閑話その1

閑1話 その頃……

 勇者の召喚が行われ、村人を追い出したその日。勇者たちを用意した部屋に送った後、王は一人、自室で頭を悩ませていた。


 彼らは戦いのない平和な世界から来たため、職業は勇者や戦士であっても戦闘能力など無い。それを補うため、若い頃に名を馳せた元冒険者の貴族を雇おうと思ったのだが、その貴族は国の外にいるため王族の勅令など意味が無い。

 だからその代わりに、この国にいる貴族の知り合いに勅令を出したのだが、その知り合いは苦笑いをして伝令と問答し合っていたが、最終的には了承してくれた。

 その知り合いというのは、この国にある冒険者ギルドのマスターで、若い頃はその貴族夫妻とともに、冒険者として世界を旅していたと言われている。

 しかし彼が言うには、その貴族はあまり他人に者を教えることはしないらしく、何人もその技術を教えてもらおうと門を叩いたが、全員門前払を受けたそうだ。

 無理に入ろうものなら、魔道具による罠に嵌まり、悪魔のような果実に食われ、結界に焼かれるなんてこともあるようである。


 勇者を召喚した理由は他でもない、今は亡き父である元王が、息子の現王に言った言葉、『必ず魔族を滅せ』の言葉に従ったにすぎない。なぜ滅ぼさなければいけないのか、彼自身にはわからないが、しかし父親の言葉を無視するわけにはいかない。ちなみに、今でもその言葉のをなぜ言ったのかは不明である。

 そんな思考が頭の中を回っているが、現王は真偽を確かめず、そして自身の力が足りないゆえに勇者の召喚を行った。


 そして召喚された勇者は20名でその内2名は村人だった。そして勇者は2人でその他戦闘職と無能が1人。

 その無能と村人はすでに追い出しているが、無能は戦闘職を持つ者にいたぶられていたことを思い出し、彼は注意深く見るように、彼らの指導を担当する騎士によく言っておいた。


 二日後、王のもとに一通の手紙が届けられた。

 送り主は、国の外に屋敷を構える貴族、シェルメッシュ夫妻からだった。

 内容はどうやら、勇者の戦闘に関する指導を受ける、とのことのようである。どうやってその貴族に手紙を渡したか知らないが、早速誰がどんな者で、どんな性格をしているか、詳細な情報を騎士たちから聞き取り、その貴族へ手紙を送った。


 その後、王は直接勇者たちの訓練を見に行くと、無能がいなくなったために他の人間へと手を出している戦闘職の召喚者を見つけた。しかし、彼らは王の姿が見えていないのか、それとも気づいていないのか、平気で殴る蹴るなどの暴行を、その人間に加えている。


 勇者たちは訓練に熱心に取り組んでいるが、どうやら何かが気にくわないらしく、訓練をサボっているようだった。

 王自身も若い頃は、訓練をサボるような経験があったのだが、さすがに他者を傷つける行為はしなかった。しかし、現に目の前の人間は、訓練に出ていた人間に暴行を加えている。まるで的にするかのように、魔法使いは魔法を、戦士は刃のつぶれた斧を、格闘家は拳や蹴りを加えていた。


 そのような光景を見た後、その情報を詳しく担当の騎士に言うと、騎士は顔を青くして謝ってきた。

 どうやら王が罰を加えると思っているらしい。その騎士は、現王の父親である元王の時代から支えているらしく、元王はこのようなことがあった場合は、担当している騎士やメイドなどに厳しい罰を与えていたらしい。

 しかし、その父親に育てられたせいか、人の肉体的な痛みを知っている現王は、騎士に罰を与えることはなかった。


 王が王らしくないのは今更の事。

 王と話したメイドや執事、そして姫や王子など、様々な人からそう言われている。


 そんな王、フェルム国のアルボム・ラディスク・フェルム国王は、人間の肉体的な痛みを知っているが、追い出された人間のことなどすっかり忘れている、そんな人間である。

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