第10話 おっさんマ(略 ですがデータ解析で困っています


 来世に旅立つのを諦めた俺は、聖剣が作成した単分子シーケンサーに、クリスから採血した血液からDNAをセットしてデータが出てくるのを確認する。


「単分子シーケンサーだというからデータは×1で取得すると思ったが、結構出てくるな」

「別に1分子しか読まないといけない必要はない。同時に1000分子を対象にしてもいいわけだ」


 そりゃそうだ。平行に大量に出てくるデータを見ながら、俺はしばらくぼーっと画面を見つめていた。見つめているうちに思い出し叫び声をあげる。


「おい待て俺!標準ゲノムないだろ!いやそれどころか遺伝子データベースもない!!」

「何を叫んでるんだお前は。当然だろ。どうするつもりだったんだ」

「くそ、ちょっと待て」


 考えろ、考えてみろ……データベースにアクセスできそうなもの……あっ。


「そうだ。ギルドの適性診断あるよな?アレって」

「えっと……確かに個人個人の情報が登録されてます」

「個人適性と遺伝子情報ってセットなのか?」

「それは……わかりませんが……」

「とはいえ適性診断では確か遺伝情報も見ているはずだ。可能性は高いな」


 クリスと聖剣に聞いてみた情報から判断しても、うまくすれば使えそうである。あとはどうやってそのデータベースにアクセスするかだ。


「うーん、ひとまず明日ギルドに入ってみようと思う」

「しかし勝手に入ったりするわけにはいかんだろ」

「そこでだ、国王の威光を借りようと思う」

「威光」

「今からちょっとギルド行ってくるから留守番頼む、クリス」

「はい……わたしは何かできることありますか?」


 何もさせないのも精神的に悪いかもしれんな。相棒に聖剣があるから話し相手はいるけれど。うーん、掃除とかだけじゃなぁ……


「そうだ。研究テーマ考えといてくれないか?」

「研究テーマ」

「何か調べたいことがあるなら是非考えといてほしい。例えばだが、キメラの作り方とか」

「えっと……うーん……」

「今すぐじゃなくていい。俺が帰ってくるまで暇つぶし程度に考えてくれないか?」

「わ、わかりました」


 そんな真剣な表情されると困る。とはいえ結構クリスは地頭良さそうな感じではあるので、俺が思いつかないようなことを思いつくかもしれない。


「んじゃ聖剣。クリスをよろしくな」

「わかった。主は私が必ず守る」


 よほどの相手でもない限り不覚はとらない気がするが、聖剣があるというのは心強いというものではある。その日のうちにギルドに向かったのだが、さてどう交渉したものか。とりあえず受付に話をしてみることにした。


「ちょっといいか?」

「はい、なんでしょうか?」


 受付の女性に、適性診断の魔道具について調べてみたいという話をした。最初はムリだの一言だったのだが、こちらが王室の許可証を取り出すと、ギルドマスターに話を持っていくと言う。それならしばらく待ってみるか。待っているとガタイのいいヒゲの男が現れた。どうやらギルドマスターのようだ。


「あんたがここのマスターか」

「お前か。あの魔王爆殺犯は」


 殺人事件の犯罪者みたいに言われてしまったが、似たようなものであるか。それはどうでもいいんだが、とにかく俺は適性診断の魔道具を調べないといけない。


「ふーん。そんなものを調べてどうするんだ」

「烙印を消そうと思ってな。これは王の命令でもある」

「烙印を消すだぁ?どういうことだ?」

「俺もよくわからんのだが、遺伝子組み換えって烙印押されたらロクでもないんだろ?」

「あぁ。教会の連中が言ってるな」


 また教会かよ。やれやれ。どこまでつきまとうんだよあいつら。


「だったら消してしまえば問題ないんだろ?烙印とやらを。まぁ単純に行くとは思えないが」

「消すなんてことができるのか?」

「わからん。が、できないことはない。……理屈の上ではな」

「ほう」

「そのためにまず、烙印ってのが身体のどこで遺伝子組み換えとして認識されているか、ここの魔道具とかを調べないといかんのだ」

「なるほどなぁ……」

「協力してくれるか」

「……こっちのメリットがないな」


 確かにギルド側に、メリットってもんが全くないのは問題だな。だとして俺が何かできるもんかといわれると、大した機器もない今だとちょっと厳しいものがある。


「そうだ、あんた色々詳しいらしいんだがな、ポーションってあるだろ」

「あるな」

「あれを大量に使いすぎると、色々な病気になるっていうんだ。下手したら死ぬこともしばしばある。その原因調べたいんだが、お前さんにたのめるか?」

「ポーションって傷の回復に使うやつだよな」

「おお。そう、傷を急速に塞ぐ効果のある薬だ、お前も使ったことあるだろ」


 よく考えたらほとんど怪我しないから、あんまり使ったことがないな……。だいたいの敵は毒殺とか爆殺とかしてきたからな。


「数える程しかないな……」

「お前どんだけ強いんだよ」

「まぁ弱くはないけど今はな。それにしても急速に傷を塞ぐポーションで病気になる……まさかガンか?」

「ガン?」

「腫瘍といったほうがいいか?悪性の」

「腫瘍……ああ。あれなのか?」

「そうだ。腫瘍も細胞からなるからな。ポーションが細胞増やすとして、もしガン細胞があったらガン細胞も増やしてしまう可能性がある」

「マジかよ」

「高齢の冒険者が多用するのは危険かもしれん」


 あくまで可能性なんで、調べてみないと結論は出せないが。ん?待てよ……


「あとは他の不純物が混じっている可能性だな。細胞分裂の活性化がポーションの主要な成分だとして、それ以外の無駄なものが悪さをしている可能性もある」

「不純物か……例えばなんだ?」

「痛み止めみたいなものは含まれているか?」

「それは含まれているぞ。でないと痛みで発狂しかねない」

「あとは止血効果のある物質などは?」

「多分あるだろうな」

「止血効果が逆効果になる可能性も否定できない。脳卒中や心筋梗塞を引き起こしているかもしれないな」

「ええっ?」


 実際、医療現場において使用される血管用の接着剤や止血剤が原因で医療事故が起きた事例が過去にあったはずだ。


「中高年はポーションむやみに使うのやめるべきかもしれないな」

「……それなら中高年向けのポーションとかお前つくれないか?」

「無茶いうな。ポーションなんてそんなもん作ったことがない」

「そうはいうがよ、頼む」

「わかった。その代わり……こちらの依頼は頼めるか?」

「やってくれたらな」

「成果出なくてもか?」

「そうだな……原因を一つでも突き止めてくれたら適性診断の魔道具を触らせてやろう」


 それくらいならいける可能性はあるな。しかし先はかなり長そうだ……


「あとはそうだな……ポーションを多用しての実験とかさせるとして、何にやらせるんだ?犯罪奴隷とかどうだ?」

「できたらやりたくないな……ダメなんだよ人殺し……」

「まあそういうポリシーのヤツもいるらしいから無理にとは言わないが、一応。考えといてくれ」


 ギルドマスターはそういうと引っ込んでしまった。しかしポーション、結構扱いに厄介な代物だなぁ……。よくよく考えたら地球の様々な薬だって、きちんと医師や薬剤師の処方守らないと大惨事だしな。効果があるということは副作用だってあるはずだ。


 俺はポーションを数個もらって、研究室に帰ることにした。アイディアがないわけではないが人手が足らない。クリスにも聖剣にも手伝ってもらわないと。まずはあの動物を捕まえに行くことにしよう。毒性の調査といえばやはりあの動物である。


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 今回のネタとして、医学博士のきりんさんに「ポーションのLD50はどの程度かを人間に投与して調べる研究」というお題を出していただきました。ありがとうございました。

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