第87話 おっさ(略 ですが、さよならだけが人生なのです



 アダムの奴にアポカリプスのバリアが突き刺さったりしたが、なんとかアルコーンを攻撃できている。


 ……これだけ攻撃しても大した効果がないように見える。巨体すぎてどうにもならん。逆にアルコーンの側もウィルスやら毒やらでまともな攻撃ができない状態になっており、戦線は膠着している。


 そんな時に、事態が動いた。突然、アルコーンが僅かに浮き上がりはじめた。そして。


『……うおおおおぉ!!痛いし目がチカチカするし何が起きて!?』

「アダムが目覚めたか!?寝坊すけめ!」


 攻撃が通り始めたのかアダムがついに目覚めたようだ。長かった。


『アダム!起きてるか!聴け!』

『……なっ!?ヒラガだと!?お、俺はどうなって……』

『……数千年ぶりだな』


 こいつに……いや、実際に手を下したのはアルコーンだろうが、殺された俺の怨みはないとは言わない。


『ヒラガ、何が起きた?』

『……時間がない。データ通信で直接脳にぶち込む』

『えっ?ちょっと!?待て!!』


 アダムの脳に直接ここまでの過去の情報を送りこむ。アダムの奴が絶叫してるが、こっちだって脳がやばい。あ、また鼻血でてきた。


『……理解したくないが理解してしまった……』

『そういうことだアダム。さっさとアルコーンから分離しろ。こいつを因果地平の彼方にぶっ飛ばす』

『……ムリだ』


 は?何言ってんだアダム。この期に及んで。


『アルコーンと俺の身体は一体化している。叡智とやらが俺を侵食して、頭の方もヤバい』


 なんてこった……切り離せないのか!?


『アポカリプスだ!アポカリプスのバリアをうまく使って切り離せないのか!?』

『……アポカリプスっていうのかこの娘?俺の身体にめり込んできてるぞ』

『そうだ!そいつは空間を制御できる能力がある!そいつを利用すれば!』

『ヒラガ』


 急にアダムの声が穏やかなものになる。おい、何考えてる?


『なんだよ突然』

『……俺はこれまで、いろいろなものや色々な奴を切り捨ててきた』

『知ってるわいそんなこと。何が言いたい』

『……今切り捨てるべきは、俺だ』


 何を言い出すかと思ったらこの期に及んでそれかよ。


『待ってろ、そんなことする前にそいつとお前を切り離してだな』

『……お前本当にバカだな』


 なんだよそれ。何言ってんだよアダム。


『むしろ俺の意識が戻ってるうちに、さっさとその武器でこいつを俺ごと吹き飛ばす算段を立てろバカ』

「バカバカうっせえよ」


 回線には乗せず小声で呟く。龍が俺の目の縁を布で拭いてきた。


「大丈夫だ、心配いらない」

「……そうですか。てっきり泣いてるのかと」

「子供じゃないんだぞ、そんなわけないだろが」

「なら、なんで貴方はそんな顔してるんですか?」


 ……お見通しもクソもないだろうな。俺は人を断罪もできないし、殺せもしない。そんなヘタレが人を因果地平の彼方に追放するなんてことができるか……。


「わかってる」

「大丈夫なのか?」

「心配すんな聖剣、大丈夫だ」


 聖霊は無言を貫いている。この期に及んで変なことを言い出すほど空気読めないわけでもないのか。


『ヒラガ』

『なんだよこんな時に』

『別の問題がある。この大質量、どうやって転移させるつもりだ』


 言われてみればそうだ。まともにやったら転移なんてこれだけの大質量を転移させるのは不可能だ。


『ムリだな』

『はぁ……わかってるようでわかってないな。いいか』

『何が言いたいアダム』

『アルコーンだが、今ある程度俺の支配下にある。そこで、この大質量をエネルギーに転換する』

『何考えてんだお前』

『まぁ聞け。そのエネルギーを使って残りの質量だけになったアルコーンを因果地平の彼方に追放すれば良い』


 なるほど。理屈は通る。問題はだ。


『それやるとお前確実に因果地平の彼方に吹き飛んでいくんだがいいのか?』

『……いいのかも何もない。俺がやったことを考えたらそれで済むなら安い贖罪だ』


 ……そういうことか。こいつはアルコーンがやったことも自分がやったことと認識しているわけか。一心同体だからな、どちらがどちらといえなくもないが。


『……エネルギーはそれでいいんだが、転移のための情報処理がその場合どうすればいいかわからんぞ』

『……わたしがやるわ』


 げ!?アポカリプスも覚醒したのか!?……って何?


『アダムだっけ?あんたと同じ。……どれだけ殺したんだろう、わたしも』

『アポカリプス……』


 そういうことか。破壊と殺戮に酔っていたアダムとアポカリプスも、俺のせいで目覚めてしまったのか。


『空間制御ならあんたやドラゴンより得意だと思うから、制御はこちらに任せて』


 変な展開になってきたな。敵であるはず、いやあったはずの奴らに助けられて、アルコーンを因果地平の彼方に追放することになるとは……。


『アダムはともかく、アポカリプスを信じろというのは急には厳しくないか?』

『……もう、わたしもアダムと一体化してるの』


 なんだと?バリアがめり込んで行った時からか?


『質量転換されたら骨の一本くらいしか残らないかもね』

『そうなる前に次元跳躍の処理とエネルギーをそっちに投げる』

『お前らなんで俺にそんな協力的なんだよ?』


 不意に、アダムが笑った気がした。


『本当にわかってないなお前。アルコーンにムカついてるのはお前らだけじゃないぞ』

『そうそう、わたしたちのことをむちゃくちゃにして、おまけにあんなことさせといて。だから、これはわたしたちの復讐』


 そうか、復讐か。ならアルコーンには存分に地獄を見てもらって良さそうだな。


『よしわかった。存分にやってくれ!あとは任せろ!』

『世界を救ったのは俺だって言っとけよ』

『いやそこはわたしでしょ』


 今まで世界滅ぼす側がなんか言ってる。まぁいいや。膨大なエネルギーの処理と次元跳躍のための座標解析演算で脳が破裂しそうだ。


「うおおおおいてえええ!全身がちぎれるうううう!!!」

『おいバカこっちまでフィードバックすんな死ぬ死ぬ死ぬぅ!!』


 うっせえよアダムお前も道連れだ。処理でせいぜい苦め。


『……お前人殺しとか嫌だとかいう割にそんだけ他人苦めてるんじゃない!』

『うっせえよアダム!死なない以外は致命傷だ!』

「そこはかすり傷って言ったほうがいいのでは?」

『ドラゴンの言う通りだと思う』


 龍もアポカリプスもみんなして俺のことバカにしやがってだな!ぶっちゃけ死ぬ寸前じゃねえか俺含めてどいつもこいつも!


 膨大なエネルギーがアルコーンからこちらに流れ込んでくる!イケるぞエネルギーの量的には!質量自体も小さくなっているしな!アダムの身体が見えてきた。アポカリプスはどうなったんだろう?消滅してしまったのか?


「チャージも充分です。あとはこの次元と絶対座標が異なる領域に向かってアルコーンを放出すれば!」

「わかった!いくぞ!おおおおおおおお!!統一場接続空間転移砲!!最大出力!!!」


 空間が歪むのがわかる。船自体が激しく揺れる。統一場接続空間転移砲の放った空間力場がアルコーンのエネルギーを引き摺り込む。大気からプラズマが発生する。周囲の被害大丈夫だよな!?


 フィードバックで脳にこれまでの中最悪の情報量が叩き込まれる。もう船を飛ばすのも限界だ……次元間の断層に引き摺り込まれていくアルコーンを目撃しながら、俺たちは地上に落ちていった……


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