第7話 口座開設

 6月4日、日曜日。

 勇太にしてみれば珍しく、朝8時に起きる。

 汚い部屋から、普段着を探し出し、ベッドの上で、パジャマから、普段着に着替える。

 リビングに入ると、母親が朝食の用意をしていた。

 母親から

 「勇太、今日は珍しく早起きね。何食べる?パン?」

 と聞いてきたので、勇太は、

 「チーズパンでいいよ」

 と答えた。

 母親が、パチーズとマヨネーズをパンの上に乗せ、トースターに入れて、タイマーをかけた終わった時に、勇太は、

 「この前は、ごめんなさい」

 と謝った。

 母親は、

 「状況が状況だから、しかたないよ。それより、停学中は何するの?久しぶりにパソコン?一昨日も昨日もリビングに出てこなかったし」

 と言っていたので、勇太は、

 (いや、昨日の朝、リビングに行ったんだが……母さんは、いなかったんだっけ)

 と思ったが、口には出さず、

 「いろいろ、調べ物をしていたんだよ。久しぶりに、カワダコインのことを調べてた。あ、あと、昨日、梨央ちゃんたちも来ていたよ」

 と、答えたら、母親は、手を止めた。

 そして母親は、

 「りおちゃんのことは、花音から聞いたわ。

  んで、また、マイ……なんだっけ?とやらをするの?」

 と不機嫌そうに言った。

 あわてて、勇太は、

 「マイニングだよ。もう、そんなことはもうしないよ。いや、最近、仮想通貨が流行っているらしくて、ちょっと調べてみたんだよ」

 と答えた。

 母親は、安堵しながら、

 「そう……それならいいけど、あの時は、大変だったのよ」

 と、5年前、勇太がマイニングしたときの電気代の工面のこととかいろいろ聞かされた。

 

 しばらくして、トースターの出来上がりの音が鳴り、母親が、勇太が座っているテーブルにパンを運んできた。

 

 勇太は、パンを頬張りながら、

 「仮想通貨取引所の口座を開設したいんだけど、親の承諾書が必要なの。母さん、お願いできる?」

 と言った。

 母親は、

 「仮想通貨取引所ねぇ。そういえば、昔、マイニングしたものも売買できるの?」

 と答えた。

 勇太は、パンを食べ終え、

 「そうだよ。マイニングしたカワダコインをお金に変えることができるんだよ」

 と、やや興奮そうに言った。

 母親は、

 「だったら、5年前の電気代も払えるかしら?それだったら、いいわよ」

 と笑いながら答えた。

 勇太は、

 「もちろん、返すよ。そんで、いくらかかったの?」

 と嬉しそうに言った。

 母親は、

 「確か、半年で、18万円かしら」

 と答えた。

 勇太は、ちょっと考えた。

 (半年で18万円? 3人家族で、ほとんど家にいないし、お風呂はガスで、冬は灯油のストーブだし、半年で12万円。 つまり、1ヶ月3万円ほど使っていたのか…… 今、いくつカワダコインがあるかわからないけど、0.18カワダコインだったら、あったはずだ)

 と考え、

 「いいよ。払うよ」

 と答えた。

 母親はうれしいそうに

 「本当に?助かるわ~」

 と答えた。

 勇太は、

 「それじゃ、運転免許証のコピーをお願いします。あと、書類があるから、それに記載してください」

 と、嬉しそうに答えた。

 母親は、

 「わかったよ。今日の買い物ついでにコピーを取りに行くよ。でも、停学中は、ちゃんと勉強しなさいよ。あと、ご飯はちゃんと三食食べること。これ以上痩せたら、倒れるわよ」

 と答えた。

 そして、母親は

 「あと、いい加減に、自分の部屋を掃除しないよ!停学復帰したとき、まだ、あのような状態だったら、お母さん、全部捨てるわよ!」

 と、怒鳴るように言った。

 勇太は、

 「わかった。わかったから、落ち着いて」

 となだめるように言った。

 

 勇太は、テレビを見ながら、ぼーっとしていたころ、母親は

 「花音、おきるの遅いわねぇ。何しているのかしら?勇太、ちょっと声をかけてきて」

 を心配そうに言った。

 勇太は、

 「わかった。ちょっと見に行ってくる」

 と言って、花音の部屋へ向かった。

 

 花音の部屋は、勇太の部屋のとなりにある。

 勇太は、花音の部屋の扉をノックし、

 「花音。もう、11時だぞ。起きなさいって、母さんが言っているぞ」

 と怒鳴りながら言ったら、ドア越しに、花音が、

 「今日は、日曜日でしょ?もうちょっと寝かせて」

 と、眠たそうに言った。

 勇太も、おきるのは、いつも午後なので、これ以上のことは言えず、リビングへ戻り、母親に、

 「まだ、眠いから、寝るって。とりあえず、生きているみたい」

 と答え、母親はため息をつきながら、

 「兄妹そろって、朝が苦手ね。買い物は、お母さん一人で行くわ。勇太は、ついてくる?」

 と言ったので、勇太は、

 「いや、今日は遠慮しておくよ」

 と答えた。

 

 6月5日月曜日

 朝、7時。

 いつも通りに起きた。

 パソコンのディスプレーを見ると、どうやら、すべてのトランザクションは、完了している。

 残高の有効欄に10.23483748KWCという数字が見えた。

 KWCとは、カワダコインの略称である。

 日本円にしたら、約1000万円持っているという計算になる。

 あまり、実感がなかった。

 中学生当時は、この数字がどんどん上がってくるのが、楽しかった。

 ただ、それだけだった。

 まさか、これが価値があるなんて思いもよらなかった。

 

 (とりあえず、朝ご飯を食べてから、作業を行おう)

 そう思った勇太は、リビングに行き、母親と花音とで、朝食を食べた。

 花音を見送り、母親も見送り、一人になった。

 

 (さて、本格的な作業を行いますかな)

 勇太はそう思い、自分部屋へ行き、パソコンの前に座り作業を行った。

 まず、KWDcoin Coreを開き、手動で手数料計算を行い、最速で送れるカワダコインの量を設定した。

 現在最速な送金手数料は、0.0003KWC/kBだ。

 これは、1kバイトあたりに、マイナーに支払う人への手数料である。

 マイナーとは、マイニングしている人のことだ。

 

 パソコンのウォレットに入っている10カワダコインのうち、9カワダコインをペーパーウォレットに移動させて、0.734カワダコインをスマートフォンのウォレットアプリ「Bopay KWDcoin Wallet」にカワダコインを移動させた。

 

 トランザクションの詳細がみられるサイトに行き、ちゃんと送金できているかどうかを確認した。

 ペーパーウォレットを眺めながら

 (この紙に、900万円が入っているんだな。いまだに信じられない)

 と思い更けていた。

 

 KWDcoin Coreには、0.50056748カワダコインしか入っていない。

 0.00027KWCは送金手数料で引かれていた。

 いや、まだ、0.50056748カワダコイン入っている。

 Bopay KWDcoin Walletには、0.734カワダコイン入っている。

 Bopay KWDcoin Walletでは、日本円換算表示ができる。

 表示されていたのは、0.734KWCの下に、734,000円と表示されていた。

 今まであまり、実感がなかったが、その画面を見たときは、ちょっと驚きを見せた。

 さらに、以前インストールしたユニバースカードに、1回のチャージの上限である3万円分のカワダコイン(0.03カワダコイン)をスマートフォンのウォレットアプリから、手数料の優先度を緊急(0.0000675KWC)に設定して、月間チャージ限界及び、残高の限界値に近い、3回入金した。

 Bopay KWDcoin Walletには、現在0.6437975KWC(643,797.5円)と表示されていた。

 そして、実店舗でも使える、物理カードの申し込みもした。

 300円の残高が消費され、ユニバースカードには、89,700円と表示された。

 

 いろいろ調べて作業をしていくうちに、あっという間にお昼になってしまった。

 勇太は、リビングへ行き、何かあるか、台所に行ったら、母親があらかじめ昼食を用意しておいてくれていた。

 ありがたいことだ。

 そして、時間を見た。

 12時15分。

 勇太は、慌てて昼食を食べ終え、急いで着替えて、財布と保険証、念のため、生徒手帳を持って、自転車に乗った。

 早くしないと、高校の生徒にばれてしまう。

 勇太の家は、学校から近いだけに、気をつけないといけない。

 

 (今日も、さわやかでそんなに暑くはないな)

 と勇太は思ったが、そんな、さわやかな風をじる暇もなく、一生懸命自転車を漕いだ。

 そして、漕ぐこと10分。

 駅前の市役所の出張所についた。

 出張所で、早速、住民票の手続きを行った。

 申請書類に必要事項を書き込み、念のため、住民票2枚を請求するように書いた。

 身分証明書を提示の時に保険証を見せたら、市役所の職員が、

 「本人確認の厳格化をしておりまして、顔が写っている、他の証明書とかありますか?」

 と聞かれたので、勇太は、

 「生徒手帳でもよろしいでしょうか?」

 と答えたら、市役所の職員は、

 「えぇそれでもかまいませんよ」

 と答えたので、生徒手帳を見せた。

 市役所の職員が、

 「本人の確認が取れました。本籍地やマイナンバーの番号は、記載なしでよろしいですか?」

 と聞かれたので、勇太は、

 「はい。それでお願いいたします」

 と、ちょっといらいらしながら答えた。

 そして市役所の職員は、

 では、発行まで、しばらくお待ちください」

 を言っていたので、勇太は、

 (市役所の人って、何で、こんなにも、お堅いんだろうか?役所の仕事ってこんなものなのかな?)

 と思いながら、設置してある、ベンチに腰を掛けた。

 昼休みと重なったので、人が結構いる。

 知らない人に見つからないように、うつむいて、スマートフォンの画面に集中していた。

 待つこと、30分、やっとのことで、住民票を手に入れた。

 

 時刻は午後1時。

 勇太は、急いで、駐輪場に行き、急いで、自転車で家に帰った。

 

 家に帰った勇太は、まっすぐ、自分の部屋へ行き、口座開設の手続きをすることにした。

 (まずは、ネット銀行口座からだな)

 そして、ネット銀行口座のWebサイトに行き、口座開設を行った。

 必要事項を書いた後、プリントアウトし、住民票の原本と一緒に封筒に入れ、封をする。

 

 あとは、仮想通貨取引所の口座開設だ。

 仮想通貨取引所のWebサイトに行き、メールアドレスを入れて、口座開設完了。

 でも、仮想通貨の売買を行うには、別途、必要事項の記載と本人確認書類の添付が必要になる。

 勇太は、必要事項を明記し、住民票の写真を撮り、アップロードを行う。

 その後、保護者の承諾書をプリントアウトし、いつでも、渡せるようにしておいた。

 必須ではないけど、住民票と一緒に、自分を写す、セルフィーも行った。

 セルフィとは、本人確認書類と一緒に自分の顔と一緒に取る写真のことである。

 これが結構大変で、A4サイズの住民票と一緒にスマートフォンのフロントカメラで撮影するのに、すごく時間がかかった。

 

 一通りの作業が完了した。

 (残りは、母さんの免許証のコピーと同意書をもらうだけだな)

 もう、夕方5時だ。

 少し、休もう……

 

 夜、母親から、免許証のコピーと同意書を書いてもらい、次の日に、ネット銀行と仮想通貨取引業者あてに郵送した。

 

 次の日から、反省文を書き終えた勇太は、プトプトについて調べてみた。

 どうやら、ここ最近、中高生を中心に流行りだした。

 ゲームのほかに、SNS機能があり、メッセージアプリみたいに連絡が取れるみたい。

 連絡先に登録された人がゲームを開始すると、通知が来る仕組みになっていて、デフォルトではOFFになっている。

 Pポイントとかをためることができ、スマートフォンのアプリを購入や課金ができるギフトポイントやカワダコインのほかに、ほかの仮想通貨やオンラインショッピングができるギフトポイントとかと交換できる。

 後、気になったのは、たまにゲームが重くなるという口コミもあった。

 

 それにしても、停学というのは、何をすればいいのかわからない。

 あまり、むやみに外に出ることはできないし、しかたない、反省文をととっと書いて、プトプトでもするか……

 

 そして、停学が終わりに近づいた、6月15日、ネット銀行及び、仮想通貨取引所から、簡易書留が届いた。

 それと同時に、以前申し込んでいた、ユニバースカードのリアルカードが普通郵便で届いていた。

 シンプルなデザインで、これで本当に使えるのか?と思いながら、カードの裏にサインをした。

 そして、早速、ネット銀行の初期設定を行い、仮想通貨取引所で、ネット銀行の口座を指定した。

 

 (あ、掃除しないと……明日、学校だった。母さんに全部捨てられる)

 勇太は、それぞれの初期設定を終わらせると、急いで、大掃除を行った。

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