閑4話 城暮らしの勇者達2

 訓練場で生徒が素振りをしている頃、王城の中にある広い一室を借りて、魔法を使用する職業の生徒達は集まって講義を受けていた。

 講師は、アナン・シェルメッシュ。かつて、現在の夫であるハル・シェルメッシュと、現在冒険者ギルドマスターであるギルマスの三人で世界を回ったことのある、当時世界最強だった魔導師である。

 性格は穏やかではあるが、怒ると怖いゆるふわ系女子(?)である。


「ではでは、火属性と水属性は、どちらの方が強いでしょう?はい、金髪のあなた〜」


 黒板に書かれた火属性の呪文と水属性の呪文を、杖で交互に示しながら彼女は生徒を指名する。選ばれたのは、クラスで一番チャラそうと言われている真面目女子だった。


「水ですね。私たちの世界では、火を消すのに水を使用していましたから」

「ぶっぶー、残念」


 アナンは両手の人差し指を交差させて、バツを作りながら言った。そして、実際に女子に水属性の魔法を自身に飛ばしてもらうよう指示をした。


『世界の理を知る我がこの手に宿れ……水玉ウォーターボール

「では、実際に見てもらいましょう」


 彼女に向かって飛んでくる、拳ほどの水の塊。それを、彼女は無詠唱で出した炎で打ち消した。というより、水の塊が炎に触れた瞬間、一瞬で蒸発したのだ。


 その光景を、魔法を放った女子を含め全員の生徒が、唖然とした顔で見ている。おそらく、自身が持っていた常識を覆されたのだろう。


「はい。この通り、火属性より水属性の方が強いとは限りません。もちろん、『地面は電気を通さないから雷属性より地属性の方が強い』とか、そんな常識は魔法の世界にありません」


 常識を捨てましょう〜。と、アナンは軽く生徒に言う。


 しかし、今まで『火は水で消せる』『地面は電気を通さない』といった常識の中で生活していた彼女たちに、いきなりその常識を捨てろと言われたってすぐには捨てることはできない。

 つまり、彼女たちに異世界デビューは遅すぎたのだ。中には、ラノベなどを読んで、異世界の知識を蓄えていた女子もいただろう。しかし、その女子を除いた一般の女子生徒は、魔法を扱うことはできても、地球での常識に囚われられてしまっているため、簡単には扱うことができない。

 武器を持っている生徒の方が楽そうだな〜とか、そんなことを思っている女子もいた。


 ちなみに、ここには男性生徒も含まれているが、ほとんどがファンタジー系のラノベにまっていたため、何事もなく魔法を使いこなせている。それが理由かどうかはわからないが、発動に関しては問題がなかったことを記しておこう。

 また、そのような男子生徒は講義をサボっているため、この部屋にはいない。


「では、もう一度属性について勉強しましょう」


 魔法の講義はまだまだ終わらない。それは、元の学校の授業の方が、優しかったのではないか、と思うほどに……。

 だが、女子生徒たちは諦めず、授業に励むのだった。


 翌朝訓練場に、ところどころ焦げたり凍ったりしている生徒が発見された。その生徒を見た女子は後に、発見された生徒は全員、アナン先生の講義をサボった男子生徒だったと話していた。

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