第8話 (略 ですが研究成果は出さないといけません



 王座の前に通される。


 俺もクリスも一年ぶりといったところだが、周囲の目が冷たい。クリスに対するそれは侮蔑が混じっていて、震えているクリスを見るのが辛い。そういう目線に対して睨みつけると、俺に対しては恐怖が伝わってくる。そんなビビんな。


「国王の前だ。粗相のないように」

「は、はい」

「わかってる」


 衛兵は俺に対し諦めたような表情を見せる。俺そんな粗相してないと思う。少なくとも国王に対しては。


 玉座の間に通されるなり、アラン達が驚愕の表情でこちらを見ているのに気がつく。


「おう、久しぶり」

「おまえ!何をしに来たんだ!」


 テリオスが悲鳴に近い叫び声を上げる。仕方ないよなパーティ追放されたのに。


「貴様ら!王の御前であるぞ!」


 王は右手で合図し、無言で衛兵を制する。そして、俺の方を見た上で静かに切り出す。


「よい。朕がその方らを呼んだのだ」

「俺を?」

「して烙印の勇者よ。そなた、聖剣を手に入れたと?」

「はい。こちらでございます」


 クリスが一礼し、片膝を立て鞘ごと剣を取り出す。


「失礼いたします」


 そういうと、クリスは剣を鞘から抜く。


「今代の国王陛下であらせられるか」

「け、剣が喋った!」

「聖剣だ!伝承の通りだ!!」


 聖剣が話し始めると衛兵や官僚など、周囲がどよめきはじめた。知識として知っているとはいえ、実際見るとやはり驚きはあるよな喋る剣。


「勇者クリスの剣として、ここに参上した」

「勇者クリスの!?」


 アランがギョッとしたような表情で、クリスの方を向いて叫ぶ。一方、クリスは凛とした表情で王を見つめている。


「確かに、伝承の通りであるな」

「はい」

「しかし聖剣よ、そなた、クリスを勇者として認めたのか?クリスは烙印を有するのだぞ?」

「それが何か?」

「そのような者を勇者として認めたのは何故だ?」


 聖剣が桃色に輝いている。なんかイヤな予感がする。


「かわいい女の子は、正義だ」

「正義」


 場が凍った。なんてことを言うおまえ。しかし、聖剣が続けていう。


「場の皆の者に聞きたい。私の立場として、勇者アランと勇者クリスのどちらに使われたい?」


 俺は思わずクリスを指差した。アランも、国王もクリスを指差している。他にも正直者が何人かいる。なんだおまえら、わかってるじゃないか。正直な奴らだ。みんな、同じ目をしていた。クリスは耳まで赤くなっている。


「故に、私は正義のために勇者クリスの剣となることとした!反論があるなら述べられよ」


 かっこいい言い方してるけど、要はおまえ単なるエロ剣じゃねぇか。アランに渡した方がいいんじゃないかという気がして来た。


「うむ。その心意気や良し。よかろう。勇者クリスの剣として全うせよ」

「はっ」


 いいのか国王、大丈夫かこの国。クリスは赤くなって震えている。玉座の間で羞恥プレイとかキツイもんな。


「して、だ。此度の魔王討伐、聖剣が無い状態でどう行なわれたか?」

「俺から言っていいか?」

「構わぬ」


 俺は手を挙げた。勇者パーティもクリスも無言でこちらを見つめている。


「原爆、ある特殊な爆弾を使って魔王城ごと吹き飛ばした」

「なっ!」

「ハカセの言うことに間違いはありません」

「おいアラン!」


 アランが助け船を出してくれた。アランは本当にいいヤツだ。ハカセか……俺が名乗ってた偽名だが久しぶりに聞いたな。勇者パーティの面々は、アランをやや不満そうにみている。


「城一つを吹き飛ばす爆弾……恐るべきだな……」

「つまり勇者も、聖剣すらも不要だったと」

「本来であれば必要だったのだ」


 聖剣がそんなことを言い出す。


「魔王の身体を破壊する力を持つ私と、それを使いこなせる勇者。それらなしに魔王を討ち亡ぼすという事態は私も考えていなかった」

「して」


 国王が俺と勇者たちを見つめている。


「此度の魔王討伐、誰に報償を与えるべきか」

「それは……」

「俺は別にいい」

「ヒロシ!?」

「おまえ……」


 アランとクリスが俺の方を驚いた表情でみている。


「アランたちがいなければ、俺が魔王を爆殺することはできなかったし、クリスがいなければ聖剣を見つけることもできなかった。俺だけじゃ、何もできなかった」

「ふむ」

「ただ、聖剣を発見した施設を利用させてもらえればそれでいい。聖剣には入場の許可だけはもらっているが」

「欲がないな。よかろう。その方の望みは叶えよう」


 やったぜ。とりあえずこれで研究ができる。


「勇者アランとそのパーティの者よ」

「はっ!」


 アランたちが恐縮している。だがアランたちは何もしてこなかったわけではない。幾多の魔王軍幹部を俺とともに撃破したのだ。誇っていい業績だ。毒で弱体化とかは俺もやったけど。


「その方らには魔王討伐の褒賞を与えん……と言いたいところであるが、少し引かせてもらう。その代わり、その方らに頼みたいことがある」

「どのような」

「魔王討伐は行われたとはいえ、世は未だ混沌の中にある。勇者アランよ。世の混沌に光をもたらしてはくれぬか」

「はっ!」


 要は魔王軍の掃討しろってことか。まぁ本来の魔王討伐と違う形になったから、なんか変なことが起きても不思議はないんだよな。


「烙印の勇者よ。そなたには聖剣の遣い手として、今最も魔王に近い者を監視してもらいたい」

「魔王に近い者?……それは……ま、まさか」

「うむ。そこにいるハカセ、確かに魔王を討伐した最大の功績者である。だが、その力、余りに強大……国教会は魔王に次ぐ危険だと認識しているそうだ」


 やはりかよ。想定の範囲内だが、本格的に俺の敵だなあいつら。クリスがずっと居てくれるのはこっちにはありがたい。従業員だし。


「よって、そなたが監視する形にしてもらう。よいか?」

「は、はいっ!」


 つまりある意味これまで通りと。さっきは変なこと言ったな国王、正直すまんかった、あんた有能だわ。国教会に文句を言わせなくする気か。


「そしてハカセよ」

「なんだ」

「そなたに頼みたいことがある。聖剣によると聖霊は未だ見つからぬときく。その聖霊の探索、そして聖剣があった場所の調査だ」

「わかった」

「あと一つ。烙印の勇者の烙印、これを打ち消す方法を探して欲しい」

「なっ……」


 さすがの俺もその言葉には二の句を継げなかった。遺伝子組み換えによる遺伝子操作をどうにかしろだぁ!?むちゃくちゃ言うな!知らないってのは恐ろしいな!


「期限は3年。よいな。これを過ぎると朕も国教会を押さえられる自信はない」

「……」

「どうした?できぬのか?」

「はいと言いたいところだが、現状不可能に近い……」


 俺は腹から絞り出すように国王に答えた。アランたちやクリスも俺の表情を見て、問題の大きさを感じているようだ。


「ならば、烙印の勇者を国教会に引き渡すことになる」

「なんだと!?」


 俺と聖剣は同時に叫んだ。


「おいこらちょっと待て!クリスが何かしたのか!」

「そうだ!おかしいではないか!」

「うむ、朕もそう思う」


 国王はいいヤツなんだな。はっきりわかった。


「だが国教会としては、勇者クリス、そなたもまた危険な存在だという。……朕には全く理解できないしする気はないが」


 ものすごく小声で本音言いやがったこいつ!全く同意しかできねぇ。


「国王」

「なんだ」

「全く理解できないところ説明してもらうの申し訳ないが、一体何故だそれは」

「うむ。国教会では『大き過ぎる力は世界を滅ぼす』と言っている。故にその力を持つ者はもちろん、その力に利用されかねないものも管理したいのだ」


 管理ならいいが、下手したら殺されかねないなクリス。最悪国教会ごと滅ぼさないと。ちん◯痒くするだけで済ませられるだろうか。


「国教会は世界最大宗教、全世界7割の信者を有する神教会の傘下……これを敵に回すとなると、いずれにせよ憂慮すべき事態となるであろう。そこでまずは従順であることを認めてもらう」


 仕方ない。ここは我慢のしどころだ。国教会の連中に一泡ふかせるのはまだ先だ。


「わかった。確かに烙印を消すのは現状不可能に近い。だが、やらなかったらゼロだ。国王。やらせてもらう」


 なんだよこれ。しかしやるしかない……うちの従業員勝手に持ってこうとするバカどもに思い知らせてやる!


「うむ。よかろう。では皆、励むがよい」

「はっ!」

「はいっ!」

「おう」


 かくして俺は実際にはそうとうマッドかつ、不可能に近いミッションに挑むハメになってしまった。三年以内にクリスの遺伝子の中にある烙印を消すというこの世界としては、いや地球だとしても登れない程高い山だ。


 ……この世界にゲノム編集酵素があるか、まずはそれが問題だ。



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