第67話 おっさ(略 の知己のアンデッドですが、噛ませ犬とは聞いてなかった…



 黒騎士、白騎士、赤騎士に勝利(?)し捕縛した俺たちは、ノーライフロードがおそらくは楽勝で蒼騎士に勝利しているであろう現場に向かおうとしている。


 メンバーとしてはNBCマスクド俺(生物兵器耐性なんてねぇよ)と、バクテリアを電撃魔法で殺せるクリスとアランの勇者組、そしておそらく人間のウイルスやバクテリアに感染しないドラゴンである。というのも蒼騎士だが、ノーライフロードなら秒殺でも、ウイルスやバクテリアに感染する俺たちだと死病に感染し殺されてしまうからである。一般人では確実に死だ。


「ウイルスとバクテリアの混在ってのはまたエグい事をしやがる」


 俺が蒼騎士のバクテリアに抱いた感想はそれである。バクテリアがキャリアーとなり、人間に対する致死ウイルスを蔓延させ一気に大量虐殺を行うと。バクテリアのキャリアーは哺乳動物や鳥類が対象である。ほぼトカゲのドラゴンには感染すらしない。


「えっとヒロシ、ノーライフロードは大丈夫なんでしょうか?」

「大丈夫なはずだ。アンデッドに感染したところでウイルスだって増えられないだろう。そもそも細胞レベルで死んでるしな」

「ハカセ、死んでるのに大丈夫ってどういうことだよ」

「むしろ死んでるから大丈夫なんだアラン。生きてる生物に感染するウイルスは死体では増えられないだろ?」

「そういうものか」


 ドラゴンの背中で俺たちはそんな雑談をしている。この時は俺たちはノーライフロードとアンデッド軍団の勝利を確信していた。アンデッドに死病が効くか。死んでるんだからな。


 蒼騎士の近くにまでいくと、蒼騎士がふん縛られているのが確認できた。なんかもがもが言っているがノーライフロードが勝利していた。圧倒的に。何やら刺激臭がするが、これに関してはアルコールと除菌の次亜塩素酸とその他諸々の抗菌剤やらファージやらである。蒼騎士に関しては念入りな消毒が必要であった。実際蒼騎士は各種液体でベッタベタにされていた。


 ……それはいい。


 ノーライフロードの、上半身と下半身が生き別れていた。どっちも動いてはいるが……。


「ど、どうなっている!?」

『ノーライフロードぉ!!』

「えっ!?えっ!?そんな!!』

「嘘だろおいハカセどういうことだ!?」


 俺たちの顔色が蒼ざめる。この事態は想定してなかった、蒼騎士相手なら楽勝だろうと甘く見ていた。実際蒼騎士には楽勝だっただろ?なんでだ何が起きている?


「早く降りてくれ!」

『わかっている!!』


 ドラゴンから降り立った俺たちは、ノーライフロードのそばに駆け寄った。近くで何故かアンデッド牛がモーモー鳴いている。……牛が何かに縛られて殴られた後がある。何で縛られているのかわからないが……。


「ノーライフロードさん!しっかりしてください!」

『く……クリスか……死ぬかと思った。死んでるけど』

「これだけ軽口が叩けるなら余裕はあるな。しかしノーライフロード、お前がこんなことになるってどういうことだよ」


 アランの言う通りで、何が起こったかサッパリである。ある意味今回の相手と相対したのがノーライフロードで助かった。ほかのメンバーなら最悪死んでいる。


『見た目少女にのとんでもない奴にやられた』

「外見に油断したか?」

『違う違う。しかし気をつけろ、今までの相手とは次元が違うぞ。突然身体が真っ二つだ』

「身体が真っ二つ?クリスの単分子ブレードや俺のワイヤーみたいなやつか?」

『分からん……タネが割れてないから迂闊に近づくのも危険だ』


 ノーライフロードだって今回こそ噛ませわんこになってしまったが、高位の魔導師なんだからこの事態は非常にまずい。身体能力がこいつ以上ってことはアランやクリス級の化け物である。絶対やりあいたくない。不幸中の幸い、アランもクリスもここにいるし色々と持ってきているものもある。


「んで、どーしたものだろうか」

『身体ならなんとかつなげられるから気にするな。身体復元のアーティファクトを帝国から持ち出していたからな』

「ちょっとまて、皇太子が持ってたやつか」

『何、まだあったのか帝国には。ガメたの気が引けてたんだが』

「えっと、それってエクスポーションですよね」

「皇太子はそう言ってたな」

『は?』


 は?じゃねぇよおい、じゃあアレはなんだったんだよ!?


「まさかと思うが生体ナノマシンだったか!?」

『デュランお前、気がついてなかったのか…?』


 聖剣がノーライフロードに突っ込まれてわずかに赤く光って振動している。恥ずかしかったのか。ノーライフロードがエクスポーション(仮?)を体にぶちまけると、微小な何かが身体を徐々に復元していき、やがて繋げて瓶に戻っていく。エグいなこれ。


『よし、だいたいうまくいった。あといくつかあるからな。これは人間にも効果あるから持っていくといい』

「クリスもらっとけ、多分この中で必要になりそうなのはクリスだから」

「えええええぇぇ……グロいやつだあの……」


 心底嫌そうな顔をしているクリスに、ノーライフロードがエクスポーション(?)を二本も渡す。正直これくらい渡しておかないと無茶した時に危ないし、そもそも無茶して死にそうだからねこの子。そういう意味ではこういう嫌がらせも存外意味はある。効果はあるけど使いたくない、それがいいんだよ。


「……えっと、ヒロシ。冗談はここまでです」

「来たか」

「俺も感じたぞ。……ハカセまずい、魔王より強いかもしれん」


 ノーライフロードを噛ませにしたやつが来ただと?嘘だろおい、核兵器持ってきてないぞ。あれがないと勝てる気がしない。CBR兵器は持ってきてはいるが効果はどうだか……。


「おいヒラガ、まさかこんなこともあろうかと核を持ってきたとか言わないよな」

「さすがにねぇよ。CBR兵器しか持ってない」

「聞いた俺がバカだった」


 聖剣にバカにされたが、これでも足りねえよ魔王以上の相手には。


 ……晴天の空から、この荒野にそれは降りてきた。


「ふーん……ドラゴンの血ね。覚醒してはいないのなら怖くもないけど……」


 空から降りてきたそいつが、意味不明なことを言い出した。何を言ってるんだこのロリ巨乳は?日本語話してほしい。


「くっ……ハカセ、最後の仲間がお前ってちょっとどうなんだろうな」

「バカ言え、元パーティに帰れよ」


 身体が震える。冷や汗が止まらない。俺もアランも死を覚悟してしまった。それくらいこいつの見た目と、そこから感じる威圧感の差が生み出す落差が恐怖を覚えさせる。


「くっ……負けた……完敗です……」


 クリスも震えているようだが、様子がおかしい。そして、相手も何かおかしな気配になっている。


「ちょっと!そこのドラゴン?あなた何凝視してるの!?」

「えっ、わたしですか?」

「そうよ!ドラゴンが何ひとの身体をジロジロ見てるの!?」

「いや、大きいなぁって思って……」


 そういうとロリ巨乳が顔を真っ赤にする。


「なっ!?バカなのドラゴンは?変態なの?」

「えっ?そ、そんなつもりはないんですけど……」

「だいたいドラゴンだって無駄に大きなもの持ってるじゃないの!?何それを棚に上げて変なこと言ってるの!?」

「あ、あの」

「何よ変態ドラゴン」


 ドラゴンってなんなことだ?意味不明なことを言い出したなこのロリ巨乳。


「ドラゴンって言ってますけど、わたしのことですか?」

「そうよ。ほかに何がいるっての?」

『我のことではないのか?』

「トカゲが何か言ってる」

『トカゲ』


 ドラゴンが前に崩れ落ちた。ドラゴンって言われたいよなお前。アイデンティティなくなるよな。そしてクリスはドラゴンって言われたくはないと思う。


「わたし、一応人間だと思うんですが」

「ドラゴンが?人間!?」


 ロリ巨乳がニヤリと笑う。


「変なドラゴン!ドラゴンが人間のつもりになっているの!笑える!」

「えっ?」

「おい!クリスはどう見ても人間だろうが!」

「おやそちらにもいたの、ドラゴン」

「はぁっ?俺が!?」

「おいちょっと待てアラン。なぁロリ巨乳」


 思わず俺は問い詰めたくなった。ロリ巨乳が怪訝な顔でこっちを見て来た。


「なんなのその格好」

「NBC防護服だ文句あるか」

「変なの。そうだ変な人間、このドラゴンたち、何もわかってないじゃない」

「ドラゴン?おいロリ巨乳、お前勇者のことをドラゴンって言ってるのか?」

「勇者?へぇ……そんな風に呼んでるんだ。ふーん」


 なるほど、相互理解が少しだけすすんだ。俺は相互理解をより深めることにした。


「お前、何がしたい?」

「何って……こんな世界なんて、終わらせてしまった方がいいじゃない?」

「……もしかしなくても、あなたが……」

「そうね」


 ロリ巨乳は微笑んで一回転する。その姿はまるでふつうの少女なのに、次に何が来るのかと俺たちは身構える。


「わたしは、アポカリプス。終わらせてあげるわ」


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