閑話その2

閑3話 城暮らしの勇者たち

 某所某日。

 いや、勇者が召喚されてから一週間が経過した。

 そして、ここは城の中にある、城に在住している騎士も使用する訓練場である。


 バキッ!


 そんな何回目かはわからないが、何か固いものを折った時の音が城の訓練場のどこかから鳴り響く。

 その音は早朝から鳴り続けており、ここで訓練している人間はその音に顔を向けることもなくなった。

 いや、この表現は正しくない。


 正確には、その音に顔を向けた瞬間自分の持っているものも同じ末路を辿るからだ。


 さて、今現在、訓練場にて訓練しているのは、モブと舞能を除いた勇者とか剣士とか、魔法を使用しない職業の生徒。

 そしてその相手は……


「おいお前ら!よそ見している暇があったら武器を振れ!よそ見した瞬間に50回は死んでいると思え!!」


 元冒険者、ハル・シェルメッシュ。かつてフェルム王国の冒険者ギルドのマスターとともに、世界を旅していた者の一人である。彼は武器を使うが、その種類はほぼ全てと言っても良い。剣から斧、槌から杖まで様々な武器を使用して世界を旅していた。


 ただ、彼はほとんどの武器を我流で使っていた。

 だから他人に教えることはできない。だが、基礎だけなら教えることはできる。


 今行っている訓練は、勇者達が自身の扱える武器を選び、そしてそれが十分に使えるようなるまでの基礎である。つまり、素振りである。


 ハルは台の上に立ち、勇者達を見下ろしながら指導している。


「右から5番、前から8番の剣術士!素振りが遅れているぞ!

 一番左、後ろから2番の斧術士ふじゅつし!バレないと思ったか、止まるんじゃねえ!

 左から3番、前から2番の槌術士!足がふらついているぞ、踏ん張れ!

 右から3番、一番後ろの槍術士!穂先がぶれているぞ!」


 見ての通り、厳しすぎる。少しでもよそ見をしたり、さぼったりしたら、持っている武器が破壊されるほどだ。離れていても彼は元冒険者。離れた場所にいる人間の武器を破壊するなど、彼にとっては造作もないことだった。

 生徒の何人かは、魔法の方が楽なんじゃないかと思っていたほどだ。


 ちなみに、訓練をサボっていた生徒、というか勇者は別の場所で補習があるらしい。

 何をしているかわからないが、生徒たちは口に出すのもはばかられるものを想像しているだろう。


 だが、それを考えても一番厳しいのは勇者である。訓練をサボっていない勇者より、サボっている勇者の方が厳しいと思うが、他の生徒と比べて数段回厳しいのである。

 つまり、練習時間が長い。


 他の生徒が終わっても、まだやっているほどだ。


「おい勇者ぁぁあああ!!てめえらそれでも勇者か?世界舐めてんのか?」


 さらに、口調も変わる。

 生徒には口で何が悪いかを助言してくれるのに、勇者に対しては助言ではなく説教である。


「あのなぁ、世界ってのは甘くないんだ。わかるか?」

『はい』

「オレがなんでここにいるかわかるか?」

『わかりません』

「ただの冒険者に、罠とか魔道具とか結界を仕掛けているのにもかかわらず、屋敷の中に侵入されたからだ!しかも誰にも気づかれずに!!」

『……』


 もはや腹癒はらいせにやっているんじゃないかとみんな思っている。


「いいか。今のお前らは、その冒険者よりはるかに弱い」

『……』

「戦ったこともないし、見たこともないが、おそらく、きっと弱い」

『 (戦ってないんかい!)』


 勇者達は心の中でそう思ったが、口には出さなかった。


「別に魔王を倒せとか、オレは別に言わねえよ」

『いやでも』

「はっきり言って、どれだけ頑張っても魔王は倒せん」

『……』


 勇者達は、ハルの言葉に悔しそうな顔をする。

 その顔を見てハルは満足したのか、頷いて言った。


「だがな、その悔しさがあるうちはまだ成長できるってことだ」

『……!』

「やれるか?」

『はい!』

「まだ頑張れるか?」

『はい!!』

「よし!訓練が終わったら何か驕ってやろう!」

『頑張ります!師匠!!』


 その後、夜の街で貴族と夕食を食べる平民らしき子供が目撃されたという。


 もちろん、おサボり勇者は次の日の早朝、訓練場でぶっ倒れているのが発見された。

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