第88話 おっさ(略 の元同僚ですが新世界より光あれと天地創造します
ヒラガの奴が発射した統一場接続空間転移砲の光に飲み込まれた俺は、アルコーンの身体が崩壊していくのを感じた。そしてそれは、とりもなおさず俺の身体が崩壊するということである。
……この状況でなおアルコーンは地球、いや俺たちの次元に戻ろうとしていやがる。しつこいぞ!しつこい男は嫌われるぞ、アルコーンの性別は知らないが。
腹が立ってきた。だが、その一方でどこか冷静になっている俺がいる。このアルコーンの奴が地球を目指そうとしてあがいているうちに、こいつの身体掌握したらどうだろう?よし、まずはこいつの一部でも掌握してみる。身体のかたちが人間と違うから掌握するのは手間だが、必死に抵抗する奴の意識は完全に地球に向かうことしか頭にない。
意識を掌握してやるうち、胸に痛みを感じる。アポカリプスだったか、が刺さっている。このままいくと俺もこいつも消滅か……少しでも掌握できる部分を見つけないと。指とかないのか?
待て待て待て。
そもそもこいつの形なんてあって無いようなもんだ、自由に変形したり分散したりできるんだから。発想を逆転することにしよう。こいつを俺の形に合わせてやればいい。そう考えるとだ、イメージが収束していくのを把握できた。身体を動かせる。
よし次はだ。こいつの意識の側を乗っ取ってやる。意識のついでにこいつが何ができるかを把握していくと……凄いなこいつ。言うならば天地創造ができる存在だ。しかしあの宇宙に
こいつはある種の精神生命体か。ビッグバンと共に精神生命体にまで到達できる生命を生み出す環境を創り出し、語弊を恐れず言うならば『神に到達する道』を開く。生命が繁殖するのとやることは変わらない。
アルコーンにふさわしいところは、むしろこの次元座標のズレた領域である。宇宙の終焉とともにある高エネルギーの真空の揺らぎ。その揺らぎにこれだけ膨大なエネルギーが上乗せさせると……
その時、新たな宇宙が生まれた。
しかし宇宙誕生から150億年も待ってられないぞ、早送りさせてもらう。一時的に物理法則改変して対称性乱して……よし宇宙が晴れ上がった。さっさと星作らないといけないから重力場作ってだな……なんか疲れてきた。ちょっとだけ休むか。
気がつくと太陽系ができているではないか。……天体の運行を操作したりしてふさわしい惑星を探す……神をやるつもりはないんだぞ俺は。早くこのアルコーンを捨てたい。どこかに生命を溢れさせるにはだ……そうだ!ユグドラシルだったか、こいつのDNAをモチーフにして良さげな星でいい感じの場所を作ってだ。
あとは水とか空気とか人間が生きられる環境にしないとな。そして食べ物とか……そもそも人間、何を食べるのがいちばん良いのかというのは永遠の課題なのかもしれない。
太陽、酸素、海、風……いやこんなものでは十分とは言えない。あと必要なのは安定して過ごせる環境である。雨や風に怯えず、害獣に襲われず、感染症などのリスクのないそんな環境……ユグドラシルを母体にふさわしい場所を作り上げた。その周囲には木々を溢れさせ、緑の星とした。
さてあとは俺自身か。……胸に刺さってるアポカリプスも再生してやらねば。作り上げた身体に俺たちの意識を乗せてやる。俺は俺の身体に指と指を合わせた。
……う?こ、こは?
そうか、俺自身がこの世界を創世したんだったな、アルコーンを使い果たして。本来のアルコーンなら、ここまで無茶苦茶なことにはならなかったのかもしれない。
みると横に、1人の女がいた。服は着ていない。俺も着てない。
「……ここは?」
「気が付いたか?」
「あ、あんたは?」
女の方はずいぶんな言い方だ。
「アダムだ。そっちは」
「……いたたた……ううん?えっと……そう。アポカリプス」
「アルコーンに支配されていたのか、俺たちは」
「そのようね。それでアダム、ここはどこなの?」
「地球のある次元とは全くかけ離れた座標系にある異世界」
「わぁお」
なんだよそのエセアメリカ人みたいな反応。おまけにアメリカ人みたいな胸してやがる。
「何よ?じろじろみないでよ」
「悪いな。でもそれくらいなら見慣れてるから気にするな」
「どういうことよ」
「俺はちょっとはモテる自覚はあるからな」
「ふーん。まぁここにはわたしたちしかいないけどね」
そうだよ、あいつのせい……いや元を辿ればアルコーンのせいか?でもそれも元を辿るとあいつの……まぁいい。どうせ帰れる気がしないし。アルコーンもムリな天地創造で消滅したようだ。
「ドラゴンみたいにじろじろ見ないでよね。全く、あのドラゴンときたら……」
「ドラゴン?」
「人間たちは勇者とか言ってるみたいだけど。女の勇者と戦ってたんだけどわたしの胸ものすごく見てきたの」
「セクハラか。同性でもセクハラは成立するからな」
「そうなの?あいつだって結構大きいのに、そんなにじろじろ見たければ鏡でも見てろって思う」
女の勇者か。そういえば思い出した。
「アポカリプスはヒラガは知ってるのか?」
「あの勇者と一緒にいた?なんか変なこと色々してきたよ。核爆弾使うんじゃないかってみんなパニックになって大変だったんだから」
何地球上で核爆弾使おうとしてるんだあのバカ。あいつ日本人だったと思うんだが……。
「もっともあいつ、以前に核爆弾使ったって言ってたような」
「地球上で核使ったのかよ!あいつ本物のバカだな!」
「そうでしょ!?」
しばらくヒラガの悪口で盛り上がった。
「……ふう。なんかあいつの悪口言ってて疲れちゃった。何か食べるものない?」
「ユグドラシルに何かなってるな」
「これ食べられるのかな?」
「パッチテストとかやって少しずつ食べてみるか」
「パッチテスト?」
パッチテストとは皮膚などに食材をつけるなどして、アレルギー反応がないことを確認する方法だ。これで問題なければ少しずつ食べてみてもいい。
「それにしてもここ暑くもなく寒くもないわね。服いらないじゃない」
「目には毒だから早めに服着たいけどな」
「それはこっちも!うわ、初めて見た」
「ガン見すんな!」
二人とも顔を赤くしてしまう。それにしてもこの果実、甘いだけでなくなんとなくタンパク質も含んでいるような気がする。おまけにこの味ビタミンB群も入ってるぞ。
「アダム、これまさかと思うけどあんた作った?」
「……アルコーンと同化してる時に完全栄養植物作ってみたんだ」
「しばらくこれ食べてれば死ぬことはなさそうね」
日が暮れてきても木の周りの温度は下がらない。服着させないつもりか?
「そろそろ寝ない?」
「そうだな。木の上にでも登るか。チンパンジーだった頃の人間は樹上にベッド作ってたみたいだしな」
「へぇ。よく知ってるんだアダムは。もっと教えて」
そのうち知識を書き留めておかないとな。文明崩壊後の世界でどうやって生きていくかだ。俺たちは木の上に登り周囲を見た。一面の森である。
「しばらくはここで住んでみても良さそうね」
「でもこれ退屈そうだな」
「娯楽もないしね。話し相手にアダムがいてよかったけど。死ぬようなことは無さそうだけど、退屈ね」
「多分これ退屈しのぎでやること限られるな」
「奇遇ね。わたしもそう思ってた」
木の上のベッドで、アポカリプスが微笑んでいる。
「寒くもないから抱きつく必要ないんだぞ?」
「寝やすいからこうしてるの」
「好きにしろ」
「……おやすみ」
「ああ。また、明日な」
ここは、新世界。ビッグバンの果て、天地創世により生み出されたこの世界で俺たちは生きていく。
「何よ」
「顔、赤いぞ」
「仕方ないでしょ!裸で抱き合ってるんだから」
「なら抱きつくなよ」
「でもね、不安なの。これからどうなるか」
「どうなるかじゃない。どうしたいかだ。俺がしたいのはあくまでこの世界で生きていくことだがな」
「それだけでいいの?」
「それだけじゃないけどな。アポカリプス……いや、そうだな。これからは君のことをこう呼んでいいか?イブ」
「ちょっと!……ま、悪くないわね」
俺たちはそのまましっかりと抱き合った。その先のことは、知っているはず……か?あるいは、地球とは違う話になるのかもしれない、な。
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