第2話:フィッシングサイトにご用心!
「それじゃあ、今年度のUSBメモリを配りますね」
先生がそう言うと、クラスの生徒を一人ずつ名前を呼び、USBメモリを配布していく。
インターネットが世界を覆い尽くし、大人から子供までがいつでもネットワークに気軽にアクセスできるようになったこの時代、多くの中学校では、学校で使用する個人用のUSBメモリを配布している。学習の一環として、ネットワーク上のデータやり取り以外の手段も用いることを学ぶためだ。
「はーあ……」
先生がSUBメモリを配る光景を、なにかモノ言いたげに眺めているのは、”サイバー係”の
昨日の放課後、せっせとクラス全員分のUSBメモリに名前シールを貼ったのは那須なのだ。
「でも、ま、今はそれどころじゃねえしな……」
那須の手には、すでに自分の名前シールが貼られたUSBメモリが握られていた。一足早く昨日の作業が終わった後に自分のモノとしていたのだ。
那須は、昨日の名前シール貼り付け作業中に、奇妙なマークのついたUSBメモリを見つけ、それに自分の名前シールを貼り、自分のものとしたのだが……。
「ねえ、那須くん」
「ん?どうした
話しかけてきたのは、隣の席の少年、堀巣だ。
那須と堀巣は友達で、いつも一緒に遊んだりしている。
「それ、ずっと見てるけど、なにかあったの?」
堀巣は、那須の持つUSBメモリを指差した。
「え?あ、いや!別になんにも!」
慌てる那須だが、もちろん、本当のことなど言えるわけがない。
まさか、那須が持っているUSBメモリが、あの伝説のハッカー、ソロモンが作った72柱のUSBメモリの一つだなんて……。
「ふーん……。それならいいけど。ほら、ボクも一応サイバー係だからさ」
「え?堀巣もサイバー係だったのかよ。だったら昨日はなんで手伝ってくれなかったんだよ」
「それは、ほら、那須くんが遅刻してきたからだよ。先生が一人でやってもらうって言ってたからね」
「なんだよくっそー。ずりーぞ」
「いや、新学期早々寝坊して遅刻してくる那須くんが全部悪いと思うけど……」
「ぐぅ」
堀巣の言葉はもっともだ。那須はもはやぐぅの音しか出なかった。
――――――――――
その日の放課後、那須と堀巣は、他の友達数人と一緒に公園に集まってゲームをしていた。いつものように那須のキャラクターは回復支援が得意な白衣の天使だ。一区切りついたところで、堀巣が話しだした。
「そう言えば僕、昨日、変な夢を見たんだよね」
「ん?変な夢?」
「うん。那須くんのキャラみたいなのが出てきたんだけど、なんていうか、顔が那須くんっぽかったっていうか……」
「ぶっ!?」
那須は思わず吹き出した。他の友達は大笑いだ。
「ぎゃはは!なんだよそれ!」
「ははは!俺達は出てこなかったのか?」
「うーん、みんなが出てきたかどうかはよく覚えてないんだ。ただ、僕が炎の檻みたいなところに閉じ込められていて、それで、那須くんが助けに来てくれた感じだったことは覚えているんだけど」
その言葉を聞いて、もしやと思った那須は、急いで帰る支度を始めた。
「あれ?どうしたんだ那須?」
「お、俺、今日は早く帰らないといけないんだよ!それじゃあな!」
那須は、別れの挨拶も手早く済ませ、大急ぎで家に帰った。
――――――――――
家に帰った那須は、早速自分の部屋に行き、パソコンの電源を入れる。
「おかえり。今日はなんかおもろいことあったか?」
デスクトップで動くふわふわしたマスコットみたいなアンドロマリウスが、那須を迎える。アンドロマリウス?そう、かの有名なソロモン72柱の悪魔72位の、アンドロマリウスだ。
数年前のこと、天才的なハッカーが現れ、コンピュータ技術に革新をもたらした。まるで魔術師のような手腕から、ソロモンの異名で呼ばれていたほどだ。そのソロモンが、姿を消したという噂がある。
ソロモンの技術は、なんと本物の魔法で、72柱の悪魔をそれぞれ72本のUSBメモリに封印していたのだ。そして、その72本のUSBメモリは、ソロモン失踪と同時に世界中に散らばり、放っておけば悪用されることになる。
72柱最後のアンドロマリウスは、他のUSBメモリを回収するセーフティアプリとして作られた。誰かが手にとって起動した時、サイバースペースにダイブして他のUSBメモリを回収するというのが主な機能だ。そして、偶然にもそれを手に入れてしまったのが、那須というわけだ。
那須は昨日、アンドロマリウスと出会い、いきなりサイバー空間にダイブし、偶然にも堀巣が持っていた62位のフラウロスを回収したばかりだ。
「おい、アンドロ!昨日のこと、堀巣は覚えてるのか!?」
「アンドロて……いや、まあ好きに呼んでくれはってええんやけど。記憶のことなら安心せえや。ワイらが悪魔を回収すると、悪魔に関するデータは全部きれーに元通りになるし、記憶もごまかされるんや」
「記憶をごまかすって、それってつまり、夢だったことにするとか?」
「せやな。まあ、あとは別の記憶に置き換えたりとかいろいろあるけど、それがどないしたんや」
「ああ、実は……」
那須は、堀巣が見た夢のことを話した。
「なるほどなあ。ま、ワイの魔法がうまくいっとるっちゅーことや。なんも心配いらへんやないか」
「うーん、そうなんだけど、ちょっと気になることがあって」
那須の表情は少し深刻だ。
「なんや?どないしたんやそんな顔して?」
「その……俺のあのカッコのこと、ネットの世界で有名になったりするのかなって……」
「ははは!なんや!有名になりたいんか?」
「逆だよ逆!あんなカッコ、見せられるわけ無いだろ!」
ケラケラ笑うアンドロマリウスを、那須は本気で睨みつける。
「冗談やて冗談!そんな睨まんといてな!安心せい。よっぽどのことがない限り、USBメモリを使ったやつにしか姿を憶えられることはないし、万が一そうなったとしても、顔を見てお前やと気がつくことはあらへん。そういう魔法なんや」
「それなら、まあ、いいけど」
アンドロマリウスの言葉に、那須はホッとする。
「あー、そういえば、パスワード変えなきゃいけないんだった」
安心した那須は、SNSの管理者からメールが来ていたことを思い出した。なんでも、しばらくログインパスワードを変更していないか変えろということだ。
「めんどくさいけど、ほっとくとログイン不可能にするっていうし……」
那須はメールのリンクからパスワード変更ページに移動し、新しいパスワードを入力した。
「……よし、これでいいだろ」
面倒事を終えて一安心した那須であったが、一週間後、まさかの事態に巻き込まれるとは、予想すらしていなかった……。
――――――――――
そして一週間後の放課後!
「うわあ!なんだこれ!?」
那須は自分のSNSアカウントを見て驚いた!
『レバインのサングラス大特価!!』『レバインのサングラス大特価!!』『レバインのサングラス大特価!!』『レバインのサングラス大特価!!』『レバインのサングラス大特価!!』『レバインのサングラス大特価!!』『レバインのサングラス大特価!!』
「なんだこれ!?俺こんな事書いてないぞ!?」
だが、驚いたのは那須だけではなかった。
『レバインのサングラス大特価!!』
「レバイン?」
『レバインのサングラス大特価!!』
「私のアカウントが乗っ取られた!」
『レバインのサングラス大特価!!』
「うわー!俺もだ!」
教室中が大騒ぎだ!
「那須くん、ちょっとこれ見てよ」
混乱する那須に話しかけてきたのは堀巣だ。
「ほら、僕たちだけじゃない。全国あちこちでレバインの宣伝が」
那須が見せたスマホの検索画面には、知っているアカウントや知らないアカウントがいろいろ混ざって、どれもこれも同じような宣伝を書き込んでいた。
「ってことはもしかして……」
「うん、パスワードの大量流出だ。アカウントが完全に乗っ取られたわけじゃない。その証拠に、ほら」
堀巣は自分のSNSアカウントの画面を見せる。
「偶然ついさっきパスワードを変えたんだ。だからほら、僕のアカウントは宣伝の書き込みが無い」
「そういうことなら、とりあえずパスワードを変えればいいんだな……おい!みんな!」
混乱する教室の中、那須は教壇に登り、みんなに声をかけた!
「今すぐパスワードを変えるんだ!乗っ取られていないやつも、念のために変えるんだ!アカウントが完全に乗っ取られる前に!」
「わ、わかったよ!」
「サイバー係の那須がそう言うんなら……」
生徒たちが次々とパスワードを変えていく。……しばらくすると、那須のクラスのアカウントから宣伝の書き込みが止まった。
「よし!堀巣!いや、みんな!他のクラスにも伝えてくれ!俺も行く!」
「うん!」
「わかった!」
「よし、行こう!」
教室からみんなが一斉に飛び出し、他のクラスに向かう!
だが、那須だけは行き先が違った。大急ぎで家に向かって走る!
「呼び出しってことはもしかして……」
那須のスマホには、1件の通話着信があった。発信者はアンドロマリウスだ。迷わず通話を開始!
「おう!72柱のUSBメモリの反応があったで!」
「もしかして、レバインの宣伝に関係ある?」
「せや!とにかく早う戻ってこい!ワイの本体は今、お前の家のパソコンの中に居るんやからな!」
「わかってるよ!」
那須は、USBメモリに入っていたアンドロマリウスを、自宅のパソコンに移していたのだ。学校で使用するUSBメモリに変なデータが入っていたらマズイことになるので、そうせざるを得なかったわけだ。
――――――――――
那須は息も切れ切れで家にたどり着き、パソコンを起動する!
「ぜぇー、ぜぇー、ただいま……」
「よっしゃ、時間がないで!逃げられんうちにすぐにサイバーダイブや!」
アンドロマリウスの急かす声に、那須は”Andromalius.goe”のアイコンにマウスカーソルを合わせ、起動した!
<CYBER DIVE!!>
「うわあ!」
一瞬の光に目を閉じる那須!そして目を開くと、そこは、一週間目に訪れたのと同じサイバー空間だった。どこまでも続くようなダークブルーの床に、グリッド線。
「二回目だけど、まだ慣れないな……」
「ま、そのうち慣れるようになるで」
ふわふわしたマスコットのアンドロマリウスが、那須を迎え入れる。
「さ、それじゃまず変身やな」
「え!?またあのカッコにならなきゃいけないのか!?」
「そらそうやで!もうお前のカッコは、あのカッコに決まってしもうたからなあ」
「うう……」
「この前はワイがずっと
「バカにすんな!それくらい覚えてるよ!ちくしょう見てろよ!」
那須は半ばやけっぱちで変身
「
『パパラ~♪パパラパッパラ~♪』
謎のBGMが鳴り響く!那須の身体が謎の光に包まれ、変身バンクだ!
全身が光のシルエットになり、服が弾け飛ぶ!代わりに装着されるのは、ゲームのキャラクターそのままのような、デフォルメされたミニスカートのナース服!
ボサボサだった髪の毛はナースキャップで纏められる!足元には純白のオーバーニーソックスと、ちょびっとだけかかとが高い靴が装着される!
そして小さなポシェットが襷掛され、最後に巨大な万能検診ステッキが、その手に握られた!
『パパラパ~♪パパン♪』
BGM終了!
「く、くそ!どうにもなんか恥ずかしいっつーか……」
デジナースはスカートを抑えてもじもじする。デジナースのアバターによって那須の身体能力は飛躍的に上昇する。だが、これ以上の布面積はデータ量が大きすぎて、本体の那須がフリーズしてしまうのだ。だいぶミニスカードではあるが、これでも限界まで詰め込んでるのである。
「心配いらへん!デジナースの姿を見れるもんは居ないんや!そこんところは安心して勘弁せえ!」
「ま、まあ、そうだよな……」
「ほんで、今日はちいと遠いで。光の速さでひとっ飛びや!」
アンドロマリウスが言うが早いか、デジナースとアンドロマリウスは光となって、サイバーグリッド空間上空に飛び上がり、悪魔のUSBメモリ反応に向かって飛び出した!
――――――――――
……光が着地し、デジナースとアンドロマリウスの姿に戻る。
「よっしゃ!到着や!」
「到着って……ここ、海!?」
デジナースとアンドロマリウスが着地したのは、嵐の大海原に浮かぶ船の上だ。それも、ただの船でない。まるで中世の海賊船のような木造の帆船だ。
「どういうことだよ!?なんで海に!?」
デジナースは驚きつつも周りを見渡す。前回のサイバーダイブの時は、現実世界とそっくりなダークブルーグリッドの世界だった。だが、これは明らかにダークブルーグリッドではない!
「気いつけえや。今回の悪魔は完全に覚醒しとる。自分の領域を作ったんや」
「領域?」
「せや。悪魔のUSB言うたかて、もともとはホンマモンの悪魔や。つまり、悪魔ごとに得意な権能がある。海っちゅー事は、ある程度の種類までは絞れるが……」
「ええい!この前みたいに俺が正体を暴けばいいんだろ!やってやる!」
考え込むアンドロマリウスに対して、デジナースは行動派だ!
「とは言ったけど、どうすりゃいいんだこれ?」
「まずは周りを調べんことには……あかん!隠れろ!」
アンドロマリウスの声に、デジナースはとっさに物陰に隠れた!
「パルー……」
デジナースが物陰からこっそり覗くと、そこには釣り竿を海に投げる海賊の姿があった。
「なにしてるんだろう?」
「シーッ!よう見とけ!」
二人は息を潜めて海賊の姿を見張る。
少しすると、海賊の竿に反応があった!
「パル!パルパル!」
海賊は釣り竿を一気に引っ張ると、何かが釣れた!
「あ!あれ!」
海賊が釣り上げたモノに、デジナースは見覚えがあった。いつも使っているSNSの有名アカウントのアイコンだ。
「やっぱりな。こりゃ、フィッシングサイトや……」
アンドロマリウスが小声で囁く。
「フィッシングサイトって?」
「なんや、知らんのかいな?」
キョトンとするデジナースに、アンドロマリウスが説明する。
「ええか?フィッシングサイトっちゅーんは、SNSのログイン画面とかパスワード変更画面とかそっくりの画面を作って、間違ってアクセスしたユーザーの情報を奪う手口のことや。魚を釣るみたいに、餌に食いついたやつの情報を釣り上げるっちゅーわけやな。どっかから漏れたメールアドレス使うて『はよパスワード変えなアカンで』みたいなメールを送るんが、よくあるパターンや」
アンドロマリウスの説明に、デジナースはもしやと思った。
「もしかして、この前のパスワード変更しろってメールは……」
「せや。どうやら、そのせいでお前のアカウントもレバインの宣伝に使われてもうてるようやな」
「そ、そんな!ちゃんとアドレスは確認したのに!」
デジナースはうろたえる。フィッシングサイトは本物とまったく同じURLを使用することはできないため、紛らわしいURLを使ってごまかすことが多い。つまり、怪しいメールが来たとしても、リンク先にアクセスする前にURLを確認すれば、フィッシングサイトにアクセスすることを避けられる。だが……。
「72柱のUSBメモリの悪魔なら、それも突破できるんや」
「そんなことできるの?」
「ああ、なんと言っても、ホンマモンの魔法やさかいな。URLの偽装も可能っちゅーこっちゃ」
アンドロマリウスの言葉に、デジナースは改めてソロモン72柱のUSBメモリの力を思い知る。
「それじゃあ、どうすれば……」
「こんなことが二度と起こらんように、原因となった悪魔を封印するんや!どこかに本体が居るはずさかい、そいつを見つけてしばいたるんや!」
「よ、よーし!やってやる!」
アンドロマリウスの威勢のいい後押しに、デジナースが元気な返事をする!だが、その声が、海賊に聞こえてしまった!
「パル!?」
釣りをしていた海賊が二人の声に気づき、二人の方を振り向く。その顔はドクロ!スケルトンの海賊だ!
「うわあ!」
デジナースが気がつくが、時すでに遅し。スケルトンは腰からサーベルを引き抜いて、デジナースたちに襲いかかってきた!
「パルパルーッ!」
「しもた!こうなったら正面突破や!」
「ちくしょう!やってやるぜ!」
デジナースは万能診断ステッキを構える。戦闘態勢だ!
「パルーッ!」
「えいや!」
スケルトンのサーベル攻撃をステッキで弾き、そのまま頭にステッキを一撃叩き込む!
「パ、パルーッ!」
デジナースの攻撃を受けてバランスを崩した海賊はそのまま海に転落!
スケルトンは海に向かって落ちながら、キラキラしたダークブルーのデジタルモザイクとなって消えていく。同時に、デジナースの左腕ディスプレイに表示されているメーターが上昇する。
「よし!この調子でやってやる!」
デジナースは敵の攻撃を受けたり、あるいはステッキで攻撃を与えることにより、敵のデータを集めることができる。メーターが満タンになったとき、アンドロマリウスの力によって、敵の正体が判明し、同時に特効薬も作られるのだ!
「デジナース!後ろや!」
アンドロマリウスの声にデジナースが振り返る。いつの間に3隻の海賊船が、いや、幽霊船が!デジナースの船を囲んでいる!
「こんなにたくさん!?」
「「「「「パルパルーッ!!」」」」」
サーベルを構えたスケルトンたちはターザンのようにロープを使い、一斉にデジナースの船に乗り込んだ!その数5人!
「どれだけ大勢居ても、ザコはザコだ!」
デジナースがサーベルスケルトンに飛びかかろうとしたその時だ!
「ぐぎゃ!」
ふいにデジナースが転倒!
「うわ!なんだこれ!?」
デジナースの右足には、釣り糸が巻き付いていた。糸は、デジナースを取り囲む幽霊船から伸びている。サーベルスケルトンに目を奪われている間に、絡め取られたのだ!
「い、いつのまに!?」
立ち上がって体制を整えるデジナース。だが、さらに多くの釣り糸がデジナースに伸びる!
「「「パルーッ!」」」
あっという間に雁字搦めにされてしまった。
「くそう!」
どうにか腕は動かせるが、このままではまともに戦うことなどできない!
「あかん!ワイも掴まってもーた!このままじゃ逆にデータを釣られてしまう!」
アンドロマリウスも釣り糸に捕まり、毛玉のように甲板を転がる。
「「「「「パル……」」」」」
サーベルスケルトンたちがじわじわと近づいてくる。もはや、万事休すか?
否!
「デジナース!ポシェットの中のUSBメモリを使うんや!」
「USBメモリ……?」
アンドロマリウスの声に、デジナースが襷掛けの小さなポシェットの中を左手で弄る。するとたしかに、1つのUSBメモリがあった!それは、先日の戦いで封印したフラウロスのUSBメモリだ。
「そいつをステッキに差し込んで実行するんや!フラウロスのやつを使うたれ!」
「わかった!」
デジナースはフラウロスのUSBメモリを左手に握りしめ、権限変更
「ソロモンの封印を受けた大いなる悪魔よ!我が命令に従い、その権能を振るえ!
呪文に答えるように、左手に持つUSBメモリが輝き出す!そのまま、右手に持つステッキのUSB差込口にセット!起動
「
左腕ディスプレイに"Flauros.goe"の文字が表示され、ステッキからフラウロスが現れた!
「お呼びでっか?」
燃え盛る炎のような目をした豹のようなマスコット、フラウロスが答える。
「フラウロス!お前の力が必要や!実行権限はデジナースから許可されとる!やってまえ!」
「ほいきた!」
アンドロマリウスの声に、フラウロスは意気揚々が答え、力を開放する!
「この船には何人たりとも通さへんで!」
フラウロスが声を上げるとともに、船の周りを巨大な火柱が囲む!
「「「パル!?」」」
火柱によってデジナースに絡んでいた釣り糸が切断された!ソロモン72柱のUSBメモリ第64位、フラウロス!その力は、すべてを焼き尽くす炎!ソロモンはこの力を持って、『絶対に破られないファイアーウォール』を作り出したのだ!
「よし!これで動ける!ありがとうフラウロス!」
フラウロスのファイアーウォールにより、デジナースの船に繋がっていたアクセスは強制切断!釣り糸の拘束が解けたのだ!
「グルル……。ワイの力思い知ったか。せやかて、もうこの船に乗ってしもてるんは、どうにもならへんで。そこんとこはよろしくな」
「任せろ!おりゃあ!」
デジナースは改めてステッキを構え、一番近いサーベルスケルトンに向かって飛びかかる!
「パルッ!」
迎え撃つサーベルスケルトンの大振りな攻撃!だが、デジナースの姿はそこにはない!
「後ろだ!」
「パルッ!?」
サーベルスケルトンが驚いて振り返るよりも早くステッキの一撃が頭蓋骨を吹き飛ばす!
「パルーッ!」
吹き飛ばされた頭蓋骨はもう一体のサーベルスケルトンの体に命中!そのままバラバラと崩れる!
「あと3体!」
デジナースは左腕ディスプレイを確認する。さっきの釣り糸攻撃を受けたせいもあってか、解析メーターはすでに半分以上溜まっている。
「パルーッ!」
デジナースの背後からサーベルスケルトンが横薙ぎの攻撃!
「しゃがめ!」
アンドロマリウスの声にデジナースはしゃがんで攻撃を回避!そのまま後方足払いでサーベルスケルトンを転倒させる!
「えい!」
デジナースは転倒したサーベルスケルトンの頭蓋骨をゴルフスイングで吹き飛ばす!
「パルー……」
「あと2体……うわ!!」
突然船が大きく揺れる!体制を崩しそうになるデジナースだが、残る2体のサーベルスケルトンはそれ以上に大きくバランスを崩す!
「ロープを使うんや!」
アンドロマリウスの声に、デジナースが上を見る。マストからぶら下がるロープが大きく揺れ、デジナースに近づいてくる!
「おりゃあ!」
デジナースはロープを掴み、そのままターザンのように高速移動!残る2体のサーベルスケルトンをそのまま蹴り飛ばした!解析メーターも最大だ!
「よっしゃ!ええでデジナース!フラウロスもご苦労さんや」
もはや船上に敵は居なくなり、これ以上はファイアーウォールを解除して、他の船に移動しなければならない。
「ほな、用があったらまた呼んでな」
フラウロスの姿が消え、船を囲んでいたファイアーウォールも消えた。いつの間にか船は島の入江に到着しており、横には巨大な幽霊船の親玉が!
「あ!あれ!」
デジナース巨大なが幽霊船の甲板に立つ、キャプテンハットを被ったスケルトンを指差す。
「よっしゃ!正体あばいたる!」
光りだすアンドロマリウス!そのフラッシュが巨大な海賊船を照らす!
「パルーッ!」
……そして、その光が晴れた時、海賊船は消え、先端にくっついていた人魚の銅像が海に落ち、まるで生きているかのように海面上に飛び上がった!
「あれがやつの正体、ウェパルや!」
ソロモン72柱のUSBメモリ第42位、ウェパル!その力は、海域の支配と船の幻!ソロモンはこの力を持って、『看破されないコピーサイト』を作り出したのだ!
「ようけここまで来よりましたな。でも、私はそう簡単に捕まりまへんのやで?」
人魚の姿を取ったウェパルが、デジナースたちを一瞥すると、大海原に向かって逃げ出そうとした。
「いや、お前もここでデジナースに捕まるんや!」
アンドロマリウスの声に答え、デジナースは船の大砲をウェパルに向ける!
「そんなもん、当たるわけがおまへんがな!」
「さあ、それはどないかな?やったれデジナース!」
「発射!」
余裕のウェパルに向かって、大砲から弾丸が発射される!
「そんなんさらっと避けて……なんやて!?」
ウェパルは大きく動揺した!打ち出された大砲の弾は空中で巨大な網になり、見渡す限りの海を覆い尽くしたのだ!
「そ、そんなアホな!?」
「お前の得意な幻は見きったったわ!どんだけ広い海に見えても、実際の所、ここは狭っ苦しい空間や。それさえ分かればこっちのもんやで」
「し、しもたわ!」
ウェパルが網に捉えられると、大海原の幻は消え去り、体育館くらいの広さのダークブルーグリッド空間になった。これが、この空間の本当の広さだったのだ。
「それじゃあ最後に、一発ぶっとい注射、行ったれ!」
「おう!」
デジナースのステッキが光を放ち、巨大な注射器へと変化した!
「堪忍や!注射は嫌やねん!」
網に絡まりジタバタするウェパルに、注射針が迫る!
「喰らえ!キュア・アンド・コンパーション!」
巨大な注射がウェパルに突き刺さり、プログラムが書き換えられていく!そして!
「パルーーーーーッ!」
ウェパルは爆発!
爆発したウェパルからUSBメモリが飛び出し、デジナースの手元に転がってきた。現実世界のUSBメモリは、ただの抜け殻になり、あとは所有者をデジナースにするだけだ。
「ほな、最後の仕上げや。失敗したらアカンで」
「わ、わかってるよ」
デジナースは左手にウェパルのUSBメモリを握り、所有者変更
「偉大なる魔術師ソロモンよ!正義の悪魔アンドロマリウスの名において、今ひととき、その力を我に授け給え!封印されし悪魔を我が配下に!
デジナースが呪文を唱えると、ウェパルのUSBメモリに『デジナース』の名前が刻まれた。
「さ、これでお前もデジナースのモンになったっちゅーことや」
「しゃあないわ。私も力を貸したります」
USBメモリからウェパルの声が聞こえ、静かになった。
「よっしゃ!帰ろうか!」
「うん!」
デジナースが頷くと、二人の体は光となって、サイバー空間から消えていった。
</CYBER DIVE!!>
「……はっ!」
那須が目を開くと、そこは自分の部屋だ。サイバー空間から元の世界に戻ってきたのだ。
「今回もご苦労さんやったな」
デスクトップマスコットみたいになっているアンドロマリウスが那須をねぎらう。
「うん、でも、これでもう大丈夫なのかな?」
「心配だったら、あのメールを見てみい」
那須は、1週間前に届いていた、SNSのパスワード変更要請メールを確認した。
「あ!リンク先のURLが変わってる!」
試しにリンク先にアクセスしてみると、ページは消滅しており、どこにもつながらなかった。
「え?どういうこと?」
「ソロモン72柱の悪魔の力は、ホンマモンの魔法や。ウェパルを回収したときに、その魔法が消えたっちゅーことや。メールに記載されていたURLすらも、ウェパルの幻の効果やったわけやね」
「ふーん。それなら安心だ。それに、今回のUSBメモリは遠くの誰かが持ってたみたいだし、俺の正体もバレないだろうしな」
那須はホッとする。
「なんや?やっぱり有名になりたいんと違うんか?」
「もう!」
「ハハハ!冗談や!わかっとるがな!」
――――――――――
一方その頃、どこかの物陰でスマホの画面を見る少年がいた。その画面に写っているのは……デジナース!
「ふうん、デジナース、ね……。どう思う?」
「ご安心を。アイツらなんぞ、あなたに比べればどうってことないですわ」
少年の声に、スマホ画面が切り替わり、ふわふわした謎のマスコットが答える。
「フフ、そうだよね。僕はもう、悪魔のUSBメモリを3本も回収してるんだから」
「その意気です。そろそろいてこましたりますか?」
「いや、でも……フフ、そうだね」
少年は小さな笑みを浮かべる。
「そろそろ、僕の姿を見せてもいい頃かな」
デジナース以外にもUSBメモリを回収する人物が!この少年、果たして敵か味方か……。次回、その姿を現す!
◆アンドロマリウスの『教えて!サイバーセキュリティ!』のコーナー◆
どーも、アンドロマリウスや!デジナースも呪文をバシッと決めたったな!いやあ、カッコ良かったで!ほんで、今回のテーマはこれや!
『そのメール、本当に運営からのメール?』
那須はSNSのパスワードを変更せいっちゅーメールが届いて、URLを確認しとったよな?まあ、今回は悪魔の魔法によってそれもごまかされとったわけやけども、実際はまったく同じURLっちゅーことはあらへん。
ドットの位置が違うとか、微妙な差があるもんや。それに、メールのアドレスにも注目やね。URLもメールアドレスも、パット見で公式っぽいと思ってぼんやりしとると、フィッシングサイトに繋がってしまう恐れがあるんや。
怖いところだとクレジットカードの情報までまるごと持ってかれたりしてしまうから、ホンマ気をつけてな!ほなな!
『サイバーセキュリティ魔法少女装少年デジナース』
第2話:フィッシングサイトにご用心!
おわり
◆次回予告◆
アンドロマリウスや!いやー、いきなり大量に湧き出す乗っ取りは怖かったなあ。せやけど、ワイとデジナースの敵やなかったな。とか言うとったら、ワイら以外にも悪魔のUSBメモリを狙っとるヤツがいるんやって!?いったい何者なんや!?
次回!
『サイバーセキュリティ魔法少女装少年デジナース』
第3話:謎のライバル?デジポリス登場!
次もガッツリ捕まえたるで!
◆また見てね!◆
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