第15話 おっさ(略 ですが異世界に精神が違法ダウンロードされました
ノーライフロードとちょっと仲良くなったわけだが、色々と聞いてみたいことがわいてきた。
「アンデッドって代謝がないっていうが、どうやって動いてんだよ。エネルギー源はなんなんだ?代謝がないというのなら生物ではないんだろうが」
『生物ではない、か。確かにな。生物を使用しているが、内部は機械と言ってもいいかもしれない。魔導機械の一種だと考えるとわかりやすかろう』
「魔導機械?それってアレか?世界樹から魔力供給されてるってヤツか?」
『んー、世界樹からではないが原理的にはほぼ同等か』
……つまりアレか。ガルバーニ電気のカエルの実験のさらに発展系ってところか?ガルバーニの方は原因と結果を取り違えていたようだが。電気で死体動かしてんだな。エグい反面面白い気もしなくもない。
「生物機械とな。そんなものが普通に存在するとは、何とも奇妙な世界に迷い込んだもんだ」
『ん?何かどこかよその世界から来たとでも言いたげだな?』
「その通りだっての。気がついたらこの世界で目覚めたってんだよ」
『……ちょっと待て。お前のその身体、ひょっとして死んでたんじゃないか?』
「知らん、そんなもん」
『……それで生き返ったあと、お前の脳内の情報がその脳に……お前も別の世界で死んだのか?アンデッド作るつもりが死者を蘇生したのか私は……』
どうして俺に会うヤツは崩れ落ちるんだ次々と。そんなにイヤか俺が。
「しかしなんで脳の情報なんぞ?」
『死体を動かすにしても、脳の情報というものを何処かから持ってこないといかん。通常、死体自体に残っているものを使うのだが、残っていない場合情報を別のところから持ってくることになる』
つまりなんだ、こいつ俺のこと別世界から違法ダウンロードしやがったのか?何勝手にやってんだよ。
「それで俺の意識がこっちにダウンロードされたってか?いい加減すぎるだろ」
『だうんろーどというのはよくわからんが、結果的に悪いことになったな。すまん』
「あの、いいですか?」
おずおずと手をあげるクリス。
『ん?そちらは?』
「そこのゾンビとか食べちゃう人の従業員です。ちょっと気になってることなんですが」
『構わんが……アンデッドの私がいうのもなんだけどちょっと引くよな』
「引きますよね」
おいこら、何言ってんだよお前ら。人間というのはありとあらゆる食物に手を出したことによって肝臓を進化させ、世界に拡大していったんだ。つまり俺の方が人間らしいってことだ。しかしちょっとトゲのある発言ですよねクリスさん。
「ひょっとして、ヒロシって、死んでたんですか?その別の世界で」
「……あぁ。死んでいた」
『やはりな』
「ヒロシの魂だけこちらに来たって……ことですよね」
『魂の存在というものは実証が難しいと思うが、少なくともこちら側の人間じゃなさそうだ。……牛とはいえゾンビ食うヤツは』
なんだろう、アンデッドにバケモノ扱いされているような気がする。気のせいだとは思うけど。
「そもそも何故こんなことが……?」
『私にもわからないが、多分その肉体が生き返ったときに私の術により不足していた身体を動かす情報がどこかから引っ張られたんだろう。よりによってこの世界でないところから』
「俺たちの世界のホーキングという学者が、異世界の存在について観測可能だという説を出していたが、よりによってこんな形で実証されるとはな。帰ったら論文書きたい」
『おそらく帰れないと思うぞ。だいたいお前そっちの世界で死んだわけだし、情報以外をその世界に送る方法もわからない。今のところは情報の送受信に双方向性ないし、根本的なところで再現性がない』
そっかー再現性がないかー。残念だ。超頑張ればイケるかもしれないが、そこまで頑張る必要性を感じないな今んとこ。それにしても死後の世界、なんてものはないと思っていたが、これはある意味死後の世界かもしれない。
「そもそもなんですけど、この人ってヒロシ本人なんですか?」
「死んだ本人の俺が言わせてもらうが、ある意味違うな。偶然確立された連続性はあるようだが」
言うならばギリシア神話のテセウスの船だ。船が故障するたびあちこちのパーツを入れ替えていけば、元の船とは全て別のパーツで構成された元の船と同じ形の船になる。なら半分なら半分なら?そもそも何をもって同じ船といえる?船の『魂』が形にあるからこっちが本体?そもそも魂とやらもコピーだぞ多分。本体の魂ないけど。
『どうしてこうなった……』
「まぁ気にすんな。結果的にとはいえ、こうして俺は生きてんだ」
「もう少し気にしろといいたい」
聖剣にまでそんなこと言われる。細かいことを気にすんな。ハゲるぞ。……といってもお前らこそ人間じゃないじゃないか。
「俺からも聞きたいことがある」
「なんだアラン」
「目撃されたアンデッド情報だが、最初の頃の情報とこのノーライフロードでは結構違うんだ。ノーライフロード、何か知らないか?」
『……イヤな予感がするぞ』
「奇遇だな、俺もだ」
お前ら何を同意してんだよ。わかるように話せよわかるように。
「イヤな予感ってなんだよお前ら」
「気づけよハカセ、俺たちが最初目的にしてたのはこのノーライフロードじゃないんだ」
「マジかよ、他にもいるのかよアンデッド」
「たまたまにしてはできすぎているがな」
聖剣の言うとおり、確かに作為的なものを感じなくもない。
「ノーライフロード、一つ聞いていいですか?」
『構わないが……怖いこといわないでね』
「牛の管理もアンデッドにさせてたんですよね、多分」
『そうだな』
「なんで逃げたと思います?」
『……げっ』
クリスさん、何言い出してるんですか。そして君は何をビビっているんだノーライフロード。アランも何かに気づいたようだ。
「ちょっと待てよ!すると何か?アンデッドXがノーライフロードと俺たちを争わせるためにアンデッド忍び込ませて牛を逃したと?」
「はい。そう考えると辻褄が合いますよね?」
『だとすると、これはマズいぞ!』
しかし何者だそいつは?急いで近隣の集落に伝令を出しつつ、アンデッドXを捜索することになった。伝令たちが各地の集落に警告をしに行ったのだが、伝令の1人が予定より早く戻ってきた。ものすごく息を切らせている。まさか。
「発見しました!アンデッド数百体!この近くの集落を目指しております!!」
ヤバいだろこいつは。どうするんだよこれ。
「急ぐぞ!犠牲者を出すわけにはいかんだろ!」
「はいっ!」
『私も行くぞ!私怨だが、そいつだけは許せん!』
「いいのか、グラント?」
『いいに決まってるだろうが。後で昔話でもするぞ』
おお、力強い援軍だ。聖剣とはこいつは知り合いみたいだが、それにしたってアンデッドと聖剣が協力かよ。
「よし。皆の者聞け。グラン……ノーライフロードが援軍を申し出てくれた。そこで二重の包囲をヤツらにかけることができる。勇者たちが遊撃でヤツらを追い詰め、アンデッド部隊と前衛の兵で二重包囲。後衛兵は包囲内に攻撃だ!そしてヒロシ!」
聖剣が矢継ぎ早に指示を出す。基本的に問題無さそうだ。しかも戦力はこっちが上だ。どれだけ人間に犠牲を出さないで済むかを考えた戦略か。兵士たちには若干動揺もあるが、ノーライフロードがいいヤツなのはわかってるし、聖剣の知り合いってこともあるからな。
しかし俺はどうすんだ?いや、火力は今日は十分あるが。
「二重包囲の間を走り抜けつつ、馬車からアレを叩き込め」
「わかった。アンデッド部隊に犠牲を出さないためには直前に引いてもらうぞ若干」
『すまんな』
「それに、俺もやりたいことがある。ひと暴れした後奴らの捕縛をしていいか?」
『別に構わんが食うなよ』
「人食い族じゃねぇよ!」
おいこら何笑ってんだよみんな。クリスもかよ、まぁ引かれるよりマシだが。かくして俺たちはアンデッド軍団と相対することとなった。いかにもアンデッド、みたいなヤツらがいる
「なんかノーライフロードのアンデッドと違って腐ってんなー。食いたくないわ人間じゃなくても」
『だから食うなよ』
「食わねぇよ。しかしなんで腐ってんだ?違いはなんだ?」
『私が作る腐敗しにくいアンデッドには、それだけ素体の維持にコストをかけている。あちらの方は使い捨てだが、そのぶん戦闘力は高い。……勿体無いことしやがって、バカが』
本音言うなよ。気持ちがわからないわけでもないが。中央のアンデッドの親玉みたいなヤツがカタカタ言っている。人間だとアゴが外れた状態か?ハメようとして嵌められたんじゃ世話ないな。
アランたちとクリスが猟犬の如く飛び出し、アンデッド軍団を押し返して行く。彼らの背後にはノーライフロードの配下のアンデッドがせり上がって行く。よし、想定通り包囲が出来てきた。
「行くぞおおおおぉぉ!!!」
俺は叫びごえをあげつつホロを取っ払った馬車から、火薬で噴射するロケット弾を叩き込み始める。爆発とともに吹き飛ぶアンデッド。
『ヤツらの動きが、おかしい?』
ノーライフロードは気がついたようだな。その通り、ちょっと仕込ませてもらっているぞこのロケット弾には。アンデッド軍団が成仏を始めた頃(この世界に成仏の概念があるかは知らないが)、アンデッドの親玉が俺の方を睨みながら何かを叫んでいる。叫んでいるが意味がわからない。
「おい!わかる言葉でいえよ!」
「魔族の言葉なんか分かるわけないだろ!」
アランに突っ込まれてふと気がついてしまった。そういえば何かを聞く前にぶっ殺してたなぁ……ずっと。でも人間とか襲ったり食ったりしてるヤツらだぞ?そら聞く前に殺すしかない。そういう運命だ。おまえを、殺す。
……俺は人間は殺さないが人間以外なら殺すのに躊躇はない。覚悟を決めてもらおう。
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