第27話 仲間が増えたことよりも

 冒険者ギルドに着いた。

 着いたはいいが、中に入った途端、朝っぱらから騒がしかったギルド内が、一気に静かになった。


「いやいや、なんで静かになるんだよ」


 俺の呟きに答えたのは、受付場所に常時いる、女性の職員だった。


「いやぁ、実は昨日、ギルドマスターの秘書であるイクス様が、フシミ様と戦って敗れたのですよ。それでその、フシミ様が勝ちまして……」

「何をやらかしたんだフシミ」

「いや、その、何だ……とても言いにくいんだが……」


 後ろからコツコツという足音を立てて、毎夜酒を飲んでいる世紀末ヘアーの冒険者が、後ろから近づいてきて言った。


「そのフシミとやらが、秘書を倒しちまったんだ」

「そうか、それで何でこんなに静かになってんだ?」

「あー、実はここだけの話」


 世紀末ヘアーは俺の肩に手を回し、屈ませると小声で言った。


「秘書は人間じゃねぇんだ」

「知ってる」

「知ってんのかい!」

「うるせえ!!」


 耳元で怒鳴るな。鼓膜が破れるかと思ったわ。


「俺らはな、昨日ギルマスの部屋に無断で入ったんだ」

「聞き捨てならない言葉が聞こえましたが、スルー致します」


 受付の職員が、俺の言葉をスルーしてくれた。面倒ごとには関わらない姿勢だ。


 俺は昨日あったことを、今いる冒険者に説明した。

 中には驚いているやつや、大笑いしているやつがいたが、冒険者の情報を他者に話したという話に入った時に、一斉に指を指されてこう言われた。


『それはお前がギルマスをからかい過ぎたからだろうが!自業自得だ!!』


 普段の行いを見ている冒険者が多かったのが原因だった。

 同情を誘おうと思ったが、駄目だったか。


「それでギルマスから食事に誘われてな」

「ほうほう」

「秘書さんに無理やり酒を飲まされた」

「いや因果応報じゃないか」

「お前が言うな、お前が」


 いつの間にか聞き役になっていたミカミにツッコミを入れられた。だが、俺の言葉に何か思うことがあったのだろうか。目を逸らし続けている。


「それで、何で静まり返ったか、理由を聞こうか」


 最初の現象に話を戻そうじゃないか。

 俺の顔を見た瞬間に静まり返った、不思議な現象の話に。


 すると、先ほどの世紀末ヘアーが、俺の方にポンッと手を置き、静かに言った。


「フシミはな、秘書を倒したんだ」

「さっきも聞いたぞ」

「まあ聞けって」


 駄々をこねる子供を諭すように言う世紀末ヘアー。

 おい、何で柔らかい笑みを浮かべているんだよ。俺はそこまで子供じゃねぇよ。おい職員、あんたも何柔らかい笑みを浮かべているんだ。

 しかし、俺の思いを知らないでか、冒険者は続けた。


「あいつはな、素手で秘書を倒したんだ」

「は?すまん、聞き間違いかもしれないからもう一回言ってくれないか?」

「あいつは、素手で、秘書を、倒したんだ」


 様々な武器を、筋骨隆々の剣士から教わっていたフシミが、あろうことか素手で秘書さんに挑んだ?はっはっはっ、冗談だろ?


「しかも、『レイヤのかたきだ。覚悟しろよ?』ってセリフを呟いてから、正拳突き一発だけで吹っ飛ばした勝っちまったんだ」

『ヒュゥ〜〜〜〜〜〜ッ!!カッケェ〜〜〜〜〜ッ!!』


 彼は両足を肩幅に開き、腰を落として拳を前に突き出した。そう、まるで昨日秘書と戦ったレイヤの動きを真似するかのごとく。

 そして、その動きに合わせて周囲の冒険者たちがはやし立てる。


 その動きを見た俺は、現実から逃げたくなった。


 こうなったら、最終手段に入るしかない。

 思ったらさあ実行だ。もちろん、ミカミも巻き込んで。


「よし、何も俺は聞かなかった。俺は何も聞いてない。ミカミも聞いてないよな?」

「バッチリ聞いちゃったけど」

「聞いてないよな?」

「え、でも」

「ないよな?」

「……えーっと」

「な?」

「はい、聞いてないです」


 よし。これで何も問題はない。


「ここにいる冒険者も、フシミが秘書を倒したことなんて知らないよな?」

『ああ、知らない』『昨日、何かあったっけ?』『酒が今日も美味いな』『早く明日に何ねぇかな』『俺、帰ったらプロポーズするんだ』『何も聞いていないな』『ああ、聞いていないな』

「何も聞いていないのならいいさ」


 どこかに死亡フラグを建てた冒険者がいた気がしたが……まあいいか。


 本来ならここで口止め料を払わなければいけないが、それをやる金が今ない。

 え、収入があったじゃないかって?

 はて、何のことやら。


 そもそもあれは、宿の宿泊費とフィン師匠へ払う指導費だから、おいそれと手を出せないんだよ。


「さて、俺たちのパーティー『フリーダム』に一人追加したいんだが、いいか?」

「……はい、『フリーダム』に一人追加ですね。承りました」


 さすがプロと褒めるべきか。先ほどの出来事をなかったことにし、一瞬で無表情に戻った。

 職員はミカミと俺のギルドカードを受け取ると、そのまま奥に入っていった。何かしらの手続きがあるのだろう。


 だが、数十分ほどかかると思っていた俺は、数分で戻ってきたことにとても驚いた。

 地球じゃあ、カードを渡すだけでなく、色々な書類を渡されて手続きするのだが、ここでは書類を記入することがなかった。あれかな、個人情報とかそういうのがカードに情報として入っているからかな。


 でもおかしいな。俺は冒険者になる際に、そんな書類は書いてないぞ。


「レイヤ様、ミカミ様、お待たせ致しました。こちらギルドカードになります」


 そんな謎は置いておこう。どうせそのうちわかるだろうから。

 ……ん?何かカードに違和感があるな。


「……私の勘違いや見間違いでなければ、レイヤ君の色は黒だった気がするんだけど」

「確かに、なぜか青色になってるな」


 灰色と紫色をすっ飛ばして青色になっている。

 自分の名前の隣に黒い丸があったのに、その色が青色になってるんだぜ。違和感どころか不信感を持つ。


 俺はいつの間に実力を見せたのかと。


「レイヤ様。失礼を承知でギルドマスターからの伝言をお伝えします」


 受付職員が、俺の目を真っ直ぐ見てギルマスからの伝言とやらを言った。


「『なぜこんな結果になったのか、自分の胸に手を当ててみろ』だそうです」


 思い当たる節が二つほどあったわ。

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