第3話:謎のライバル?デジポリス登場!

「あーあ、ゴールデンウィークだってのに、こんなに宿題出されちゃ、やってらんないよな」

4月も終りの、大型連休を目前に控えた放課後の教室。中学2年の少年、那須なすは、いつもの数倍の宿題が書かれたプリントを眺めて、がっかりする。


「しかたないよ。去年もそうだったじゃない」

親友の堀巣ほりすが声を掛ける。どうしようかと悩む那須に対して、堀巣の方は、すでに宿題のスケジュールをきっちりと立てていた。


「うわ!相変わらず堀巣はキッチリやってんな!」

「那須くんがキッチリしてないだけと思うけどな」

「そ、そんなことねーぞ!俺には、最初に一気にやっちまうっていう計画がだな……」

慌てる那須を、堀巣はじっと見て言った。


「その計画、去年はうまくいったんだっけ?」

「うっ……」

堀巣のジト目が那須に痛く刺さる。


「うるせー!今年はきっちりやってやらあ!今から帰ってすぐに片付けてやるからな!見てろよ!」

那須は啖呵を切ると、荷物を鞄にしまい、そそくさと家に帰った。


「やれやれ」

元気に走る堀巣を見送ると、堀巣はゆっくりと余裕を持って帰路についた。


――――――――――


場所は変わってここは那須の部屋。

「……ぬわー!飽きた!」

家に帰ってから1時間も経たないうちに、那須はペンを置いていた。


「なんや、もう終わりか?」

ぐったりした那須に声をかけるのは、パソコンの画面の中で動き回る、ふわふわしたマスコットみたいな、アンドロマリウスだ。アンドロマリウス?そう、かの有名なソロモン72柱の悪魔72位の、アンドロマリウスなのだ。


数年前のこと、天才的なハッカーが現れ、コンピュータ技術に革新をもたらした。まるで魔術師のような手腕から、ソロモンの異名で呼ばれていたほどだ。そのソロモンが、姿を消したという噂がある。


ソロモンの技術は、なんと本物の魔法で、72柱の悪魔をそれぞれ72本のUSBメモリに封印していたのだ。そして、その72本のUSBメモリは、ソロモン失踪と同時に世界中に散らばり、放っておけば悪用されることになる。


72柱最後のアンドロマリウスは、他のUSBメモリを回収するセーフティアプリとして作られた。誰かが手にとって起動した時、サイバースペースにダイブして他のUSBメモリを回収するというのが主な機能だ。そして、偶然にもそれを手に入れてしまったのが、那須というわけだ。


那須とアンドロマリウスは、すでに2本のUSBメモリを回収した。残りは69本、長い道のりである。だが、今の那須にとって、そんなことよりも宿題のほうがだいじだった。


「だってさー、めちゃくちゃいっぱいあるんだぞ」

「何ページくらいや?」

「えーっと……」

アンドロマリウスの言葉に、那須は問題集のページをめくりながら数える。


「やっぱりな。そんなんじゃ終わるもんも終わらへんで」

アンドロマリウスが呆れてため息をつく。

「どういうことだよ」


「ええか?ゴールの見えないマラソンほど辛いもんはないで?もう大変やっちゅー時こそ、まずは全体の量を確認して、ゴールを見つけるんや。ほんなら、問題集を進めるたびに、残り何ページっていうのが見えて、気も楽になるもんやで」


「うーん……」

アンドロマリウスの言葉に、那須は考える。

「確かに、堀巣はいっつも計画立ててるって言ってたしな。よし、やってみるか!」

那須は一度宿題の手を止め、スケジュールを立てることにした。


那須はまず、スケジュール管理ソフトを起動する。開く全く使っていないのかというくらい、見事に真っ白なスケジュールが画面に広がる。

「お前、まさかスケジュールとか立てたこと無いんか」

「う、うるさいな!今日から俺はスケジュールを立てる生活になってやる!」

「まったく、勢いだけは一人前やな」

アンドロマリウスの言葉を受けて、那須は俄然やる気になった。

「ふん!俺だってやれることを証明してやるぜ!」


さっそく。那須はすべての宿題のページを数える。

「えーっと、全部で36ページか。えっと、提出日まで7日あるから、36割る7で、5ページとちょっとだから、今日6ページやって、あとは毎日5ページやればいいのか」


「おいおい、ちょっと待った!」

スケジュールを記入しようとした那須を、アンドロマリウスが止める。

「え?計算間違ってないよな?」


「そうやあらへん。締切の日まで毎日勉強する予定でええんか?」

「え?スケジュールってそうやって立てるんじゃないのか?」

那須はそれが当たり前じゃないのかといいたげな顔でアンドロマリウスを見る。


「ええか?スケジュールは提出日までの日数やなくて、実際に勉強できる日数をまず考えるんや」

「それって同じじゃないのか?」

「同じやあらへん。例えば、ほれ、遊びに行く日とか、考えんでもええんか?」

アンドロマリウスの言葉に、那須は悩む。


「うーん……あ!明後日ばあちゃんに泊まりに行くんだった!」

「そういうことや。ばあちゃんに泊まりに行くいうたら、旅行みたいなもんやで。旅行に宿題なんか持ってきたくないやろ」

アンドロマリウスの言葉に、那須は深く納得する。


「そりゃそうだよな……。ってことは、勉強できる日は5日しかないから、36割る5で、7ページとちょっとか。だから、今日8ページで、あとは毎日7ページやらないといけないのか」

「そのとおりや!」

那須の計算に、アンドロマリウスが画面内で大きな丸を作る。


「毎日勉強できるとは限らんし、休みも必要やからな。そういうところも考えて、予定を立てんとアカンで」

「おう!」

那須は真っ白なスケジュールに、宿題をやるページ数を記入していく。


「これでできたぜ!」

出来上がったスケジュールに、那須は満足してうなずいた。


「後は必要な時間やな。今日は学校から帰ってきて、どんだけ終わったんや?」

「えっと、3ページくらいかな」

アンドロマリウスは時計を見る。那須が帰ってきてから宿題に飽きるまで、1時間くらいかかっていた。


「お前が問題集を得スピードは、だいたい1時間で3ページっちゅーことになるな。つまり、あと2時間もあれば、今日の分の8ページが終わるっちゅーことや。今からガッツリやれば、晩飯までに終わるかもしれへんで!」


アンドロマリウスの言葉を聞いて、那須に希望が湧いてきた。

「よっしゃ!なんだか、できそうな気がしてきた!」

「その意気や!後は、明日から毎日3時間、宿題をする時間を作ればいいだけや。早起きすれば昼飯前には終わって、午後はずっと遊べるで」


午前中に終わらせれば午後は遊べる。その言葉が、那須は嬉しかった。毎日宿題に追われて遊ぶ暇もないと思っていたが、そんなことはないとわかったからだ。


「そうだな。なんか、出来る気がしてきた」

那須はやる気を取り戻し、再び問題集に取り掛かった。


――――――――――


……それから数日、那須は宿題を計画通りに進めた。時には間に合わず、翌日以降の予定を修正したりして、どうにか宿題を進めていった。


そして、ゴールデンウィークも明日で終わりという日。

「よーし!これで今日の分は終わりだ!」

問題集は残すところ8ページとなっていた。


「最初の予定より1ページ遅れてるけど、ま、はじめてのスケジュールにしてはうまく行ったほうやろ」

アンドロマリウスの言葉は本心からのものだった。スケジュールがスケジュール通りにうまくいくことなど殆ど無い。重要なのは、最初に余裕を持ったスケジュールを立て、常にスケジュールを修正しながら完了にたどり着くことなのだ。


「へへ、俺だってやればできるんだよ」

いつもだったら終わらない宿題に焦っていた那須だったが、今はもう焦ることはなくなっていた。

「ハハハ、せやな!見直したで!」


……その夜のこと。ご飯を食べてお風呂にも入った那須は、パジャマ姿でパソコンに向かい、オンラインゲームを立ち上げる。

「どや?やることやってから遊ぶんも、悪ないやろ?」

アンドロマリウスが得意げに言う。


「そうだな……ん?あれ?」

那須がオンラインゲームにログインするやいなや、首をかしげる。

「どないしたんや?」


「いや、なんか、お金が増えてる気がする」

那須が見るのは、オンラインゲームのゲーム内通貨の値だ。

「増えてるっちゅーても、そんな大金ちゃうやろ?せやったら、気のせいやって」

アンドロマリウスは気楽だ。


「うーん、ま、いっか。損してるわけじゃないし」

那須も、とりあえず気のせいだということにした。そしてしばらく遊んだ後、その夜は眠った。


……デジナースの出番も無く、平和なゴールデンウィークが過ぎようとしていたが、事件は最終日の朝に起こった。


――――――――――


いよいよゴールデンウィーク最終日の朝!

「さあて、朝飯も食ったし、最後の宿題やっつけちまうか!」

朝食を終えた那須が部屋に戻ってきた、その時だ。

「大変やで!」

アンドロマリウスが画面の中でぴょんぴょん跳ねて騒ぐ!


「なんだよ。どうしたんだ?」

「とにかく、昨日やっとったゲーム起動せえ!」

急かすアンドロマリウスを、那須は不思議そうに見る。


「いや、でも、まずは宿題やらないと……」

「ええから!そんなん後や!悪魔のUSBメモリの気配や!」

悪魔のUSBメモリ!その言葉に、那須は反応する!


「そういうことなら、話は別だ!」

那須はオンラインゲームを起動すると、すぐに違和感に気がついた。

「あ!やっぱり!お金が減ってない!」

ゲーム内通貨が、昨日の夜にゲームを起動したときと同じ値だ。だが、それ以外のデータは、昨日ゲームを終えたときと変わっていない。使ったアイテムは減ったままだし、買った武器は装備している。ゲーム内通貨だけが、減っていないのだ。


「これ見てみい」

アンドロマリウスは、webブラウザに、オンラインゲームの公式ページを表示する。すると、『緊急メンテナンスにつきサービス停止中』の文字が表示されている。


「え?でも、それじゃあ、なんでログインできるんだ?」

サービス停止中ならば、ログインできるわけがない。そう、通常の手段ならば。


「……間違いない。悪魔のUSBメモリや。ゲームのサーバーで動いとる!」

アンドロマリウスの力は、正義を司る千里眼。その権能によって、悪魔のUSBメモリが本格的に動いていることを関知したのだ。


「急ぐんや!ゲームのサーバーを完全にシャットダウンされたら、もう痕跡を追えへん!今すぐサイバーダイブや!」

「ああ!わかった!」

那須は”Andromalius.goe”のアイコンにマウスカーソルを合わせ、起動した!



<CYBER DIVE!!>



「……よっと!」

一瞬の光に目を閉じた那須が、ゆっくりと目を開くと、そこは、いつものサイバー空間だった。どこまでも続くようなダークブルーの床に、グリッド線。

「だいぶ慣れてきたな」

ふわふわしたマスコットのアンドロマリウスが、那須を迎え入れる。


「よっしゃ、なにはともあれ変身や」

「うう……しかたねえ。とっとと終わらせてやる!」

那須は変身呪文コードを実行する!

封印解除アンジップ権能開放ジー・オー・イー!アンドロマリウス!」


『パパラ~♪パパラパッパラ~♪』

謎のBGMが鳴り響く!那須の身体が謎の光に包まれ、変身バンクだ!


全身が光のシルエットになり、服が弾け飛ぶ!代わりに装着されるのは、ゲームのキャラクターそのままのような、デフォルメされたミニスカートのナース服!


ボサボサだった髪の毛はナースキャップで纏められる!足元には純白のオーバーニーソックスと、ちょびっとだけかかとが高い靴が装着される!


そして小さなポシェットが襷掛され、最後に巨大な万能検診ステッキが、その手に握られた!


『パパラパ~♪パパン♪』

BGM終了!変身完了コードサクセス!那須は魔法少女装少年デジナースとなった!


「どうにもまだこのカッコだけは慣れないぜ……」

デジナースはスカートを抑えてもじもじする。デジナースのアバターによって那須の身体能力は飛躍的に上昇する。だが、これ以上の布面積はデータ量が大きすぎて、本体の那須がフリーズしてしまうのだ。だいぶミニスカードではあるが、これでも限界まで詰め込んでるのである。


「そのうちこっちも慣れてくるさかい、心配あらへん!」

「慣れたら慣れたで心配だよ!」

アンドロマリウスの声に、デジナースは顔をちょっと赤くする。


「ほんなら今日も、とっとと終わらせるで!光の速さでひとっ飛びや!」

アンドロマリウスが言うが早いか、デジナースとアンドロマリウスは光となって、サイバーグリッド空間上空に飛び上がり、悪魔のUSBメモリ反応に向かって飛び出した!


――――――――――


……光が着地し、デジナースとアンドロマリウスの姿に戻る。

「よっしゃ!到着や!」

「ここは……カジノ?」

デジナースとアンドロマリウスが着地したのは、ラスベガスの豪華なカジノのような場所だ。


「あれ、へんやな?これ、お前がやっとったオンラインゲームのカジノじゃないんか?」

アンドロマリウスが不思議そうにデジナースに聞く。


「カジノとか行ったことないんだよ。あんまり興味なかったし」

デジナースはさらりと流した。

「あー、せやったんか……」

アンドロマリウスとしては、デジナースに地の利があるかと期待していたのだが、完全に肩透かしを食らってしまった。


「ほなしゃーないわ。道案内してもらおうと思とったけど、地道に回っていくしかないな」

「こんなことなら一回くらいカジノに来ておけばよかったな……」

デジナースとアンドロマリウスは、カジノの中を歩いていく。


「それにしても、プレイヤーだらけだな」

デジナースの言う通り、カジノは大賑わいだ。スロットの大当たりに叫ぶ全体チャットするプレイヤーもいれば、ルーレットで負けてチップを失い悪態をつく禁止ワードを撒き散らすプレイヤーもいる。

「まあ、こういうのが好きなやつは、ぎょーさんおるからな」

「ふーん……俺にはよくわかんねえや」


……二人はしばらくカジノを探索したが、それといって怪しいモノは見当たらなかった。

「アンドロ、本当にここに悪魔のUSBメモリがあるのか?」

「あるに決まっとるわ!ワイの反応は本物やで!」

「そうは言っても、なんにも見当たらねえぞ?」

「なんやて?」

2人がケンカしそうになったその時だ。2人の背後から、謎の声が聞こえた。


「アンドロマリウスの言う通り。ここには、悪魔のUSBメモリがあるよ」


「だ、誰だ!」

デジナースが後ろを振り返る!そこには、もうひとりの魔法少女装少年の姿が!


「はじめまして。僕はデジポリス。悪魔のUSBを狩る者さ」

その魔法少女装少年、デジポリスは、コスプレ衣装のような光沢のあるミニスカート婦警魔法少女服を着ている。頬には星マークのペイントがあり、腰には取っ手付き警棒トンファーと拳銃、そして手錠が装備されている。


「デジポリスやて!?」

「アンドロ、知ってるのか?」

「いや、なんも知らへん!!」

アンドロマリウスの自信満々な返答に、デジナースはずっこける。


「知らないのかよ!」

「ああ、知らへん!……ただ、悪魔のUSBメモリを回収するんは、ワイの役目や。ワイ以外に、そんなやつはおらんと思ったんやけど……」

「それについては、ワテから説明しましょか」

デジポリスの背後から、弓矢を持つ小さな狩人みたいなマスコットが飛び出した。


「な、なんやお前は!?」

「どうも、アンドロマリウスはん、お久しぶりです。ワテです、バルバトスです」

「バルバトスやて!?」


ソロモン72柱のUSBメモリ第8位、バルバトス!その力は、有能な軍隊と探索力!ソロモンはこの力を持って、『攻撃プログラムへのカウンターハック』を作り出したのだ!


「左様です。ワテは、アンドロマリウスはんとは別に、独自に動かさせてもらっとります。悪魔のUSBメモリ回収は、アンドロマリウスはんだけにお任せするには少々荷が重いと思うとりましてな。ワテも回収しようと思っとりまして」


バルバトスの言葉に、アンドロマリウスは怒った!

「なんやて!?ワイの仕事をかっさらおうっちゅーんか!?これはワイの仕事や!」


「いやいや、そんなけったいなこと。……ただ、ワテらのほうがこの仕事、向いてると思いましてな」

プンスコするアンドロマリウスとは対極的に、バルバトスは冷静だ。


「そんなことあるもんかい!こっちはもう2本もUSBメモリを回収してるんやで!」

「ほう、2本も!ははは、いやあ、流石でんな」

バルバドスは大仰な身振りでわざとらしく驚きを表現する。


「何がおかしいんや?ええ?」

「いえいえ、こっちはまだ3本しか回収できてへんのに、『もう2本も』とは。いやあ、慎重な捜査に、頭が下がりますわ、ほんま」

バルバドスは大仰な身振りでわざとらしく頭を下げる。


「な、なんやと!……いや、待て待て!どうやってお前が悪魔のUSBメモリを回収したんや!そんな機能は無いはずやで!?」

悪魔のUSBメモリの権限を書き換える機能は、アンドロマリウスにしか備わっていない。では、バルバトスは一体、どうやって3本ものUSBメモリを回収したというのか?


「まあまあ、そんなに熱くならんといてください。アンドロマリウスはんなら知っとったと思っとったんですが、ワテは狩人でおますさかい、”狩り”は得意中の得意なんですわ」

「なんやと……?」


「ま、見とってください。ここはワテが収めますんで。慎重なアンドロマリウスはんは、悪魔のUSBメモリも見つけるのに、えらい慎重な捜査をしてはるようですして、ここはワテが先に目星をつけて、答え合わせをご教授願いましょか」


先に目星をつける、その言葉にアンドロマリウスはカチンと来た。

「なっ!?せやったら、お前は悪魔のUSBメモリを誰が使うてるんか、わかってるっちゅーんか!?」


アンドロマリウスは、自分の能力で、『悪魔のUSBメモリ所有者がこのゲームのサーバーに接続している誰かである』ということはわかっていた。だが、それがどのプレイヤーなのかまでは、絞りきれていなかった。


アンドロマリウスの能力は、あくまで、悪魔のUSBメモリの能力発動を感知するものである。動いたのがサーバー内となると、『どこから動かしているか』までは、簡単にはつかめない。


「まあまあ、そう慌てんといてください……」

バルバトスはなだめるように言うと、スロットを遊ぶ一人のプレイヤーを指差した。

「デジポリス、アイツや。確保したったれ」


「うん」

デジポリスは頷くと、腰かにつけられた手錠を手に取り、くるくると回しながら、バルバトスの指差したプレイヤーに近づく。そして……。


「容疑者、確保」

淡々と、手錠をかけた。


「な、何だよお前は!?」

手錠をかけられたユーザーが動揺する。

「お前を不正プログラム使用の現行犯で拘束する。このサーバー内で不正なデータ変更が行われていたことは、調べがついている」


「ま、待て!確かに、今このゲームはちょっとおかしいかもしれないけど、それが俺のせいだってことには……」

「ほんなら、これを見ても、そう言えますか?」

バルバトスが何らかのデータを表示し、説明する。


「このゲームは最近、ランダムなタイミングでゲーム内通貨のデータだけが少し前の時間に戻されるっちゅー、奇妙な事態が起こっとります。でも、不思議なもんで、そのデータ巻き戻しで、あんたの通貨が減った記録があらへんのや」


「ぐっ……!」

「まあ、大人しくモノを渡しせば、ワイらも悪いようにはせえへんさかい。ま、痛めつけられるのがお好みみっちゅーことやったら、それでもええでっせ?」

バルバトスの脅しに合わせて、デジポリスは腰の取っ手付き警棒トンファーに手を伸ばす。


「わかった!わかった!」

手錠をかけられたユーザーが手をぐっと握って開くと、そこには1つのUSBメモリが!間違いなく、悪魔のUSBメモリだ!


「アリガトね」

デジポリスはそれをサッと受け取ると、上空に投げ、腰の拳銃を抜き、狙いを定める!


「狩人の悪魔バルバトスの名において、攻撃者を狩り仕留める。一時的超越権限スー・ドゥ強制終了キルナイン!」

攻撃呪文コードと共にデジポリスの拳銃から弾丸が放たれ、USBメモリを直撃する!


「ゲーーーーーッ!」

悪魔のUSBメモリは悲鳴を上げ、バラバラになった!


「なっ!なんちゅーことをしとるんやバルバトス!」

驚いたのはアンドロマリウスだ。


「何て、悪魔のUSBメモリの回収でんがな」

バルバトスは、なにか問題でもあるのかと言いたげにサラリと答えると、粉々になったUSBメモリを不思議な力で吸い寄せ、袋に詰めた。


「お、お前は、仲間を痛めつけたんやぞ!」

「せやけど、殺してはおまへん。まだ生きとりますがな。戻って修復したら、ワテに力を貸してくれるっちゅーことですわ」


「アンドロ、どういうことだ?」

二人の会話がいまいち理解できないデジナースが、アンドロマリウスに説明を要求する。


「デジナース、こいつはな、悪魔のUSBメモリのプログラムを、強制終了しよったんや」

アンドロマリウスの顔には、これまで見たことがないくらいの冷や汗が流れている。

「え、でも、俺達だっていつもそうしてるんじゃ?」


「いいや、ちゃうで。ワイらは安全な方法でプログラムを終了しとる。終了する手順をしっかり守ってな。せやけど、あいつらはちゃう。どんな状態であろうと、強制的にプログラムを終了するんや」

「それって、何が違うんだ?」


「あいつらの方法やと、プログラムが壊れる可能性がある。まあ、絶対に壊れるっちゅーことやないんやけど、場合によっては、だいじな記録が失われてしまう可能性だってあるんや」


プログラムの強制終了は、保存していないファイルを破損させる可能性がある。万が一、処理の途中で強制終了が発生すれば、中途半端に書き換えられたデータが残り、二度と正常なデータに戻せないことも起こりうるのだ。


「ってことは、デジポリスがやってることは……」

「せや。ワイら悪魔のUSBメモリをぶっ壊しとるんや」

2人は、バルバトスとデジポリスを見る。


「ま、僕はバルバトスの言う通りに、罪を犯した悪魔を捉えてるだけなんだけどね」

デジポリスはフーセンガムを膨らませながら、少々だるそうに言った。


「左様です。それに、アンドロマリウスはんのやり方では、全部集めるまでどれだけの時間がかかるんかっちゅーことですわ。今ん所、アンドロマリウスはんが2本、ワテらがこれで4本。これ以上は言わんでもお分かりでっしゃろ」


「せ、せやかて……」

アンドロマリウスはなにか言い返そうかと思ったが、言葉に詰まった。

「ま、お話はまた今度にでも。そろそろこのサーバーがシャットダウンされますんで、お先に失礼します。行くで、デジポリス」

「うん」

バルバドスの声に、デジポリスは豊穣を変えずに答える。そして2人は光となって、サイバー空間から消えていった。


「しもた!悪魔のUSBメモリが止まって、無理やり動かされとったサーバーがシャットダウンされる!」

アンドロマリウスは、してやられたといった状況だ。だが、とにかく今は、ここを脱出しなければならない。


「ワイらもとりあえずログアウトするで!」

「あ、ああ……」

デジナースが頷くと、二人の体は光となって、サイバー空間から消えていった。



</CYBER DIVE!!>



「……はっ!」

那須が目を開くと、そこは自分の部屋だ。サイバー空間から元の世界に戻ってきたのだ。


「……なあ、あいつらはいったいなんなんだ?」

突然の乱入者、しかも、自分と同じ魔法少女装少年だ。……那須はまだ状況が飲み込めていない。

「ワイも突然のことでな。その、まだ上手いこと説明できへんのや。それに、あいつらに持ってかれてもうた悪魔の正体も分からずじまいやったし……」


「正体がわからないと、なにかマズイのか?」

「あいつらのことや。手に入れた悪魔のUSBメモリの力を使うてくるはずや。まあ、そこんところはワイらと一緒やな。ほんで、次に合う時は戦うことになるかもしれへんし、正体を知っとけは多少は対策もできるかもしれへんやろ」


「確かに……」

だが、アンドロマリウスが悪魔の正体を知る方法は、データ収集と分析だ(あるいは、悪魔の名前を知るかだ)。現状、これ以上のデータ収集は不可能であり、あのUSBメモリの正体を知ることは困難であると言わざるを得ない。


一方、バルバトスとデジポリスがどうするかとなれば、おそらく、尋問によって聞き出すことになる。仲間にするのではなく、手下にするのだから、非情な手段も躊躇なく使うだろう。


……那須とアンドロマリウスがしばらく沈黙した後、アンドロマリウスが口を開いた。

「考えを整理させてほしいんや。ちょっと時間をくれへんか」


「ああ、わかったよ。……そう言えば宿題もやらなきゃだし」

那須は宿題があることを思い出し、そっちを先に片付けてしまおうと考えた。


「そやで。こっちのことはひとまずワイに任せて、お前はお前のやることに集中することや」

そう言うとアンドロマリウスは、画面の中から姿を消した。持てる処理能力をすべて使って、これからのことを考え始めたのだ。


「アンドロ……」

久しぶりに画面から消えるアンドロマリウスを見る那須の表情には、どこか物悲しさがあった。


――――――――――


……一方その頃、どこかの物陰でスマホの画面を見る少年がいた。その画面の中には、バルバトスと、ボロボロになった悪魔の姿が写っている。


「取り調べは順調?」

「ええ感じですわ。こいつ、もうワテらに協力する言うてますで。な?せやろ?」

少年の声に、スマホ画面内のふわふわしたマスコットのバルバトスが答える。


「あんさんらの力になりますさかい、かんにんしてください……」

画面の中では、ボロボロになった悪魔がやっとの思いで返事をする。その返事に、バルバトスは満足そうだ。


「……ねえ、そこまでやる必要てあるのかな」

「ん?どないしはりました?」

少年の問に、バルバドスが答える。


「その、ちょっとやりすぎじゃないかな」

少年の不安そうな声に、バルバトスは堂々と答える。

「何を言うとりますんや。こいつらは罪を犯しましたんやで。罪には罰。当然のことをやっとるまでですさかい、気にすることはありまへん」


「そう……」

少年は一応は納得したようだが、しかし、少し心に引っかかるようなものを感じていた。


(本当に、これでいいのかな……)



悪魔のUSBメモリを独自に回収する、謎の魔法少女装少年デジポリス!その思惑はいったい。そして、相棒のバルバトスの目論見とは……?

次回へ続く!



◆アンドロマリウスの『教えて!サイバーセキュリティ!』のコーナー◆


どーも、アンドロマリウスや!なんかいきなり悪そうなやつが出てきよったな。デジポリスにバルバトス、これからも目が離せんで!それはそうと、今回のテーマはこれや!


『強制終了に備えよう!』


デジポリスはプログラムを強制終了して強引に悪魔のUSBメモリを回収しとったけど、強制終了は危険なんや。データが消えたりしてしまうかもしれないさかいな。


自分で強制終了しなくても、例えば、頑張って長い時間ずっと絵を描いたりしていると、いきなりソフトが強制終了してしまうこともあるんや。まあ、こればっかりはしゃーないわな。


せやから、こまめに保存するのは重要なことやで。こまめに保存しとけば、急な強制終了でも、データは保存したところまで戻るだけや。


こまめな保存を疎かにすると、何時間も頑張ったことがパーになってしまうことも……ああ、考えただけで背筋が寒くなるわ!ほなな!


『サイバーセキュリティ魔法少女装少年デジナース』

第3話:謎のライバル?デジポリス登場!

おわり


◆次回予告◆

アンドロマリウスや!デジポリスにバルバトス、厄介な敵が現れおったで。悔しいけど、ワイらより強いみたいやし、こりゃワイも一段と頑張らなアカンな!頑張る知恵バ、那須のやつ、作文で悩んどるみたいやけど、苦手な作文も書けるように頑張るみたいやし、ワイも応援してやらんとな!

うやら悪魔の予感がするで!


次回!

『サイバーセキュリティ魔法少女装少年デジナース』

第4話:謎の作文ゴーストライーター!

次もガッツリ捕まえたるで!

◆また見てね!◆

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