モブの仲間になりたそうにこちらを見ている

第21話 見なかったことにしてもいいか?

 俺は朝、冒険者ギルド内でフシミがとある冒険者から隠れるところを見てしまった。しかも、俺を巻き込んでまで。

 一体何を見てしまったのだろうか……とりあえず、フシミが見ている場所を俺も見てみようと思う。どれどれ?


「…………」


 ……なあ、見なかったことにしてもいいか?

 なんか、鉄扇てっせんって呼ぶんだっけ?まあそんなような武器を持って深緑色のフード付きマントを羽織った胸の乏しい女の子が、フシミの方をガン見しているのだが、その目がまあ怖いの何の。え、何あの目。俺たち殺されるの?

 しかも、何あの装備。厚さが薄く見える黒い皮の装備なのになぜか頑丈そうに見えるのは錯覚かな?


「なあフシミ」

「しっ静かに!」


 スキルの影響で他の人には聞こえないはずだが、何を思ったのか人差し指を口に添えられ、ドキッとはしないものの静かになる俺。親友の焦り様から、これは騒いではいけないものだと察した。


「どうしたミカミ、何を見ているんだ?」


 今すぐこの場から離れようとした矢先、タイミング悪くギルマスが現れた。


「いえ、知り合いがいたように見えたので」

「ああ、レイヤとフシミのことか?」


 あろうことか、ギルマスが俺たちの存在をバラしやがった。いや、存在をバラしてはいるものの、居場所はバレていない。目の前にいるにもかかわらず、そして目が合っているにもかかわらず、女子はその場を動こうとしない。ということは、疑ってはいるものの見えてはいないということじゃないか?

 しかし、彼女の声はよく通るな……嫌な予感がするのは俺だけかな?


「なあフシミ、今なら逃げれるんじゃね?」

「そうだね、見えてないんだし、ゆっくりと逃げようか」


 コソコソと小さな声で話しながら、俺たちはゆっくりと後退るあとじさる

 あと少しでギルドから出られるというところで、バタンと入り口を開けたのは見たことのある人だった。


「おっすギルマス!ん?ミカミじゃん、帰ってきてたのか?」


 俺の魔法の先生である、フィン師匠だった。酔っ払っていた時と比べると、とても俺を殺しそうだった女性には見えない。


「ええ、お久しぶりです。フェインスターさん」

「フィンで良いって言ったろ?」

「でも……」

「良いって良いって!」


 俺たちに向ける感情とは、また別の感情が見えるフィン師匠。なんでだろう。言葉も行動も俺たちの前では見せないものだ。


「おいフシミ。あいつは誰だ?」


 その仲の良さそうな風景を見ながら、俺は親友に彼女のことを訊ねる。

 すると、フシミは説明するのも億劫そうな顔をしていたが、説明してくれた。


「彼女はミカミ。クラスで僕の次に目立たない生徒だったんだけど……なんでこんなところにいるかはわからない」

「いや、そこは察してやれよ。追い出されたんだって」


 何かがあって、城から追い出されたんだよ。だって、そうでもしない限り、うちの学校の生徒がこんな場所にいるはずはないんだからさ。な?


「だけど、学校にいた頃の彼女は、あんなんじゃなかった気がする」

「じゃ、どんなんだったのさ?」


 フシミによると、ミカミという女子は、学校にいた頃は目つきが鋭いだけで友達は結構いたそうだ。だけど、割と怖がりでお化け屋敷とか恐怖系統のアトラクションには、絶対に一人で行かない女子だったようである。それが、一人で行動するようになるとは……フシミも予想していなかっただろう。


「なるほど。よくわかった」

「じゃあ、ちょっとここから逃げようか?」

「おう、そうだな」


 ということで、俺たちはギルドから退散しました。

 だって、このままじゃ面倒臭いことになりそうだったんだもの。ましてや、俺はミカミっていう女子と話したこともないし、むしろ会ったこともないからね。

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