第13話 勇者の召喚ってやる意味あるのか?

 勇者として召喚されたやつが、こんなにも哀れだなと思ったことは今まで一度もなかった。


 いや、人生で異世界に召喚されるのは一度もない方がいいんだが、それでも勇者が哀れだと思わざるをえなかった。

 その理由がこれである。


「なぜオレサマを見て憐れんだような目をするんだ」

「いや、なんか自然と」

「今すぐ捻り潰してやろうか?」


 俺がギルドで、魔法の師を募集したところ、暇そうな冒険者が一人だけ受けてくれた。ギルドの訓練場の一部を借りて、魔法をご教授願おうと思って募集したのだ。

 そこで受けてくれたのがこの銀髪で青白い肌で青目の女性。種族は魔人族。世間では魔族だと呼ばれているらしいが、正式な種族名は『魔人族』で、すでに絶滅した『魔族』とは何の関係もないそうだ。


 ああ、この種族は、今から勇者(笑)と戦わなければいけないのか。


「いや、だから何でオレサマをそんな目で見るんだよ」

「何でもない、うぅ……」

「段々腹が立ってきた」


 ああ、泣けてくる。

 あまりにも……あまりにも勇者(爆笑)が哀れで……うん。


「よろしくお願いします師匠」

「おうそうか」


 もはや返事をする気力もないような魔人族冒険者で魔術師の師匠。

 肩が震えているあたり、笑をこらえているのだろうか。俺の態度に。


「手加減とか、そういうのはしないから覚悟しとけよ?」


 目の笑っていない笑顔からすると、怒らせてしまったのかな?

 でも、これだけは言わせて欲しい。


「御教授願っているのは、魔法の避け方じゃなくて使い方ですよ?」

「その態度が腹立つんだよ!!」


 煽られ耐性のない魔人族魔術師、フェインスター。


 彼女は俺の師匠となる魔術師なのだが、


「はたして彼女は、こんな俺に魔法を教えることができるのだろうか」


 もちろん、途中で断ることはできない。


「しっかりと、依頼の注意書きに『途中辞退はできません』って書いたし」


 何も喋らなければ青白い肌に銀髪青目の美人なのに、


「どうして喋ると残念臭が漂ってくるのだろうか」


 考え事から顔を上げると、フェインスター師匠、略してフィン師匠が他の冒険者たちに羽交い締めにされていた。


「放せ!オレサマは今から、このガキに本気の魔法を叩き込むんだ!!」

「やめろフィン!訓練場が壊れちまう!!」


 ギルマスっぽい人が、フィン師匠の後ろから両腕を押さえている。

 って言うか、いたのかギルマス。


「うるせえ!!何が何でもやるんだ!!」

「落ち着けフィン!あの坊主はああ見えて、逃げるのが上手いんだ!プロの冒険者でも見つけられんぞ!!」


 いつもギルドの食堂で、色々な冒険者の色々な情報を話してくれる男が、フィン師匠の後ろから抱きついて必死に押さえている。

 いやだから、いつからいたんだよ。


「ふざけんな!!だったら殺してでも言うことを聞かせる!!」

「待て待てフィン!死んじまったら報酬が貰えねえだろ!!」


 俺がギルマスをトマトにしたと言った瞬間、飲み物を吹き出した冒険者たちのうちの一人が、フィン師匠の両足を這いながらつかみ、動きを封じている。

 あんたらさっき俺の後ろにいたろ。


『『落ち着け、フィン!あいつはああ見えて、自覚をこれっぽっちもしてねえ!!』』

「フィンって呼ぶんじゃねぇぇえええええっ!!」


 訓練所に、フィン師匠の叫び声が響き渡った。


 これから大丈夫なのだろうか?


 あと、俺は自覚をしていないんじゃない。自覚しているけどあえて煽っているんだ。そこ勘違いしないように。

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