第17話 これが魔法か……

 ポヒュッ……


 訓練場に、間抜けな音が響き渡った。


 これは、俺が無詠唱で魔法を発動した際に起きた現象だ。

 何をやったかというと、両手を前に突き出して、頭の中で想像を膨らませてから魔力を込め、そして外に放出しただけである。


 その結果、俺の両手から出たのは、間抜けな音と何か青白い風船のような物体。

 空中をふよふよと漂っているため、地面に落ちるまで時間がかかるだろう。


 その様子を、フィン師匠とギルマス、そしてその他冒険者が唖然として見ている。


「なあ……これは何だ?」


 ギルマスが、怯えた表情で青白い風船を指差し、俺に訊いてくる。


「見ての通り、青白い風船だが何か?」


 俺の答えに満足しないのか、ギルマスは大きく息を吸って、そして叫ぶように周りの冒険者に伝えた。


「全員、この風船が地面に着くまでに、衝撃に備えろ!結界を使える奴は、全力で結界を張ってくれ!」


 おや、ギルマスは気付いたようだ。なんだろうか、人間なのに野生の勘か?


「なあギルマス、何をそんなに慌てているんだ?ただの風船だろ?」

「馬鹿!早く自分の身を守る準備をしろ!!死ぬぞ!!」

「え……?」


 フィン師匠は、ギルマスに怒鳴るように言われて、訳も分からずに結界を張る。


 俺は別に、結界を張ったり身構えたりしなくても問題ない。俺にとっては危険な魔法じゃないからな。だけど、一応失敗したときのために、ギルマスの言った結界とやらを張っておこう。バリアみたいなものかね?


「おい小僧。今日の講義が終わったら、すぐに俺の部屋に来い。色々と聞きたいことがある」


 ギルマスから呼び出しを受けた。何故だ。


 そうこうしているうちに、青白い風船はついに地面へと緩やかに着地……いや、した。

 そしてその瞬間。


 ドンッ


 という、地面が揺れるような轟音が響き、吹っ飛ばされるような衝撃が辺りへと撒き散らされた。


 一応結界を張っていたが、思ったより威力が強かったらしく、俺の結界は別に何もなかったが、周りの冒険者の結界にいくつかヒビが入っていくのが見えた。

 あーこれは怒られるな。というか、やり過ぎた。


 そして、3秒ほどで衝撃が収まると、辺りは死屍累々のごとく疲れ切った冒険者が転がっていた。


 しかし、唯一生き残った冒険者から口々に、パーティーへの勧誘を受けた。


「オレたちのパーティーに入ってくれないか!?」

「いや、俺たちのだ!」

「アタシたちのパーティーに入らないかしら?」

「俺たちのパーティーで、ヤらないか?」


 おい、最後の。お前明らかに別の意味だろ。

 だが、残念だったな。


 俺は既にパーティーを作っているし、そっちの趣味はない。


 とりあえず適当に断ってから、疲れ切っているだろうギルマスとフィン師匠の方へ向く。


 先ほどの衝撃が嘘のように、訓練場の床や天井にはヒビ割れは無く、クレーターもできていない。しかし、そこで何かがあったことは、ギルマスとフィン師匠の疲れ具合から見てとれる。


 とりあえず、フィン師匠は仰向けに倒れて息切れをしていて、ギルマスは膝をついてこちらを睨んでいる。それはもう、すごい形相で。

 子供が見たら絶対泣くぞ。


「なあ小僧……さっき言ったこと、覚えているよなぁ?」


 これは怒っていらっしゃる。

 聞けばわかる、やばいやつやん。


 昼の鐘が鳴ったが、どうやら俺には、昼飯を食う時間はなさそうだった。

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