第16話 いや、その理屈はおかしい

「いいか、魔力を感じるには、まず自分の血液がどこを巡っているのか感知しなければならない。魔力は血液に含まれているからな」

「なるほど、何か体に暖かいものが流れていると思ったら血液だったのか」

「言ってるそばから成功させてんじゃねえ!!」


 フィン師匠の言う通り、血液がどこを巡っているか感知したのだが、なぜか怒られた。そもそも、生物科目で血管がどこを通っているか習っているんだから、知らなきゃ困るだろ。わからんとこは復習の時にインターネットを使ったが。


 もしかして、この世界の人たちは、俺たちみたいに解剖書とかなくて、魔力を使って調べているのか?というか、この世界に解体新書を書く人がいなかっただけか……杉○さんの祖先とか異世界にいればいいんだが。


「オレサマは2年かけてやっと成功させたのに、説明中に成功させるなんて……私の苦労はなんだったんだ……」


 2年か……基準がわからないから、後で他の魔法使いに聞いてみよう。


 ふむ。フィン師匠の一人称について一つわかったことがある。

 どうやら彼女は、気分が落ち込んだり優れなかったりすると、『オレサマ』から『私』に変わるみたいだ。なんというか……随分と可愛らしいところがあるじゃないか。


 これでもう少し胸が控えめであれば……いや、今でも十分控えめだろうけど、もう少し控えめであれば俺のストライクゾーンに入っていたんだが。残念だ。


「何か失礼なことを考えていないか?

 ……気のせいか。


 とりあえず、次は魔力を外に出す方法を……話は最後まで聞いてからやってくれないか!?」


 すでに成功させてますが何か?


 俺は両手から、何か白っぽい光を出して、それでお手玉をしていた。俺、三つまでならできるんだぜ。


「何でだよ!何でもうすでに、魔力の固定化ができてんだよ!」

「頑張ったらイケた」

「いや、その理屈はおかしい!」


 固定化ってのは、この白っぽい魔力をお手玉のように球体のままにしておく技法のようなものだろう。だけど、出来ちゃったものは仕方ないじゃないか。


 フィン師匠はそんな俺を見て座り込み、拳を地面に打ち付けている。叩くごとに地面の亀裂が広がっていくのだが、それに気づかないほど俺の成長ぶりに喜んでいるのだろう。


「どうしてこんなに成長が早いんだよお!!」


 叫ぶほど喜んでいるのか。涙を流しているあたり、嬉し泣きというところだろうか。


「くっ……次!次は魔法を撃ってみろ!!オレサマが昨日、キサマに撃っていたあれだ!!そこまでできるんだから、無詠唱で撃てるだろ!?」


 訓練場にいるのは何も俺たちだけではない。朝といっても10時くらいになれば、他の冒険者も訓練場に来て鍛錬をする。あ、誰かギルマスと戦ってる。大変そうだな。


 さて、他にも冒険者がいるのだが、その冒険者の一部は俺とフィン師匠の授業を見ている。というか、視線が突き刺さっている気がする。


 振り向いて視線の先を見ると、ギルマスがいた。

 おや?先ほど誰かと戦っていませんでしたかね?


「フェインスター、流石に無詠唱は無理じゃないか?」

「うるせえギルマス!魔力操作と固定化ができるんだから、無詠唱もできるだろうが!」

「その理屈もおかしいんじゃ……いや、なんでもない」


 理屈云々の言葉を放ったギルマスをギロリと睨むフィン師匠。それだけで、ギルマスとその周りにいた冒険者は、ヒィッと竦み上がった。いや、ギルマスは竦み上がってないが、言葉を途中で止めて目をそらしながら否定した。


「とにかく!」


 彼女は俺に視線を戻すと、まるで噛み付かんばかりに言った。


「オレサマみたいに、無詠唱で魔法を使ってみろ!!」


 え、いいの?本当にいいの?

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