第5話:激流の迷路を突破せよ!
「は、ははは……すごいぞ!これで俺も大金持ちだ!」
部屋に一人、パソコンの画面を見る男がいた。その画面には、なんらかしらの数字がどんどん上昇していく。
男のパソコンには、怪しく光るUSBメモリが刺さっていた。
「悪魔だかなんだか知らねえが、こりゃあとんでもねえもん拾っちまったみたいだな……」
――――――――――
「……えー、まとめると、仮想通貨は社会に大きな影響を与えてきたことがあり、今も社会に与える状況は大きいということです」
学校の教室内に先生の声が行き渡る。だが、中学2年の生徒にとっては、まだ少し難しかったらしい。生徒たちはややつまらなそうにしている。
そんな生徒たちの眠気を覚ますかのように、終業のチャイムが鳴った。
「それじゃあ今回はここまでです。宿題を忘れないようにね」
先生が教室を出ると、生徒たちはざわめき出した。
「社会に大きな影響とかって言われても、なんかよくわかんねよな」
宿題用のプリントを眺めてぼやくのは
「それを調べるための宿題でしょ。今回は僕も手伝うよ」
答えるのは
「え!?一緒に書いてくれるのか!?」
「いや、そういうわけじゃないけど」
「なんだよ……」
那須はあきらかにがっかりした。
「えっとさ、那須くんは、この前ニュースになったビットマネーのこと、覚えてる?」
「ビットマネー?なんだっけそれ?」
「えっとね……」
堀巣は簡単に説明した。
ビットマネーとは、今話題の仮想通貨のひとつだ。仮想通貨は、ネットワーク上のやり取りで、誰がいくらの金額を持っているかが管理される。そして、その金額は、常に変動し続ける。より多くの人が仮想通貨を求めればその価値は高くなり、逆に、誰もが欲しがらない仮想通貨は大きく値下がりする。
そんな仮想通貨は、時には購入時の数倍の値段に価値が跳ね上がることもある。1万円が10万円や100万円になることがあるのだ。無論、逆に、100万円が1万円になることもある。仮想通貨には様々な種類があるが、変動額が大きい不安定な仮想通貨ほど、ハイリスクハイリターンとなる。
「……それで、1千万円儲けた人が出たっていうニュースがあったじゃない」
「あー!あったあった!すげーよな。……あれがどうかしたのか?」
「ほら、社会に大きな影響って言ってたけど、大儲けした人がいるってことも、そのひとつだよ」
いまいちピンとこない那須に、更に説明を続ける。
「それでさ、どうやったら仮想通貨で儲けられるかを調べてまとめてみたらどうかな?」
「……そういうことか!面白そうじゃねえか!」
勉強は嫌いだが、お金儲けとなれば話は別だ。
――――――――――
「っつーわけで、どうすりゃビットマネーで儲けられるんだ?」
ここは那須の部屋。学校から帰ってきた那須は、パソコンを起動させると、画面に向かって話し始めた。
「帰ってきて早々、なんやいきなり」
返事をしたのは、画面内に浮かんでいるふわふわしたマスコットみたいな、アンドロマリウスだ。アンドロマリウス?そう、かの有名なソロモン72柱の悪魔72位の、アンドロマリウスなのだ。
数年前のこと、天才的なハッカーが現れ、コンピュータ技術に革新をもたらした。まるで魔術師のような手腕から、ソロモンの異名で呼ばれていたほどだ。そのソロモンが、姿を消したという噂がある。
ソロモンの技術は、なんと本物の魔法で、72柱の悪魔をそれぞれ72本のUSBメモリに封印していたのだ。そして、その72本のUSBメモリは、ソロモン失踪と同時に世界中に散らばり、放っておけば悪用されることになる。
72柱最後のアンドロマリウスは、他のUSBメモリを回収するセーフティアプリとして作られた。誰かが手にとって起動した時、サイバースペースにダイブして他のUSBメモリを回収するというのが主な機能だ。そして、偶然にもそれを手に入れてしまったのが、那須というわけだ。
那須とアンドロマリウスは、これまでに3本のUSBメモリを回収した。だが、悪魔のUSBメモリを狙うのは那須だけではない。もうひとり、同じようなライバルが存在するのだ。しかし、今の那須にとっては、そんなことより重要な話題があった。
「だからさ、仮想通貨で大儲けっていう話があるんだろ?どうやって設けるか教えてくれよ。ソロモンの悪魔なんだから、それくらい知ってるだろ?」
「はー……。安易に儲けようとするんはあまり良くないと思うけどなあ」
「そんなこと言って教ええくれないと突っつくぞ」
那須はマウスカーソルでアンドロマリウスをつっつく。
「ええい、やめえや!つっつくなて!教えたるさかい!」
アンドロマリウスはマウスカーソルをはねのけて、表計算ソフトを立ち上げる。
「メモの用意はええか?」
「ああ!」
那須はノートを広げ、ペンを握った。授業中とは比べ物にならないくらいの真剣な眼差しでアンドロマリウスを見つめる。
「ま、儲けるための基本は、『安く買って高く売る』っちゅーことだけや。例えば、100円で買って110円で売れば10円の儲けやし、100万円で買って110万円で売れば10万円の儲けやな」
アンドロマリウスは説明しながら、できるだけわかりやすく表計算ソフトに数字を記入していく。
「それだけなのか?」
「それだけや。せやけど、これが難しいんやね」
「どういうこと?」
「仮想通貨っちゅーのは、みんなが欲しがれば値段が上がるし、逆に誰もいらんってなったらどんどん安くなる。つまり、誰も見向きもせん仮想通貨を安く買うて、みんなが欲しがって値段が上がったときに売るっちゅーのが、儲ける基本やね」
アンドロマリウスは表計算ソフトに折れ線グラフを表示しながら説明する。
「こんなふうに、仮想通貨の値段っちゅーのは上下するわけやけど、低いところで買って高く得れば、結果的に儲かるわけや」
「え?でもそんなの、みんなが欲しがるヤツが分かってないとだめじゃん」
「せやで。せやから難しいんや。みんなが欲しがる前に目をつけて買わなあかん。逆に、もしみんなが欲しがったときに買ったら、前から持ってた人がパーっと売っぱらってしもうて、一気に損することもあるんや」
アンドロマリウスは、さっきの折れ線グラフを右にどんどん伸ばしていく。最大の山はもはや訪れず、あとは延々と値段が下がっていくだけだ。
「……どういうこと?」
「つまりやま、いまさらビットマネーを買うたところで、損するだけっちゅー話や」
実際に、仮想通貨で大儲けしたという話はあるが、同様に、大きく損をした人がいることも事実だ。誰かがお金を手に入れるということは、他の誰かがお金を失うということもである。大きくお金を得た人がいれば、それだけ多くのお金を失った人もいるのだ。
「なんだよー。それじゃあ儲かるかどうかなんて運次第じゃん……」
いきなり那須はつまらなそうにペンを投げた。
「それに、元手になる金も必要やで。見てみいこれ」
アンドロマリウスは画面にビットマネーの値段推移を表示した。
「最近のビットマネーの動きや。えーっと、大儲けしたっちゅーやつの時期はここらへんか……100円が110円になるくらいの値上がりや」
「つまり?」
「1千万円儲けるためには、1億円必要やってことや」
「い、いちおくえん……」
あまりの金額の大きさに、那須はおののく。
「ま、世の中そんなにうまくはいかんっちゅーことや。魔法でも使わん限りな」
「魔法なー……ん?」
アンドロマリウスの言葉に、那須はハッとする。
「そうだよ!悪魔のUSBメモリの力を使えばなんとかなるんじゃないか?」
「む!あかんで!悪用は絶対にワイが許さへん!正義を司るこのアンドロマリウスがな!」
「ち、違うよ!俺が使うわけじゃなくって!」
那須はビットマネーで大儲けした人のニュースを検索し、アンドロマリウスに見せる。
「こいつが悪魔のUSBメモリを持ってるんじゃないか?」
その言葉を聞き、アンドロマリウスはしばし考える。
「うーん……。可能性は無いわけやないけど、ワイのセンサーが反応してないっちゅーことは、違う思うけどなあ」
アンドロマリウスの権能は『正義を司る千里眼』だ。悪魔のUSBメモリが起動すれば、その活動場所を察知できる。
「本当かー?」
「嘘やない。コイツはただ単にごっつ運が良かっただけや。せやなかったら、元から金持ちやったかや」
「うーん、そっか……」
那須はがっかりしてうなだれた。
「まあまあ、どうせお前のこっちゃ、仮想通貨のこと調べてこいみたいな宿題でもだされたんやろ。手伝ってやるさかい、元気出しいや」
「うん……」
結局その後もアンドロマリウスの仮想通貨授業は続き、那須はどうにかレポートを書くことができたのだった。
――――――――――
翌日の土曜日、那須はゲームショップに来ていた。目当てのゲームを見つけては、大きくため息をつく。
「はぁー……」
「どうしたの?那須くん」
「どわあ!」
背後からいきなり声をかけられて、那須はびっくりした。
「なんだ、堀巣やよ。びっくりさせやがって」
「別に、びっくりさせようと思ったわけじゃないんだけど……那須くん、なにか買うの?」
「いや、今は買えねえよ。小遣いが足りなくってさ」
那須は財布の中を見る。あるのはせいぜい千円程度。那須の欲しいゲームには到底足りない。
「ふーん、それで昨日の話に食いついたってわけだね」
「まあ、そうなんだけどさ、結局は運が良くないといけないし、そもそもお金をいっぱい持ってないと増やせないっぽいし」
「あ、ちゃんと調べたんだね」
堀巣がニコリと笑う。
「……もしかしてお前、俺に宿題をやらせるために!?」
「ふふふ、それはどうかな?」
堀巣はさらにいたずらっぽく笑う。
「お前その顔は絶対にそうだろ!あー、やられた!」
那須はようやく気がついたが、まんまと堀巣の話に乗せられて勉強する形となっていたのだ。
「だって那須くん、あのままだと白紙で出しそうだったし」
「いや、そんなことは……あったかもしれないけど……」
那須の目が泳ぐが、堀巣はそれを見逃さない。
「そしたらまた、僕に手伝ってもらうつもりだったでしょ?」
「う、うん……」
全て見抜かれているようで、なんだか那須は恥ずかしくなってきた。
「ふふ、いつも僕はゲームで助けてもらってるからさ、これでおあいこだよ。ね?」
「ま、まあそうだな!ハハハ!」
那須は恥ずかしさをごまかすように笑い飛ばした。
……その後、2人は公園に行き、いつもの友達たちと一緒に遊んだ。だが、不思議と、ビットマネーの話が話題となることが多かった。特に、堀巣は興味を持っていた。大儲けした人がかにか不正をしたのではないかと、本気で疑っているようだった。
――――――――――
その日の夜、那須は部屋でビットマネー事件のことを調べていた。堀巣の話が、どうにも気になっていたのだ。
「うーん、なんか俺も怪しく見えてきた気がするけど、わっかんねえな」
「そんなに気になるんやったら、本格的に調べてみよか?」
アンドロマリウスが画面内から那須に声を掛ける。
「え、でも、できるのか?悪魔のUSBメモリの反応はないんだろ?」
「確かに無い。せやけど、その儲けたヤツのデータんところに直接見に行けば、もしかしたらっちゅーこともあるかもしれへん」
「えー?本当にそんなことできるのか?」
那須は完全にアンドロマリウスを疑っている。それもそうだ。アンドロマリウスの能力を使ってサイバー空間に入ったことは何度かあったが、結局いつも戦うのは那須の役目なのだから。
「ワイを誰だと思うとるんや。ソロモンの悪魔やで!それくらいチャチャっとやったるで!」
アンドロマリウスはブラウザを立ち上げて、何やら検索を始めた。
「まず、こいつは顔も名前も出しとらん。せやったら大儲けした時期の直後あたりを各種SNSで検索して……ほんで怪しいヤツらのアカウントに当たりをつけていくんや」
アンドロマリウスは驚くべき速さで画面を切り替えながら検索を実行していく。アンドロマリウスソロモンの悪魔であり、同時にプログラムでもある。人間の手作業では妨害な時間がかかる大量データの処理も、軽々とこなす。
「怪しいやつはまあざっと数千件やな。ほんで、こっから、ビットマネーのアドレスを探して、それぞれのアドレスごとに所持額を調べれば……ほれ、こいつや!」
アンドロマリウスは1つの折れ線グラフを表示する。それは、あるアカウントのビットマネー所持額の推移だ。
「見てみい。ニュースがあった日の数日前の動きを」
それは、明らかに奇妙な動きだった。大量に安く買い、その直後に大量に高く売るを繰り返している。1度や2度ならまだしも、何度も繰り返しているのだ。しかも、高く買って安く売るといった、損する動きが、グラフには一切存在しない。
「今はプログラムで自動的に売り買いすることもできる。せやけど、プログラムでも、たまに小さく損する。こいつは違う、こんな綺麗に丸儲けっちゅーのは変や」
那須はアンドロマリウスを見て、ニヤリと笑った。
「ってことはやっぱり?」
「ああ、悪魔のUSBメモリの予感が高まってきたで!」
「それじゃあ行くか!」
「おう!」
那須は”Andromalius.goe”のアイコンにマウスカーソルを合わせ、起動した!
<CYBER DIVE!!>
「……よっと!」
一瞬の光に目を閉じた那須が、ゆっくりと目を開くと、そこは、いつものサイバー空間だった。どこまでも続くようなダークブルーの床に、グリッド線。ふわふわしたマスコットのアンドロマリウスが、那須を迎え入れる。
「さあて、お待ちかねの変身や!」
「いや、誰も待ってねえと思うけど……まあいいや」
那須は変身
「
『パパラ~♪パパラパッパラ~♪』
謎のBGMが鳴り響く!那須の身体が謎の光に包まれ、変身バンクだ!
全身が光のシルエットになり、服が弾け飛ぶ!代わりに装着されるのは、ゲームのキャラクターそのままのような、デフォルメされたミニスカートのナース服!
ボサボサだった髪の毛はナースキャップで纏められる!足元には純白のオーバーニーソックスと、ちょびっとだけかかとが高い靴が装着される!
そして小さなポシェットが襷掛され、最後に巨大な万能検診ステッキが、その手に握られた!
『パパラパ~♪パパン♪』
BGM終了!
デジナースのアバターによって那須の身体能力は飛躍的に上昇する。だが、これ以上の布面積はデータ量が大きすぎて、本体の那須がフリーズしてしまうのだ。だいぶミニスカードではあるが、これでも限界まで詰め込んでるのである。
「いよ!今日も似合ってるで!」
「やめろよ!なんか言われると恥ずかしいだろ!」
アンドロマリウスの声に、デジナースは顔をちょっと赤くする。
「さっさと行くぞ!案内してくれ」
「ほな、行くで!」
アンドロマリウスが言うが早いか、デジナースとアンドロマリウスは光となって、サイバーグリッド空間上空に飛び上がり、怪しいアカウントのアドレスに向かって飛び出した!
――――――――――
「さ、到着したで」
「ここは、ジャングル?」
2人が到着したのは、大小無数の川が流れるジャングルの上空だ。
「お、あれを見てみい」
アンドロマリウスが指差す先には、川を流れる小さな船があった。
「なんだあれ?」
那須も目を凝らしてじっくりと見る。
「あの船1つ1つが、ビットマネーの売り買いの流れやな。あちこちから行ったり来たりしとるで」
「すげえ数だな」
「言うても仮想『通貨』やさかい、買い物とかでも普通に使われとるんや。普通のお金の流れとまあ変わらんのや。せやけど、それとは別に、沢山の人が金儲けのチャンスを狙ってるっちゅーことでもあるんやけど」
眼下のジャングルには数え切れない川があり、数えきれない船が流れている。この川のどれかが、ターゲットのアドレスに通じているはずだ。
「アドレスは分かっとるんやけど、そこに入るためには川から行かんといかんのや。左腕のディスプレイに位置を出しとくさかい、辿っていくんやで」
「わかった」
デジナースはうなずくと、1つの船の上に着地した。
「あれ?なんか離れて行ってねえか?」
着地した直後に、デジナースは左腕ディスプレイを確認し、後ろを振り返る。
「いきなり逆方向に乗ってしもたか!前から来る船に乗り換えるで!」
「乗り換えるったって、この激流を登る船があるってのか?」
デジナースの言う通り、川の流れはかなり早い。船は推進力をつかうというよりも、水の流れる力に任せて川下りをしているといった感じだ。
「いや、川の流れに騙されたらアカン。ほれ見い!」
アンドロマリウスが横を指差すと、ひとつの船が、デジナースたちの乗った船と逆方向からすれ違っていくのが見えた。
「どうなってんだあれ!?」
「百聞は一見にしかずや!次の船に乗り移るで!」
「ええい、わかったよ!」
デジナースがジャンプの構えを取る!ちょうど、次の船がすれ違いそうだ。
「今や!飛べ!」
「おりゃあ!」
アンドロマリウスの声に合わせて、デジナースは大きくジャンプ!
「うわっとと!」
見事に船の乗り換えに成功した!
「ん?あれ?」
だが、デジナースは違和感を感じていた。
「なんでこっちも川が下りなんだ?」
船を乗り換えたとはいえ、川は変わっていない。さっきまで川下りをしていて、逆方向の船に乗ったということは、川を上っているはずなのだが……。
「この川の流れは、通信速度を表してるんや。おんなじ回線でも、方向が違えば流れも変わるんや」
「なんかよくわかんねえけど、とにかくこっちの方向で近づくんだな」
デジナースのは左腕ディスプレイを確認する。確かに、目的地に近づいている。
「デジナース!次の合流地点でまた乗り換えや!」
「このままじゃ行けないのか?」
「いや、行けるんには行けるんやけど、乗り換えたほうが早いんや」
デジナース達が乗る船は、細い川から広い川に流れ込み、一気に速度を上げた。
「ええか?川の広さは回線の太さを表してる。細い川より広い川のほうが早いっちゅーこっちゃ。せやからこのまま広い川を進む船に乗り換えるで」
「わかった!……それ!」
デジナースは大きくジャンプ!並行する別の船に乗り移った。2人がもともと乗っていた船は細い川に行き、再び速度を落としていった。
「川が広いほど速度は早いんや。このままどんどん乗り換えていくで!」
「おう!」
デジナースとアンドロマリウスは次々とブネを飛び移り、川を乗り換えてく。このままじわじわと目的地に近づいていく……はずだった。
「なんやおかしいな……」
「どうしたアンドロ?」
「いや、いくらなんでもそろそろ到着してええころやと思うんやけど……」
アンドロマリウスの言う通り、ずいぶんと川を渡って来て、とっくに目的地に到着しているはずなのだが、未だに距離が縮まらない。
「もしかして、アンドロのナビが間違ってるんじゃないか?」
「そんなことあらへん。できる限り近づくように移動してるんや。そのはずなんやけど……」
「自信ないんじゃないか」
「やっぱりキミたちも来たんだね」
2人が悩んでいると、いきなり背後から聞き覚えのある声が!
「お、お前は、デジポリス!」
デジポリスと呼ばれたその魔法少女装少年は、コスプレ衣装のような光沢のあるミニスカート婦警魔法少女服を着ている。頬には星マークのペイントがあり、腰には
「どうも、おふたりさん」
デジポリスの背後から、弓矢を持つ小さな狩人みたいなマスコットが顔を出し、挨拶をした。
ソロモン72柱のUSBメモリ第8位、バルバトス!その力は、有能な軍隊と探索力!ソロモンはこの力を持って、『攻撃プログラムへのカウンターハック』を作り出したのだ!
デジポリスとバルバトス、この2人こそ、デジナースたちの他に悪魔のUSBメモリを集めている、いわばライバルなのだ。
「なんやオマエら!またワイらの手柄を横取りしようっちゅー魂胆かいな!?」
「いいえ、今回は協力の申し出です」
怒るアンドロマリウスを諭すように、バルバトスは淡々と話す。
「協力やて?」
「さいです。ワテの能力が、この付近に悪魔のUSBメモリの使用を検知したんですわ。けれども、どうにも出処に辿りつけんで、困っとったんです」
バルバトスの能力は、特定の悪意あるプログラムに対応して自動的に反撃をする。これにより、今回のターゲットにも反撃を行ったのだ。だが、のの攻撃はなぜか届くこと無く、ついには
「……そういうわけで、協力してくれへんでっしゃろか?」
「そないなこと言われてもなあ」
悩むアンドロマリウスの前に、デジナースが一歩進み出る。
「悪魔のUSBメモリは、こっちがもらっていいってんなら、協力してやってもいいぜ」
「ほう、ずいぶん強気でんな」
威圧するバルバトスの前に、デジポリスが一歩前に出る。
「いいよ。どこの誰かもわからないやつが持ってるより、キミに持っておいてもらったほうが良いしね」
デジポリスは手を差し出した。
「そういうことなら、やってやるさ」
デジナースも手を出し、握手した。
「デジナースが協力するっちゅーなら、ま、そういうことになったみたいやし、ここはワイらも協力しよか」
「デジボリスが協力する言うんなら、ワテも協力しましょう」
アンドロマリウスとバルバトスは、お互いを見て、渋々うなずいた。
「それで、具体的にはどうするんだ?」
デジナースが問う。
「ボクたち二人が持ってる悪魔のUSBメモリの力を合わるんだ」
デジポリスは、ウエストポーチの中から1つのUSBメモリを取り出した。
「ボクが持ってるバティンは瞬間移動ができる。実は、ターゲットの場所がわかってるから、強引に接続することはできるんだ。だけど、すぐに追い出されてしまうんだ」
ソロモン72柱のUSBメモリ第18位、バティン!その力は、瞬間移動!ソロモンはこの力を持って、『光速通信を超えた瞬速通信』を作り出したのだ!
「ほー、そないな便利なもんがあったんかいな」
「アンドロマリウスはんは、そないなことも知らんかったんですか?」
「う、うるさい!ワイかて全部の悪魔のUSBメモリの能力を知っとるわけちゃうわ!」
言い合う2人を尻目に、デジナースはポシェットから3つのUSBメモリを取り出して確かめる。
1つはフラウロス、その能力は『絶対に破られないファイアーウォール』。
1つはウェパル、その能力は『看破されないダミーサイト』。
1つはオセ、その能力は『完全なSNSアカウントコピー人格』。
「どうかな、デジナース?キミの持っているUSBメモリで、どうにか追い出されないようにできないかい?」
「……そういうことなら、任せろ」
――――――――――
「観念しろ!お前はもう逃げられないぞ!」
「フォ!?」
デジポリスの声に、魚のような姿をしたモンスターが振り返る!
「観念しやがれ!」
デジナースも万能診断ステッキを構える。
ここはターゲットのアドレス。デジポリスが持つバティンの能力によって、相手が反応しきれない速度で飛び込んだのだ。
「フォフォーッ!!」
モンスターはデジナースたちを追い出そうとする。だが、ここでデジナースが動く!
「逃がすかよ!」
デジナースはポシェットからフラウロスのUSBメモリを取り出し、左手に握りしめ、権限変更
「ソロモンの封印を受けた大いなる悪魔よ!我が命令に従い、その権能を振るえ!
呪文に答えるように、左手に持つUSBメモリが輝き出す!そのまま、右手に持つステッキのUSB差込口にセット!起動
「
左腕ディスプレイに"Flauros.goe"の文字が表示され、ステッキからフラウロスが現れた!
「お呼びでっか?」
燃え盛る炎のような目をした豹のようなマスコット、フラウロスが答える。
「俺たちを外に出させないようにしてくれ!」
「おおせのままにや!」
フラウロスが答えると、炎の壁が現れ、デジナースたちとモンスターを囲む!
ソロモン72柱のUSBメモリ第64位、フラウロス!その力は、すべてを焼き尽くす炎!ソロモンはこの力を持って、『絶対に破られないファイアーウォール』を作り出したのだ!
ファイアーウォールとは、外からの攻撃を弾くものである。だが、デジナースはこれを逆に内側に向け、”外に出られない炎の檻”としたのだ!
「これでもう俺たちを追い出せねえぜ!」
「フォ、フォフォー!!」
モンスターがデジナースたちを追い出そうとする。だが、彼らは炎の壁にぶつかり、追い出されることはない!
だが、炎の壁にぶつけられるのだ。デジナースたちも無事ではない。
「あちちちち!」
デジナースのケツに火が付く!すかさず転がりまわって火を消す!
「アカンアカン!燃えてまう!」
アンドロマリウスのケツにも火がつく!すかさず転がりまわって火を消す!
「っく!こんなの無茶苦茶だよ!」
デジポリスが帽子についた火を払って消す!
「せやかて、こうでもせな倒せん敵やいうんは、正しい判断だと思います!」
バルバトスも帽子についた火を払って消す!
「だけど、これならすぐに捕まえられそうだぜ!」
デジナースは左腕ディスプレイのメーターを見る。協力している4人が同時に攻撃を受けたことで、一気にメーターが溜まっている。
デジナースは敵の攻撃を受けたり、あるいはステッキで攻撃を与えることにより、敵のデータを集めることができる。メーターが満タンになったとき、アンドロマリウスの力によって、敵の正体が判明し、同時に特効薬も作られるのだ!
「観念しやがれ!」
デジナースは勢いよく飛び込み、モンスターに向かってステッキを叩きつける!
「フォー!」
クリーンヒット!メーターが一気に最大値まで貯まる!
「よっしゃ!正体あばいたる!」
光りだすアンドロマリウス!そのフラッシュが魚モンスターを照らす!
「フォーッ!」
……そして、その光が晴れた時、魚モンスターの姿は、翼を持つ男になった!
「あれがやつの正体、フォカロルや!」
ソロモン72柱のUSBメモリ第41位、フォカロル!その力は、風と水の支配!ソロモンはこの力を持って、『高負荷ネットワークの負荷分散システム』を作り出したのだ!
「なるほどなあ。どうりですぐに追い出されるわけですわ」
バルバトスが納得する。フォカロルはその能力で、デジナースやデジポリスからのアクセスを回線にループさせ、絶対に自分のところに届かないようにしていたのだ。ネットワークの負荷を分散させることができるということは、逆に高負荷にすることもできるし、無限ループに陥らせることできる。
では、ビットマネーで儲けていたのはどういうことか?それも、フォカロルの能力の使い方のひとつだ。仮想通貨は、持っている人が売れば売るほど安くなり、買えば買うほど高くなる。
フォカロルは、まず、買おうとする通信をループさせ、売ろうとする通信のみを流した。すると、仮想通貨が安くなるので、買う。次に、売ろうとする通信をループさせ、買おうとする通信のみを流した。すると、仮想通貨が高くなるので、売る。こうすることで、確実に安く買い高く売ることが可能となるのだ。
通信がループする時間は、わずか1秒にも満たない。だが、無数の売り買いが流れる仮想通貨では、それだけで十分な利益を生む。そして、わずか1秒にも満たない誤差ていどでは、実際に売り買いしている人は違和感に気が付かない。
「お前の悪事は分かっているんだ。大人しくすれば、悪いようにはしない」
デジポリスが銃を突きつける。
「誰が降参なんかするかいな!ワイは逃げたる!」
フォカロルはしゃがんで勢いをつけ、大きく空へと飛び上がった!
「ハハハ!いくらフラウロスのファイアーウォールかて、同じ悪魔のワイにとっては絶対やあらへん!このまま上から逃げたるで!」
大空高く飛び上がるフォカロル!このまま逃げられてしまうのか?
だが!突如フォカロルの上昇が止まる!
「な、なんやて!」
フォカロルの足首に、いつのまにか手錠がはめられている。その鎖の伸びる先は、デジポリスが握っていた!
「だから言ったのに。大人しくすれば、悪いようにはしないって」
「く、くそ!こんなもん……!」
フォカロルがあがくが、その鎖は外れない。
「今だ!デジナース!」
「わかった!」
デジナースのステッキが光を放ち、巨大な注射器へと変化した!デジナースは注射器を構えてフォカロルに伸びる鎖を駆け抜ける!
「喰らえ!キュア・アンド・コンパーション!」
巨大な注射がフォカロルに突き刺さり、プログラムが書き換えられていく!そして!
「フォーーーーーッ!」
フォカロルは爆発!
爆発したフォカロルからUSBメモリが飛び出し、デジナースの手元に転がってきた。現実世界のUSBメモリは、ただの抜け殻になり、あとは所有者をデジナースにするだけだ。
デジナースは左手にフォカロルのUSBメモリを握り、所有者変更
「偉大なる魔術師ソロモンよ!正義の悪魔アンドロマリウスの名において、今ひととき、その力を我に授け給え!封印されし悪魔を我が配下に!
デジナースが呪文を唱えると、フォカロルのUSBメモリに『デジナース』の名前が刻まれた。
「これでお前のワイらの仲間や。堪忍せえや」
「ぐう……。もう逃げられへんみたいやし、しゃーないな」
USBメモリからフォカロルの声が聞こえ、静かになった。
デジナースは、デジポリスを見る。
「本当に、俺がもらっていいんだよな?」
「うん。今回は、キミに譲るよ」
デジポリスはフーセンガムを膨らませながら答えた。
「……でも、次はボクがもらうからね」
「ん?ああ。そりゃあ、今回は俺がもらったからな。次に協力することがあったらお前にやるよ」
「え?」
デジナースのあまりにもあっさりとした答えに、デジポリスは驚く。
「なに言うてるんやデジナース!アイツらに渡すことなんかあらへん!これわワイらの役割なんやで!」
アンドロマリウスがプンスコする。
「いや、でも、今回は俺達だけじゃ絶対に捕まえられなかったしさ。……借りを作ったままってのも、なんか嫌だろ?」
「んんー、まあ、それもそうやな……」
アンドロマリウスは渋々納得した。
「っつーことだからさ、また協力してくれよな!お前と一緒に戦うの、悪くなかったぜ」
デジナースはそう言うと、アンドロマリウスと共に光となって、サイバー空間から消えていった。
残されたデジポリスとバルバトスは、お互いの顔を見合わせる。
「あの言葉、本気だと思うとりますか?」
「わからない。でも……」
「でも?」
「一緒に戦うのも、悪くなかったかな」
「さようですか」
デジポリスとバルバトスは小さな笑みを浮かべると、共に光となって、サイバー空間から消えていった。
</CYBER DIVE!!>
「……はっ!」
那須が目を開くと、そこは自分の部屋だ。サイバー空間から元の世界に戻ってきたのだ。
「今回の敵は手ごわかったな」
「せやな。まさか、アイツらと協力することになるなんてなぁ」
那須は戦いを振り返る。デジポリスの強力がなければ、今回の悪魔のUSBメモリは、捉えることはできなかっただろう。同時に、デジポリスだけでも、それは不可能だったに違いない。
「……あのさ」
少しの沈黙を経て、那須はアンドロマリウスに話しかけた。
「なんや?」
「デジポリスって、そんな悪いやつじゃないと思うんだよね」
「どういうこっちゃ?」
「あのさ、俺達の邪魔をしてるわけじゃなくて、アイツらはアイツらなりのやり方で悪魔のUSBメモリを集めてるんだろ?だったら、もっと協力できるんじゃないかな?」
那須の問に、アンドロマリウスは腕を組んで考える。
「まあ、せやな。デジポリスの方は、悪いやっちゃなさそうや」
「デジポリスの方はって、どういうこと?」
「……バルバトスの考えてることは、まだわからんっちゅーこっちゃ」
一時的に協力したデジナースとデジポリス。はたして、彼らはこれからも良い関係を築けるのだろうか。そして、バルバトスの思惑とは……。
◆アンドロマリウスの『教えて!サイバーセキュリティ!』のコーナー◆
どーも、アンドロマリウスや!デジナースとデジポリスの協力プレイは見事やったな。今回はちょっと変わったヤツが相手やったし、今回のテーマはこれや!
『怪しい儲け話にご用心』
仮想通貨は儲かるっちゅー話を聞いたことはあるか?たしかに儲かることもあるけど、損することもあるんやで。
それに、これは仮想通貨に限った話やないで。儲け話には裏がある。うかつにうまい話に乗ってしもたら、根こそぎ持ってかれることだってあるんやで。
持ってかれるのお金だけやない。個人情報やSNSアカウントのログイン情報なんかも持ってかれるかもしれへんのや。ほんま、甘い話には気ぃつけんといてな。ほなな!
『サイバーセキュリティ魔法少女装少年デジナース』
第5話:激流の迷路を突破せよ!
おわり
◆次回予告◆
アンドロマリウスや!今回は珍しくデジポリスと共闘することになったけど、いやあ、味方だと心強いこと心強いこと……。ハッ!アカンアカン!アイツは敵や!今度あったら堂々と戦わんとな!ただ、なーんかおなしな気がするんや。もしかしてバルバトスに操られとるんやないかって気も……。
次回!
『サイバーセキュリティ魔法少女装少年デジナース』
第6話:SNS探偵の正体を暴け!
次もガッツリ捕まえたるで!
◆また見てね!◆
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