第19話 話せばわかると思っていた
俺は今、フシミと一緒にギルマスの部屋で、正座をさせられている。
いや、椅子の上じゃなくて、床の上に、直に。
痺れるとかそんな次元の話じゃなく、普通に痛い。もう、今すぐ逃げたいくらいに。
なんでスキルを使わないのかって?
俺はまだ死にたくない。
難しい顔をしたギルマスは、重々しく口を開いた。
「さて、単刀直入に聞くが、お前らは勇者か?」
「「いえ、違います」」
こんだけ威圧を放っていれば、誰だって敬語になる。
さすがに、この雰囲気の中タメ口で話せる勇気は俺たちにはない。
後から聞いたのだが、レインという筋肉剣士も銀ランクらしい。
そして、ギルマスは元冒険者で、ランクは最高である金だったようだ。
俺たちの前には、ギルマスとフィン師匠とレイン先生の三人が並んで立っているため、真正面から威圧が飛んできている。
はっきり言おう。ここでスキルを使って逃げようものなら、本格的にボコられるより最悪なことになる。
あと、多分だけど、フィン師匠とレイン先生は威圧だけど、ギルマスが放っているのは絶対威圧じゃない。おそらく、殺気じゃないかと思っている。
この背筋も凍るような感じ。自分の肩に、言い表すことができないナニカが手を置いているように錯覚するような感じ。
「嘘じゃねえだろうな」
「「誓って嘘じゃありません」」
ギルマスは俺たちの言葉に殺気を強くした。おかげで、漏らしそうになった。何がとは言わんが。
「……」
ギルマスは無言で俺たちを見据える。まるで、俺たちの正体を見破るかのように、じっと見ている。
しかし、急に殺気がなくなり、少し空気が軽くなった。
しかし、まだ動くことができない。
「じゃあ質問を変えよう。
お前らの職業はなんだ?」
俺たちの職業……そう聞いて、いつもの『村人』だと答えようとした瞬間。
「本当に村人か?
もし嘘だとわかったら……なあ?」
やばい。これはアカンやつだ。
ギルマスの言葉に耐えかねたのか、隣で顔を青くしているフシミに話しかけられた。ってお前汗やばいな。
「レイヤ……これは言った方がいいんじゃないかな」
「フシミ……俺も今そう思っていたところだ」
間違いなく、ここで本当の職業を言わないと、多分バレた時にヤバいことになる。そう、むしろ死んだ方がマシだと思う方向で。
「で、職業は?」
ギルマスはニッコリと笑い、再度訊ねてきた。
「「モ……『モブ』です!!」」
「『モブ』だあ?」
俺たちの答えを聞いて不意をつかれたのか、ギルマスの威圧が一瞬だけ消える。それだけではなく、聞いたことのない職業なのか、フィン師匠とレイン先生の威圧も同時に一瞬だけ消える。
「フシミ!」
「わかってる!」
一瞬でも動けるようになった俺たちは、すぐさまスキル『背景同化』を発動した。
そして、ギルマスたちから俺たちは認識されなくなる。
それに気づいたギルマスはというと。
「しまった!逃げられたか!?」
再度威圧をかけようとしたところで俺たちの姿が見えなくなったため、逃げたと勘違いしたらしく、椅子の背もたれに寄りかかってため息をついていた。
「とりあえず、奴らの情報の一割は聞き出せただろうから、良しとするか」
その呟きを聞いた俺たちは、スキルを解除してすぐさまそれを否定した。
「「いやギルマス、まだ俺(僕)らここにいるんだけど」」
さすがに足が痺れて痛いから、足は崩している。
ギルマスは初め俺たちが急に消え、さらに急に現れたことに驚いていたが、安心したようで先ほどより柔らかい笑みで言った。
「……良かった。このまま逃げていたら、死ぬより恐ろしいことをしていたかもしれなかった」
内容は物騒だった。
危ねえ、逃げようと思わなくて正解だったぜ。
っていうか、死ぬより恐ろしいことってなんだよ。すっげえ気になる。
「っていうかおっさん、聞きたきゃ普通に聞けばいいだろ。なんで威圧や殺気までかけて、無理やり聞き出そうとするんだよ」
「そうしねえと、逃げるだろ。お前ら」
「いや、今回は普通に来ただろうが」
呼び出しがあれば俺だって逃げずに行くさ。面倒ごとに巻き込まれる予感がなければの話だが。
その様子を見たフィン師匠とレイン先生は、俺たちを指差して口を開いた。
「ギルマス、コイツらどうするんだ?」
「そうだぜギルマス。自分の生徒がいきなり、『実は僕、勇者と一緒に召喚されました』とか言うんだぜ。取り扱いに困るだろ」
「いや、こいつらに関しては、普段通りでいいだろ」
迷わずそう判断したギルマスに、一発くれてやりたい。
せめて、少しでも迷ってから判断しろよ。そんなに信用無いのか俺たち。
「レインの方の坊主は問題無いだろうが、フェインスターの方の小僧は取り扱いが難しいからな」
うわ。俺、信用なさすぎ!?
むしろ危険物扱いされている。
「むしろ、オレサマは今すぐ、コイツをボコりたい」
おや?雲行きが怪しくありませんかね?
というか、なんでフィン師匠は指をポキポキと鳴らしながらこっちに来るんですかね?
「ああ、俺も今、こいつをボコりたいと思った」
ギルマスもいきなり立ち上がって、指をバキバキと鳴らしながらこっちに歩いてきた。
そして二人揃って、同じことを言った。
「「足が痺れて動けない今なら、きっと一発でも当てられる!!」」
「ちょっと待って、話せばわかる」
俺はこの日、話してもわからない人間がいることを知った。
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