第63話 おっさ(略 ですが売られた喧嘩はやられたらやり返します



 助かった。


 こんなふたりスターリングラードみたいな、悲惨な戦場に取り残されるってのは勘弁だったからな。俺たちはドラゴンの背中で一息ついている。


「助かったぞ二人とも」

『なに、気にするな。嫁とも仲良くなれたし』


 おいドラゴン嫁!買収されんなジルコニア如きに!!そんなもんでいいならこんど作ってやろう。喜ばれそうな気がしてきた。


『私もなかなか逝きのいい、複合実験生物の死体がたくさんあって嬉しい』


 あーお前はそうだろうなぁノーライフロード。反乱分子たちの軍をアンデッドと化した怪物たちが襲撃している。自業自得だからさっさと逃げろや。


「……ヒロシ、ごめんなさい……でも」

「……今回はいい。だが、次はないかもしれないぞ。もうここにきたらいつ誰が死んでもおかしくない。烙印のことがあるからなるべくなら死なないようにはしたいが」


 いつアイオーンによって変死させられるかわかったもんじゃないからな。


「ところで、ノーライフロード。どうしてまたお前たちがここに?」

『そのことだが、悪いニュースともっと悪いニュースのどちらから聞きたい?』


 どっちも悪いニュースじゃないか!


「えっと……悪いニュースからでお願いします」

『わかった。悪いニュースは帝国が神聖帝国を名乗り王国などに宣戦布告した』


 悪いニュースすぎるだろ!これが悪いニュースだったらもっと悪いニュースはなんだよ。聖剣が呆れたような声でノーライフロードに問いかける。


「それより悪いニュースって、地球に巨大な隕石が衝突するとかくらいじゃないのか?」

『もっと悪いニュースだが、王国の教会が王国に伝えてきた。四騎士が復活する』

「ちょっと待て!四騎士は氷漬けだったぞ。この地下で!」


 そうだ。俺たちは見たんだ。四騎士が凍りついているのを。


『ヒラガ、四騎士は……ここにいるのはかつての四騎士だ……四騎士は帝国の首都を襲撃した後、帝国内の反乱分子と交戦している』


 どういう状況なんだよ。内戦かよ。もっとも内戦してくれてた方が俺たちとしてはある意味ラッキーといえなくもない。


「だったらなんでここに?」

『このノーライフロードが、四騎士の復活が真実なら、公国の教会がどうにかなっているから確認したいと言い出したんだ』

「なるほど」

『しかし……教会は結構破壊されているが、地下には影響なさそうだな』


 そうだな。四騎士復活とかそんなダークファンタジーな事態は発生していない、はずだ。


「えっと、だとすると帝国の四騎士ってのは……一体なんなんでしょう?」

『わからない……いずれにせよ、帝国内が混乱している今のうちなら、王国に戻って対策もできるのではないか?』


 ノーライフロードのいうことももっともで、俺たちはかなり疲労困憊だし傷ついている、心も、身体も。特にクリスの精神状態があまり良くない。かなり無理しているのがよくわかる。無数の敵による消耗戦というのは苦痛以外の何者でもない。


「そうだな。ひとまず公国には悪いが戻って対策をするしかない」

『対策?四騎士やアポカリプスへのか?』

「少なくとも竜の卵生まれの怪物や、四騎士対策はできる可能性がある。奴らのゲノムを採取した」

『ゲノム!?』


 ドラゴンもノーライフロードも驚いているが、四騎士だろうが毛むくじゃら獣だろうが、遺伝子的な弱点つけばそれで終わる。だからこそゲノム採取は必須だったのだ。


「というわけで、研究所に戻って対策することにする」

『わかった。任せろ』


 ドラゴンが猛烈な速度で俺たちの研究所まで飛ばしてくれた。


 ……ずいぶんと長く帰ってこれなかったな。俺もクリスもクタクタだ。まずは入ろうとした……のだがクリスは入れて俺は入れない。何やら透明なフィールドに阻まれている。


「えっと」

「なんじゃこりゃ?」

「勇者クリス、お待ちしておりました」


 聖霊がクリスに傅いてあいさつする。俺のことは無視か。


「えっ、あ、あの、ヒロシは?」

「……なんのことですか?」

「えっと、なんで、入れないんでしょう」

「……ああ、あの外にいるアレですか。勇者クリス、あのような者と一緒にいてはなりません。追放しなさい」

「えっ???」


 おっさんマッドサイエンティストですが勇者パーティから追放されました(二回目)。


「既に私は178%の能力増強を達成しました。最早あのような下賎な変態は不要。さあ勇者よ、御命令を」

「えっと、じゃあヒロシを入れてください」

「えっ?」

「えっ、じゃなくて、ヒロシは私には必要なんです。もし入れないっていうなら」


 普段怒らない子が怒ると怖いんだよ。俺はなるべくはクリスを怒らせないようにしてはいる。してはいるが、怒らせた時……魔王のがはるかに相対しやすかった。情けない話だがちょっと、出ちゃった。聖霊が恐怖している。


「勇者辞めてただの女の子に戻ります。聖剣さん、今までお世話になりました」

「待て待て待て待て!クリス、できないだろそれは!」

「はい、知ってます。でも、ただの女の子にしてくれる可能性のある人は、知ってます」


 聖剣も慌てて止めに入る。そこまで信頼してくれるのか……。


「……はぁ……理解しました……クリス、あなたの勇者としての素質は素晴らしいものがあります。ですが性癖は……」


 性癖いうなし。


「なんでもいい。入れてください」


 こわい。落ち着こうなクリス。聖霊も諦めて俺のことを入れてくれた。


「さて入れてもらって早速なんだが、聖霊。ゲノム解析大量に頼む」

「今度は獣ですか?ケダモノですね?」

「四騎士もあるぞ」

「……理解を、放棄します」


 懸命な判断だと思うぞ。クリスの顔がようやく般若から普段の顔に戻ってきた。はんにゃのめん装備勇者ってひとり旅には最高に向いてるんだよな。


「えっとヒロシ、これからどうします?」

「有象無象の怪物はともかく、四騎士はヤバいと思うんで、四騎士対策をしようと思う。うまく行くとな」

「うまく行くとどうなるんですか?」

「まともな戦闘にならずに倒せる」





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