第24話 俺は後悔はする 反省をしないだけだ
「早かったな。ストーカーにでも遭ったのか」
「まるでこっそりと見ていたかのような……いや、何か知っているかのような言い草だな、ギルマス」
俺の転移魔法で向かった場所は冒険者ギルドだ。
知ってるよね、この前説明したんだし。
ただ、向かった場所は冒険者ギルドだけど、転移場所は言ってなかったよね。
ギルマスの部屋だよ。
ほら、俺たちが質問攻めされた場所。
転移した時、部屋にはギルマスと一人の女性しかいなかった。
たぶん秘書だと思う。
秘書は炎が燃えているかのような真っ赤な髪を
風もないのにどうして髪が揺れているのか、そう考えたが、『異世界だから』という答えしか見当たらなかった。
「おっと、口が滑った。別に坊主たちのことなんかミカミに話していないし、居場所を吐いてもない。特に問題はないだろ?」
「僕らの世界には、『語るに落ちる』って言葉があってね……」
「『目は口ほどにものをいう』っていう
俺たちの言葉に返す言葉のなかったのか、目をそらして口笛を吹いている。
反省をする様子は見られない。ならば、こちらにも考えがある。
フシミに目配せをして、口を揃えて言った。
「「おい卵」」
「だ、誰が卵だ!!」
誰にでもわかる長髪。間違えた、挑発。
ギルマスに髪は生えてなかったな。
だが、いきなり気にしていることを言われて反応してくれた。
「遺言はそれで十分か?」
「ギルマスには悪いけど、二人掛かりでやらせてもらうよ」
「すまんやめてくれこの通りだ」
俺たちの言葉が本気だとわかった瞬間、ギルマスが土下座して懇願してきた。
さすがに敵に回してはいけないと思ったのか、とんでもない変わり身の早さだ。
「はぁ……冒険者の情報を漏らしてはいけない。そうお決めになったのはマスター。あなたではないですか」
ギルマスの様子を見ていた秘書が、ため息をついて俺たちに頭を下げた。
「あなたたちの情報を漏らしてしまい、大変申し訳ありませんでした。このマスターについては、私からよく言っておくので、どうか矛先を納めてください」
この秘書はギルマスとは違い、ものすごく落ち着いている人だった。
俺たちが年下にもかかわらず、この物腰……秘書として選ばれるわけだ。
「秘書さん、僕らも本気でギルマスをぶっ飛ばそうなんて思ってません」
「そうだな。だが、余計なことをしてくれたのは確かだ」
ギルマスは土下座の姿勢から頭を上げ、俺たちを見てきた。
その表情は申し訳ないという気持ちが混じっていたが、目にはしてやったり、という感情が見て取れた。
こいつ……反省してねぇな。
「フシミ、やっぱりぶっ飛ばそう。反省してない」
「わかった。ちょっと訓練場からハンマーを持ちに……取りに行ってくるよ」
「おう、俺はこいつを縛っとくから、早めにな」
「おいちょっと
何か話そうとしたギルマスの口を、水の膜で覆う。
あくまでも口だけだ。鼻は息を吸うために確保してあるから、死ぬことはない。
本気で拘束してやろうと、土下座をしているギルマスの体を氷で覆おうとした瞬間……
「いい加減にしなさい!!」
秘書の甲高い声が部屋に響き渡った。
その声に、氷の魔法を行使していた俺は意識を逸らされ、部屋の扉を開けようとしていたフシミは止まり、ギルマスはビクッと一瞬だけ震えた。
見ると、声を荒らげた秘書は下を向き、ブルブルと震えていた。
表情を見ることはできないが、怒っているということだけは理解できた。
女性の燃えているかのような真っ赤な髪は全て天井に向けて逆立ち、比喩ではなく本当に燃えていた。
「げっ……氷が溶けてる」
俺がギルマスを拘束するために出した氷が、秘書から発せられた熱によってジュウジュウという音を立てて蒸発し、口を覆っていた水も一瞬のうちに蒸発した。にもかかわらず、ギルマスは火傷をしている様子もないし、口の周りも赤くなっているような様子は見られなかった。
「あっつっ!!」
ドアノブに手をかけていたフシミは、ノブが焼けた鉄のようになっていたのか、勢いよく手を離した。
見ると、手は真っ赤になっており、所々水ぶくれになっている場所があった。
俺はここで一つ理解した。
そして後悔した。
ギルマスの態度にイラつき、ぶっ飛ばそうと考えたことを。
そして、それをフシミに促したことを。
相手の感情に疎い俺が、この事態を引き起こしたんだ。
「おい秘書さん!反省しない奴に制裁……じゃなくて私刑を与えようとして何が悪い!」
だが、俺がバカ正直に反省すると思ったら大間違いだ。
俺の言葉に、秘書さんはギンッと俺を睨みつけて言った。
「先ほどから謝罪し続けているのにもかかわらず、土下座までしたマスターを許そうとしないあなたは消し炭にした方が早いと判断したまでです!」
謝罪したからそれで簡単に許してもらえると、そう思っているかのような台詞だ。
なんだろうか、秘書になって日が浅いのだろうか。
とにかく、このままじゃ話にならん。
頭を冷やしてもらおう。
『コーキュートス』
想像するのは冥府に流れる川。その川のように冷たく凍えるような寒さを伴う氷だ。
並大抵の氷では溶けてしまいそうだったから、中二病を患っていた時に調べた、『冥府の川』の一つを魔法名にしてみた。
すると次の瞬間。
ガチンッ
という音ともに、秘書さんは髪の毛が逆立った状態のまま、氷に閉じ込められた。
あれ?
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