第50話 おっさ(略 ですが水平線の向こうに船のマストが消えるのは地球が丸いからなのです
俺たちに課せられた使命、ちょっと増えすぎじゃなかろうか?必要に応じてアラン辺りに仕事を割り振りたいそうしたい(追放とはなんなのか)。
冗談はさておき、まずはフェンリルに挨拶しないとな。近くの森に隠れているらしいが。森に到着するとロムルストーがフェンリルに呼びかける。
『戻ったか、我が子よ……ってなんだこれは』
「フェンリルヨ、コチラニイルヒラガガマリョクツウシンヲコエニスルキカイヲツクッタ」
『ほう……
いやいやいやそんな大層な代物じゃないし。早く送信側も作らないと。
「ヒラガだ。よろしく頼む。マッドサイエンティストをやっている」
『マッド……なんだそれ』
「えっと、助手のクリスです。勇者をやっています」
「クリスの聖剣だ。よろしくな」
『喋る剣に勇者にマッドなんとか……ロムルストー、なんなんだ彼らは』
一応俺たちがなんで極地を目指すのか説明しないとならないな。船で行ったら何十日もかかるしな。
「スピッツベルゲン島に種子の貯蔵施設があるはずなんだが、そこに行って必要な種子を回収しないといけない」
『スピッツベルゲン島?……聞いたこともないな……どこだ?』
「えっと、ヒロシのいた時代にそう呼ばれてた島です。そこにたくさんの人を救う種子があるんです」
『むう。まるで神話の時代の神の世界の話のような』
ロキの子供のお前に言われたかねぇよ。……違うか、多分でかい狼だからそう呼ばれてるんだろうけど。いやしかしフェンリルでかいな。俺たちと荷物乗せても十分行けそうだ。下手したら雪上車よりでかいぞこいつ。おまけに知性も人間並みだし。
「ロムルストーたちには十分に報いたいし、レムリナにこれを渡したい」
『声の出る
「フェンリル。ロムルストーには言ったんだが、俺からしたらこんなものはオモチャみたいなもんなんだ。だからロムルストーたちにはもっと金を出したい。どうせ王国からせびるし」
「……せびるんだ……」
当たり前だろクリス。今回のこれくっそ金かかるんだぞ。おまけに王国の命まで受けてんだぞ。俺許可欲しかっただけなのによ。
『お前は正直な男だな』
「当たり前だろ。研究者が正直さをなくしたら研究なんて出来ないだろうが」
『帝国にもそのような人間がいたら……』
いや、いるんじゃないか?あの将軍とか結構いいヤツだったし。
「ともかく、フェンリルよ。極地探検付き合ってくれるか?」
『1つだけ頼みがある。ロムルストーたちには十分に報いて欲しいのはもちろんだが、レムリナと同じものを作ってはくれないか?』
「全然構わないぞ」
もっと要求釣り上げてもらっても構わないのに。欲がなさすぎて不安になる。
『気前がいいな。これまでの冒険者達とは違うようだ』
「悪い冒険者もいます……わたしもあまりギルド行きたくないです」
クリスは人の悪意が苦手なんだろうな。俺が悪意向けることはないから、一緒に居られるんだろうけど。
「よし。交渉成立ってことかな。前祝いにちょっと寄りたいとこがある」
『寄りたいところ?』
クリスに連絡してもらって、俺たちはロメリオ商会にやってきた。フェンリルもセットで。
「おるかー」
『……妾のネタをパクるでない』
そっちが先にやったんだろうが。ていうかなんで知ったこのネタ。元ネタ知らずに使ってんのか?しばらくしてクズノハが出てきた。
「ヒラガか。クリスも元気か!」
「はいっ」
「妾も結婚なら十回はしておるからな。バツイチくらい気にするでないぞ」
「……結婚した覚えもないのにバツイチになった」
もうそのネタも引っ張るのやめてやれよ。
「それで、何か用か?」
「おう、実はこれからスピッツベルゲン島に向かうんだがな」
「どこじゃそれ」
「えっと、すごく北のほうの島です」
「そこで極地探検のための道具買い込みにきた。金銭支援は王国持ちだ。王国からも仕事を受けている」
「王国め……妾のお抱えのマッドサイエンティストを奪う気じゃな」
なわけねぇよ!結構王国絡みの仕事はしている気はするが。王国は相変わらずガセ情報は流してるがな、ヒラガにたかられていると。……これだけ仕事してたかられるっておかしくないか?
「あとこちらのロムルストーとレムリナ、そしてフェンリルに極地探検の案内をしてもらう」
「ロムルストーダ、ヨロシクタノム」
レムリナは小さく頷く。
「すまん、レムリナは声が出ないからな」
「ヒロシ、レムリナさんもフェンリルさんも魔力通信できますよ。クズノハさんも」
「あっ、そうだった」
『レムリナです。よろしくおねがいします』
『フェンリルだ。……クズノハ、よろしくな』
「そう気にするでない、フェンリルよ。妾の意識も少し長生きはしておるがな」
よし、挨拶も済んだか。使用人のサユキがいつのまにかいる。気配消すなよ。
「極地探検に必要なものも買いたいが、まずは彼らに美味いもの食わしてやりたい」
「美味いものか。サユキ」
「はい」
「料理人達に言って腕をふるってもらえ」
「承知いたしました。しかしいいんですか奥様」
「何がじゃ?」
「……後悔しても知りませんよ?」
そのあと出てきた食事は豪勢だったが、フェンリルの口にもあったようでなによりだ(イヌは人間の食べるものを食べるように進化したという説もあるが……)。クズノハの顔色がどんどん青くなっていくのには笑った。
仕方がないので俺の時代の作物や食材が復活できるかもと言ってやると、早速乗ってきた。そりゃそうだろう。腹ペコ娘たちに美味いもん食わせるためにも極地に向かうのは必須だ。
そんなこんなで船を出してもらったり、荷物を載せたりと数日間は忙しかった。積荷とフェンリルを積み込んだあと、いよいよ出発と相成った。船の旅こっちに来てから初めてだ。
「これが船ですか……おっきいです……」
クリスも驚いているが、木造帆船としては最大級だろこれ。よくこんな巨船ができたもんだ。なんでも魔法による修復をうまく使って巨大な竜骨を作っているようだ。普通だと持たないサイズだ。
「船長たちに挨拶しておくか」
「そうですね」
俺たちは菓子折り持って船長たちのところに挨拶に行った。船長は豪快な海の男っぽい感じである。クリスが早速礼を言う。
「今回はありがとうございます」
「こっちとしては複雑ではあるがな。帝国は相変わらず燻っているし」
「すまんな」
「それで、種子っての本当にあるのか?」
「俺の記憶通りならそこに種子はある。ただ発芽となると……15000年前ではな……」
アイオーンがダウンロードされたSophiaの時間から考える限り、これだけの時間が過ぎていることになる。
「最悪種子の遺伝情報があればそのように現存種の組み替えもできる。どちらにせよ行ってみないとな」
「なんだか難しいことをやるな」
いまいち船長にはわかってもらえないが、まぁ仕方あるまい。これから数十日は海の上だ。
「それにしてもこの船の甲板広いな」
「そりゃそうだ。ドラゴンも載るくらいだからな」
「ドラゴン載るのか?それなら知り合いのドラゴンをちょっと呼びたいんだが」
「ドラゴンの知り合い!?おまえ一体なんなんだ?」
クリスに言ってドラゴン夫婦に連絡する。今回は旦那がやってきた。なんか傷が多いな。
「何やらかしたんだお前」
『不倫したと誤解されてな』
「不倫」
『言っとくが断じてしてない』
クリスはどうだか。と言う目で見ているが俺にはわかる。こいつにそんな甲斐性はない。
「んでどうする?極地に行くか?」
『子供達も手がかからなくなったからな。しばらく旅に出たかったしちょうどいい』
「でもそれ、帰ってきたら実家に奥さん帰ってたりしてませんか?」
クリスも結構言うようになったな。そりゃまともにやりあっても、クリスのが強いしなドラゴンより。俺とクリスで戦ったらまともにやったらまず勝てないだろう。まともにやらなければ勝てそうだが。
『正直夫婦生活に疲れた』
「とりあえず土産くらい何か入手しとけ」
俺たちの中で一番経験豊富な聖剣からのアドバイスに、ドラゴンは小さく頷いた。剣が一番経験豊富ってなんだかなぁ。
しばらく船の旅は存外平穏無事な感じであった。途中で真水を作る装置とか作ってやったら船乗りたちに感動された。俺がシャワー浴びる回数増やしたかったんだが。
事態が変わったのは、半分くらいの行程を進んだ時のことだ。遠くに何かが見える。いわゆる鳥山かと思っているとどうも違う。
「あれってなんだ?」
「……ハルシュピアだと?マズい!」
船長が迂回を命じる。しかし相手も気がついたようだ。海の上の対空戦闘となるとちょっと厳しいぞ。
「ヒロシ?あれなんですか?」
「クリス、どうやら敵さんのお出ましのようだ」
それにしてもやはり……と思うことがある。人間と何かの生物を合成したり、人間並みに知性を引き上げたりした何かがいるのは確実なようだ。やはりアイオーンのせいなんだろうか?
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