サイバーセキュリティ魔法少女装少年デジナース
デバスズメ
第1話:サイバーダイブ!デジナース!
「えー!俺がー!?」
中学二年生になったばかりの少年、
「しょーがねーだろ。遅刻してくる那須が悪いんだよ」
「そんなわけでお前がサイバー係な」
「うんうん」
生徒たちの声に、先生も依存なしと行った表情でうなずく。
インターネットが世界を覆い尽くし、大人から子供までがいつでもネットワークに気軽にアクセスできるようになったこの時代、那須の通う中学校では、”サイバー係”として、校内ネットワーク管理のサポートを行う係が存在した。名前はかっこよさそうだが、その実態は、先生のお手伝いとなる雑用がほとんどだ。
「はい、それじゃあ係も決まったことだし、授業を始めましょう。あ、那須くんは放課後に職員室に来てね。サイバー係の仕事があるから」
「えー、いきなりかよぉ……」
那須はげんなりするが、新学期早々遅刻してきた手前、文句は言えなかった。
――――――――――
そして放課後。那須は職員室にやってきていた。
「しつれいしまーす」
那須は見るからに不機嫌ですよといった感じだ。
「お、那須くん。ちゃんと来たじゃないか。偉いぞ」
担任の先生は笑顔で那須を迎え入れると、部屋の隅のテーブルに移動した。
テーブルの上には、大量の未開封新品USBメモリと、クラス全員の名前が印刷された小さなシールがあった。
「今年度の学校用USBメモリに、全員分のシールを貼ってちょうだい」
「ちぇっ、やっぱりこんなことだと思ったよ……」
「全部終わったら帰っていいからね」
「はーい!」
那須は元気よく返事をすると、渋々作業を始めた。USBメモリをパッケージから取り出し、名前の印刷されたシールを貼り、並べる。USBメモリをパッケージから取り出し、名前の印刷されたシールを貼り、並べる。……どこまで繰り返しても同じデザインの、学校指定USBメモリだ。
「あーあ、めんどくせえな……ん?」
淡々と作業を進めていた那須の手が止まる。
「なんだこれ?」
那須が手にとったUSBメモリは、他のものと同じはずなのだが……妙な違和感を覚えた。
「んん?」
それはよく見ると、とても小さいが、他にはない謎のマークが付いていた。
「へへ、なんだかカッコイイじゃん」
那須は謎のマークがついたUSBメモリに、自分の名前シールを貼った。マークはシールの下に隠れて見えなくなったので、これで那須だけが知るヒミツとなったのだ。
(なんだかよくわかんねんねえけど、俺だけのトクベツってやつだな)
自分だけの物が手に入った那須は少しだけ上機嫌になった。
それからしばらくして、すべてのシールを貼り終えた那須は、先生を呼んだ。
「終わりました―!」
「どれどれ……うん、ありがとう。明日みんなに配るけど、那須くんには一足先にあげちゃおう」
先生はそう言うと、那須の名前シールが貼られたUSBメモリを手渡した。
「ありがとうこざいます。さようなら!」
那須はUSBメモリを受けとると、走って家に帰った。自分のUSBメモリを手に入れた那須は、早くそれを使ってみたくて仕方がなかったのだ。もちろん、何もデータが入っていないことはわかっているのだが。
――――――――――
家に帰った那須は、早速自分の部屋に行き、パソコンの電源を入れる。数年前のコンピュータ技術革新によって電子機器の普及率は爆発的に跳ね上がり、いまや中学生ですら1人1台のパソコンを持つ時代となったのだ。
(ま、なんにもデータが入ってないってのはわかってるけど)
それでもUSBメモリをパソコンに刺してみる。
「……あれ?」
那須はパソコンの場面に見入る。表示されたのは、”Andromalius.goe”という名の、見たことがないアイコンだった。
「なんだこれ?あんでぃーろま……?」
ただでさえ英語な苦手な那須には、読めなかった。
「ま、いいや。たぶん最初に動かしてセットアップとかするんだろっと」
那須が”Andromalius.goe”のアイコンにマウスカーソルを合わせ、起動しようとした、その時だ。
「おーい!那須!」
家の外から那須を呼ぶ声がした。
「ん?……うわ!しまった!」
友達と遊びに行く約束をしっかり忘れてしまっていたのだ。
「ごめんごめん!すぐ行く!」
那須はパソコンの電源を落とし、友達の呼ぶ声に答えて大急ぎで家を出ていく。
――――――――――
それからしばらくして、那須と3人の友達、合計4人は、公園のベンチに集まってゲームをしていた。みんな協力してモンスターをやっつけるゲームだ。
「あー!くそ!このモンスター強い!」
「俺がサポート行くまで耐えてろ!」
仲間のピンチに那須が駆けつける!
「回復魔法だ!みんながんばれ!」
那須のキャラクターが魔法を使うと、全滅しそうだった仲間たちが復活!
「助かったぜ!」
そのままモンスターに一斉攻撃をしかけ、見事撃破!
「やったぜ!」
「いえーい!」
勝利のハイタッチ!
「それにしても、那須のキャラ、見た目の割に強いよな」
「見た目の割にってなんだよ!れっきとしたヒーラーだぞ!」
友達のキャラクターは、鎧や大剣を装備し、いかにも強そうな見た目である。一方、回復役の那須のキャラクターは、一言で言ってしまえば白衣の天使だ。
「まあ、那須のおかげで俺達は無鉄砲に突っ込めるんだけどな」
「そうだぞ!少しは俺に感謝しろよな!」
「ああ、いつもありがとうな」
「ヘヘッ」
那須は笑って答える。みんなに頼りにされることは、まんざらでもなかったのだ。
「……ねえ、あの噂、どう思う?」
友達の一人、
「あの噂って、ソロモン失踪のことか?」
「うん」
数年前のこと、天才的なハッカーが現れ、コンピュータ技術に革新をもたらした。まるで魔術師のような手腕から、ソロモンの異名で呼ばれていたほどだ。そのソロモンが、姿を消したという噂がある。
「うーん、俺はただの噂だと思うけどなあ」
「本当だったら今頃ニュースになってるだろうし」
「俺もそう思う」
那須たちは全員、特に信じてはいなかった。
「……僕は、本当なんじゃないかって思ってるんだ」
堀巣は、より真剣な顔つきで話を続けた。
「ソロモンは、自分の技術を72個のアプリに分けて、悪用されないように一人で使っていたらしいんだけど、もし、それを狙って誰かがソロモンを襲ったとしたら、それ自体を隠蔽できるんじゃないかな……」
「いやいやいやいや!考えすぎだろ!」
友達が笑い飛ばす。
「だいたい、ソロモンが天才だったら、それ以上の天才じゃないとソロモンに勝てないだろ」
「そうそう。そんなやつがいたら今頃、超有名人だよ!」
「それは、そうなんだけど……」
堀巣の表情が暗くなる。
「まあ、いいじゃねーかよ!もししたら本当かも知れないんだし、この話はまた今度にしよーぜ」
暗くなりそうな雰囲気を振り払うように、那須が話を切り替える。
「それより、続きだよ続き。次のモンスター倒しに行こーぜ!」
「お、そうだな」
「よっしゃ!」
那須の声に場の空気は変わり、再びゲームに熱中することになった。
――――――――――
時刻は午後6時、そろそろ帰らなければならない時間だ。別れの挨拶を終えて、それぞれが家路につく。
「那須くん」
「ん?」
那須が帰ろうとした時、堀巣がそれを呼び止めた。
「さっきはありがとう。みんな信じてくれなかったけど、那須くんは僕の話を聞いてくれて、嬉しかった」
「なんだ、そんなことかよ!友達の話を聞くのは当たり前だろ!それじゃあな!」
那須は大きく手を振って走っていった。堀巣はそれを見送るように、小さく手を振った。
――――――――――
その夜、那須は堀巣の話が気になって、ソロモン失踪について調べていた。しかし、見つかるのは噂話ばかりで、どこのメディアもニュースとしては取り上げていない。
「うーん、でも、なんか気になるんだよなあ……」
那須が諦めてもう寝てしまおうかと考えた、その時だ。
(USBメモリを使え……)
「え!?」
どこからともなく、那須に声が届く!
「な、え……?」
周りを見渡すが、部屋には那須一人だ。スマホをチェックしても、電話がかかっているわけではない。
「USBメモリって、もしかして……」
那須は、あの謎のプログラムを思い出した。
学校で手に入れた、謎のマークが入った新品のUSBメモリ。そして、入っているはずのない謎のプログラム”Andromalius.goe”。
「いや、ま、まさか」
(早よワイを起動せんかい!間に合わなくなっても知らんで!)
「うわあ!」
さっきよりもはっきりとした声!
那須は恐る恐る、”Andromalius.goe”のアイコンにマウスカーソルを合わせ、起動した!
<CYBER DIVE!!>
「うわあ!」
一瞬の光に目を閉じる那須!そして目を開くと、そこは、見たことがない空間だった。どこまでも続くようなダークブルーの床に、グリッド線。
「こ、ここってもしかして……」
「せや、サイバー空間によう来たな」
背後からの声に振り返ると、USBメモリが宙に浮かんでいた。
「サイバー空間?」
「せや、サイバー空間や」
「そ、そんなわけあるかよ!」
USBメモリの言葉に、那須は反論する。いかにコンピュータ時術革新が起こったと言えど、VR(バーチャルリアリティ)も無しにサイバー空間に入る技術など、まだ無い。もし、それが可能だとしたら、本当の魔法だ。
「こ、こんなの、まるで」
「まるで『魔法みたい』とでも言いたそうな顔やな」
「なッ!!」
那須はセリフを取られて動揺する。
「そ、そうだよ!こんなこと現実に起こるはず無いじゃないか!」
「ま、確かにせやな。魔法でも使わんと、こんなこと無理や」
「それってどういう……」
「ワイが本物の悪魔っちゅーことや」
「はぁ!?」
「順を追って説明したるわ」
USBメモリは那須の周囲をふわふわと動き回りながら、説明を続けた。
「天才ハッカー、ソロモンの名前は聞いたことあるな?」
「う、うん」
「ソロモンは、ほんまもんの魔法使いやねん」
「え?」
動揺する那須に更に説明を畳み掛ける。
「ソロモンは魔法で72柱の悪魔を上手いこと使うてな、コンピュータ技術に大革新をもたらしたんや。ああ、ほんで、ワイはそのうちの一つ、アンドロマリウス言うんや。よろしゅうな」
「え?いや、いやいやいや」
動揺する那須に更に説明を畳み掛ける。
「ワイら72柱の悪魔は、それぞれアプリケーションとして72本のUSBメモリに封じられとった。絶対にコピーできないシロモンや。なんせ、魔法のコピープロテクトがかかってるさかいな。ただ、まさか盗み出されるとは思ってなかったねん……」
「盗み出された?」
「せや。ソロモン失踪の噂は知っとるやろ?あれは事実や。今は上手いこと隠してるようやけどな。それに巻き込まれる形で、ワイら72柱のUSBメモリが世界中にばらまかれてしもたんや」
「えーっと、それって、俺になんか関係あるの?」
「大アリや!まず1つ!お前はワイを手に入れた。ワイは72柱のUSBメモリ最後の砦や。ワイは、他の71柱のUSBメモリが悪用される時、それを阻止して回収するセーフティーガードなんや」
「ってことは、つまり……」
那須が息を呑む。
「お前とワイで、世界を救わん限り、世界はごっつでかいサイバー犯罪でパァになってしまうっちゅーこっちゃ!」
「えーっ!?なんで俺が!?お前一人で勝手にやってくれよ!」
那須はそんな大事に巻き込まれるのはごめんと言いたげだ。実際ごめんなのだが。
「そういうわけにもイカンねん。ワイは一人じゃ自由に動けんのや。いや、ワイ以外の71柱のUSBもみんなそうなんやけど。とにかく、お前の協力がないといかんのや!」
「俺以外じゃだめなのかよ?」
「駄目っちゅーわけやないが、とにかく今は時間がないんや」
「時間がない?」
「71柱のUSBメモリのうち、すでに1つがこの街で覚醒しとる。放っておけば、誰かが犯罪者になってしまうで。これが、お前に関係が大アリの2つ目の理由や!」
この街、その言葉に、那須は思い当たることがあった。
「もしかして、堀巣……」
さっきまで混乱していた那須の表情が、急に落ち着き、険しくなる。
「その顔、心あたりがあるようやな?」
アンドロマリウスの言葉に、那須が頷く。
「俺は、何をすれば良いんだ?」
「よっしゃ!ヤルキになっやな。善は急げや!」
USBメモリは那須の目の前に浮かび、言葉を続ける。
「まずは何はともあれ見た目からやな。ワイもこの体じゃなんもできへんし」
「見た目?」
「せや、細かいことは後で説明するんやが、これからサイバー空間で他の71柱の悪魔と戦うことになんねん。せやから、お前がイメージする、ヒーローの姿になるんや」
「……それって意味あるの?」
「大アリや!サイバー空間ではアバター、つまり見た目がそのまんまパワーになんねん。今のまんまのワイとお前じゃ、なんもできへんUSBメモリとただの子供や」
アンドロマリウスの説明を受けて、那須は納得した。
「うーん、わかったけど……」
だが、ヒーローのイメージが、思い浮かばない。
「ええい!時間ないねん!最近読んだ漫画とか遊んだゲームとか、なんか無いんか?」
那須は、友だちと遊んだゲームのキャラクターを思い出した。
「ゲームならあるけど」
「よっしゃ!それで決まりや!」
那須の言葉を遮り、アンドロマリウスが変身プロトコルを走らせる!
「あー!待って!それは!」
『パパラ~♪パパラパッパラ~♪』
謎のBGMが鳴り響く!
那須の身体が謎の光に包まれる。
「うわーっ!待ったって言ったのに!」
問答無用の変身バンクだ!
全身が光のシルエットになり、服が弾け飛ぶ!代わりに装着されるのは、ゲームのキャラクターそのままのような、デフォルメされたナース服!
ボサボサだった髪の毛はナースキャップで纏められる!足元には純白のオーバーニーソックスと、ちょびっとだけかかとが高い靴が装着される!
そして小さなポシェットが襷掛され、最後に巨大な万能検診ステッキが、その手に握られた!
『パパラパ~♪パパン♪』
BGM終了!変身完了!
「うわー!だから待ってって言ったのにー!」
「はははっ!なかなか似合っとるやないけ!」
那須の言葉に、アンドロマリウスは笑う。
「何が似合ってるだよ!そ、それに、なんかスカート短すぎるだろ!?」
那須の言葉通り、ゲームのキャラクターよりも布面積がかなり控えめである。
「そりゃ仕方ないんや。アバターでパワーを増やす言うても、これ以上データを重くしたら、本体のお前がフリーズしてしまうんや。これでも限界まで詰め込んでるんやで」
「そ、そんなこと言っても……」
那須はどうにも落ち着かない様子だ。
だが、そんな那須も、アンドロマリウスの姿を見て思わず吹き出した。
「くっ!はははっ!なんだよそれ!それが悪魔ってカッコかよ!あはは!」
「なんや?ワイの姿がどうかしたんか」
アンドロマリウスが電子鏡を生み出して自分の姿を見る。
「……ってなんじゃこりゃー!」
鏡に写っていたのは、恐ろしく威厳のある悪魔とは程遠い、ふわふわのぬいぐるみのようなマスコットだった。
「あー!なんちゅーこっちゃ!ワイのイケてるボディをどないしてくれるんや!」
アンドロマリウスは怒るが、その姿すら愛らしい。
「へへ、待てって言ったのに待ってくれないからだよーだ!」
那須は、してやったりという表情で笑ってみせる。
「ええい!まあ、なちまったんは仕方ないわ。ほな、行くで!とっとと終わらせてこの姿ともおさらばや!」
「それには俺も賛成だぜ!」
思わぬところで二人の意見は一致した!那須は友を救うため、アンドロマリウスは元の姿に戻るため、共にサイバー空間を走り出した!
――――――――――
サイバーナース魔法少女服を着た那須と、ふわふわのマスコットになったアンドロマリウスは、ダークブルーのグリッド線が広がる空間を走る!
「こっちや!」
アンドロマリウスが先導し、那須がそれに続く。走り続けているうちに、世界が徐々に形を作り出していた。
その形に、那須は見覚えがあった。
「なんか、現実の世界と似たような形だな」
那須の言葉の通り、道路や建物の形は、現実空間のそれに近い。だが、色は全体的に青く、ときおり光の筋が世界を通る。
「サイバー空間も基本的には現実空間とかわらんで。ほんで、あの光はネットワーク通信や」
「ふーん。それで、堀巣の家に迎えば良いのか?」
「そいつん
ドォン!
アンドロマリウスの言葉を遮るように、遠くの方で爆音とともに、巨大な電子火柱が姿を表した!
「あれや!間違いないで!」
アンドロマリウスが叫ぶ。そして、那須の予感は当たっていた。
「やっぱり堀巣の家だ!急ごう!」
「ほいきた!」
二人はさらにスピードを上げる!
――――――――――
那須とアンドロマリウスが到着した時、堀巣の家は巨大な火柱に囲まれていた!
「な、なんだよこれ!おーい!堀巣!おーい!」
「呼んでも無駄や。ワイらの声は届かへん」
焦る那須に対して、アンドロマリウスは冷静だ。
「んなこと言ったって、どうすりゃいいんだよ!」
「まあ、安心せえ。その堀巣とかいう友達は無事やで。こんなごっついファイヤーウォール、見たことあらへん」
「ファイヤーウォール?」
アンドロマリウスの言葉に、那須が首をかしげる。
「ファイヤーウォール。ま、見ての通り、炎の壁や。これがあると、許可されたアクセス以外はみーんな焼かれてアクセスできへんのや。そのおかげで安心してインターネットに接続できるっちゅーわけやが……」
アンドロマリウスは火柱を見上げる。
「これほどの大きさのファイヤーウォールや。このままじゃ、『誰もアクセスできない』ことになっとるな」
「え?でも、別に悪いことしてないんだろ?」
「確かに、今ん所はな……」
アンドロマリウスの表情は、ふわふわのマスコットなりに精一杯険しい。
「今の所って?」
「ええか?このファイヤーウォールがあると、誰もアクセスできへん。これ自体は、個人のパソコンやったらなんも問題あらへん。……せやけど。もしこれがオンラインゲームのサーバーに仕掛けられたら、誰も遊べへんようになる。ほんで、もし、銀行に仕掛けられたら、あっという間にお陀仏や」
「そういうことかよ……」
那須はようやく納得したようで、火柱を見上げる。このまま放っておいて、このファイヤーウォールがどこかに移動したら、アクセス履歴から堀巣が疑われることになるのだ。
「で、どうすりゃいいんだ?」
「まずはコイツの正体を突き止めんといかん。こんな事するん悪魔はなんぼか居るんやけど、完全に正体を突き止めんといかんさかい」
「どうやって?」
「そのためには……アカン!伏せろ!」
「え?うわ!」
アンドロマリウスの突然の声に、那須はとっさに伏せた!
伏せた那須の頭上を、火の玉が通過する!那須は無事だ。万能診断ステッキの先端が火の玉に触れ、那須の左腕に備え付けられたディスプレイの謎メーターが上昇する。
「ええで!今みたいに攻撃をステッキで受けて、あいつのデータを集めるんや!」
「データが十分に集まればワイが解析して、あいつの正体も丸見えやで!」
「そういうことならわかりやすくて助かるぜ!」
那須は立ち上がり、魔法の万能診断ステッキを構える。
「さあ、来やがれ!」
「ロロローッ!」
火柱に邪悪な悪魔の顔が浮かび上がり、火の玉を3連続で吐き出した!!
「えいやあ!」
1つ目の火の玉をホームラン!
「えい!」
2つの目火の玉をジャンプで飛び越え、3つ目の火の玉を叩き落とす!
「な、なんだ?俺、こんなに動けるのか!?」
「ここはサイバー空間やで!その服とお前のイメージのパワーで、現実の何倍も強く早く動けるんや!」
アンドロマリウスの声を聞き、那須はニヤリと笑った。
「そういうことなら、近づいて一気に決めてやる!」
「あ、アカンで!」
「なにがイケないんだよ!」
アンドロマリウスの制止を振り切り、那須はファイヤーウォールに向かって一直線に走る!
「ロロッ!ロロロッ!」
火の玉が連続飛来するも、完全に動きを読み切って回避!ついに炎の壁の目の前にたどり着く!
「一気にデータを吸い取ってやる!」
那須がステッキを炎の壁に差し込もうとした、その時だ!
「ロローッ!!!」
突如ファイヤーウォールが大きく燃え上がり、那須を吹き飛ばした!
「うわ!熱ちちち!」
服に火が付き、転がる那須!無事鎮火!
「だから言ったやろ!近づくと一気に燃え上がって危険やて!」
「そんなこと言ってないだろ!」
「言う前にお前が飛び出すからアカンのや!」
「なんだと!」
「ロローッ!」
喧嘩する二人に火の玉が再来!
「うわ!」
かろうじて反応し、打ち返す!
「言い争いしてる場合じゃないみたいだな」
「ああ。ほんで、今のでちょうど、後一発ってところや」
那須の左腕のメーターは、ほぼ満タンだ。攻撃を受けたことでも、少しだけデータが取れたのだ。
「よし、次で決めてやる!」
「その意気や!やったれ!」
「ロローッ!」
今までにないくらい巨大な火の玉が飛来!
「ウオオオーッ!」
那須はステッキを大きく振りかぶり、打ち抜いた!
「うらぁ!!」
爆散する火の玉!最大まで溜まるメーター!光りだすアンドロマリウス!
「来たで来たで来たで来たでーッ!」
アンドロマリウスのフラッシュがファイアウォールを照らす!
「ロローッ!」
……そして、その光が晴れた時、炎の壁は、燃え盛る炎のような目をした豹に姿を変えていた!
「あれがやつの正体、フラウロスや!」
ソロモン72柱のUSBメモリ第64位、フラウロス!その力は、すべてを焼き尽くす炎!ソロモンはこの力を持って、『絶対に破られないファイアーウォール』を作り出したのだ!
「グルル……よくもワイの邪魔をしてくれたな、アンドロマリウス」
フラウロスが唸り、アンドロマリウスと那須を睨む。
「邪魔したわけやない。これがワイの仕事やからな」
「フン!最下位の悪魔がよう言うわ!一人じゃ何もできへんくせに!」
「ああ、せやから、ワイはコイツと手を組んだんや」
アンドロマリウスは那須の頭上にちょこんと乗っかる。
「ハッハッハッ!その小娘がお前の相棒やと?笑わせてくれるなあ!」
「な、小娘だって!?俺はなあ……」
「まあまあ!」
アンドロマリウスが那須の言葉を遮る。
(ここは油断させといて、一気に畳み込むんや)
(わ、わかったよ……)
二人はひっそりと話を済ませ、再びフラウロスを睨む。
だが、二人に睨まれてもフラウロスは余裕を見せる。
「ほんで、どうするつもりや?ワイはUSBメモリを引っこ抜かん限り、すぐにでも悪さするようになるで?」
「そ、それは……」
那須が食い下がろうとするも、返す言葉が出ない。
「やっぱり何もできへんようやな。ほな、さいならっちゅーことで」
「いや、そうはさせへん!お前はここで終わりや」
アンドロマリウスが叫ぶと、那須の持つステッキが光を放ち、巨大な注射器へと変化した!
「ば、バカな!そいつは!」
「ああ、お前がのんきにペラペラ喋ってくれたおかげで、間に合ったわ。お前専用のワクチンがなあ!」
「那須!一発ぶっとい注射、行ったれ!」
「おう!」
那須は元気よく返事をして、フラウロスに向かって突進!
「アカン!」
逃げようとするフラウロス!だが!
「しもた!動けへん!」
フラウロスの足元では徐々に魔法陣が縮まっている!この魔方陣はフラウロスの魔力の及ぶ範囲であり、魔法陣から出れば、たちまち力を大きく失ってしまう!
「喰らえ!キュア・アンド・コンパーション!」
巨大な注射がフラウロスに突き刺さり、プログラムが書き換えられていく!そして!
「ロローーーーーッ!」
フラウロスは爆発!
爆発したフラウロスからUSBメモリが飛び出し、那須の手元に転がってきた。
「これで、もう安心や。もう現実世界のUSBメモリは、ただの抜け殻になったんや」
「あれ?魔法のコピープロテクトがかかってるんじゃないのか?」
「魔法のコピープロテクトは、魔法で解けるんや」
「ククク……」
USBメモリからフラウロスの声が!
「うわ!コイツ、まだやる気か!?」
那須が身構える。
「ククク、閉じ込めたくらいでいい気になったらアカンで。お前のモンにならん限り、ワイら悪魔はいつでも逃げ出すことくらい……」
「ああ!せや!忘れとった!」
アンドロマリウスが何かを思い出した。
「こいつもお前のモンにせんとアカンのや。今は持ち主がおらん状態やからな。いや、忘れる所やったで!」
「し、しもたー!言うんやなかった!」
フラウロスは悔しがるが、今更もう遅い。
「さ、早う名前を刻むんや。ただし、本名はアカンで。魔術師としての名を刻まんとな」
「魔術師っていっても……」
那須は自分の姿を思い出し、少し考えて言った。
「……デジナース」
「デジタルのナースか。そのまんまやな」
「う、うるさい!いいだろそんなの適当で!」
那須は少し恥ずかしくなったが、もう遅い。フラウロスのUSBメモリに、『デジナース』の名前が刻まれた。
「ほんんじゃ今から、フラウロスは、デジナースが契約者や。言うこと聞かなアカンで?」
「あー、しゃーないな。わかったわ」
そう言うとフラウロスは静かになった。
「よっしゃ!ほんなら今日の所はここまでにして、帰ろうか!」
「うん!」
デジナースが頷くと、二人の体は光となって、サイバー空間から消えていった。
</CYBER DIVE!!>
「……はっ!」
那須が目覚めると、そこは自分の部屋だった。どうやら、机に突っ伏して寝ていたらしい。
「変な夢だったな」
「夢やないで」
「うわぁ!!」
パソコンの中から、マスコットになったままのアンドロマリウスが話しかけてきた。
「夢じゃなかったのか!」
「せや。ほんで、これからどないする?」
「どないするって、どういうこと?」
「お前、あんなカッコイ嫌や言うとったやろ?このUSBメモリを誰かに渡せば、もうお役御免やで?ワイももっとカッコイイ体になりたいしな」
「あー、そのことなんだけど……」
「ん?なんや?」
那須は、USBメモリが学校から配られたものであり、他の人に渡すことはできないと説明した。
「なんやてーっ!?ほんなら、ワ、ワイの身体は、全部のUSBメモリを回収するまで、ずっとこのフワフワのまんまっちゅーことかいな!?」
アンドロマリウスの声が、虚しく響く。
「俺だってあのカッコ恥ずかしいんだぞ!」
那須も反論する。
「な~にが恥ずかしいや!あんなにノリノリで戦っとったくせに!」
「う……。そ、それは……その、ちょっと調子に乗っただけっていうか……」
段々と言葉に勢いがなくなる那須。
「まあ、とにかくや!ワイらはふたりとも、早うこんなこと終わらせたいっちゅーのは共通や。お互い、バンバロな」
「そうだな。こうなったら、やってやる!」
那須はパソコンの中で飛び跳ねるアンドロマリウスをつついて、握手の代わりにした。
天才ハッカー、魔術師ソロモンの悪魔のUSBメモリは、残り70本!戦いはまだ始まったばかりだ!頑張れデジナース!
『サイバーセキュリティ魔法少女装少年デジナース』
第1話~サイバーダイブ!デジナース!~
おわり
――――――――――
「まだ終わりやないで!」
◆アンドロマリウスの『教えて!サイバーセキュリティ!』のコーナー◆
どーも、アンドロマリウスや!ついに始まったなデジナース!これからのワイらの活躍に期待してくれな!ほんで、今回のテーマはこれや!
『よく分からないファイルは実行しない』
那須のやつは見たこと無いファイル、つまりワイを実行したせいで、こんなことになったんやな。ワイら悪魔のSUBは、起動しないと動けへんのや。つまり、怪しいファイルを見つけても、触らんかったら問題ないわけや。
よくわからんメールにくっついてきたよくわからんファイルなんか、絶対に触ったらアカンで!みんながみんな、ワイみたいに優しい悪魔っちゅーわけやないからな!ほなな!
『サイバーセキュリティ魔法少女装少年デジナース』
第1話:サイバーダイブ!デジナース!
今度こそおわり
◆次回予告◆
アンドロマリウスや!どうにか1つめのUSBメモリを改修できたけど、残り70、まだまだ先は長いやねえ……。ところで、なんや那須の様子がおかしいんや。SNSでサングラスの宣伝始めよってな。本人は憶えがない言うし。どうやら悪魔の予感がするで!
次回!
『サイバーセキュリティ魔法少女装少年デジナース』
第2話:フィッシングサイトにご用心!
次もガッツリ捕まえたるで!
◆また見てね!◆
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