第13話 おっさ(略 ですが(外科的に)左腕に封じた精霊が疼きます



 精霊を従えたので、髪の毛チリチリの俺はひとまず仲間たちと共に研究所に帰還することにした。不定形のものがぽよぽよしている。こいつが精霊か?にしても生物っぽいな。スライムにみえないこともない。


「聖剣さん」

「なんだクリス」

「精霊っていうのは生物なんですか?」


 聖剣先生に俺も聞きたかったんで、クリス委員長が代わりに聞いてくれたのは助かる。


「魔法全般が微生物とナノデバイスの複合体コンポジットなので、精霊も生物といえば生物といえなくもない」

「何か食べたりもします?」

「魔力自体を生命活動に利用もするが、生存に必要なものは摂取する必要がある。植物が水分や栄養素を地中から吸い上げ、吸収するようなものだ」


 どちらかというと植物寄りなのか?植物の光合成に当たるのが魔力の収集で、それで分子から栄養素を合成か。なるほど。面白い。待てよ、ということは、だ。


「精霊って魔力はどこから集めてるんだ?」

「周囲から魔力を集めている。魔力を使うものなら常識的なことではあるが、この世界において魔力はそこかしこにあるからな」

「人間の魔力もそうやって回復してるのか?」

「人間や生物の場合、そう単純ではないようだ。そもそも周囲から魔力を取り込むことができるのは限られた精霊や選ばれたもののみだ」


 ちょっと待てよ、おかしいぞ。周囲からとりこめるものとそうでないものがある?どう考えればいい?


「魔力が……違う?」

「本質的には同じといえるが、魔力の取得法は異なる。精霊に魔力を供給しているのは例えば世界樹システムなどだ。太陽のエネルギーを世界樹が魔力に転換しそれを世界に供給……」


 昔俺がいた世界のテスラっておっさんが、世界システムってのを考えていたな。電波によるエネルギーの供給で世界のどこにいても電気が使える。似すぎているな。テスラのおっさんがもともとこの世界にいたのか、それともこの世界の過去に俺たちの世界から誰かが来たのか……はたまた第三の世界に……


「生物はどうやって魔力を?」

「食べたものを利用し、魔力を生成するということになるな。魔力を生み出すのは全身で、それを扱う神経系に似た回路が……中核は腹部にあるが全身に展開して……」


 クリスが聖剣先生に話を聞いているのを聞きながら、俺は少し考える。魔力の本質が見えてきたな。やはり電気だ。想定はしていたが。俺も気になることが出てきた。


「勇者が雷魔法を使うというが、勇者ってひょっとして魔力を外部から取り込むこともできるか?」

「えっと……効率は良くないですけど、できます。弱い魔法なら外では魔力切れになることなく連射できますよ。さすがに精霊のように食物なしで生きていくのは無理みたいですが。……ひょっとしてできるのかな?」


 すげぇな人間電子機器クリス。といっても世界に一人……いや二人かいまのとこ、しかいないんじゃ汎用性のかけらもないんだが。あと食物なしで生きるのはやめた方がいい気がする。霞食って生きてくって、勇者から仙人にジョブチェンジじゃん。


「精霊も同じことができるってことか。ということはだ」

「……なんか、すごく嫌な予感がしてきました」

「嫌な予感がしているところ悪いが、イグノーブル、喜べ。魔法をほぼ無限に使う方法を思いついた」

「聞くだけは聞きたいですが」

「精霊を、いや

「「「はぁ?」」」


 二人と一本の心が今一つになったようだ。


「精霊をイグノーブルの体に生やす。そんでもって精霊の魔力は外から受け取って精霊がイグノーブルに魔力を供給する。イグノーブルは有機物を精霊に……」

「でもそんなことできるんですか?」

「水場の精霊を一つ寄生させればいいんじゃないか。体にわざと水をためて」

「え?」

「嚢胞とかあったらそこに寄生させようと思う、なかったら作らないといけないんで、体質的にできにくいと厳しいな。でもなんとかなるだろ。そこに外科的に精霊を封じる」

「うわぁ……頼まなければよかった」


 うるせぇよイグノーブル、お前だって強くなりたいんだろ、だったら手段は選んでいる場合じゃねぇよ。


「でも確か嚢胞って、腫瘍になることもあるって本で読んだことがありますよ」


 相変わらずいろんなことに詳しすぎるだろクリス先生。君も実は地球から転生してたりしないよな?な?


「必ずなるわけでもないから。精霊をうまく使えばそれも解決できるかもしれないぞ」

「あとは身体のどこにためるんですか、水」

「うーん。手とかでいいと思う。ガングリオン作って」

「それにしても、この精霊どうします。大きすぎませんか?」

「あ……」


 しまったな。ここまで大きいと寄生させるの厳しい。聖剣がピカピカ光って何か言いたそうだ。


「それなら、この精霊に子供を作らせよう」

「そんなことできるんですか?」

「ああ、クリスに言った通り、精霊は生物でもあるからな、必要なものが十分あれば子精霊を作ることは可能だ」

「親精霊はお役御免か」

「精霊術師に引き渡せば喜ばれると思うぞ。金貨数十枚にはなる」


 結構高いな精霊。ペットってわけでもないからそりゃそうもなるか。ん?そういえば気になることが出てきたぞ。


「聖剣、精霊を大量に繁殖させることもできるのか?」

「それは難しいだろうな。必要な栄養素、特に微量金属元素がなかなか入手できないだろうからな」

「何が必要だ?」

「イットリウム、セリウム、ネオジム……」

「またわからない単語で会話してる……」


 すまんなクリス。そのうち全部説明するよ。しかしレアアースか!……深海でもあさる必要があるな。それか地表に出現しているものを探るか……。


「精霊大量繁殖はそのうちにして、子精霊を作る分くらいはあるのか?」

「一応な。でなければこんな提案はできん」

「よし、ではさっそく子精霊づくりを始めるとするか」


 こうして、きれいな水に研究所内にあった栄養源や金属を投入し、外に精霊を連れ出して待つことにした。しばらくすると精霊が分裂し、小さいのがでてきた。


「かわいい!」


 クリスが思わず叫んでるけど、確かにかわいい。なんかぴょこぴょこしてる。さてこれを手に移植することにしないと。ん?そういえば。


「待てよ?腸管に共生って手もあるな……」

「えっ?」

「口から入れるか尻から入れるかそれが問題だな」

「……手でお願いします」


 確かにケツの穴から精霊突っ込むのはキツいかもしれん。精霊にも辛そうである。嚢胞はというと、回復ポーションを手に注射して作ることにした。


「本当にこれでできるんですかね?」

「可能性は高いと思うぞ。本来ポーションは体表に作用するわけだから、組織誘導でガングリオン形成ってのはおかしくない」

「理論的には可能でも考えてることがおかしい……」

「ついていけません……」


 聖剣にもクリスにも呆れられてしまったが、きみたちみたいな高性能じゃないんだぞイグノーブルは。クソ性能の身体きたいをカスタム化して高性能化したくなるのは人情ってもんだろうが。


「うわ!何か膨らんできました!」

「いい感じだな」

「本当に大丈夫ですか?」

「あとはここに精霊を移植してやる。ほら、来るんだ」


 イグノーブルに精霊がピョコピョコ寄ってきた。そして、注射器の針のところからガングリオンに潜り込んだようだ。


「うわ、本当に入りこんじゃいました!」

「こうスムーズに行くと嬉しい反面背筋が冷たくなるな」

「しかしうまく行ったのはいいんですが、魔法は使えるんですか?」


 しばらくすると傷口もふさがり、ぷっくりとした嚢胞ができあがる。しかし、うまくやれたかどうかは、イグノーブルに実際魔法を使ってもらわないとわからんな。というわけで、イグノーブルと一緒に外に出る。何もない荒地にやってきた。


「それではやってみることにしましょう」

「おう、頑張れ」

「行きます!ファイア・ウォール!」


 中位魔法らしいファイア・ウォールだが、これまでならこれで魔法切れだったんだよな。しかしイグノーブルがぶっ倒れる気配はない。


「ふぅ……まだいけそうです!」

「よし!撃ってみろ!」

「ファイア・ウォール!!……もう1発!ファイア・ウォールっ!!!」


 三連発か!成果はあったな!炎の壁の前で俺は笑みを浮かべる。


「……ファイア・ウォールっ!!!うっ……」


 その場にイグノーブルが座り込んでしまった。ここまでか……まあ1発が4発ってずいぶん強化されている。


「……なんだか少しずつ魔力が回復している気がします」


 マジか!勇者並みの魔力回復力ってことになるな。思わぬ副作用だ。


「弱い魔法ならいくらでも撃てそうな気がします」

「すごいな……今の人間が……これを……」


 聖剣が思わず漏らした言葉は俺にとっても褒め言葉だ。


「上位魔法は無理か?」

「1発くらいならいけると思います。しかもしばらくしたらある程度回復する感じが」


 十分冒険者としてやれそうな気がする……大成功だ。大成功すぎて何か怖い。ん?手がなんかブルブルしてる?


「うわ!て!手が!左手が動いてるぅ!」


 イグノーブルの左腕が蠢いている。うわなんだこれこえぇよ!俺がやっといていうのもなんだけどな。


「静まれ!静まるんだ私の左手!」


 厨二病発病したみたいになったなイグノーブル。でも実際動いてるから困る。


「……なんか嬉しいみたいです」

「わかるのかクリス」

「電波でしたっけ?それで嬉しいってのを発信してます」

「私はわからないんですが」


 イグノーブルが理解できないってのも、それはそれで困るな。どうしたもんだろうか?……電波か。


「ちょっと待ってろ」


 細い線でコイルを作り、研究室に余っていた発光機器をつけてみる。


「おお、色が変わる」

「怒った時とか嬉しい時とかで色々試してみろ。今は嬉しい時はピンクなんだな」

「これは便利ですね」


 かくして左手に精霊を宿すことに成功したイグノーブルから、幾許かの報酬をゲットし、更に精霊を売ることで多少の資金が手に入った。素晴らしい。これでしばらく研究に注力できるってもんだ。


 その後たまにイグノーブルの話を聞くが、魔道士クラスの冒険者として結構活躍しているらしい。たまに左手が疼いてビックリされるらしいが、俺に改造されたというと同情されているようだ。死◯博士か俺は。


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 今回の研究テーマは浜木綿さんの「魔力を扱うため(生み出すため)の臓器があるのかどうか。あった場合、移植は可能かどうか」と人鳥暖炉さんのアイデアを参考にさせていただきました。ありがとうございます。

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