第4話:謎の作文ゴーストライーター!
「どうにも作文ってのは苦手だぜ……」
6月はじめの放課後の教室、中学2年の少年、
国語の宿題で出された作文、テーマは『中学2年生になって感じたこと』だ。提出期限はあと1週間あるが、那須はいまだに書くことすら決まっていない。
「感じたことって言ってもよお、まだ2ヶ月くらいしか立ってないのに、何書けばいいんだよって感じだよな」
那須は親友の堀巣に助けを求める。
「そう?僕はもう途中まで書けてるけど」
親友の
「う……。お前はそういうの得意だからいいよな。……ちょっと見せてくれよ」
那須は堀巣の作文に手を伸ばす。
「だーめ。見せたら那須くんは真似するでしょ?」
堀巣はサッと自分の作文を取り上げ、那須を戒める。
「う……。そ、そりゃあ、参考にするかもしれないけどさ。いいじゃん、ちょっとだけなら」
「だめだよ。このまえの作文だって同じこと書いて怒られちゃったじゃない」
那須は作文を書くのが大の苦手だ。一方で、堀巣はどちらかと言えばサラサラと書ける方だ。以前、なかなか作文が書けなかった那須は、堀巣の作文を読ませてもらった結果、ほとんど丸写しのような作文を書いてしまい、二人揃ってこっぴどく怒られてしまったのだ。
「うーん……、じゃあ、なんかヒントくれ!ヒント!」
那須が堀巣の肩を掴んで頼み込む。
「ヒントって言っても……」
「もう本当に何書けば良いのか、全然わからないんだよ!頼む!なんかヒントくれ!」
那須が堀巣の肩を揺すって頼み込む。
「え、えっと、そ、そ、それじゃあ、サイバー係のことは、ど、どう?」
堀巣は体を揺さぶられながらも、どうにか答える。
「サイバー係……そうか!その手があったか!」
那須はハッとして堀巣を揺さぶる手を止める。
インターネットが世界を覆い尽くし、大人から子供までがいつでもネットワークに気軽にアクセスできるようになったこの時代、那須の通う中学校では、”サイバー係”として、校内ネットワーク管理のサポートを行う係が存在した。名前はかっこよさそうだが、その実態は、先生のお手伝いとなる雑用がほとんどだ。
昨年は別の係だった那須にとって、今年のサイバー係で経験したことは、まさに『中学2年生になって感じたこと』にピッタリの題材だ。
「そうと決まれば今すぐにでも書けそうな気がしてきたぞ」
言うが早いか、那須は帰りの支度を始めた。
「あれ?今から書くんじゃないの?」
「もう遅いし、帰って今夜一気に書いてやるさ!」
すでに時刻は放課後だ。今から作文を書いたのでは、キリが悪い場所で学校から閉め出されることは目に見えている。
「そう、それじゃあまた明日ね」
堀巣もそれをわかっているようで、笑顔で那須を見送る。
「おう!また明日な!」
那須はやる気満々で家に急いだ。
――――――――――
……その夜、那須の部屋にて。
「うーーーーーーーーーん……」
那須は、相変わらず真っ白な原稿用紙を目の前にして、悩んでいた。
「ほう?今日は作文かいな?ほんまにご苦労なことやで」
那須に声をかけるのは、パソコンの画面の中で動き回る、ふわふわしたマスコットみたいな、アンドロマリウスだ。アンドロマリウス?そう、かの有名なソロモン72柱の悪魔72位の、アンドロマリウスなのだ。
数年前のこと、天才的なハッカーが現れ、コンピュータ技術に革新をもたらした。まるで魔術師のような手腕から、ソロモンの異名で呼ばれていたほどだ。そのソロモンが、姿を消したという噂がある。
ソロモンの技術は、なんと本物の魔法で、72柱の悪魔をそれぞれ72本のUSBメモリに封印していたのだ。そして、その72本のUSBメモリは、ソロモン失踪と同時に世界中に散らばり、放っておけば悪用されることになる。
72柱最後のアンドロマリウスは、他のUSBメモリを回収するセーフティアプリとして作られた。誰かが手にとって起動した時、サイバースペースにダイブして他のUSBメモリを回収するというのが主な機能だ。そして、偶然にもそれを手に入れてしまったのが、那須というわけだ。
那須とアンドロマリウスは、すでに2本のUSBメモリを回収した。少し前にもう1つを見つけたが、他の悪魔に奪われてしまった。悪魔のUSBメモリを狙うのは、アンドロマリウスだけではなかったのだ。もはやうかうかはしていられない。だが、今の那須にとって、そんなことよりも宿題のほうがだいじだった。
アンドロマリウスは那須の原稿用紙を覗き込む。
「どれどれ、進んどるかいなって……真っ白やないかい!」
アンドロマリウスは目立が飛び出しそうなくらい驚いた。
「違うんだよ!何回も書き直してるんだよ!」
確かに、よく見ると那須の原稿用紙には、何度も書いては消した跡が残っている。
「ほーん、なるほどなあ。でも、何がそんな気に入らんのや?そんな気合い入れんでも、ザクッと書いてもたらええんちゃうん?」
「そりゃそうなんだけどさ、何回書いても文字数が足りないんだよ」
堀巣と話して題材が決まったはいいが、どうにも規定の原稿用紙2枚以上に届かない。それどころか、1枚目の原稿用紙すら埋まっていないのだ。
「なるほどなあ……。せやったら、いきなり原稿用紙に書かずに、いっぺんパソコンで書いてみたらどうや」
「えー?ただの二度手間じゃん」
「ええやないか。どうせもう何度も書き直してるんや。まま、とりあえず書いてみいや」
「うーん、わかったよ」
那須は文章作成ソフトを起動して、作文を書き始めた。とはいっても、紙に書いた内容とあまり変わらないものをほぼ丸写しする作業なのだが。
……しばらくして、那須の手が止まる。
「うーーーーーーーーーん、やっぱり文字数が足りねえよ。また最初から書き直し……」
「いや!待つんや!」
那須は全部消して最初から書き直そうとしたが、アンドロマリウスが止める。
「えー?なんで?」
「新しく書き直す前に、まずは今書いたやつを保存しとくんや。ほんで、新しく書き直してみ」
「そんなこと言っても、こんなの取っておいたって……」
「ええからええから!」
アンドロマリウスに押されて、那須は新しいファイルで作文を書く。それも一度ではない。それこそ、何度も何度も、新しいファイルで、作りかけの作文ファイルを作り続けた。
…それくらい作文を書き直しただろうか。気がつけば、もう夜も遅い。
「うー……。結局終わらなかった……」
「いや、こっからやで。いままで作った書きかけの作文、全部並べて読み比べてみい」
「そんなことしてなんの意味が……」
那須は、自分の書いた文を見比べる。すると、あることに気がついた。
「……あれ?俺、こんなこと書いたっけ?」
那須が書いた作文は同じような内容がほとんどだが、異なる部分もかなりある。
「気ぃついたか?」
「あ、ああ!全部の違うところをひとまとめにすれば……」
那須はすべての書きかけファイルを統合し、重複部分を削除した一つのファイルに纏めた。そして……。
「あとは細かいところを調整して……できた!これか!」
規定の文字数を大きく超える文章量の作文が完成したのだ!
「そういうことや。人間がなんか書いたり言うたりするときは、毎回必ず同じ内容になるとは限らん。せやから、それをなんぼも重ねていけば、おのずと多くの言葉になるっちゅー事や」
「なるほどなあ」
同じ人が同じ意見を言う時、全く同じ言葉を使うかといえば、必ずしもそうでない。ならば、それらの言葉を並べれば、おのずと文字数は膨れ上がるということだ。
「あとは明日や。もう一回ぜんぶを読み直して、細かいところを見直せば完璧や。今日はここまでにしせんと。そろそろ寝る時間やで」
アンドロマリウスの言葉にハッとする。那須が時計を見ると、もう寝る時間だ。
「なんか安心したら、一気に眠くなってきた……おやすみ……」
那須は大きなあくびをすると、電気を消して眠りについた。
「ああ、おやすみな」
アンドロマリウスも寝る挨拶をして、画面の中の布団に潜り込んだ。
――――――――――
翌日の放課後。那須は、いつもの4人で公園に集まり、遊んでいた。
「那須くん、作文はどうなったの?」
「へへ、もう完成間近だぜ」
堀巣の問に、那須は自信満々に答える。
「いいなあ。俺なんかまだ全然書けてないぞ」
「オレもだ。あの噂が本当だったらなあ……」
友だちの『噂』という言葉に、那須は興味を持った。
「ん?なんだその噂って?」
那須はぐいぐいと話を聞き出しに行く。
「ああ、隣のクラスのやつから聞いたんだけど、作文を自動で書いてくれるゴーストライターがいるんだって」
「ゴーストライター?」
「そう。SNSの書き込みから文章の癖とかを読み取って、まるで本人が書いたみたいな作文を書いてくれるんだってよ。しかもタダ」
「タダ?」
いつもはうまい話に飛びつく那須も、今回ばかりは怪しむ。自分が作文をすでに書けているからという余裕もあったが。
「いや、それって、いかにも怪しい話じゃねーか?」
「怪しいと言われば怪しいんだよな。だって、呪われるっていう噂もあるし」
「呪われるだあ?」
友だちの『呪われる』という言葉に、那須は疑問を感じた。
「その、隣のクラスのやつの話なんだけどさ。夢遊病みたいになって、寝てるはずの時間なのにどこかに電話したりメール送ったりするようになるんだってさ」
「まさにゴーストっていうわけか。……でも、ま、噂なんてそんなもんだろ?」
結局、那須の興味は疑問だけで終わった。だが、堀巣は違った。
「その噂、僕はちょっと気になるかな」
「え?でも堀巣はとっくに作文は書けてるんだろ?」
「うん、そうなんだけどね。ただ、呪いっていうのが、気になるんだ」
堀巣の顔は真剣そのものだ。噂を噂で終わらせようとはしないという意思すら感じるほどに。
「……もしかして、オバケとか怖いのか?」
「ち、違うよ!そんなんじゃないよ」
那須の疑問を堀巣は真正面から否定する。だが……。
「わっ!」
堀巣の背後に忍び寄った友だちが大きな声で驚かす!
「うひゃあ!」
突然、背後から友達に驚かされると、堀巣は声を上げて飛び上がった。
「ははは!やっぱり怖いんじゃないか!」
「ち、違うよ!もう!」
堀巣は顔を真赤にして荷物を片付ける。
「僕はもう帰るからね!」
そのまま、急ぎ足で帰ってしまった。
「……ちょっとやりすぎちゃったかな」
驚かした友だちは反省する。
「まあ、明日一緒に謝れば許してもらえるだろ」
那須は、驚かした友だちの肩を叩き、大したことないさといいたげに笑う。
「そうかな?」
「そうだよ!」
堀巣はなんだかんだいって、謝れば許してくれる。長い付き合いの那須には、なんとなくそういうことがわかるのだ。
――――――――――
……翌日の朝、堀巣をからかった友達は、堀巣に誤っていた。
「なあ、昨日は悪かったよ。ごめんな」
「い、いんだよ。僕も昨日はちょっと怒っちゃったし……」
いつものように謝罪を素直に受け入れる堀巣。だが、今日の堀巣の様子は、なにかおかしい。
「どうしたんだ?堀巣?」
心配した那須が声を掛ける。
「な、なんでもないよ!……ほら!先生が来るよ!」
堀巣の声に合わせるかのように先生が教室に入ってきて、ホームルームが始まった。
(堀巣のやつ、どうしたんだ?)
那須は疑問に思ったが、これ以上問いただすのも悪いと思って深く追求しないことにした。
……だが、その日は一日中、堀巣の様子がおかしかった。まるで、なにかにおびえているかのようだった。
(さすがに見捨てちゃおけねえぜ!)
あまりにも心配になった那須は、放課後に2人で一緒に帰ることにした。
「なあ、今日はどうしたんだ?」
なるべく人気の少ない道に入ったところで、那須は話を切り出した。
「じ、実は……」
堀巣は周りを見て人気がない事を確認し、那須の手を取り、引っ張った。
「おいおい」
那須は引っ張られるままに、人気のない裏路地へと入っていった。
堀巣は、不安そうな顔で、那須を見つめる。
「な、なんだよ……」
「あ、あのさ、昨日話してたゴーストライターなんだけど……。ぼ、僕、呪われちゃったのかもしれないんだ」
「え?」
「昨日の話を聞いて、気になって登録してみたんだけど、そしたら、ほら、これ」
堀巣は、自分のスマホを見せる。そこには、『お前を見ているぞ』というメッセージのメールが表示されていた。しかも、差出人は堀巣本人のメールアドレスだ。
「自分で自分に送ったわけじゃねえよな」
「そ、そんなわけないじゃない!そ、それに、これも!」
堀巣は今度は、自分のSNSアカウントのホーム画面を見せる。そこには、昨日深夜に投稿されたメッセージが表示されている。
そのメッセージには、一見すると何の不自然もない。他の誰かにアカウントを乗っ取られたとかそういうわけではなく、パッと見ただけでは、本人の投稿のように見える。
「僕は昨日は、早く寝たんだ。こんな時間に勝手に……」
堀巣は、話したことで緊張の糸が途切れたのか、涙を流した。
「どうしよう。僕、怖いよ……」
崩れ落ちそうになる堀巣の肩を、那須は両手で支える。
「安心しろ!俺がなんとかしてやる!」
「なんとかって、どうやって……?」
「そ、そりゃあ、なんとかだよ!これだってサイバー係の役目だ!」
那須は、アンドロマリウスに頼ろうと思っていた。だが、さすがに悪魔のUSBメモリのことは、たとえ親友だとしても話す訳にはいかない。
「とにかく、俺に任せろ!」
「うん、ありがとう……」
――――――――――
「おい!アンドロ!調べてほしいことがあるんだよ!」
家に帰って早々、那須はパソコンを立ち上げてアンドロマリウスを呼び出した。
「なんやいきなり?」
那須は、作文ゴーストライターの事を話した。
「なるほどなあ」
「もしかしたら、悪魔のUSBメモリが絡んでるかもしれないだろ?」
「せやったとしても、何の目的があってそんなことするんやろう」
悪魔のUSBメモリは、単体では動くことができない。誰かがパソコンに差し込んで、ソフトウェアを起動しなければならない。当然、なんらかしらの目的(主に悪用)があって、利用されるのだ。
「目的はわからないけど、でも、まだ悪い事してないってことは、悪いことをする前に止められるかもしれないってこどだろ?」
「まあ、せやな。よっしゃ!ものは試しや。調べてみよか!」
「ああ!」
那須は”Andromalius.goe”のアイコンにマウスカーソルを合わせ、起動した!
<CYBER DIVE!!>
「……よっと!」
一瞬の光に目を閉じた那須が、ゆっくりと目を開くと、そこは、いつものサイバー空間だった。どこまでも続くようなダークブルーの床に、グリッド線。ふわふわしたマスコットのアンドロマリウスが、那須を迎え入れる。
「まずはいつもの変身だな」
「なんや、今日はやけに積極的やな。さては、だんだんクセになってきたとちゃうんか?」
「ちげーよ!堀巣のやつが困ってるんだ。とっとと助けてやりてえんだよ」
那須は変身
「
『パパラ~♪パパラパッパラ~♪』
謎のBGMが鳴り響く!那須の身体が謎の光に包まれ、変身バンクだ!
全身が光のシルエットになり、服が弾け飛ぶ!代わりに装着されるのは、ゲームのキャラクターそのままのような、デフォルメされたミニスカートのナース服!
ボサボサだった髪の毛はナースキャップで纏められる!足元には純白のオーバーニーソックスと、ちょびっとだけかかとが高い靴が装着される!
そして小さなポシェットが襷掛され、最後に巨大な万能検診ステッキが、その手に握られた!
『パパラパ~♪パパン♪』
BGM終了!
「うわっと!スカートが!」
デジナースのスカートがふわりとめくれそうになり、反射的に抑える。デジナースのアバターによって那須の身体能力は飛躍的に上昇する。だが、これ以上の布面積はデータ量が大きすぎて、本体の那須がフリーズしてしまうのだ。だいぶミニスカードではあるが、これでも限界まで詰め込んでるのである。
「なんや?誰も見てへんのに恥ずかしいんか?」
「アンドロが見てるじゃねーか!」
アンドロマリウスの声に、デジナースは顔をちょっと赤くする。
「ほんなら、ワイに見られんように、はよ終わらせんとなあ。まずは堀巣のSNSアカウントを調べるで」
アンドロマリウスが言うが早いか、デジナースとアンドロマリウスは光となって、サイバーグリッド空間上空に飛び上がり、SNSのサーバーに向かって飛び出した!
――――――――――
「さ、到着したで」
「なんか、すげーな……」
その空間は、無数のレールが地上と空中に縦横無尽に張り巡らされていた。所々に駅があり、様々なユーザーの投稿メッセージが運ばれていく。
「それぞれの駅が1つのアカウントっていうわけやな」
「えーっと……、堀巣の駅はどれだ?」
那須があたりを見渡すが、それらしきものは見当たらない。
「待ってな、探してみるわ……、お!あれや!」
アンドロマリウスが遠く上の方を指差すと、デジナースの左腕ディスプレイに、その駅が拡大表示された。駅に表示されているアイコンは、堀巣のSNSアカウントのアイコンだ。
「よっしゃ!いくぞ!」
再びデジナースとアンドロマリウスは光となって、堀巣の駅に移動した。
堀巣の駅からは、メッセージ投稿履歴が残っている。それを見たアンドロマリウスは、1つの違和感に気がついた。
「なんやこれ?おい、デジナース、ちょいとこれ見てみい」
「ん?別に変な投稿内容じゃないけど……」
「ちゃうちゃう、内容やのうて、送信元や」
「送信元?」
堀巣のメッセージ投稿履歴の送信元を見ると、3種類の送信元があった。1つはスマホ、1つはパソコンからの書き込みだろう。だが、もう1つは?
「なんだこれ?」
デジナースは首をかしげる。
「たしか、堀巣のやつが呪われた言うてたんは、昨日辺りやったな。見てみい、この怪しい送信元からの投稿は、一昨日以前には無いんや。たぶん、その作文ゴーストライターを使うた時に、なんやいらんもんまで認証してしもうたんやろな」
SNSアカウントと連動するサービスの中には、そのサービスにSNSの内容を参照させるだけではなく、SNSに書き込みを行う権限を与えるものもある。悪質なものは、書き込み権限を利用して、宣伝やなりすましを行うこともある。
「ってことは、その送信元を探ればいいってことか?」
「せや!行くで!」
二人が送信元へ飛ぼうとした、その時だ!
「どこに行くのかな?」
背後から聞き覚えのある声!
「その声は……デジポリス!」
デジポリスと呼ばれたその魔法少女装少年は、コスプレ衣装のような光沢のあるミニスカート婦警魔法少女服を着ている。頬には星マークのペイントがあり、腰には
「なんやまた横取りしようっちゅー魂胆かいな!?」
「横取り?フフフ、それは僕の獲物だよ」
そう言うとデジポリスは、無数のレールを走る電車の1つへと飛び乗った。
「逃がすかい!追ったれ、デジナース!」
「おう!」
デジナースも後を追い、別の電車の屋根に飛び乗った!
三次元的に縦横無尽に敷かれたレール状を走る無数の列車は、投稿内容のデータ量によって、車両の大きさとスピードが異なる。様々な速度で往来する電車を、デジポリスは次々と飛び移っていく。
「逃がすか!」
デジナースも負けじと追いかける。一進一退の追いかけっこの末に、ついに同じ電車の屋根に飛び乗った。
「追いついたぞ!デジポリス!」
「ふーん、さすがだね」
デジポリスは慌てずに2本の
「こっちのほうが長くて有利だぞ」
「それは、どうかな?」
先に仕掛けたのはデジポリス!トンファーを回転させながらデジナースに突撃する!
「そんなもん!」
デジナースはトンファー攻撃をステッキで弾く。だが、もう1本のトンファーが、デジナースに叩き込まれる!
「ぐあっ!」
たまらずデジナースはバックステップし、ステッキを構え直す。
「いくらキミのほうがリーチが長くても、手数は僕のほうが多いみたいだね」
余裕の笑みでじわじわと間合いを詰めるデジポリス。
「ちくしょう!なんで俺たちのジャマをするんだ!」
「なんでって言われても、バルバトスがそうしろって言ったからさ。僕がこの世界を守るんだって言われたら、そうするさ。キミだって、そうだろう?」
「ぐっ……」
デジナースは言葉が詰まる。
(俺だって、アンドロマリウスに言われたからやっているだけなんじゃねーのか?)
「ほら、キミだって、僕と同じなんでしょ?それに、嫌々やってみるみたいにも見えるけど?」
「そ、それは……」
デジナースの表情が曇る。このまま、意気消沈して、撤退してしまうのか?
「なーに迷っとるんや!友達を助けるのがお前の目的ちゃうんか、デジナース!」
「アンドロ……。そうだ。おれはアイツを、助けたいんだ!」
デジナースの目に、再び光が満ちる。
「ふーん。でも、その気力もどこまで持つかな?」
デジポリスが再び攻撃を仕掛ける!
デジポリスの右トンファー攻撃!
「この!」
デジナースはステッキを斜めに構えて受け流す。すかさずデジポリスが左トンファー攻撃!
「くっ!」
デジナースはしゃがみ込み回避。そのまま立ち上がる勢いを利用して下からステッキを振り上げる!デジポリスはとっさに両トンファーをクロスガード!そのまま鍔迫り合いのように両者の力が拮抗する。
(あれ?なんでメーターが?)
デジナースは、左腕ディスプレイに表示されているメーターに気がついた。デジナースは敵の攻撃を受けたり、あるいはステッキで攻撃を与えることにより、敵のデータを集めることができる。メーターが満タンになったとき、アンドロマリウスの力によって、敵の正体が判明し、同時に特効薬も作られるのだ!
だが、それはあくまで、悪魔のUSBメモリに対してだけだ。デジポリスはバルバトスの力を借りてはいるが、悪魔のUSBメモリそのものではない。つまり……。
「お前!ニセモノだな!?」
「な、なんだって?」
デジポリスが動揺する。そのスキを突いて、デジナースがデジポリスを突き飛ばした!
「アンドロ!こいつは悪魔のUSBメモリだ!」
「そういうことなら遠慮はいらんな!こっちも悪魔の力を使うたれ!」
アンドロマリウスの声に、デジナースが襷掛けの小さなポシェットから、1つのUSBメモリを取り出した。それは、これまで戦いで封印したUSBメモリの1つだ。
「いくぞ!」
デジナースはフラウロスのUSBメモリを左手に握りしめ、権限変更
「ソロモンの封印を受けた大いなる悪魔よ!我が命令に従い、その権能を振るえ!
呪文に答えるように、左手に持つUSBメモリが輝き出す!そのまま、右手に持つステッキのUSB差込口にセット!起動
「
左腕ディスプレイに"Vepar.goe"の文字が表示され、ステッキからウェパルが現れた!
「お呼びですか?」
優雅に舞う人魚のようなマスコット、ウェパルが答える。
「ウェパル!頼んだぞ!」
「はいな」
返事をしたウェパルは、忽然と姿を消した。
「ふーん、消えちゃったみたいだけど?いいの?」
デジポリスはフーセンガムを膨らませながらデジナースの方を見る。
「へっ!今にわかるさ!」
今度はデジナースの方がステッキを構えて突撃!
「フン」
デジポリスはその攻撃をあっさりとトンファーで弾く。デジポリスは弾かれた勢いを利用してそのまま回転!さらにパワーを増した横薙ぎを放つ!
「くっ!」
デジポリスはこれをかろうじてガード。だが、デジナースの狙いはそれにある。たとえ防がれても、相手に触れることで、解析メーターは溜まっていくのだ。
「このまま押し切ってやる!」
そのまま鍔迫り合いに持ち込み、メーターを一気にためていく!
「そうはさせないよ!」
デジポリスは一旦バックステップで距離を取る。横には並走する電車が1つ。すぐ先で線路の方向は分かれている。
(あれだ!)
デジポリスは一旦逃げるため、その電車に乗り移ろうとジャンプする。
「かかったな!」
デジナースはニヤリと笑う。
「なんだって!?」
デジポリスが乗り移ろうとした電車の屋根から突然太いワイヤーのようなものが飛び出し、デジポリスを屋根に縛り付ける!
「な、なにこれ!?」
「ホホホ、どないでっか。私の幻は?」
戸惑うデジポリスの声に答えたのは、電車に姿を変えたウェパル!ソロモン72柱のUSBメモリ第42位、ウェパル!その力は、海域の支配と船の幻!ソロモンはこの力を持って、『看破されないコピーサイト』を作り出したのだ!
投稿データ電車に見せかけたそれは、その実、デジポリスを捕まえるために電車に姿を変えたウェパルそのものだったのだ。
「さあ、正体を見せてもらうぜ」
身動きができなくなったデジポリスの体に、デジナースのステッキが当てられる。解析メーターが最大まで急速チャージ!
「来たで来たでー!」
光りだすアンドロマリウス!そのフラッシュがデジポリスを照らす!
「オオーッ!」
……そして、その光が晴れた時、デジポリスの姿は、1匹の豹へと変わった!
「あれがやつの正体、オセや!」
ソロモン72柱のUSBメモリ第57位、オセ!その力は、人格すらコピーする変身能力!ソロモンはこの力を持って、『完全なSNSアカウントコピー人格』を作り出したのだ!
「ぐるるる、よくワシの正体を暴いたのう……。じゃが、そう簡単には捕まらへんぞ!」
変身によって拘束を解かれたオセは、強靭な足腰で他の電車に飛び乗った!
「ほなさいなら!」
「そう簡単に逃げられると思いはってるん?」
「なんじゃって!?」
オセの飛び乗った電車から、再び太いワイヤーのようなものが飛び出し、オセを屋根に縛り付ける!
「なにゃこれは!?」
「ここいら一帯の電車は、ぜんぶ私の幻や」
ウェパルの能力、海域の支配は、広域を支配する時に真価を発揮する。もはや、見渡す限りの電車は、全てがウェパルの支配下にあるのだ!
「ぬう、不覚や……」
「さあて、観念するんだな!」
電車を飛び移ってきたデジナースのステッキが光を放ち、巨大な注射器へと変化した!
「ハッ!ワシの負けや!好きにしたらええ!」
覚悟を決めたオセに、注射針が迫る!
「喰らえ!キュア・アンド・コンパーション!」
巨大な注射がウェパルに突き刺さり、プログラムが書き換えられていく!そして!
「オオーーーーーッ!」
オセは爆発!
爆発したフラウロスからUSBメモリが飛び出し、デジナースの手元に転がってきた。現実世界のUSBメモリは、ただの抜け殻になり、あとは所有者をデジナースにするだけだ。デジナースは左手にウェパルのUSBメモリを握り、所有者変更
「偉大なる魔術師ソロモンよ!正義の悪魔アンドロマリウスの名において、今ひととき、その力を我に授け給え!封印されし悪魔を我が配下に!
デジナースが呪文を唱えると、オセのUSBメモリに『デジナース』の名前が刻まれた。
「負けた者は買った者に従うのが、悪魔のルールや。これからよろしゅうな」
USBメモリからオセの声が聞こえ、静かになった。
「よっしゃ!帰ろうか!」
「うん!」
デジナースが頷くと、二人の体は光となって、サイバー空間から消えていった。
</CYBER DIVE!!>
「……はっ!」
那須が目を開くと、そこは自分の部屋だ。サイバー空間から元の世界に戻ってきたのだ。
「これでやっと3本目や。先は長いなあ……」
デスクトップマスコットみたいになっているアンドロマリウスが、やれやれといった感じでぼやく。
「でも、とりあえずこれで、堀巣の怖がってる原因は解決できたし、良かったよ」
「せやな。オセの魔法もこれで消えたさかい、噂はほんまもんの噂だけになってしもうたわけや」
ソロモン72柱の悪魔の力は、本物の魔法だ。悪魔のUSBメモリを回収し、所有者がデジナースとなれば、その魔法の効果もある程度は消える。作文ゴーストライターの噂は残るが、もうオセによるSNS投稿は無くなるだろう。
「さっそく明日にでも報告しないとな」
「ああ、堀巣のやつも、きっと喜ぶで」
――――――――――
一方その頃、どこかの物陰でスマホの画面を見る少年がいた。スマホ画面には、ふわふわしたマスコットのバルバトスが写っている。
「まさかデジポリスの弱点がオバケやったとは、ワテにもわかりませんでしたわ」
「し、しかたないじゃないか……怖いものは怖いんだもん……」
「ま、今回はアンドロマリウスのやつにくれてやりましたが、次はそうはいきまへん。そこのところ、分かっとりますやろな?」
「わかってる。次のUSBメモリは僕が手に入れるよ」
デジナースの戦いをこっそり見ていた本物のデジポリス。そろそろ読者のみんなはデジポリスの正体がわかったかな?次回もお楽しみに!
◆アンドロマリウスの『教えて!サイバーセキュリティ!』のコーナー◆
どーも、アンドロマリウスや!いやあ、オバケは怖いなあ。でも、もっと怖いのは、オバケのフリして人を騙す人間かもしれへんのや。ほんで、今回のテーマはこれや!
『面白そうな連携サービスにはご用心』
SNS連携サービスはぎょーさんあるなあ。便利そうなやつから楽しそうなやつまで、さまざまや。せやけど、本当にそれが無害なサービスかは、気をつけなあかんところやで。
書き込み権限があると、自分がSNSを見てない間に、勝手にいらん投稿をするかもしれへん。もしかしたら、勝手に他のサービスに連携されたりして、どんどん膨れ上がるっちゅーこともあるんや。
せやから、パッと見で面白そうなサービスがあっても、よく調べてから使うんやで。気をつければ防げる被害もあるんやからな。ほなな!
『サイバーセキュリティ魔法少女装少年デジナース』
第4話:謎の作文ゴーストライーター!
おわり
◆次回予告◆
アンドロマリウスや!今回の悪魔のUSBメモリもなかなかの強敵やったな。どうにか勝てたし、この調子で本物のデジポリスにも勝てるといいんやけど。あ、そうそう、仮想通貨って知っとるか?次回は仮想通貨のお話やで。興味がある人もない人も、楽しみにしとってな!
次回!
『サイバーセキュリティ魔法少女装少年デジナース』
第5話:激流の迷路を突破せよ!
次もガッツリ捕まえたるで!
◆また見てね!◆
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