第7話 お(略ですが研究生活始める許可が欲しいです


 さて、聖剣(元人間)は手に入った。勇者(遺伝子組み換え)もいる。魔王は(だいぶ前に)倒した。……順番やそれ以外に何かが色々とおかしいのは自覚はしているが、懸案事項は片付いている。


 ……研究が、……研究がしたい。


 皆様もだいたい想像できているだろうが、俺は分子生物学が専門である。物理や化学もそれなりにかじっているが、専門は遺伝子イジりである。


 この世界の魔法とかも実は微生物が介在しているとなると、魔法自体もイジれる可能性もあるな。オラなんだかワクワクしてきたぞ状態である。魔物の遺伝子とかも調べたい。なんかちょっと前に見たウシドリとかいうやつ、アレどう考えてもトリの遺伝子にウシの遺伝子混ぜたんじゃないか?食用にするためか?トリの方が生産コスト安いしな。


 そしてクリス。遺伝子組み換えした人間の発現解析とか、ゲノムの構造とか、勇者独自の遺伝子とか……やべ、想像してたら鼻血出てきた。


「今度は鼻血が!しばらくじっとしててください!」


 鼻血垂らしてクリスに怒られてしまう。なんか膝枕されてるけどいいのかこれ。まぁ吐瀉物吐いてそのあと鼻血とか、どう考えてもやばい状況だよな第三者的に見ると。


「さて、勇者?でいいんだよな?」

「聖剣さん?」

「一応だな、勇者?に所有権移そうと思うので、ちょっと手を貸してくれないか。勇者なら私を抜けると思う」

「はい」


 台座からクリスが聖剣を抜くため手をかける。実にあっさりと抜けた。


「結構軽いんですね」

「いや、そうでもないぞ……なんだろう、この子こわい……」

「勇者じゃなかったらどうなるんだ?」


 横たわったまま俺は刃物に問いかける。


「抜けないはずだ。力では抜けないことになっている。台座から持ち上げられたら別だが」

「それは抜けたと言えないのでは……」

「というわけで、今後は私がお前の剣になる。よろしく頼む。勇者の娘よ」

「クリスといいます」

「わかった。よろしく、クリス」


 すんなり所有権がうつせたようだ。鞘にクリスが聖剣を納めたのを見てふと思い出す。そういえば。


「ここは一体どういう建物なんだ?」

「ここは言うなればナノデバイスの開発施設だな。私自身の開発も行った。下の階では生物系の研究をしてたはずだ」


 ビンゴじゃねぇかよ!ここに何とかして居座りたい。


「ここって使えるのか!?」

「ナノデバイスによるメンテナンスは生きてるから、入手困難な試薬以外はだいたい使えるぞ」


 すげぇ!ここさえあればあんなことやこんなことやそんなことがぁ!


「ここを使えるのか!やった!」

「おい勝手に使うな。ここはあくまでも勇者の支援施設だぞ。所有権としてはクリス、そして王国にも許可がいる」

「王国にも?なんで?」

「ここ普通に王国の土地だろうが」


 非常にシンプルな理由だった。ならクリスと王国に許可貰えばいいんだよな?まずはだ。俺は寝転がったまま、


「クリス」

「な、なんでしょうか」

「施設の使用許可おろして」

「おい待て、タダで使わせるのか?そんなことはこの私が許さないぞ」

「クリスは俺の従業員だぞ」

「この施設にはお前の権限せき今の所ないから」


 クリスはオロオロしてる。剣と言いあうってのはなんなんだろう、変な光景だ。


「ふぅ……まぁタダでとは言わん。クリス、それなりにふっかけろ」

「えっと……じゃあ年に金貨100枚で」

「待って」


 待って、ねぇ待って、今俺金貨100枚払うってことになってるよね?年金貨200枚はキツイだろうが!


「……あの、俺、この子に既に年100枚払ってんですが……金貨……」

「えっ」


 さすがの聖剣もちょっと反応がなかった。クリスさんそこまで俺がイヤなのか?気持ちはわかるが。


「く、クリス。年200枚はふっかけすぎだと思う。私も」

「……えっ?あっ、そ、そういう意味では……」


 ……まさか、年収の金貨100枚に含めようとしたのか?それはダメだぞクリス。契約はきちんとしないと。


「んじゃ年収と家賃で年110枚で」

「140だ」

「115、これ以上はキツイ」

「130以下にはまからん」

「聖剣さんはお給料いるんですか?」

「えっ」

「特に要らないよな。120まではだす。あとはつっぱねさせてもらう」

「……ちっ」


 特にお前要らないだろお給料。それともなんだ?ソシャゲにでも課金するのか?クリスにはきっちり払うが刃物に払う給料はない。おまけに他にも多分人雇わないといけないんだぞ。


「あーさてなにから手を付けようか悩むな研究ううううぅぅぅっ!!」

「しばらく!寝ててくださいっ!!」


 とうとうわりと本気でクリスに怒られた。医務室もあるらしく、そこに案内された上寝かされている。医者も欲しいな。


「それでは私は隣で寝てますから。何かあったらベル鳴らしてください」


 というと半分キレ気味に、クリスは間仕切りを閉めて寝てしまった。体調崩してるのに変なテンションになったからそりゃ怒るよな。ちょっと反省はする。建物見て回るのは体調治してからにしよう。


「わかった、今日は寝るよ。おやすみ」

「おやすみなさい」

「早く寝ろよ」


 聖剣にまでそんなこと言われるとは思わなかった。そりゃ吐いて鼻血出してたら当然ではあるが。なんだかんだで疲れているんだろうか俺は、おっさんだし。今日も秒速で寝てしまった。


 翌朝目覚めるとクリスと聖剣が何か話している。なんだろうか、聞いてみよう。


「……ということは王国に連絡は必要ですか、やはり」

「そうだな。少なくとも私がここにあることは王国が把握していないと面倒なことになるぞ。一度王都に行くべきだな」

「そうですか……」

「おはよう」

「あ、おはようごさいます」

「起きたか」

「王都に行くってどういうことだ?」


 クリスが胸の間に聖剣を抱えて、ベッドの上に座っている。そんなに胸を強調するのやめなさいよ結構あるの知ってるんだから。六根清浄六根清浄、Be cool and cool……


「この建物自体は王国領にあったのですが、存在理由がわからなかったので放置されてたんです。しかしはっきり勇者の支援施設だと判明したとなると」

「俺たちの世界にこういう格言がある。皇帝のものは皇帝に、神のものは神に返しなさいと。と言ってもなぁ。俺も使いたい」

「ええ。私たちでは宝の持ち腐れなので、ヒロシに使ってもらうのは有効活用という意味では適切かと」


 なんかクリスのが上司みたいな気がしてきたが、あくまで雇用主は俺のハズなんだ。そうなんだ。もう逆でもいいか。俺は研究さえできればいいです。


「あとは国王の許可を取ればいいんじゃないか?」

「そう思うんですが、許可くれるでしょうか……」


 まぁなぁ。今更魔王もいないのに、聖剣も要らないだろと言われるとハイそうですねとなるし、確かに俺自体は聖剣とか不要だ。とはいえその聖剣がないと、再びこの建物に入れるかどうかも怪しい。つまるところクリスが聖剣の持ち主だということだけは、なんとか国王に認めさせないと困る。


「とはいえだ、行くしかないだろ王国首都に。不法占拠はダメだと思うぞ」

「そうですね」

「だな」


 マッドサイエンティストだからと言って、非合法な行為をすればいいと思うのは三流のやることだ。一流ならば法は守った上でなお「うわーこいつマッドサイエンティストだ」と言われてなんぼである。


「とりあえず暫定的に入れる権限はいるよな」

「よし。この建物の所有者として勇者クリスを設定する。……くそ、ちょっと待て……」


 聖剣がなにかウンウン唸っていたが、しばらくしてなんとか成功させたようだ。


「よし!これでこの建物には勇者クリスとそのパーティメンバーは入れる設定になった。……おいなんでドア壊れてんだよ」

「俺が壊した。壊さないと入れなかったんだ」

「全くロクなことしないなお前は。仕方ない。メインゲートは修復モード……ずいぶん派手に壊したな……裏口から入れるようにしたぞ。二人が入る時だけは罠は無効化した」

「あ、ありがとうございます」

「当然のことだ。クリス、有効に使ってくれ」

「はい!」


 こうして俺たちは裏口から出て、そのまま街に戻り、急遽王都に向かった。王都に入る時何故か街がやけに活気があるのに気がついた。腹が減ったので屋台のオヤジにウシトリ串を貰う。そのついでに小銭を握らせてみる。


「お客さん、お釣り多いぞ」

「いや、とっといてくれ。やけに活気があるけどどうしたんだ」

「いやな、勇者アランとその仲間たちが魔王を倒したってことで王城に報告に上がっているらしいんだ」


 マジかよ……タイミング最悪じゃないかよ。でもそうは言っても不法占拠はいかんから、ひとまず王城に行って、責任者(適当な文官)に許可貰えればそれでいいってもんだ。


「クリス、王城行くぞ」

「え?でも今勇者アランたちが報告にって……」

「別にそんなこと気にすんな。こっちは建物借りたいってだけなんだし」

「そっか。そう言われるとそうですね」


 こうして俺たちは割と気楽に建物を借りようとするため王城に行ったのだが、門番にいきなりな挨拶を受けた。


「烙印持ちが何をしに今更戻って来た!」

「勇者アランが魔王を撃退したんだ。お前に用などない!」


 酷いなこいつら。ほら見ろクリス泣きそうだよ。俺の従業員になんてこと抜かしやがる。


「おい!うちの従業員になに抜かしやがる!チン◯痒くするぞ!」

「なんだ貴様は。烙印持ちの仲間か?」

「ちょっと待て……チン◯痒く……っておまえ!あのヒラガか!ひっ!!」


 門番の片一方が俺をみるなり震えだす。俺なんかやったか?


「ひ、ヒラガ!?あの人型ヒューマノイド天災ディザスターの?」

「なんで勇者アランと一緒にいない!?」

「アランにクビにされてな」

「え?」

「そのあとクリスに出会って、そんで聖剣もみつけた」

「せ、聖剣!?」

「これです」

「勇者クリスの剣だ。私の主に対する愚弄は許さん!」


 聖剣、普通にキレてるな。いいヤツだこいつ。こういうまっすぐなヤツは好きなんだよ俺。マッドサイエンティストだけど。


「な!何をしに来たんだ!」

「建物の使用許可を取りに」

「使用許可」


 門番たちに事情を説明すると、門番たち、ウンウン唸りながら「しばらく待ってろ、上とかけあう」と言ってどこかに行ってしまった。それから2時間ほど、俺たちはぼーっと待っていた。


 あんまり門番たちが遅いので、二人と一本で雑談していたがそのネタも尽き、ついにしりとりを始めていたところ門番たちが戻って来た。


「ル……ル……ルって思い付かないんだよ……ルシフェラーゼ」

「なんですかそれ?」

「発光する生物が光る時に使う酵素ってもので……あれ?戻って来た」

「我々ではらちがあかないと、文官がみんな投げてしまった」

「国王の座に勇者アランたちがいるからそこで話し合ってくれとのことだ」

「なんか、すいません」

「こちらこそ、なんかすまなかった」


 クリスと門番たちが謝罪しあっているが、何をこちらが謝ることがある。


「別に俺たちは悪いことしてないんだから、堂々としていろクリス」

「そういうとこだと思います」

「そうだな」


 クリスと聖剣に、なんだか冷たく言われてしまった。そういうものだろうか?かくして俺たちは、よりによって追放されたはずのアラン一行と再会するハメになってしまうことになったのだ。

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