第12話 おっさんマ(略 ですが爆発は芸術だと理解してもらえません


 ギルドマスターにポーション関連の話でわかったことを話している。


「寿命が縮むだと……そうか……」

「遺伝子レベルでテロメアってやつの短縮が確認できたら、もうほぼ確定なんだがなぁ。少なくとも老化現象が確認できた以上、使用回数の制限は必要なのかもしれないな」

「魔法についてはどうなんだ?回復魔法とか」

「同じ可能性はあるな。細胞分裂の促進を主体としているなら一緒だと思う」

「ふーむ……。そうだ、魔法についてお前に聞きたいってヤツがいるんだ。魔道士のイグノーブルってヤツなんだがな」


 なんかどっかで聞いたような名前だな。しかもお笑い方向に。


「それで?」

「あぁ、こいつがな、魔法の本質に迫る研究というヤツをしてるんだが。お前の話したら是非会いたいとか言っているんだ」

「お、おぅ……」


 あぁ、類は友を呼ぶというヤツか。まぁ王室付きの魔法使いどもに比べたら、よっぽど上等な人種な気はする(一般的にはそちらの方がまっとうな人種だと判断されているが)。


「しかし俺なんかに会って大丈夫かよ、教会に睨まれないか?」

「ヤツはへっぽこだからな。教会もスルーしているようだ」

「へっぽこ」

「魔道士の実力としてはだ。魔力が弱いという致命的な弱点があってな」

「つまりあれか?強大な魔法を覚えたとしても魔法が撃てないとか?」

「中位魔法1発で魔力切れとか言ってたな」


 おぅ……そりゃスルーもされるってもんだわ。ほっといても安全ってか。


「でも待てよ、そいつの魔力強化したら……強大な魔法とか使えるんじゃないか?」

「ヤツもそれを考えているらしい。そうしたら魔法が普通に使えるだろ?少なくとも中位魔法くらいは連発できるようになれば並みの魔法使いにはなれるわけだし」


 なるほど。やる価値はありそうだな。成功報酬としてヤツに何かもらう必要もありそうだが。


「ところでギルドマスター。例の適性アイテムの件だが」

「借りるって話か?わかった。ちょっとだけ貸してやるよ。無くしたり壊したりすんなよ」


 よっしゃ、やっとクリスの調査が進むぞ少しだけ。あとはどっかの店で遺伝子比較するアイテム借りないと。


「そういえばイグノーブルってヤツとはいつ会おう」

「ギルドには毎日のように来てるんだがな。そろそろ来ると思う」

「んじゃもうちょっと待つか」


 こうして俺とギルドマスターが待っていると、メガネとヒゲの魔法使いが現れた。感じる。こいつから同類の匂いとお笑いの匂いを。


「来たかイグノーブル」

「なんの用ですか、このへっぽこに」

「紹介しよう。魔王爆殺犯のヒラガだ」

「なんと、あの」


 おいお前ら、俺のことをなんだと思ってんだよ。事実だけどさ。


「おう、俺だ。おっさんで悪いな」

「おっさん……?ふむ、なかなかお若く見えるんですが」


 何言ってんだイグノーブル。俺はおっさんだし、他のみんなもおっさんだと思ってんだよ。


「身体もあちこち悪いとこだらけだ。ちょっと走ると息切れするし、ちょっと戦うと身体もガタガタだ」

「まぁ私もですが」

「イグノーブル、あんたは魔力が足りてないって話なんだよな」

「はい」

「俺魔法使うわけじゃないからわからんのだが、魔力がなくなるとどうなるんだ」

「なんというか、全身に猛烈な虚脱感が襲う感じですね」


 なるほど、やはり何かのエネルギーが失われる感があるわけだ。ならそのエネルギーを補給してやればいいんだよな?


「その虚脱感、どうやったら治るんだ?」

「ゆっくり眠ればだいたいは治りますね」

「そういうものか。強制的になんとかできたらいいんだがな」

「あの、お手柔らかにお願いします」

「ん、大丈夫だたぶん」

「……たぶんかよ……」


 小声でイグノーブルが言っていたのを俺は聞き逃さなかった。しかしこの実験体もうまくすればいい研究資料になると思う。大切に扱うことにしよう。


 こうして俺はイグノーブルとともに研究所に帰還した。到着したと同時に、イグノーブルが物珍しそうに周囲を見ている。


「これは……この建物、まさか過去の……遺跡か?にしても……機能が生きているのか?」


 知ってるのかこいつ。遺跡と言えるものにも精通しているとは。イグノーブルを建物の中に案内する。照明のスイッチの前に手を出したりしている。それ俺たちもやった。


「あっ、あの、どなたですか?」


 クリスとは初対面だな。何か目の下にクマができているような感じだ。表情も暗いし。まだ吹っ切れてないな。


「紹介しよう、魔道士のイグノーブルだ」

「よろしく。こちらのお嬢さんは?」

「勇者のクリスだ。仲良くしてくれ」

「よ、よろしくお願いします」

「こちらこそ」


 イグノーブルがしばらくクリスを見ているうち、こんなことを言い出した。


「お嬢さん、最近何か辛いことでもありましたか」

「えっ?……えっと」


 クリスがこちらの方を見てくる。俺は小さくうなづいた。


「あっ、あの、友達を……亡くしてしまって……ごめんなさい」

「そうでしたか。それはお辛かったでしょう。ですが」


 イグノーブル、ヒゲに手をやりながらクリスの方を向く。


「お友達は、お嬢さんが辛そうにしているのをどう思われますかね?」

「えっ?」

「お友達の気持ちになってもらってみてはいかがでしょう?」


 クリスが静かに目を閉じる。ちょっと考えているようだ。


「ですので、少しだけ元気を出してはみませんかな?空元気も元気といいます」


 イグノーブルが片目を閉じてそういう。


「わ、わかりました」

「そうだイグノーブル、魔力強化の方法のネタといえばだ」

「何かあるんですか?」

「魔力を蓄えてるようなモノとか生物とかなんかないか?そもそも魔力が貯められるという前提だが」


 俺が聖剣にギルドマスターから借りてきたブツを見せながらそんなことを言っていると、聖剣がクリスの背中で発光しつつ返答する。


「魔力を貯めている生物というのは色々といるぞ。例えば、精霊と言われるような存在は魔力の塊のようなものだ」

「精霊」

「精霊の魔力をうまく取得できれば外部魔力タンクにできるかもしれない、などという研究もあったようだが、それより精霊自体を使役した方が手っ取り早い。イグノーブルとやら、精霊術師エレメンタラーに転職はどうだ?」

「ちょっと待ってください、精霊は自分より強い相手に従うんですよね?ムリじゃないですか」

「魔法で戦わなければいいのではないか?」

「それこそムリでしょう?」


 確かにな。筋力の高くない魔法使いが精霊相手にステゴロで勝とうってのはムリなんじゃないか?いやちょっと待てよ。


「……イグノーブル、精霊を従えるいい方法を思いついたぞ」

「何故かいま不安を覚えたんですが……」

「気にすんな。というわけで精霊を従えに行こう。行くぞみんなも」

「……わたしもですか?」

「当然だろ。でも従えるのはあくまでイグノーブルだからな」


 クリスやイグノーブルに不審な目で見られているが、気にせず下級の精霊の棲家に向かう。まずはこいつで腕試しといこう。


 そう思って聖剣に説明された精霊の棲家に向かったのだが……なんということだ。精霊が支配されてる……コボルトシャーマンだと!?いきなり闇落ち精霊と対決かよ。


「なんでこういう時に限ってこんなことに……」

「コボルトをまず始末するところからか」


 まずは、嗅覚が優れているはずなコボルトを黙らせてやろうと思う。刺激臭のする液体(イソ吉草酸入り)のビンを投げつける。案の定コボルトシャーマンが悶絶している。


「く、くさい!」

「ちょっとは考えて使ってください!なんですかこの匂い」


 風下の二人まで悶絶している。なんか申し訳ない。だが、コボルトシャーマンを始末するチャンスだぞ。


「おい、イグノーブル!いまのうちにだ!」

「わ、わかりました!」


 混乱しているコボルトシャーマンを横目に、持ってきていた秘密兵器の筒をヤツと精霊の周りに置いて行く。精霊もどこを攻撃すればいいのかわからないらしく、こちらを遠巻きに見てるようだ。


「精霊よ!勝負を挑みに来た!いざ!尋常に!」


 イグノーブルが叫ぶ。どうやらこちらを認識してくれたようだ。よし、思う存分やれ。


「ちょっ、ちょっと待ってください?あの周りのって、爆弾ですよね?」

「そうだが?」

「多くないですか?」


 急にクリスが爆弾を準備する俺を心配そうに言ってくる。そうか?そんなこともないと思うんだ。クリスは心配性なんじゃないか?


「今だ!イグノーブル!やれ!」

「はい!……ファイア・ランス!」


 火炎の槍が精霊の前の爆薬に引火……ってちょっと待て時間差で引火するはずだぞおい、同時はダメだろ!使ったのが指向性爆薬のせいか、想定していた数倍の巨大な火球が発生したじゃねぇかよ!ヤベ!巻き込まれる!芸術的爆発地獄ウーロタトモカオという魔法が脳裏をよぎる。


「だから言ったのにぃ!」


 クリスが叫んで俺を押し倒す。もう少し遅かったら大火傷することになっていたなこれ。なにか当たってるが気にしないことにしよう、そうしよう。


「た、助かった、ありがとうクリス」

「もう!気をつけてくださ……な!……なんですかその頭!」


 押し倒されたまま俺は頭を触ってみる。おい!チリチリになってんぞ!昔のマッドサイエンティストかよ俺は!


「ふふふ……はははは……おかしいですよ……髪の毛!」


 クリスに大爆笑されている。いやいいんだけど、上司の失敗を笑うなよ。


「いい笑顔じゃないですか、お嬢さん」

「え?」

「そう。その方がいい」


 イグノーブルが再び片目を閉じる。クリスも再度微笑んでいる。クリスが元気が出るなら、頭髪くらいチリチリ毛になるのも悪くないな。


 ---


 今回の研究テーマはtarosuke(Twitter:@tarosukenet)さんの「魔力の本質の研究」、七峰らいがさんの「魔力タンク」のアイディアを使わせていただきました。ありがとうございます。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る