第18話 ギルマスのOHANASHI

 フィン師匠による講義が終わった後、俺はギルマスの部屋に呼び出されていた。


 ギルマスの部屋に行く前に、様々なパーティーから勧誘を受けたが、俺は既にフシミと『フリーダム』というパーティーを組んでいるし、自由じゃなさそうなパーティーに入るのは嫌だから断っておいた。

 勧誘してきた冒険者たちの中に、何やら有名なパーティーも混ざっていたらしく、俺が丁重にお断りした際に彼らは愕然とした顔をしていたり、他の冒険者が唖然とした顔をしていたりしてたのには笑えた。


 だが、有名なパーティーだろうが無名なパーティーだろうが俺には関係ない。


 冒険者に登録したばかりの俺が、ギルドにどれほどのパーティーが存在しているか知るわけないからな。


「なるほど……つまりお前は、様々なパーティーに勧誘されていたから遅れたと、そう言いたいんだな?」

「もちろんさっ!」


 イケボで言ってみたかったこの台詞。しかし、イケボって出すの難しいな。喉を痛めたかもしれない。


 しかし、俺のこの言葉にギルマスは、こめかみを痙攣けいれんさせて笑顔で、さらにゆっくりと言い聞かせるように言った。


「俺はな、『講義の後すぐに』と言ったんだ。だから、昼飯を抜いて待っていたんだ。

 だがな、お前はおそらく、昼飯を食ってきたんだろ?」


 どうやら、俺はとことん信用が無いらしい。心外だな。


「ギルマス、俺ってそんなに信用無いのか?」

「冒険者になって一週間も経ってないやつに信用してくれと言われても、それは無理があるんじゃ無いか……?」

「あ、フィン師匠、いたんだ」


 ギルマスの部屋には、いつの間にかフィン師匠がいた。というか、おそらく元からいたのだろう。

 普通に気づかなかった。


「つまり、お前は昼飯を食ってないってことでいいんだな?」


 ぐうぅぅぅ〜〜……


 俺の返事の代わりに、俺の腹の虫が返事をしてくれた。

 ありがたいな。腹の虫。


「……良くわかった」


 どうやら信じてくれたようだ。ありがたい。


「さて、本題に入ろう。

 お前は何者だ?」


 ……やだなあおっさん。あまりにも直球すぎやしませんかね。


「ただの村人ですが何か?」


 とりあえず、普通に返しておこう。まだ村人の職業になってから一度も解除してないし、効果が切れるまで18時間以上もある。


「ただの村人が、銀ランクのフェインスターの攻撃を避けたり、あんなおかしい魔法を撃てるはずがないだろうが」

「え、フィン師匠、銀ランクだったんすか?」

「キサマはいい加減、オレサマに対する言葉遣いを固定させたらどうだ?」


 じゃあタメ口で。


「フィン師匠は銀ランクだったんだな」

「迷わず先輩相手への口調をタメ口にしやがった」

「ギルマス、もう諦めろ。コイツにゃ何言っても無駄だって」


 ついに、俺の煽りすら反応しなくなった。

 さすがに成長するか、フィン師匠も。胸は成長しないけど。


「なあギルマス。オレサマちょっと、急にコイツを殺したくなったんだけど」

「後にしろ」

「わかった」


 いや、止めろよ。

 フィン師匠もいい笑顔で言っているけどさ、ギルマスもいい笑顔で促さないで止めろよ。


「で、何者なんだ?返答次第では、俺もしかるべき場所に連絡をせにゃならん」


 しかるべき場所……?どこだろうな、それは。

 俺が黙っていると、ギルマスから驚くべき場所の名前が飛び出してきた。


「王城の方へ連絡をな」

「勇者とともに異世界から召喚されましたぜギルナス」


 誤字じゃない。噛んだだけだ。


 さすがに王城はまずい。俺が村人として城から出たのに、ここで城に連絡されちゃあ少し困る。


 ギルマスもフィン師匠もいい笑顔のまま固まっている。


 しかし、ついに言ってしまったが……フシミにはなんて言い訳をしようか。


 言い訳を考えていたら、部屋の外からドタドタという音が聞こえてきて、ノックもせずに扉がバンッといきなり開いた。


「ギルマス!!」


 野太い声を発して入ってきたのは、剣を携えた筋骨隆々の剣士らしき男。そして小脇にフシミを抱えていた。


「なんだ、レインじゃねえか。どうしたんだ?」


 レインと呼ばれたその剣士は、扉を閉め、フシミを指差しながら言った。


「コイツが勇者と一緒に召喚されたってどういうことだよ!?」


 どうやら、俺はまだ飯にありつけないらしい。勘弁してくれ。

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