第9話 貴族の屋敷?お化け屋敷の間違いだろ

 結果からして、屋敷に入ることに成功した。


 何があったか説明してやろう。

 交代で戻ってきた門番の男性の後をついていったら、屋敷の扉の前まで無事にたどり着いた。所々で奇妙な動きをしていたが、きっと結界とか魔道具とかがあったのだろう。

 そして、扉の前で何か独り言を呟いているのに気づいた俺は、何を話しているのかと耳を近づけてみると、こんなことを言っていた。


「左右左左右右右左、左右左左右右右左……」


 どういうことか首を傾げていると、答えは目の前の門番がやってくれた。


 左右左左右右右左。


 この順番に扉を開けては閉めるを繰り返せば、何も起こらずに中に入ることができることがわかった。なるほど、メモをしておこう。あ、メモするものないからいいや。

 扉が開き、門番が入る前に俺も中に入った。さすが『背景同化』魔法にも魔道具にも認知されない素晴らしいスキルだ。おかげで、扉に人数制限があるかどうかがわからなかったぜ。(ドヤ顔)


 そういえば、庭にドヤ顔って書かれた、ドヤ顔をした朝顔が植えてあったな。あれには吹いたわ。


 さて、中に入ると、それはそれはもうお化け屋敷のように、あちこちから悲鳴やうめき声や唸り声が聞こえてきた。どこのお化け屋敷だよ。そこらへんからゾンビが出てきそうだな。俺には関係ないけど。

 とりあえず、俺は門番の後ろについていった。どうせあっちからは見えていないからな。


 やはり、何かを避けているように歩いている。まるでそこにセンサーがあるかのごとく、門番の仕事をしていた男はヒラリヒラリと歩いている。

 今俺が歩いている廊下は、道の両側に何やら高そうな鎧が置いてあるのだが、鎧についている兜が時々動くため、侵入者を撃退する魔道具か何かなのだろう。まあ俺には関係ないけど。大事なことだからもう一度言うが、俺には関係ない。あっちからは見えないから。


 門番はどこまで行くのだろう、と思ったら、廊下の途中にある禍々まがまがしい黒い扉の前で止まった。どうやら、ここが目的地のようだった。

 二回ノックし、中から二回ノックが返ってくると、門番は静かに頷いて、また歩き出した。なんだろうか。


 そう思い、扉から離れて門番についていくと、後ろの方で扉が開いた音がして、その次に『ギャァァァアアアッ!!』と悲鳴のような叫び声が聞こえた。

 おそらく、尾行してきた人間を驚かす役目をしている魔道具なんだろう、と考えた。扉の前に残らなくてよかったぜ。


 その次に門番は、廊下のT字路を右に曲がり、真っ白な扉を三回ノックした。しかし、何も反応は返ってこない。だが、門番はそこを動かない。

 先ほどの件があるため俺は、門番の後ろにいようと思ったが、何となく嫌な予感がして門番の前に動いた。

 するとその直後、門番の後ろの俺が立っていた場所の床が開いた。どうやら落とし穴だったようだ。まるで、尾行している人を落とすかのような……いや、考えるのはやめておこう。


『入れ』


 中から男性の声がし、門番は扉を開いた。どうやらこの扉は正解のようだった。

 中に入ると、白い高級そうな真っ白の服を着た男……じゃねえ!!マネキンじゃねえか!!その隣には、高級そうな服を着た真っ白の女性服を着たマネキンが座っていた。


『合言葉』


 合言葉?一体どんなのが来るのだろうか。


『曲者は』

「地獄へ」

『お客様は』

「天国へ」

『商人は』

「お話しましょう」


 合言葉が物騒だった。いや、曲者は地獄へ?一体あの穴の先には何があったのだろうか。


『よし、通れ』


 すると、目の前の床がせり上がってきた。せり上がった床には、扉が付いていて、門番がためらいもなくそれを開くと水色の膜が張ってあった。

 きっとあれが結界なのだろう。

 門番はその膜に向かって入って行ったが、膜の色は変化しなかった。しかし、どこから入ってきたのか、門番の服もしくは俺の服に付いていたのか、小さな虫が飛んできて、その膜を通ろうとした瞬間、膜は赤く光り、虫は一瞬で焼けてしまった。


 怖っ!!


 つまり、曲者はあの膜に焼かれて地獄を見ると。

 今になって、あの物騒な合言葉の理由がわかる。まさか落とし穴や罠だけでなく、こんなものまであったなんて……俺には関係ないけどな。


 とりあえず、扉が閉まる前に中に入ってしまおう。


 俺が水色の膜を通っても、何も反応はなかった。さすがスキル。チートなんじゃないかと思ってしまう。


 中に入ると、目の前には先ほどのマネキンと同じ服を着た男性と女性がいた。しっかりと確認すると、今度は生身の人間だということがわかった。おそらく、彼らが例の貴族なのだろう。

 男性の方がハル・シェルメッシュで、女性の方がアナン・シェルメッシュなのだろう。


「ハル様、アナン様。交代の時間なので、休憩の許可をいただきに来ました」


 さあ、ゴールは目の前だ。

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