第14話 おっさ(略 ですが熟成ゾンビーフ美味しいです
遺伝子のリストが入っていない。
借りてきた適性検査用の魔道具には、遺伝子関連の情報が入っていない。そのことが俺を失望させる。多型情報は入っているようなので、これだけは取得できる。しかしこいつは厄介だ……。烙印に関してもこれ、というものが見当たらなさそうだ。だったらどうやって認識している?それともこの魔道具じゃムリなのか?
「まだ起きてるんですか?」
「クリスこそ早く寝ろよ。寝ないと太るぞ」
「そうなんですか?」
「そだぞ。栄養不足だと脳が勘違いするようだな」
「それはイヤですね……ヒロシもあまり夜更かししないでください。太るんですよね?」
「おっさんだから余計にな」
「もう……」
それだけいうと、クリスが何故か口を尖らせながら寝に行ったようだ。しかしこうなると、リボソームRNAの16sデータベースからのアプローチの方がうまくいくんじゃないか?ということは鑑定ができる店から件のアイテムを借りる必要がありそうだ。うーん……
これ以上考えても今日のところはいいアイデアが浮かばないな。俺も寝るか。そう思ってかつて宿直室だったであろうところで寝に行くことにする。冷暖房完備だ。下手な王室の寝室より過ごしやすいぞここ。寝るとき全裸の子も「風邪引かなそうでいいですね」って言ってるし。……服着て寝なさいきみは。そういえば、だ。二段ベッドの上のクリスに思い出したようにいう。
「そうだクリス、聖剣先生と研究についてディスカッションしたいんだ。貸してくれる?」
「明日でいいですか?今日はもう寝てください。また鼻血出ますよ」
「あれから出てないけどな……わかったもう寝るよ」
チッ、手厳しいな。明日にするしかない。ふて腐れた顔をしながら寝ることにした。
朝起きてから簡単な食事をとった後、早速聖剣先生と今後の研究方針についてディスカッションすることになり、話し始めようとした直後だ。研究所の玄関の呼び鈴が鳴らされた。魔道具を経由して玄関の画像が映る。王国の兵士だ。魔道具越しに兵士に話しかける。
「おう、俺だ。何かあったか?」
「うわ!建物が喋ったぁ!」
そんなびっくりせんでも、と言いたいところだったがこの世界では考えられないものなのか?伝声管作るだけでも儲かりそうな気がしてきた。でも魔法で伝えたりできそうな気もするからなんともいえんな。
「それはいいけど、何かあったのか?」
「は、はい。アンデッドの群れが村の方に向かって」
「アンデッドだと?魔王軍も崩壊しているというのに」
聖剣先生も驚いているようだ。
「そ、それはわかりかねますが……上位のアンデッドネクロマンサーが現れて」
「アンデッドのネクロマンサーですか?魔王軍にいなかったんでしょうか?」
「でもそういうのってアランたちの仕事だろうが」
「そのアラン様たちや軍も対抗しきれないかもしれない数でして……魔王城ごと吹き飛ばせるヒラガ様達にもお力をお借りできないかと……」
そういう状況ならやむを得ないな。
「しかし俺アンデッドとやりあったことないからな……アンデッドってなんか弱点とかあるんだろうか?なんとなく想像なんだけど、光とか弱点なんだろ?」
「核兵器はやめろ核兵器は」
「なんで光って言ったら核兵器なんだよ、俺一回しか使ってねぇよ」
「……一回使ったら十分だそんなもの」
おいこら聖剣、それ核兵器を都市に二回も落とした某超大国にも言ってやってくれや。
「アンデッドの弱点は火じゃないですか?」
「クリスのいう通りだな。特にスケルトンのようなアンデッドには効果が高い」
「よし、持って行くことにするか」
「何かあるんだな?」
「高熱を発するテルミット爆薬やナパームなんかで、焼き尽くしてやることにしよう」
「なにも残らなさそうです……」
かくして馬車に大量の爆薬を積み込み、一路アンデッド軍団のいる村を目指す。しかし馬車のペースが遅い。このペースじゃアラン達や兵士たちも全滅してないか?
「ウマを使い潰していいか?」
「何をするつもりですか!?」
「ウマにクスリを飲ませる」
「クスリ?」
「俺が使ってたクスリをウマに使わせて加速させる」
実のところ、カフェインの効果はウマには人間以上に発揮される。競馬のドーピング検査でカフェインも対象となっている。
馬車を川の近くに止め、ウマに水を飲ませつつドーピングさせる。ウマが変な顔をしているが、君らに本気を出してもらわないとアラン達や兵士の皆さんがまずい。
ウマたちへのドーピングの効果だが、かなり有効であったようだ。馬車の揺れが激しくなるがスピードは確実に出ている。遠く見ないと酔いそうだなこれ。ウマ達頑張れ。
加速する馬車の中で遠くをずっと見ていると、村が見えてきた。よかった、まだアンデッド軍団は侵攻していないようだな。しかしアンデッド軍団、かなりの数だ。兵士やアラン達が相対しているが、いつこの膠着状態が崩壊しても変ではない。
「ヒラガ様をお連れしました!」
「マジか!?ち◯こ痒くならないよな!?」
おいこらちん◯痒くさせるぞそんなこと抜かすと。人をバイキンみたいに言いやがってて……まぁ俺の自業自得だが。
「状況は?」
「はい、村の前に大量のアンデッドが出現しております。推定1500体!さらに増殖しています!」
聖剣の質問には兵士達は素直に答えてくれるんだよな……俺らはおまけか。まぁ聖剣のおかげで、クリスが迂闊に悪口言われないのはありがたいが。
「何故急にアンデッドが大量に発生したんだ?」
「原因については現在調査中ですが、一体高位のアンデッドの存在が確認されております」
「高位のアンデッドですか?」
「はい、ノーライフロードが後方に確認できました」
「ノーライフロード!?数百年間未確認だったはずだぞ」
聖剣先生の叫びから判断すると、高位のアンデッドが新しくアンデッドを作り出したということか。この世界では、アンデッドは勝手に発生しないっぽいな。それにしたってなんで今なんだよ。
「あっ……」
「どうしたクリス?」
「まさか、ヒロシが魔王を倒したことで出現した……とか!?」
「えっ?」
「はい。魔王を倒すのに聖剣も聖霊も使わないで倒したわけですよね、ヒロシは」
「まぁな」
「本来倒すのに必要とされた両方の存在を無視で」
「そうなるな」
「……そういうことか」
おいおいきみらだけで理解してるんじゃないぞ、聖剣もクリスも。
「ヒラガ、つまり魔王を倒す際に正常な手段を取らずに倒したんだお前は」
「正常な手段」
「複雑な機械を止めるのに、本来の止め方をせずにいきなりぶっ壊したとしよう」
「おう」
「その機械が他の機械となんらかのつながりがあったら?さらに他の機械を止めていたとしたら?」
えっ。ちょっと待って?まさかこれ俺のせいなの、このアンデッド軍団生まれたの。ダメじゃん。止めなきゃ仕方ないのか俺が?アンデッド軍団に近寄ってみる。確かに背後にゴージャスなアンデッドがいる。あいつかノーライフロードは。でも待てよ、俺この世界に来たときにあいつ見たような気がしてきたな。
アラン達がやってきた。相変わらず他の仲間達は俺を蛇蝎のようなものを見る目で見ている。
「ハカセか」
「おう、久しぶりだなアラン」
「さすがに追放したお前に頼むのは筋違いだとは思うが、相手がアレだからな」
「俺だけじゃない、クリスも聖剣もいるんだ。遅れはとらん」
「……やりすぎはやめてくれよ」
「核爆弾はもう使わないから安心しろ」
引きつったような笑みをアランは浮かべた。そこまで嫌なのか。さっさと終わらせてとっとと別れよう。
ノーライフロードがこちらを見ているようだ。どうやってアンデッドを量産しているんだこいつは?作り方とかちょっと興味があるな。しばらくすると、アンデッドをかき分けてヤツだけが俺の方に向かってきている。アンデッド達は動かない。……やっぱり俺こいつを知っているぞ。
「アラン、他の連中に動くなと言ってくれ。俺はヤツと接近してみる」
「わかった。気をつけろ」
「ああ。クリス、俺と来てくれ」
「はいっ!」
俺の方も2人だけではノーライフロードに近寄ることにした。お互いの攻撃が届く範囲に達したとき、ノーライフロードがこっちに何か言って来た。
『やはり……あの時の……しかしアンデッドになったはずなのに……』
「お前は、俺がこの世界に来た時に会ったな」
『この世界?お前……アンデッドじゃないのか?やっぱり?』
何言ってんだよ、俺はちょっとおかしいかもしれないが人間のつもりだぞ。
「何言ってるんですか!ヒロシは立派に人間です!ほら!ちゃんと心臓動いてます!」
クリスが俺の胸に耳を当ててそういう。そこまでしなくてもわかるって。心拍測定したいなら手を当てたらわかるって。
『そういうイチャイチャやめてくれない?』
「べ、べつにそういうつもりじゃ……それにわかってくれてないし……」
「ノーライフロード……その声は!お前かグラント」
『そういうお前こそなんで剣になってんだよ!』
ちょっと待てやみんな知り合いなのか!世界は狭すぎるだろうが!
「お前らみんなちょっと待て!まずノーライフロード!お前なんでこの村を攻めようとしているんだ?」
『え?そういうことになってる?そんなつもりなかったんだが』
「なんだと?」
「じゃ、じゃあどうしてこんなにたくさんのアンデッドを……」
クリスのいう通り、すごい数のアンデッドがうろついてるから兵士やアラン達が出向く羽目になったんだよ。説明しろ説明。
『実は実験体を捜している』
「実験体?」
『ああ。色々な動物でのアンデッドの作成を試みていたんだが、その一匹が脱走した』
「脱走」
『牛のアンデッドなんだが……』
「牛」
つまりなんだ、こいつは実験動物捜してアンデッド出したのかよ。はた迷惑だなおい。こちらとしては全力で戦うつもりだったんだぞ!その一方でこいつに妙な親近感も覚える。こいつ研究バカだ。きっとそうだ。
『ところがどこまで捜しても見つからない。かなり捜索範囲を広げたが……この有様だ』
「状況はわかった。しかし近隣住民が不安になっているぞ。早くなんとかしてくれ」
『こちらとしても見つかったら即戻ることにするつもりだ』
「つまり、みんなで捜索したらすぐに済みますよね」
クリスくん、つくづく勇者らしくない子だねきみは。いやいい子だとは思うけど。思うけど。
『見つけてくれたら金一封、迷惑料も出そう』
「乗った」
かくして俺はノーライフロードとの交渉結果をアランに伝える。さすがのアランも呆れ顔だったが、死地に赴くつもりが牛捜しでお給料も出るとなると、心も落ち着いたようだ。
「全く……一体何なんだよ!」
「そんなことよりさっさと牛を見つけて帰るぞ」
アラン達や兵士達もアンデッドと共に牛捜しを開始する。金一封が出るとなると、やる気も出るというものだ。しかし、なかなか見つからない。待てよ?
「どっかにハマってたりしないだろうな?」
『ないとは言えないな』
「がけとかに落ちてるとかですか?」
「あり得そうだな。魔力探知にも引っかかりにくいってことか?」
かくしてみんなでがけや川などを重視して探していると、クリスが何かを感知したようだ。
「あっちの方に……結構大きな動物がいるような……でもなんだか違和感が……」
「アンデッドだからな。普通の動物じゃないし」
「そっか」
そっちに行ってみると、件の牛はひどい有様である。アンデッド牛、脚を複雑骨折している。全身傷だらけでかろうじて動いている。こりゃもう死なせた方がいい。アンデッドだけど。
「見つけはしたが、この有様だぞ」
『……あんまりだ……見つけてくれたことには礼を言おう……でも酷いなこれは……処分するしかないじゃないか……』
「モー」
アンデッドでも鳴き声は牛である。ゾンビみたいな叫び声でもヤダけど。
「しかし、アンデッドって思ったより臭くないんだな」
「そうですね。野生動物より臭くないかも」
『それはそうだ。考え方次第ではあるが、アンデッドとはいうならば生体をベースにした機械だ。腐敗しないよう魔力による処理がされているし、代謝もないからな。屠殺済みたての牛と違いはほぼない』
ノーライフロードのその発言で、ふと二つのことに気がつく。アンデッドが一種の生体機械で、別に負のエネルギーとかで動いてないってことだとすると、俺たちにも作れる可能性があるということか?そして腐敗していないということは……それってちょっと待てよ?ひょっとしてこれは……
「ノーライフロード。兵士とアラン達には謝礼出してやれ。俺はこの牛でいい」
『構わんが……何をするつもりだ?』
「この牛。腐敗もしていないで長期間たっているってことは……熟成してるよな、肉。美味いんじゃないのこれ?アンデッドの魔力を除去したら十分イケるんじゃないか?」
「「『はぁ!?』」」
みんなの心がいま、再び一つになった。
「早速いただくとするか」
「ちょ!ちょっと!正気ですか!アンデッドですよぉ!」
「アンデッドとは言え牛だぞ?熟成肉だぞ?」
「食べるなら1人で食べてください!!」
好き嫌いは良くないぞクリス。絶対これ美味いやつだ!俺の第六感が叫んでいる。
『……仕方ない。いいだろう好きにしてくれ。残ったらアンデッド兵にも分けてくれるならなおいい』
「おう!気前がいいな!構わんぞ。早速食べるか!」
「いやあああぁぁぁ!!」
かくしてクリスの絶叫をBGMとして、嫌がるシオンに無理やりターンアンデッド魔法をかけてもらった上、じっくり焼いて実食してみた。かなり美味かったことだけはお伝えしておきたい。これまで食ったことないレベルだが、他には誰も食べなかった。好き嫌いは良くないぞみんな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます