第51話 おっさ(略 です、月がきれいですがそれより北極星がおかしいです


 どうやら俺たちの行く手を阻む敵がいるらしい。しかもよりによって空に。


「まずいな。このままでは確実にぶつかるぞ」


 船長が舵を左右に振っているが、速度の差がありすぎて振り切れる気配がない。


「ハルシュピアにこの船狙われているってことか」

「そうだなくそっ。振り切れる気がしねぇ!」


 船長たちは必死で振り切ろうとしているが、無理なんじゃなかろうか。相手空の上だし。


「戦うしかないな!」

「バカ野郎どうやって空の上の相手と戦うんだよ!」


 俺の意見は船員たちに否定されてしまった。空の上の相手だからって、対抗策は色々あるんじゃないのか?


「魔法とか使えるやついるだろ?」

「あんな速さで飛び回る空の上の相手に当てられる魔法使いなんて、そうはいないぞ」


 そういうものなのか?このまま船沈められるのイヤなんだけど。


「空の上の相手と……ならこちらも空飛べばいいだろうが」

「無茶苦茶いうな!」

「おい、忘れたのか。飛べる奴甲板で寝てるだろが!」


 聖剣が船員たちに怒鳴る。その通り、離婚寸前でふて寝しているドラゴンが甲板にいるではないか。俺はクリスに合図する。


「どーらーごーんさーん」

『なんだクリスか。ほっといてくれ』

「えっ、でもハルシュピアにこの船沈められたら、いるところないんじゃないですか?」

『……それもそうだな』


 それもそうだなじゃねぇよ。甲板貸してやったんだから、キリキリ働けよダメドラゴン。


「というわけであのハルシュピアとかなんとかしてほしい」

『一応戦うが、数が多いし動きは速いぞ。勝てるとも思えんな』

「私も戦います!」

『……電撃系魔法か。それならいけそうだな。よろしく頼む』

「ちょい待ちクリス。これ持ってけ」


 俺は甲板の奥から、槍を加工した新兵器を取り出した。目を丸くするクリス。


「……えっと、何ですかこれ?槍かな?」

「こいつに電流流すと、磁石の弾を高速でブッパなせる」


 そう、コイルガンである。レールガンは強度的な問題や制御が厳しいので簡単なコイルガンを用意した。本来ならアランに渡してやりたかったんだがな。無論クリスでも使いこなせしてくれるだろう。


「よくわからないけどやってみます!」

「頼むぞ!」


 ドラゴンにまたがり、クリスが空高く舞い上がる。ハルシュピアたちがドラゴンに近づいてきたようだ。どうやらドラゴンがいるとは思っていなかったようである。ん?通信が聞こえる?周波数を合わせてみる。


『なっ!?ドラゴンだと?』

『しかも槍を持った兵士がいるわ!竜騎兵ドラグーン!?』


 ドラゴンの上に槍持った兵士いたらそうも思うか。


『えっ……とぉー。ハルシュピアのーみなーさーん。こうーげーきーしなーいーでーくーだーさーい』

『うぉ!?竜騎兵ドラグーンが魔力通信だと!?』

『言い方はとろくさいがこいつっ!』


 いい感じにクリス+ドラゴンにドン引きしてくれているなハルシュピアたち。しかしハルシュピアたち……よくみると服着てるやんけ。俺は双眼鏡でハルシュピアたちを確認する。どうやらあの服……。


「帝国軍の軍服をハルシュピアが着用してるぞ」

「なっ!?どういうことだ!!」


 船長たちが驚いている。そりゃそうだろう、敵に航空兵力持たれたら、こんな船などあっという間に撃沈されかねない。


『構わん!王国の竜騎兵ドラグーンごと撃沈してしまえ!』

『やる気か!迂闊に近寄るならっ!』


 ドラゴンが火炎放射をする。攻撃しようとしたハルシュピアたちが距離を置く。


『くっ、さすがにあの炎は油断できん!』

『てっーたーいーをー、おーすーすーめーしーまーすー』

『……クリス、俺から交信する方がいいのではないか?』


 戦線は膠着している。迂闊にお互い近づけない。そりゃ焼かれたくないし、爪に引き裂かれたいとも思えんだろ。ハルシュピアの一部は爆装しているらしく、なお近寄りたくないようである。


『投擲しろ!奴の火炎の射程外からだ!』


 ハルシュピアのリーダーらしい奴がそんな指示を出す。だがそれは悪手だ。


 クリスの槍、いやコイルガンに電撃がチャージされ、次の瞬間。爆音とともに何かが飛んで行った。サイレンサーつけないと危ないな。


『なっ!』

『えっと、てっーたーいーしないーなら、ーつーぎーはー、あーてーまーすー!!』

『あんな速さの攻撃……我々だけでは無理です!』

『ここで全滅するわけにはいかない。仕方ない、撤退する!』


 威嚇攻撃の効果はあったようだ。ひとまず撤退してもらえたので助かった。勇者専用試作兵器一號、まずは成功だな。クリスとドラゴンたちが降りてきた。


「2人ともおつかれだったな」

「音凄すぎです。もうちょっとなんとかなりませんか。危なく落とすところでした」

『鼓膜破けるかと思ったぞ』


 サイレンサーの開発は急務だな。狙撃するにも音がデカすぎる。ハルシュピアたちの攻撃をくぐり抜けられ、まずは一安心ではあるが。


 その日の夜のことである。


 夕飯を食った俺は空を見ていた。星がきれいである。満点の星空の下、俺はある星を探している。


「北極星は……そうだ北斗七星はもう使えないんだよな。15000年だとすると、こと座のベガが……」


 ぶつくさ言いながら星空を探している。クリスが俺の横にやってきた。お茶を持ってきてくれたみたいだ。


「おう、悪いな」

「いえ。えっと、ヒロシ。北極星って何ですか?」

「北極星っていうのはだな、真北方向に一晩中ある星なんだ。他の星って上ったり沈んだりするだろ」

「確かに、そうですね」


 お茶を受け取りながら星を探し続ける。船が大きいからか、揺れが少なくていい。揺れを防ぐ仕掛けもあるのか?……砕氷できないじゃねぇか。上陸の際には小船がいるか?


「それで、その星を探しているんだが……こと座のベガが今はその対象のはずなんだ」

「どんな星ですか?」

「明るい星……ってあれ?何であんなとこに?」


 おかしいだろ。地軸の移動周期は26000年だったはずだ。アイオーンによる世界崩壊後、かなりの時間が経過しているから、経過時間を考慮すると、本来であればベガが北極星となっているはずだ。


「待て待て待て待て。Sophiaの内部時間が狂っていたのか?おかしい!こんなの変だ!」


 空にうっすらと浮かぶ五角形。それが俺たちの進行方向にある。ケフェウス座だ。


「年代が合ってないだと!?何を信じたらいいんだよ俺はぁっ!?」


 俺はほぼ、悲鳴に近い叫び声をあげていた。北極星じゃないが、目印になるものがないんじゃ何を指針に行けばいいんだ!?


「えっと、北に向かうなら北の大五角形を目印にするんですよね」

「北の大五角形?ケフェウス座のことか!……ケフェウス座のγ星が北極星なのか?」


 ということは、俺の時代から高々2000年も経ってないってことになるぞ。


「ケフェ……昔はそう呼んでたんですか?」

「そうだ。昔はこぐま座が北極星だったんだ。あの北斗七星を元に北極星を探していた」

「そうなんですね……北の大五角形じゃなかったんだ……」


 時代が変われば指針も変わる、ただそれだけのことだ。使えるものがちょっと違うだけだ。そう思おう。


「そうだな。時代が変われば変わるってもんだ」

「寒くなってくるから早く入りませんか?」


 そう言われると確かに冷えてきたな。俺たちも船室に戻るか。ふと空をもう一度見ると、水平線の上に月が出ていた。


「ヒロシ……月がきれいですね」


 そうだな。水平線の上の月なんて、ここに来てからは見たことがなかった。月……そう、月を見て、俺がなんでこの世界が異世界だと思っていたのかを思い出した。


「なぁクリス」

「はい」

「月ってさ、あんな巨大なクレーターあったんだっけ。目で見て分かる程」

「ありましたよ。私が生まれるずっと前から」

「そうなんだ……」


 やはりか。つまりが、この地球で起こったってことだ。そしてそんなヤツと俺は、いや俺たちは対峙しないといけないんだ。少し寒気がした。


「ほら、震えてるじゃないですかヒロシ!早く部屋に戻りましょう」

「あ、ああ」

「そこまで寒くないと思うんですけどね」

「俺は寒がりだからな」


 そういうことにしておきたい。そしてできたら俺が対峙するのは構わないが、この世界の人間にはあいつに対峙してもらいたくない、そう思った。目の前にいるクリスをそんな危険に晒したくはない。


 対峙する方法を探すのはみんなで一緒にやってもいいが、星の地形を変える程の怪物を相手にするとなると……。それにもしあいつとの戦いで誰かを喪ったら、俺は死んでも俺を許さないだろう。


「クリス」

「えっと、なんでしょうか」

「俺、死んでもいいよ」

「えっ!?ダメですよ死んだら!!」

「……そうだな」


 慌てるクリスを前に、俺は少し寂しさを込めた顔で微笑んだ。

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