第28話 ストーカー?やだなぁ、人聞きの悪いことを言わないでよ
ミカミがパーティー『フリーダム』に入ってから二日が経った。
今日まで何をしていたのか気になるそこのあなた。別に俺たちは遊んでいたわけではない。
俺とフシミは冒険に出るための装備と、日常的に着る服を買った。
今まで何を着ていたんだと疑問に思う人はいるだろうけど、そりゃ学校の制服に決まっているじゃないか。
だってさ、一度も装備を整えた描写なんてなかっただろ?
残念だけど、所持金は増えてもないし減ってもない。ぼったくられたと言われても間違いではないほど、安い装備しか整えられなかった。
「多分だけど、服が高すぎたんじゃない?」
フシミ、俺のモノローグに突然入ってくるな。なぜ俺の考えていることがわかるんだ。
まぁあれだ。フシミの言う通り、日常的に着る服が高すぎて質の良い装備を揃えることができなかっただけだ。
フシミは皮でできた焦げ茶色の鎧。胸当てと肩当と肘当てくらいしかないため、鎧かどうかも怪しいが、服屋の店主によると『鎧』として分類されるらしい。本当か?膝当てと肘当て、肩当て、胸当て、
いや、訂正しよう。今も思っている。
そして俺は群青色のローブと群青色のブーツ。そして群青色の水晶がはめ込まれた杖。色のセンスがおかしくないか疑問に思われそうだ。だが安心してほしい。一応、二人合わせて、それぞれの装備一式で金貨1枚くらいの価値があるそうだ。
安いのか高いのかさっぱりわからんな。この世界の出身じゃないから。
「いや、十分安いよ。服の値段が二人合わせて金貨20枚だったんだからさ」
服と装備の値段が釣り合っていない?
バカめ。戦闘よりも日常のほうが大事だろうが。夜眠れなかったらどうするつもりだ、ああん?
「誰に話しているかわからないけど、そろそろミカミが動き出すよ」
「悪い」
さて、今何をしているかというと、ミカミを尾行している。
おい待て、通報しようとするな。
俺たちの今の職業は『暗殺者』を選んだ。
おい待てマジで通報しようとするな。別にミカミを暗殺しようなんて思ってねえよ。おい、いいからその手に持ったスマートフォンを置け。いや、異世界にスマホなんて無いけどさ。
なぜこの職業を選んだか?
それは、彼女に悟られずに尾行するスキルが揃っているからである。
だって『背景同化』だけじゃ心もとないと思ったんだもん。いや、この年齢で「もん」とか気持ち悪いだけか。
だから、『背景同化』と気配や呼吸音などを消せる『隠密』を組み合わせることにより、さらに高い効果が得られると思ったのさ。
あとの二つは『気配察知』と『保護色』だ。
なぜ取得したのかわからないが、フシミが「念のため」と言っていたため取らざるをえなかった。
二つのスキルを勧める彼の顔は、今でも脳裏に焼きついて忘れられない。なぜこんなにも必死になっているのかは、2年連続で一緒のクラスになっている彼にしかわからないことなのだろう。
いつも通りギルドで掲示板から依頼の紙を取り、受付で手続きをするミカミ。その様子を物陰からこっそりと覗く俺とフシミ。
手続きが終わったのか動き出すミカミ。その後ろから1mほどの距離を空けてついていく俺とフシミ。
門の騎士にギルドカードを見せて国から出るミカミ。その後ろから騎士を素通りしてついていく俺とフシミ。
少し歩いて、国の真正面にある森に入っていくミカミ。その後ろから10mほどの距離を空けてついていく俺とフシミ。
……見てわかると思うが、俺とフシミのやっていることは犯罪者の行動そのものだ。なぜ世に
そんなことを考えていたら、草むらの陰から一匹のゴブリンが現れた。見ての通り、緑色の体をしていて腰にボロボロの布を巻いている。
ところでゴブリンも妖精だという話は聞いたことがあるだろうか。おとぎ話に出てくる妖精は、たいてい人間と同じような姿をしており、大きさは小さいらしいが人間に力を与えてくれるという……そのゴブリンの首が今、目の前で飛んだ。比喩とかそういうのではなく、文字通り。
何が起こったのかわからなかったが、両手に小さな鎌を持ったミカミが、まるで舞うように一回転したところ、目の前に不可視の刃がいくつも飛び、ゴブリンの頭を刈り取ったのだ。
何を言っているのかわからない人はいるだろうけど、俺も何が起きたのかさっぱりわからない。
そう思ったら、草むらから三匹のゴブリンが飛び出してきた。
先ほどの首の飛んだゴブリンの仲間だったようで、首なし死体を見て「ギィギィ」と騒いでいる。
しかし、その様子を見たミカミは鎌をしまい、鉄扇を取り出すと、大きく右に一回転した。
すると高さ1mほどの竜巻が発生し、ミカミの前にいるゴブリンが細切れになった。
何を言っているのかわからないと思うが、俺も何が起きたのか理解できない。というか理解が追いつかない。
というか、ゴブリンの血の色って緑色なんだな。赤色だったら精神的に危なかった。
ゴブリンを無残な姿にしても、顔色どころか表情すら変えないミカミを見た俺は、背筋に冷たい何かが走った気がした。
「フシミ、そろそろ行こう。もうわかっただろ?」
「え、うん。そうだね。そろそろ帰ろうか」
いくら『暗殺者』の職業を持ち、三つのスキルを持っていたとしても、相手は姿を変えた俺たちを尾行し続けた人間。そしてこの不可視の攻撃。
敵に回してはいけない人間だ。
よし。逃げよう。この場で気付かれたら、命に関わると思った俺は、少し震えているフシミの手を引っ張って宿に逃げ帰るのであった。
後ろからミカミの視線が突き刺さっていることを知らずに……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます