いようだが、私に言わせればまだまだだね……おや?」
探偵はデジナースとデジポリスを見る。
「シャドウナースに仲間がいたとはね」
トレンチコート男の言葉に、デジナースはデジポリスを見る。
「へっ!誰が仲間かよ!」
「同感」
デジポリスもけだるように返事を返す。
「おい、デジポリス、ここはわかりやすく、早いもの勝ちってのはどうだ?」
「いいよ。僕のほうが早いし」
デジナースはステッキを探偵の方に向けて構え直し、デジポリスは腰の拳銃をいつでも抜けるように構える。
「ふーむ、どうあれ、私にとっては2人を相手するというわけだ。いいだろう。来るがいい」
探偵は杖を構える。フェンシングの剣のように構える、独特の杖術の構えだ。
静寂が場を包み込む。下手に動けば誰もが致命打を浴びて脱落する可能性もある。
「おりゃあ!」
真っ先に動いたのはデジナース!漆黒のナース服を身にまとい、大ぶりのステッキで突撃した!
「むう!」
探偵は避けようとせず、杖を斜めに構えて攻撃を受けながす。ステッキと杖が火花をちらした瞬間、デジナースの左腕ディスプレイ搭載メーターが上昇する。
「やったれデジナース!打ち合えばこっちのもんや!」
デジナースは敵の攻撃を受けたり、あるいはステッキで攻撃を与えることにより、敵のデータを集めることができる。メーターが満タンになったとき、アンドロマリウスの力によって、敵の正体が判明し、同時に特効薬も作られるのだ!
「ふーむ、厄介な武器だ」
探偵はバックステップ。その着地の瞬間をデジポリスが狙い撃つ!
「狩人の悪魔バルバトスの名において、攻撃者を狩り仕留める。
攻撃
「おおっと!」
探偵はコートを翻し、弾丸を弾いた!
「その弾丸はなかなか強力なようだ。しかし、あらたければどうということはない」
「……ふーん、よくわかってるね」
デジポリスは拳銃を右手に構え、左手には
「ええい!かまうもんか!」
デジナースは距離を詰め、もう一度ステッキを振り下ろす。探偵はサイドステップで回避。そこにデジポリスの
「む」
探偵はデジポリスの攻撃をステッキで弾き、そのまま体を回転させてデジナースに杖打撃がクリーンヒット!そのまま連撃を浴びせデジナースを吹き飛ばす!
「うおお!」
デジナースはどうにか受け身をとって着地する。だが、服の様子がなにかおかしい。
「え?服が元に!?」
先程までシャドウナースとして黒いナース魔法少女服を着ていたはずが、いつものピンクのナース魔法少女服に戻っているのだ。
デジナースの様子を見て、デジポリスも一歩下がる。
「なんやこれ!?どうなっとるんや!?」
アンドロマリウスも慌てふためく。
「なあに、簡単なことさ。探偵とは、見破るものだ。お前たちの正体を見破ることも、造作はない」
「気ぃつけえや。ワイの力と違うて、ヤツの力はジワジワと服を削ってきよる。攻撃を受けすぎると先に服のほうがやられてしまうで」
「わかった。だけど、メーターがかなり溜まってるぞ」
敵の攻撃が特徴的であればあるほど、敵の正体を知る分析データは溜まりやすい。だが、攻撃を受け続けるだけでは、先に魔法少女服が剥がされてしまう。
「ワーワー言うてもやるしかないっちゅーことか。行ったれ!」
アンドロマリウスの声援を受け、デジナースが大きくステッキを振りかぶり再び突撃!
「何度も同じ手を」
探偵はカウンターの杖突きを繰り出す。だが、デジナースはこれをジャンプで避ける。
「なに!?」
そのスキを突き、デジポリスが接近。両手の
「ぐはっ!!」
探偵の頭部にステッキが直撃し、メーターが一気に上昇!あと半分というところまで貯まる。
「狩人の悪魔バルバトスの名において、攻撃者を狩り仕留める。
攻撃
「やったか!?」
デジポリスに確かな手応えはあった。だが、デジポリスが射抜いたのはコートだけだった!
「ど、どこに行った!?」
「後ろだよ」
「なっ!?」
いつの間にか探偵はデジナースの背後に回っていた。
「まずは素顔を見せてもらおうか!」
探偵のステッキ連打でデジナースのナースキャップが吹き飛ばされる。ナースキャップで纏められていた髪は、元のボサボサの髪型に戻った。
「ほほう、なかなか素顔もカワイイ坊やじゃないか」
探偵は余裕の素振りでデジナースを見据える。
「なっ……カワイイだと!」
動揺して大きく距離を取るデジナース。
「デジナース!大丈夫かいな!?」
「ああ、まだまだやれるぜ!それに、どうせここで顔がバレたってまだ俺たちの正体がみんなにバレるってわけじゃねえんだ」
アンドロマリウスの声に答え、デジナースが再びステッキを構える。
「……デジナース、今回はキミにゆずるよ」
さっきまでは強気だったデジポリスが、やや弱々しく見えた。
「ん?どうしたデジポリス?早いもの勝ちじゃなかったのか?」
「……気が変わった」
デジポリスはデジナースの顔を見る。
「なんだよ?俺の顔になにかついてるってか?」
「いや、ついてるというか、何もついてないというか……」
デジポリスは目をそらす。
「ん?」
「と、とにかく、今回は僕はフォローに回る」
「ふーん、なんだかわかんねえけど、そういう事なら俺がいただくぜ!フォローは任せたぞ!」
「相談は終わったかね?」
探偵は杖を素振りし、独特の構えを取り直す。
「ああ、終わったぜ!」
言うが早いか、デジナースは勢いよく飛び出す。デジポリスもそれに続く。
「おりゃあ!」
デジナースは先程と同じくジャンプ!
「同じ手は二度は食わんぞ!」
探偵はデジポリスの攻撃を警戒し、デジナースを無視。予想通り、デジポリスが突っ込んできて
「まだまだ!」
デジポリスは連撃の手を休めない。しかし、探偵は焦らず次の攻撃に備える。
「そろそろか」
探偵は足払いでデジポリスを転倒させ、そのままバックステップ。上空からのデジナースの攻撃を回避する……はずだった!
「グーッ!動けんだと!?」
探偵の足に絡みつくのは、デジポリスの手錠!繋がれた先は街灯の柱だ!
「キサマいつの間に!?」
「キミがボクの攻撃に夢中になってる間に、バルバトスがやってくれたよ。なんにもできないマスコットだからって、油断したんじゃない?」
「ええい!くそ!」
動けない探偵にデジポリスのステッキが迫る!
「これでも喰らえ!」
ステッキを探偵の体に押し付け、メーターを一気に最大値まで貯める!
「よっしゃ!正体あばいたる!」
光りだすアンドロマリウス!そのフラッシュが探偵を照らす!
「グーッ!」
……そして、その光が晴れた時、探偵の姿は、紫のマントを付けた猿になった!
「あれがやつの正体、グシオンや!」
ソロモン72柱のUSBメモリ第11位、グシオン!その力は、秘密の発見!ソロモンはこの力を持って、『アカウントの個人特定プログラム』を作り出したのだ!
「しもたわ!ワイの正体が!!」
「このまま一気に決めてやる!」
デジナースのステッキが光を放ち、巨大な注射器へと変化した!デジナースは注射器を構えてグシオンに伸びる鎖を駆け抜ける!
「喰らえ!キュア・アンド・コンパーション!」
巨大な注射がグシオンに突き刺さり、プログラムが書き換えられていく!そして!
「グーーーーーッ!」
グシオンは爆発!
爆発したグシオンからUSBメモリが飛び出し、デジナースの手元に転がってきた。現実世界のUSBメモリは、ただの抜け殻になり、あとは所有者をデジナースにするだけだ。
デジナースは左手にグシオンのUSBメモリを握り、所有者変更
「偉大なる魔術師ソロモンよ!正義の悪魔アンドロマリウスの名において、今ひととき、その力を我に授け給え!封印されし悪魔を我が配下に!
デジナースが呪文を唱えると、グシオンのUSBメモリに『デジナース』の名前が刻まれた。
「これでお前のワイらの仲間やで。わかったな?」
「へいへい、もう降参ですわ」
USBメモリからグシオンの声が聞こえ、静かになった。
「ふう、ありがとうな、デジポリス……あれ?」
いつの間にかデジポリスは姿を消していた。
「まあ、ええわ。服がこれ以上壊れる前に、ワイらもさっさと帰るで」
「ああ」
デジポリスとバルバトスは光となって、サイバー空間から消えていった。
</CYBER DIVE!!>
「……はっ!」
那須が目を開くと、そこは自分の部屋だ。サイバー空間から元の世界に戻ってきたのだ。
「なあ、アンドロマリウス」
「なんや?」
「グシオンの力を使って、デジポリスの正体を探れないかな?」
「うーーーーん」
アンドロマリウスは頭を悩ませる。
「できないことはないと思うんやけど、難しいと思うで」
「えー、誰の正体でも分かるんじゃないのかよ」
「まあ、デジポリスのアカウントと直接つながってる状態やったら確実やろな。デジナースかて、あのまま攻撃を受け続けてたら正体丸見えやったわけやし」
「それじゃあ、今はできないってことか?」
「いや、今までの戦いのデータから、当たりをつけることはできるかもしれへん。確実っちゅーわけやないから、間違うてるかもしれへんけど」
「それでもいいよ。やってみようぜ!」
那須はパソコンのキーボードを叩き、グシオンの力を起動した。
しばらくすると、画面に1人のアカウントが表示された。
「え……」
そのアカウントの名前を見て、那須は絶句する。
「まさか、堀巣が、デジポリス……?」
デジナースのライバルのデジポリスは、那須の親友の堀巣だった!?このことを、那須はどう受け止めるのか……。
◆アンドロマリウスの『教えて!サイバーセキュリティ!』のコーナー◆
どーも、アンドロマリウスや!いやー、まさかデジポリスの正体が那須の親友やったとはなあ。え?みんなもう知っとったって?……ははは!それじゃあ今回のテーマはこれや!
『その書き込み、バレてもいい場所?』
家の近くの店とか、よく通る道とかで写真を撮ったとき、SNSに上げるときは気をつけなアカンで。
顔が写ってなくても、例えば住所が書いてある看板とかが写り込んどったら一発で場所がバレてしまうさかいな。
もっとも、旅行に行ったときとか、別にバレても構わへん場合は話は別や。重要なんは、家とか学校とか、普段生活している場所がばれないように気をつけるっちゅーことや。ほなな!
『サイバーセキュリティ魔法少女装少年デジナース』
第6話:SNS探偵の正体を暴け!
おわり
◆次回予告◆
アンドロマリウスや!魔力を削られるデジナースはこれまでにないピンチやったけど、なんとか勝ててよかったで。せやけど、デジポリスの方にも、デジナースの正体がバレてしもうた。次はどうやら相手の方から直接勝負に誘ってくるみたいやで!
次回!
『サイバーセキュリティ魔法少女装少年デジナース』
第7話:対決!デジポリス!
次もガッツリ捕まえたるで!
◆また見てね!◆
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