第49話 おっさ(略 ですが一粒の麦もし死なずば、それよりもコメが食べたいのです
フェンリルは喋れる(?)のか。兄妹と魔力の通信をしていることが判明してかなり驚いている。俺は小声でクリスに囁く。
「クリス。後でちょっとフェンリルに聞いてみてもらいたいことがある」
「キキタイコトガアルナラワレヲトオストイイ」
うぉ!?聞かれてたか。ロムルストーのやつ耳いいな全く。
「すまん、直接聞くの悪いかと思ってな」
「ベツニカマワナイ」
「うーん、よしとにかくメシ屋に行こう。まずはそれからだ」
こうして俺たちは冒険者がよく行くメシ屋に適当に足を運ぶことにした。また個室を取る。以前と同様店主がニヤニヤしているが、別に変なことしねぇよ。
「さてと。とりあえず俺はヒラガ、この子はクリスだ。二人とも、よろしくな」
「コチラコソタノム」
「よろしくおねがいします」
レムリナも小さく頷く。言ってることはわかるんだろうか。
「ところで、フェンリルは?」
「フェンリルハチカクノモリデマッテイル」
「あとでロメリオ商会寄ってフェンリルのメシも用意してもらおうと思う」
「ワザワザスマヌ」
「気にすんな。さて。ロムルストーとレムリナは帝国の方から来たのか?」
レムリナが小さく頷く。
「ソウダ。キュウナテイコクノホッポウシンコウデ、ワレラモトチヲオワレタ」
マジかよ。帝国も大概だな。
「えっ、でもヒロシ。帝国ですがこれまでは急激な侵略とかしなかったと思うんですが」
「そうなのか?王国とは関係はあまり良くないから侵略する気満々なのかと思ってたが」
そんなことを言っているうちにメニューが来た。
「ロムルストー、読めるか?」
「スマヌ、アマリジシンハナイ」
「クリス、2人に読んでやって貰っていいか?」
「はい!」
料理を注文する時に、俺の脳裏に電光のようにある発想が浮かぶ。
「そういえばクリス、ロムルストー、レムリナ。みんなコメって食べたことあるか?」
「コメってなんですか?」
「この辺りで栽培されている穀物は麦などだが、コメも穀物だ。最大の特徴は粒食に向くということか」
「えっと……でもそんな食べ物知らないですよ」
「ワレモオナジクダ」
存在すら知らないってことはコメは滅んだのか。俺は悪い顔で笑っていたようである。レムリナが露骨に怯えている。
「えっと、大丈夫ですよ。ヒロシはたまに怖い顔してますけど、これでも結構優しいところがありますから」
「これでもは余計だろ」
種子貯蔵施設の状態次第では、まだコメなどの種子も存在し、上手くすれば発芽するかもしれない。コシヒカリが!コシヒカリが異世界と化したこの世界で食えるんだぞ!!テンションが上がってしまうのは仕方ないだろうがよ。
「そう、コシヒカリがだな」
「?」
「すまん、話が大幅に飛んだ。種子貯蔵施設に行く際にかつての地球で食べられていた食べ物を作れるかもしれないんだ」
「かつてってつまりえっと、ヒロシの時代の食べ物が食べられるってことですかぁぁぁ!?」
クリスまでテンション上がって来たようだな。この子結構食べるのが好きなんだが、どういう仕組なのかわからんが胸以外に脂肪が蓄積されている様子もない(筋肉は結構あるからだと思う)。
「な。テンション上がるのは仕方ないだろう」
「はいっ!」
「そのためにだ」
「?」
俺はロムルストーたちを見つめる。レムリナはまだ怯えているようだが。
「ロムルストーはどのくらい北に住んでいた?」
「イチバンキタダ。フユハイチニチジュウヨル、ナツハイチニチジュウヒルニナル」
「北極圏か!でも犬ぞりは使えないんだろ?」
「ワレラニハフェンリルガイル」
「えっと、そっか。フェンリルって巨大だから乗って移動もできますよね」
「ソノトオリ」
クリスの言にロムルストーがうなづいた。あれ?犬ぞり要らないんじゃねそれだと。
「しかしロムルストー、2人はそんな極地でどうやって暮らしていたんだ?」
「フェンリルトトモニカリヲシテクラシテイタ」
「フェンリルと」
「あの、お聞きして良ければですが、ほかにご家族は?」
レムリナが悲しそうに首を横に振った。
「ワレラガナゼステラレタカハワカラヌ。ダガフェンリルガワレラヲソダテテクレタ」
「育てるって言ってもどうやってだ?服とかどうしてたんだ?」
「ヌッタリアンダリシタ。フェンリルガ」
「ど、どうやって!?」
「グレイプニールトイウイトノヨウナモノヲツカッテイタナ」
よくわからんがすげぇなフェンリル。さっきの会話の内容から判断するに、何気に人間に匹敵する知能持ってやがる。ドラゴン夫婦の同類か?にしたってなんだって人間並みの知能の生物がゴロゴロいやがるんだ?
「ふむ。とすると極地の暮らしは」
「ワレラハモトモトキョクチニクラシテイタガ」
素晴らしい!フェンリルとロムルストーたち、これ何が何でも力を貸してもらわないと!
「なら極地の案内頼めるか?」
「キョクチノ?ナンノタメニ?」
「今世界を滅ぼしかねないアイオーンってやつがおってだな。そいつに対抗する手段がなくはないんだが、対抗手段の強化のためにスピッツベルゲン島にあるスヴァールバル種子貯蔵施設に行かないとならない」
「ムウ……ヨクワカラナイガ」
「魔王のようなアイオーンを、倒せるかもしれないアイテムがあるので取りに行きたいんです!おねがいできますか?」
「ナルホド。ワカッタ。タダシ」
えっ?付帯条件付きだと?そりゃそうか。金なら出す。
「極地の案内だからな。金は惜しまない」
「チガウ。カネハサイテイゲンデカマワナイ。ムシロ」
金じゃないだと!?厳しい条件は勘弁してくれよ。
「ソノオンセイガデルハコヲクレナイカ?」
「これか?」
無線受信機か。こんなもんでいいなら何個でもくれてやるし作ってやるよ。
「全然構わんぞ。むしろ新しいの作ってやる」
「ツクル?ツクレルノカ?……マルデカミカ、イヤアクマカ……」
おいおい俺のことをなんだと思ってんだよ。
「アクマデモイイ。イモウトニコエヲサズケラレルナラナ」
「俺は悪魔でもなんでもねぇよ。強いて言うならそう」
「マッドサイエンティスト、ですね」
こらクリス!俺のセリフ取るなよぉ!何舌出してんだよかわいいは正義か畜生。
「最近クリスがスレてきてちょっと悲しい」
「ウォ!ケ、ケンガシャベッタァァァ!」
「すまなかったな驚かせて。クリスの聖剣だ。よろしくな」
「ア、アア」
こうして夜は更けていく。ひとまず宿をとっり、翌日に俺たちは国王に旅立ちの許可をもらいにいくことにした。なにせ他国に行くことになるからな。しかも関係の悪い国に。
もう顔パスになってきた王宮で、いつものように言伝をしようと衛兵に挨拶をするとだ。
「あ、ヒラガ様。ちょうどよかった。行き違いになっておりました」
「お、おう。何かあったか」
「国王陛下がマックスウェル様とお待ちです」
マックスウェルが?国王と?どういうことだよ。まぁいいや。会議室に案内されていく。国王が渋い顔をして眉間にシワを寄せている。マックスウェルがこちらに手を振ってきた。
「ヒラガ来たか」
「こちらも用があって来たのだが、話を聞きたい。何があった」
「国王に相談を受けていた。我が国の隣国である病気、といっていいのか、が流行っているようだ。その治療にある物質がいるのだがな」
「物質?なんだ?」
「レチノールと聞いてわかるか?俺にはわからんが」
「わかる。ビタミンAだろ」
「そうなのか?それもわからんが」
ビタミンAの不足か?失明する人間が増えているのかもな。しかしビタミンAの不足なら野菜でもいいだろうに。
「野菜はどうなってる?」
「それが、貧困層を中心に蔓延しているようだ。野菜を買う金も……」
「そうか」
待て。俺たちが行くところには何がある?緑の革命、ハイブリッドライス、そして遺伝子導入……頭の中にいろんな単語がよぎる。
「マックスウェル、それ手伝えるかもしれない。国王、そのためにだ。ある許可をもらいたい」
「なんと。そちらから何かうまい方法を考えてくれるとは。許可なら出せるものなら出そう。なんじゃ」
「帝国領のある島への渡航許可だ」
「……それはどうしても必要か?」
俺は大きくうなづいた。
「他ならぬヒラガの頼みとあらば仕方あるまい。よかろう。許可を出そう。帝国には隣国の支援のためといえば帝国も無理は言うまい」
「それならいいんだが」
ビタミンA生成のための遺伝子導入コメまで、持って帰らないとならなくなった。隣国の人たちの支援までやらないとならなくなったのかよ俺。マッドサイエンティストとはなんだったのか。
「それでヒラガ、その方法ってなんだ?」
「スピッツビルゲン島から遺伝子導入のコメを持ち帰ってだな」
「どうせそんなこったろうと思ってたんだ畜生!」
マックスウェルには罵倒されるが、ほかにいい方法ないから頭抱えてるんだろうよお人好しのお前はよ。
俺の食生活はさておき、俺たちの責任はさらに重くなりやがった。昔そういえばちょっとだけ聖書読んだ時こんな一文があったのを思い出した。俺たちが目的を果たすことで、種子を豊かな実りに変えられるのだ。
一粒の麦が地に落ちて死ななければ、それはただ一粒のままである。しかし、もし死んだなら、豊かに実を結ぶ。(ヨハネによる福音書12章24節)
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